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ストーリーを教えてもらうスレ Part16

1 :マロン名無しさん:2006/08/06(日) 07:03:36 ID:???
暇がない、金がない、手に入らない、等の事情により、読めない漫画のストーリーを教えてもらうスレです。
次スレは>>950か、容量が450を越えた時にお願いします。

前スレ:ストーリーを教えてもらうスレ Part15
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1139986600/
まとめサイト(※全過去ログ保管済み)
ttp://malon.my.land.to/
未解決リクエスト表(※予約&進行中タイトルリスト含む)
ttp://malon.my.land.to/mikaiketu.htm

【リクエストされる方へ注意点】
その漫画が既出である場合があります。要望を出す前に、未解決リクエスト表にてご確認下さい。
どの程度のネタバレを希望するか、一言添えていただけると、書き手も書きやすいです。
(例:科白を含む等、出来るだけ詳しく・大まかな粗筋・←を混成したメリハリの利いたもの・ラストのみ)
この板は一般板なので、18禁の漫画のストーリーの要望はご遠慮下さい。
即レスは期待せず、気長にお待ちください。

【教えてくれる方へ注意点】
要望が出ている漫画のストーリーはどんどん書いて下さい(※解説が終了した作品の加筆・修正も大歓迎)。
ただ、要望が出ていないものは敬遠される傾向にあります。
この板は一般板なので、18禁の漫画のストーリーの紹介はご遠慮下さい。
名前欄に作品名を入れていただけると、まとめやすくありがたいです。
時間を置いて数回に分けて投稿する際には、混交を防ぐため、最後に「続く」とお書き下さい。
書く際は予め予約していただけると、投稿の重複が防げて大変ありがたいです(※必須ではありません)。
また、書くのはよそうと思われた時には、面倒でも予約の取り消しをお願いします。

177 :マロン名無しさん:2006/10/01(日) 00:34:09 ID:???
もうリク主さんは見てないかもしれませんが、未解決リストにある『あすなろ坂』を投下します。
かなり長文(全部で40レス弱)です。分かりづらい纏めになってたらすみません。

あすなろ坂 里中満智子 77〜80年連載 文庫版全5巻(単行本全9巻)
幕末〜第2次大戦後にかけての有馬家4世代を描いた物語です。

第1部 夜明け編 第2部 朝やけ編 第3部 若葉編 第4部 うず潮編 第5部 向日葵編
第6部 風花編 第7部 積乱雲編 第8部 春雷編 第9部 蒼空編 となっています。

178 :あすなろ坂第1部 夜明け編1/4:2006/10/01(日) 00:36:00 ID:???
岡村(有馬)芙美・・・会津藩重臣の娘。
帯刀(橋本)新吾・・・会津藩の武士。(白虎隊の一員?) 母は芙美の乳母。
有馬武史(たけふみ)・・・江戸詰めの会津藩の武士。

1.
幕末の会津。剣や馬を愛する少女・芙美は、近々嫁ぐ事が決まっていた。嫁ぎ先は会津藩でも
指折りの名士・有馬家。周囲から羨望の眼差しを受け、何となく幸せに感じている。
幼馴染の新吾は芙美に惹かれているが、身分の違いからその想いは胸に秘めていた。
遊郭に誘われても、「惚れてもいない女を抱ける男にはなりたくない。惚れた女を抱けないなら
一生誰も抱いたりしない」と答えていた。
ある日、芙美は1人で剣の稽古をする新吾に勝負を挑んでみるが、すぐさま倒されてしまう。
悔しいと思いつつも、新吾との体格の差や新吾の汗の匂いなどを感じ、自分とは違う、と初めて
意識する。

江戸へ発つ前夜、芙美は乳母・梓から子供の作り方を教えられる。嫁入りとはただ綺麗に着飾り
大人しくしていれば良い、と考えていた芙美は結婚が怖いと思い始める。
落ち着かず庭に出てみると、偶然新吾が居た。男女の営みについて知っているか、と芙美は新吾に
聞いてみた。新吾は当然知っていた。
商売にする女性も居ると聞いて、新吾が友人から遊郭へ誘われていたのをふと思い出し、新吾の
汗の匂いを知る人が自分以外に居る……と嫉妬のようなざわめきを覚える。

剣を生きがいにする新吾に対して、「私の生きがいは何か。このままで良いのだろうか」と自分
自身に問い掛ける芙美。有馬家の嫁に1歩ずつ近づいているのが怖くなっていた。
途中、嫁入りをやめるから引き返してほしいと頼むが、同行していた新吾に「武士は1度決めた
事は命をかけてもやり通す。武士の娘が嫁入りを白紙に戻すと言うからには、命を捨てる覚悟は
あるのか」と問われ何も言えなくなってしまう。

到着まであと3日。滞在中の宿で、芙美は嫁入りに浮かれていた以前の自分を恥じる。
道中見かけた貧しくとも幸せそうだった女性を思い出し、「どんな辛い暮らしでも、あなたとなら
怖くはない。身近すぎて気づくのが遅すぎた」と新吾へ想いを打ち明ける。
しかし、新吾の気持ちがどうであれ芙美の取る道はただ1つ、有馬家へ嫁ぐ事である。
新吾は明確な回答を避けてその場を立ち去った。

179 :あすなろ坂第1部 夜明け編2/4:2006/10/01(日) 00:37:33 ID:???
一行は会津藩邸へ到着した。芙美が邸内に立つ1本の木に目を留めると、それは『あすなろ』で、
「明日は檜になろうと一生懸命伸びている木」だと出迎えた男が説明する。
これが、芙美と夫になる有馬武史の出逢いであった。

芙美が武史と迎える初めての夜。
新吾は、芙美の告白に応えられなかった意気地のない自分を責めながら1人夜を過ごす。
芙美もまた、新吾への想いから武史に抱かれるのを泣きながら拒否し、これからどうやって自分の
人生を過ごせば良いのかと思い悩むのだった。

2.
有馬家に入ってから1ヶ月ほど経つ。芙美は武史の妻という立場に未だ慣れない。
芙美に同行して江戸に来た新吾達は、役目を終えて明日会津へ戻る。武史は知人の医者・園田の
家へ泊まると言って芙美を残し外出した。芙美はお別れを言いに新吾の部屋を訪れる。
幸せにと言われ、芙美は「まだあの人のものじゃない。新吾以外の人の汗の匂いを知りたくない」
と新吾の胸に縋りつく。
想いを断ち切れずにいた新吾は芙美を抱きしめ、2人は結ばれる。
新吾は「一生涯、芙美だけを想い続ける」と約束した。
翌朝、新吾の布団に芙美のお守りを見つけた梓は2人の仲を疑うが、自分さえ黙っていればと
新吾を問い詰めはしなかった。
帰郷する新吾の姿を見送りながら、芙美はより一層新吾への想いを募らせるのだった。

新吾が去った後も芙美は武史に抱かれるのを拒否していた。武史は芙美の気持ちを尊重して
その気になるまで待つ、と寝室は一緒であっても無理強いはしなかった。
そんなある日、吐き気を覚えた芙美は自分の妊娠を知る。そして、武史と園田家を訪れた時に
武史の居る前で園田から妊娠を指摘されてしまう。
不義は死罪。白装束姿の芙美に、武史以外の男の子供を妊娠したと知らされた梓は、やはり息子と
芙美が男女の仲であったと気づいて詫びるが、芙美は相手が新吾であるとは認めなかった。

妊娠話に武史は動揺するが、死を覚悟する芙美に、「あなたを愛しく想っている、身体を大切に
して丈夫な子供を産みなさい」と告げる。
相手の名前を問い質そうとはしない武史の気持ちが芙美には分からなかった。そんな芙美に、
分からなくてもいい、武史の心の広さに甘えて立派な子供を産んでほしいと梓は言う。

180 :あすなろ坂第1部 夜明け編3/4:2006/10/01(日) 00:38:53 ID:???
その頃、会津はことごとく対立していた薩長を本格的に迎え討つと決めた。
武史は芙美に「戦に参加せず、脱藩して会津を捨てる」と宣言する。
「大切なのは無駄死にせずに生き抜く事だ」と言う武史に、芙美は「私は武家の娘であり、藩と
共に戦う」と反発する。
国を捨てるくらいなら死んだ方がマシだと思っていたが、「お腹の子も死んでもいいのか」と
武史に問われ、「卑怯だ」と泣き崩れる。
結局、鳥羽伏見の戦いで幕府軍は敗退。その後も会津の立場は厳しくなっていく。
戦場の新吾を想うあまり、芙美は寝言で「新吾」と口走る。

芙美は男児を出産した。新吾と同じ場所にホクロを持つその子は、武史が『新之介』と名付けた。
自分の子ではないのに芙美に感謝の言葉を述べ、実父が新吾であるのを知っていてなお、新吾に
ちなんだ名前を付ける武史。芙美はその考え方に驚かされながら、新吾に逢って我が子を抱いて
もらいたいと願うのだった。

元号が明治に改められて間もなく、遂に会津は降伏する。
「心の底から武士である新吾は、仮に生き延びても自害したはず」と手を合わせ嘆き哀しむ梓。
芙美は「新吾は新之介を置いて死んだりしない」と言い放つ。
そのやりとりを園田の娘・あけみが聞いていた。出産に立ち会った際、新吾の名を呼ぶ芙美に
疑問を抱いていたあけみは、新之介が武史の実子ではないのを確信する。

あすなろの木に「希望はいつもなくさない、明日こそ幸せになろう」と誓ったのだ、と芙美は胸に
抱いた新之介に語りかける。新吾は生きている、いつか逢えると思いながら。

3.
月日は流れ、新之介は武史と芙美の下ですくすくと成長していた。
武史は大学教授の職に就いており、新之介に対してはまるで本当の親子のように厳しくも愛情深く
接していた。芙美でさえ時折新之介の父親は武史ではないか、と錯覚してしまうほどである。
武史は立派な人だと思う。しかしそれでも、芙美の心を占めるのは新吾なのであった。

長年、武史を想い続けていたあけみは、他人の子を産みながら武史の妻として生活する芙美が
気に入らず、武史と2人きりの時に嫉妬心から新之介の本当の父親は新吾という男だ、と告げる。
武史はあけみに忘れるよう頼み、「もし、新之介に一言でも話したら殺す」と脅した。

181 :あすなろ坂第1部 夜明け編4/4:2006/10/01(日) 00:40:09 ID:???
武史が本気だと察したあけみは想いを告白し「抱いて欲しい」と頼むが、武史は「芙美以外の
女性は抱きたくない」と拒絶した。
芙美には敵わないと感じたあけみは、今後は学問に打ち込み医者として父を継ごうと決心する。
そして、芙美や新之介が病気になったら命をかけて直してみせる、と武史に誓うのだった。

最近、芙美が心底明るい表情を見せてくれるようになったと武史は感じ、このまま新吾を忘れて
自分の胸に飛び込んで来てくれるのではないかと期待していた。
しかし、心臓を患い死の淵に居る梓に、「新吾と巡り逢う事が私の生きがい。新吾を忘れる時は
死ぬ時よ」と芙美が語りかけるのを聞いてしまう。
「思い切って芙美を抱きしめてみよう」という決意は早々に崩れてしまった。

後日、芙美は新之介を連れて梓の墓参りをする。目を閉じて新吾を思い浮かべようとした芙美の
瞼に浮かんだのは、何故か武史の顔だった。芙美の心には武史への愛情が芽生えていたのである。
その帰り道、芙美は偶然新吾と再会する。
新吾は人力車の車夫として働いており、既に家庭を持っていた。
芙美から息子は父親にそっくりで首のつけねにホクロがある事、新之介と命名したのは武史で
ある事を聞かされた新吾は、目の前に居る男の子が自分の実の息子だと気づく。
ただ、芙美と新吾はもう別々の道を歩んでいた。2人は「元気で」と別れを告げる。

密かに新吾の行方を探していた武史は、新吾が武士として立派に死ねなかったのを恥じたのか、
姓を橋本に変え、素性を隠して東京に居たと知る。
新吾の生存を知れば、芙美は新之介と共に家を出て行くに違いないと苦悩する武史は、酒の
勢いに任せて有馬家に仕える女中・妙を押し倒してしまう。

帰宅した芙美に、武史が「愛しいからこそ幸せになって欲しい」と新吾の居場所を教える。
いつでも芙美の気持ちを優先する武史に、新吾と再会したが自分はこの家に戻ってきた、今一番
大切なのは武史だと芙美は率直に告白する。結婚して以来初めて結ばれる2人。
芙美は武史の腕の中で、目の前にある幸せを見失う所だったと感じていた。
一方、芙美の留守中武史に抱かれた妙は、「妙を妻にする」と本気で言ったわけではない武史の
言葉に夢を見るのだった。

182 :あすなろ坂第2部 朝やけ編1/3:2006/10/01(日) 00:48:14 ID:???
有馬新之介・・・有馬家長男。芙美と新吾の間に生まれる。
有馬史織・・・有馬家長女。武史と妙の間に生まれる。
おきく・・・新之介が出逢う女郎。

1.
武史は新之介に「この世で一番大切なものは愛であり、愛がなければ人は生きていけない」と
説く。あすなろの木を眺めながら涙を流す芙美。心配する新之介に、幸せすぎると涙が出てくる
ものだと話す。芙美は幸せを噛み締めていた。

その直後、有馬家を訪れたあけみは妙が身篭っているのを見抜く。
芙美は「本当ならきちんとしなければいけない」と相手は誰かと尋ねるが、妙は芙美の夫・武史が
そうなのだとは言えずにただ泣くばかりだった。
立場が違いすぎる一方的な恋に苦しむ妙に同情し、芙美は武史に妙の妊娠を相談する。
一時の苦しみに負けて妙と関係を持ってしまったのを深く悔いていた武史は、その相手は自分で
あり、やけになっていたと正直に告白する。打ちのめされる芙美だったが、同時に、ひたすら
新吾だけを愛して、武史の心をきちんと捕まえておかなかった自分が悪かったのだと嘆く。
翌日、武史宛てに置手紙を残した芙美は、新之介を連れて家を出る。

頼った先はあけみの家(園田診療所)だった。経緯を聞いて芙美が身を引くつもりでいるのを
知ったあけみは、武史がどんなに芙美を愛しているかを語り、「好きならくじけるな」と叱咤する。
新之介は診療所を抜け出し近所の子供たちと遊んでいたが、夕暮れになって道に迷った所を
新吾に助けられる。
今日はいつもと違って両親の様子が変だと言う新之介に、新吾は「好きな人を信じろ、男なら
泣いてはいけない」と語り、元気になった新之介を自宅まで送る。
素直に育った我が子を見ながら、新吾は武史に対して胸の内で深く感謝するのだった。

「今回の件は2人で乗り越えよう」と芙美と武史は話し合う。
妙は夢を見られただけでも幸せだったと身を引き、庭師の耕三と夫婦になると決心する。
数ヵ月後、妙は生まれた女の子を芙美に託し、耕三と共に有馬家を離れた。
史織と名付けられたその子を産んだのは母ではない、と新之介も理解する年頃になっていたが、
妹を守り、愛そうと誓う。

183 :あすなろ坂第2部 朝やけ編2/3:2006/10/01(日) 00:49:39 ID:???
2.
新之介と史織は互いを思いやるとても仲の良い兄妹に育っていた。
ただ、武史との間に子が出来ないのを気にした芙美は、相談する為にあけみを訪ねる。
診療所の近所を通りがかった新吾を、新之介は史織に親友だと紹介する。
実は新之介の成長を見るのが楽しみで、時々この辺りで逢っていたのだった。

最近身体が疲れやすいと、武史は家族に隠れてあけみの診察を受けていた。
家族の為にも長生きしなければと明るくあけみに語るが、その検査結果は思わしくなかった。
あけみは医学の限界に悩み涙を流す。病名は労咳であり、死を宣告されたようなものだった。
武史はあけみに家族には内緒にするよう口止めする。
もう新之介とは逢わない方が良いと思いながら、つい期待して診療所前に足を運んでしまった
新吾は武史と再会する。新吾は新之介を育ててくれた武史に土下座して感謝する。そして、
会津藩が降伏した時に死を選ばなくて良かったと話す。
武史は、もし自分の身に何かあったら新之介の力になって欲しいと新吾に頼んだ。

残された時間が僅かだと知った武史は、家族に苦労させたくないと仕事に打ち込むようになった。
そんな武史に芙美から嬉しい報告がもたらされる。ついに武史の子を身篭ったのだ。
しかし、その待ちに待った子は生まれなかった。新之介の愛馬・ふぶきが病気で暴れ、ふぶきに
掴まった状態の史織を芙美が助けた際、落馬して流産してしまったのである。
武史の子を産みたかった芙美に、武史は「新之介は自分の子だと思っている」と優しく労わった。
その会話を立ち聞きしてしまった新之介はその事実に衝撃を受けるが、自分の手で射殺した
ふぶきを埋めるのを手伝う武史に、父親はやはりこの人しか居ないと思う。

3.
新之介は文学を好む帝大生、史織は2、3年後には婚約してもおかしくない年頃になった。
史織に対して親しげに声を掛ける新之介の友人・光太郎は、いずれ交際を申し込むつもりだ
と言う。史織が少しずつ自分の手を離れていくのか……と新之介は寂しさを覚える。
仲間内で外出した帰り、自分の肩にもたれかかる史織を見て「一生守ってやりたい」と新之介は
思う。血の繋がりはない武史を父と思うように、史織も妹と思っているはずなのだが、「妹だ」と
必死で自分自身に言い聞かせているのもまた事実だった。

184 :あすなろ坂第2部 朝やけ編3/3:2006/10/01(日) 00:50:33 ID:???
ある日、新之介は光太郎達に無理やり連れて行かれた女郎屋・紫楼で、1歳年上の女郎・おきくと
出逢う。おきくは何処となく史織を思い出させる顔立ちをしていた。
今までこの仕事を恥ずかしく不潔だと嫌悪していた新之介だったが、おきくや若くして売られてくる
女性達の境遇を聞かされ不憫に思い始める。
青白くやつれた風情のおきくを放ってはおけなかった。

新之介はおきく目当てで紫楼に通いだす。1度も抱き合う事なく、ただ穏やかな時間を一緒に
過ごしていた。
自分に対する気持ちを知りたい、と告白した新之介へのおきくの返事は「ありがとう」の一言と
微笑みだった。新之介は客の1人でしかないのかと沈んだ表情で紫楼を後にする。
告白は震えるほど嬉しかった。ただ、おきくは夢を見てはいけない立場にあると自戒してひっそり
涙を流していた。
他の客がおきくを抱くのが我慢出来ず、誰にも渡したくないと自覚した新之介は再度おきくの
気持ちを問い質す。そして、本心を知って初めておきくを抱くのだった。

新之介はおきくを身請けして結婚したいと両親に打ち明けた。卑しい仕事に就く女性との結婚は
許さない、と猛反対する芙美を新之介は説得する。同情と愛は違うと言う武史にも思いの丈を
ぶつけた。そのひたむきさを信じ、武史は身請けの金を出してやる。
新之介は大急ぎで紫楼へ向かい、「一緒になろう」とおきくを抱きしめたが、既におきくは病に
蝕まれていた。

酷い喀血で診療所へ運ばれたおきくは、かなり進行した労咳と診断される。しかも身重だった。
おきくの体力ではとても出産に耐えられそうにない。
早く治して新之介の子を産んでほしいと声をかけた芙美に、誰の子かは分からないとおきくは
泣きじゃくった。誰の子か分からない……女にとってこんな悲しい事があるのかと感じる芙美。
おきくの全てを引き受けたのだから、お腹の子の父親は自分以外有り得ないと新之介は優しく語り
かける。芙美は息子のその姿が武史にそっくりだと涙ぐんだ。

おきくは自分の命がもう長くないのを悟っていたが、少しも寂しくはなかった。
人生を諦めていたおきくが新之介に巡り逢い、夢見る事を許される日が来たのだ。
幸せを感じながら、愛する新之介の腕の中でおきくは静かに息を引き取った。

185 :あすなろ坂第3部 若葉編1/3:2006/10/01(日) 00:55:47 ID:???
後藤光太郎・・・後藤財閥の跡取りで新之介の友人。史織と婚約する。
後藤珠恵・・・光太郎の妹。新之介へ想いを寄せている。文才あり。

1.
おきくの死から1年、新之介は明るさを失っていた。史織の友人・珠恵は、新之介がきくを未だ
想い続けている様子に望みがないと諦め、ただ見つめるだけでいいと自分に言い聞かせていた。
史織は珠恵の持つ明るさが必要だ、諦めないでほしいと励まし、もし自分に好きな人が居れば、
西洋の女性を見習って自分から好きだと言いたいと語る。
その励ましに勇気付けられた珠恵を見た史織は、自分で言い出したにもかかわらず、もし2人が
愛し合ったら……と想像すると寂しさを覚えるのだった。

外出の帰り道、武史が大量の血を吐いて倒れてしまう。
夫が労咳だと知った芙美は、隠さずに話して欲しかったと嘆き悲しむが、そんなに愛しているなら
何故気づいてやれなかったのか、武史の何処を見ていたのかとあけみは指摘する。
芙美は愛し愛される事ばかり考えていて、病には気づかなかったと情けなさを感じていた。
武史の余命は半年だった。
そんな時、史織は光太郎から結婚を申し込まれる。

少し前から、元庭師の耕三が現れて史織の出生の件で新之介を強請っていた。新之介は1人で
史織を守ろうと金銭を渡して追い払っていたが、このまま強請りに応じていくわけにはいかず、
新吾の居場所を探して逢いに行く。新吾は『会津屋』という店を起こしていた。
新之介は新吾に父と自分、母と妹はそれぞれ血の繋がりがなく、父への恩返しの為に耕三の
件を何とかしたいと相談する。
新吾は「私が君の父親だったら、恩返しなど考えずに人生を精一杯生きて自分の道を持つ男に
なってほしい」と耕三の話を引き受けた。そして、死ぬ時の美しさを求めて生き方を決めるのが
武士の生き方だと語る。

美しく死ぬ為に後悔のない人生を送る。本当に史織を光太郎の所へ行かせて良いのかと思う新之介
だったが、花嫁姿を見せて父を安心させたい、新之介も光太郎との結婚を望んでいるだろう、と
考えた史織は結婚の意思を家族に報告する。
武史は新之介に日本刀を贈った。刀に添えられた「死にざまを考えて生きよ」の言葉に、新之介は
いつ死んでも悔いのない、前向きな生き方をしようと誓う。

186 :あすなろ坂第3部 若葉編2/3:2006/10/01(日) 00:57:07 ID:???
新之介と史織は、「離したくない」「離れたくない」という想いを打ち消して結納に臨んでいた。
それからしばらくして、病床の武史は眠るようにしてこの世を去る。

2.
新之介が財産管理を依頼した執事が、自宅以外の有馬家財産を持ち逃げしてしまった。
芙美には「騙される方で良かった」と慰められるが、先の事を考えると今までのような生活は
出来なくなる。母に苦労させたくないと悩む新之介は、文学で生計を立てていけたらと考える。

史織は結婚式への出席をお願いしようと診療所にあけみを訪ね、女性の幸せについて語り合う。
そこへ運ばれてきた急患にあけみは驚く。その人物は史織の生みの母親・妙だった。
手伝いとして手術に立ち会い、妙の病名は子宮ガンで助かる見込みはないと知った史織は、父や
おきくの時を思い出して何故助からない病気があるのかと悲しむ。
誰でもいつか死ぬ。怖いけれども、だからこそ自分達は戦うのだとあけみの弟子に説かれ、史織は
式までの間、人手不足の診療所を手伝いたいと思う。

意識が戻った妙に、妙が産んだ有馬家の長女が手伝いの娘だとコッソリ教えるあけみ。
年のせいか物忘れが酷くなってしまった、と妙は素知らぬ振りする。
あけみが部屋を出て行った後、美しく気立ての良い娘に育てて貰ったと妙は涙ぐんだ。

武史の墓には頻繁に白菊が供えられていた。亡くなった直後だけでなく今でも、自分以外の誰かが
武史を忘れないでいてくれるのを芙美は嬉しく思っていた。
帰りがけ、芙美は白菊を手にした新吾と鉢合わせする。2人は暫くの間並んで歩いた。
その夜、新吾は寝言で芙美の名前を呼ぶ。いつになっても芙美を忘れられないのだった。

あけみを手伝いたい史織は光太郎と意見がぶつかってしまう。説得には全く耳を貸さず、ただ
自分の言う事を聞いていれば良いのだと言う光太郎に、史織の心は寒々としていた。

新之介への想いを綴った珠恵の小説が高評価を受ける。それとは対照的に、新之介の小説の
評価はまだまだであった。
しかも、早く世に出たいが為に焦る新之介は、人間的に未熟だと叱責されてしまう。
珠恵は「あなたの作品が好きだから、くじけずにこれからも書いてほしい」と想いを伝える。
その真剣な眼差しに、新之介は温もりを覚える。

187 :あすなろ坂第3部 若葉編3/3:2006/10/01(日) 01:00:24 ID:???
3.
珠恵を可愛いと思うものの、おきくへの想いは残っており、史織への複雑な感情が渦巻いていた。
婚約を勧める史織に、婚約は自然に任せて今は大切に付き合いたいと新之介は言う。
光太郎との間に信頼関係を築けない史織は、考え方について行けないと婚約破棄を申し出た。
史織の意志は固かった。
忘れたいと沈む史織を見て、新之介は「史織を泣かせるなんて許せない」と激しく憤る。
やはり史織を妹以上に見ていたのだと新之介は認めた。
しかし、「ありがとう、兄さま」の言葉に、一生『兄』を貫き通すと誓ったのを思い出す。
たとえ血の繋がりはなくても2人は兄と妹であった。

後藤家が気にするのは世間体だけだった。何とか史織を宥めてほしいと言ってくるが、史織同様、
芙美も後藤家の考え方について行けないと感じていた。
婚約破棄を受け入れる代わりに、新之介と珠恵の交際を含め一切の縁を切るという申し入れを、
「新之介が個人的に誰と付き合おうと口出しはしない」と断った上で芙美は了承する。

史織は婚約解消は後悔していないが、周囲の噂話・陰口に深く傷ついていた。
妙は、史織に世話されている自分は幸せだ、史織なら今にきっと良い事があるだろうと励ます。
生まれてきて良かったと思えるのは史織を産んだ事だけ。娘には幸せになってほしかった。

死の間際、痛みに苦しむ妙は、史織の本当の母親は自分なのだと、「お母さん」と1度でいいから
呼んでほしいと懇願する。
衝撃を受ける史織の様子に、妙は慌てて「つい、夢を口走ってしまった。今のはデタラメだから
忘れてください」と取り消すが、史織は思わず部屋を飛び出してしまう。
妙の目は嘘を言っているようには見えなかった。あけみの反応もそれが真実だと物語っていた。
今まで信じてきた繋がりが大きく揺らいだ。
史織が妙の部屋に戻った時には、妙は既に死亡していた。史織は妙の遺体に縋りついて泣いた。

帰宅した史織を芙美が出迎える。真実を知った事は話さず、自分は生まれてきて良かったのかと
史織は芙美に尋ねた。芙美は生まれてきて悪かった人生などないと諭す。
そこへ、後藤家と縁を切った1人の女として珠恵が訪ねてきた。
珠恵のひたむきさに打たれた新之介は、その気持ちに精一杯応えようと決心する。

188 :あすなろ坂第4部 うず潮編1/4:2006/10/01(日) 01:08:11 ID:???
甲野昌平・・・あけみの弟子で園田病院の医師。
綾公路秀・・・帝国軍人。華族。

1.
看護婦を目指して勉学に励む史織は19歳になった。
教師には看護婦よりも医者の道を勧められるが、看護婦としての道を貫き通したいと伝える。
外科ではメスを持つ事、内科では病気を見誤る事を史織は恐れた。診断を下す勇気が出ない。
納得して結婚を決めた相手について行けなかった。それ以来、自分の判断に自信が持てない。
昌平は、「何故怖がって殻に閉じこもろうとするのか。それではいつも1歩退いた生き方しか
出来なくなる」と史織に話す。昌平は史織を気にかけていた。
まるで自分を見ている気がする。昌平自身が1歩退いた生き方しか出来ない人間だった。

新之介は尋常小学校の教師になっていた。妻の珠恵は恋愛小説家として活躍しており、間もなく
最初の子が誕生する予定だった。
ある日、新之介を慕う新吾の娘・ふみがケンカで怪我をする。ふみを背負って自宅まで送る
新之介に、新吾の妻は若い頃の新吾の面影を見る。ふみも、新吾と新之介がよく似ていると言う。
娘の名前は夫が決めた、好きだった人の名前なのだろうと語る新吾の妻に、もしかして新吾は
武士だったのではないかと新之介は尋ねた。
しかし、新吾は過去を一切語らないらしい。『橋本』も新吾が適当に付けた姓だった。
新之介は何か引っかかるものを感じていた。

新之介と新吾、芙美とふみ、会津、武士……いずれも母と新吾が結びついてしまう。
加えて、ふみに指摘された首のつけねのホクロ。新吾も同じ位置にホクロがあった。
そう言えば初めて人力車に乗った時、新之介は父親にそっくりで首のつけねにホクロがある、
新之介と命名したのは父・武史だと母が新吾に伝えていた、と過去の記憶が蘇る。まさか……。
その時、珠恵が産気づく。

早産で一時は危なかったが、昌平の努力の甲斐あって新之介・珠恵夫妻に待望の長男が誕生した。
妻と息子を見つめながら、自分もこうして生まれてきたのだと新之介は父を思い浮かべた。
雄々しい武士のように生きてほしい、父のようにとの願いを込め、新之介は息子を『武雄』と
名付ける。

189 :あすなろ坂第4部 うず潮編2/4:2006/10/01(日) 01:09:39 ID:???
2.
日清戦争が終わり、次はロシアだと世間では噂されていた。
園田病院の婦長として仕事に励む史織は、病院での寝泊りが連日続いていた。
維持費がかかる屋敷から小さな民家に転居した為、今は史織個人の部屋さえ取れない状態で、
芙美は史織が家族に遠慮しているのだと思っていた。
仕事に生きると分かっていても、女性1人で生きていくのは寂しいのではないかと心配する。

史織は未婚の自分が『家庭』の雰囲気を壊すのではないかと、まるで別の人種のようだと昌平に
打ち明ける。結婚せず、子も産まず、1人前の女じゃないという焦りを感じていた。
昌平は、1人前の女である前に1人前の人間であるべきで、立派に能力を生かしている史織
自身を誇るべきだと語る。しかし史織は、昌平の前ではただの女でありたかった。

病院前で誤射騒ぎがあり、軍人・綾公路が負傷した。
ミスが発覚するのを防ぐ為、軍医を呼ばずに銃の暴発事故とした綾公路は入院する。
軍人相手に物怖じしない史織を見初めて積極的な態度に出る綾公路を、自信家で自惚れ屋だと
不愉快に思い、「既に心に決めた人が居る」とはねつけた史織だが、意に介さない昌平の様子に
自信をなくしてしまう。

長い時間をかけてある人を好きだと気づいたが、勇気が出ないと恐れる史織に、珠恵は勇気を
持って素直に飛び込めと励ます。かつて、珠恵の恋を励ましたのは史織だった。
「恐れに負けて心を閉ざすのは、自分の心に卑怯だと思わない?」その言葉に告白を決める。
昌平は長年史織を見つめてきて、強くなって欲しいと願っていたが、強くならなければいけない
のは自分の方だと、自分こそ勇気を出して史織へ気持ちを伝えなければと思う。

往診に出ている昌平を待つ間、史織は部下から綾公路への注意を頼まれて病室へ向かう。
その際、「話があるので待っていてほしい」と昌平へ伝言を残しておいた。
もう後には引けないと緊張する史織。
史織がなかなか戻ってこないと綾公路の病室へ向かった昌平は、ズタズタに引き裂かれた
白衣姿の史織と綾公路を発見する。

昌平はショックで気を失った史織を介抱した。気がついた史織に、何もかも忘れてゆっくり眠れと
声を掛けると部屋を出て行く。史織が呼んでも振り返らなかった。

190 :あすなろ坂第4部 うず潮編3/4:2006/10/01(日) 01:10:52 ID:???
昌平は泣いていた。その姿を見せれば、まるで悲劇の主人公扱いしているようで余計に傷つけて
しまう。何もなかったように振舞うのが史織の為だと考える。
強く抱きしめてほしかった史織は、昌平が背を向けて去っていってしまったと感じていた。

3.
史織を抱きしめて慰めたいと思っても、男の自分が触れたら嫌な記憶が蘇るかもしれないと
考える昌平。昌平が触れたいと思ってくれるはずがない、昌平に包んでほしいと願うのは贅沢
なのだと考える史織。事件以来、2人は急激によそよそしくなっていった。

退院後、綾公路は有馬家を訪れ、史織を嫁に欲しいと芙美に挨拶した。そして、史織の仕事帰りを
待ち伏せ、自分の妻になればあの時の事は2人にとって良い思い出になると告げる。
綾公路は有馬家の事情を調べていた。新之介は帝大の講師に、珠恵も生活の為ではなく好きな
小説を書く。史織さえその気になれば家族の生活は自分が保証すると言う。

小説家の夢は断念した新之介にもなくしたくない夢はあった。史織の幸せだ。
家の前で見かけた綾公路は冷ややかな目をした男だった。
気に入らないが、もし史織が好きになったのなら兄として祝福してやらなければと思う。
今更ながら嫉妬の感情を覚えるのだった。

忌まわしい思い出を忘れるには、綾公路の言う方法が一番なのかもしれないと思った史織は、
求婚を受けると周囲に伝える。
しかし、浮かない表情の史織が綾公路を好きだとは芙美にはどうしても思えない。
綾公路の「身も心も私のものだ」という発言に、もしや2人の間には何かが起きて史織が結婚に
同意したのではと考えた。
芙美は、自分と武史のように無垢な身体ではなくても気にせず、心が大事だと思ってくれる人が
現れる。いたずらに運命に流されずに納得出来る幸せを掴んで欲しい、と史織に語りかける。

芙美に後押しされた史織が病院へ向かっている頃、昌平と綾公路は史織の件で口論していた。
「行為も立派な愛情表現だ。愛しているから抱いた」と言う綾公路、「無理やり汚したんだ」と
反論する昌平。
侮辱するような綾公路の傲慢な考え方に、「これが俺の愛情表現だ」と昌平は手元のメスを掴んで
綾公路に向かう。

191 :あすなろ坂第4部 うず潮編4/4:2006/10/01(日) 01:11:35 ID:???
史織は勇気を出して昌平に告白した。昌平も初めて逢った頃から史織に惹かれていたと伝える。
気持ちを確かめ合う2人。しかし、昌平は「馬鹿だった、遅すぎた」と血の付いたメスを床に落とし、
その奥では脇腹を刺された綾公路が発見される。
幸い命に別状はなく、綾公路としては事を荒立てたくなかったが、既に警察へ通報されてしまって
いた。

「女性に対する意見の食い違いであり、あくまで個人的な事だ」と綾公路は裁判で証言した。
人命を助ける立場の医者でありながら、人を故意に傷つける行為は許されるものではないと、懲役
8年が言い渡された昌平に、史織は何もかもこれからだと伝える。
本当に愛しているなら、自分の心に正直に振る舞うしかない。昌平の心が掴めたのだから、8年
なんて史織にとっては短いものだった。

192 :あすなろ坂第5部 向日葵編1/4:2006/10/01(日) 01:29:25 ID:???
有馬武雄・・・新之介と珠恵の長男。
有馬詩絵(うたえ)・・・新之介と珠恵の長女。
有馬忍・・・新之介と珠恵の次女。
秋月精一郎・・・劇作家を目指す青年。

1.
あれから8年。その間、史織は猛勉強して医師の資格を取り、昌平を待ち続けた。
その昌平と逢える日が遂に来た。
昌平の為に身支度する史織は美しかった。武雄・詩絵・忍の3人は史織と共に昌平を出迎える。
昌平に寄り添う史織の姿に、「叔母ちゃんが今日とても綺麗なのは好きだからなんだ」と思う詩絵。

あけみに挨拶に行く途中の列車の中、史織と昌平は暫し抱き合った。しかし、昌平に触れられた
途端8年前の綾公路との記憶が蘇り、史織の身体は恐怖で強張ってしまう。
小児科医長として昌平を受け入れる予定の園田病院では、既に「前科者の医者が来る」との噂が
流れていた。昌平はあけみに迷惑は掛けられないと申し出を断る。
何もかも解決して幸せになれると思っていた。愛しているのに触れられるのが怖いと思い悩む史織。

詩絵は父・新之介や兄・武雄を、いつも怒らず、自分では何1つ出来ない人間だと不満に思っていた。
父より母・珠恵の方が稼ぎが多いと馬鹿にされた詩絵は、級友と取っ組み合いのケンカをする。
ケンカを止めようとし、怪我がないかを心配する兄には「弱い人は嫌い」と文句を言った。
強くなりたい。父や兄のような優しいだけの意気地なしは嫌だった。
父が居るから小説が書ける、父は太陽、母は太陽に向かって咲く向日葵みたいなものだと母は言う。
父も兄も太陽じゃない。詩絵には理解出来なかった。

実業家として成功を収めていた新吾は、私立病院を建設するとして昌平への就職先を世話する。
昌平はありがたくその話を受けた。
まだ恐怖心が残っていた史織に、詩絵がもう昌平を好きではないのかと尋ねる。近頃は綺麗じゃ
ない、綺麗な方が素敵だと言う。昌平の全てを愛しているのに何を怖がっているのだろう、と
史織は思い切って昌平の腕の中に飛び込んだ。
ようやく結ばれた2人の目には涙が浮かんでいた。

193 :あすなろ坂第5部 向日葵編2/4:2006/10/01(日) 01:30:46 ID:???
ある日、詩絵と忍は川遊びをしていた。
妹達を武雄が心配そうに見つめる中、忍が足を滑らせて川に落ちてしまった。
詩絵は急いで川に飛び込むが、水は冷たく、忍が身体にしがみつく為に上手く泳げない。
大声で助けを呼んでいた武雄も、2人が流されて行くのを見て、かなづちであるのも構わず勇気を
出して飛び込んだ。必死になって泳ぎ、沈んでいく2人を捕まえると、水を飲みながらも着物の帯を
使って何とか橋の柱に括りつける。
救出が間に合わなかった武雄はそのまま流されてしまう。

武雄はもう目を開ける事なく12歳という短い生涯を閉じた。
「まだ謝ってない! お兄ちゃんは意気地なしじゃない!」と詩絵の泣き叫ぶ声が悲しく響くのだった。

2.
忍はもうすぐ15歳。何があっても挫けないで生きていく。それが、自分を助け、幼くして亡くなった
兄の為に出来る事だと思う。
皆に優しかった兄のように、誰にでも優しい人間でありたいと願っていた。

忍の級友たちは、今や「大和魂の母」と称されるようになった、作家・有馬珠恵の書く「死ぬ事は
美しい」と戦死する軍人の小説を愛読している。
母の作品なら、昔書いていた恋愛小説の方が好きだった。小説にはいつも『優しくて、野心が
なくて、ちょっと気の弱い男性』が登場していた。母は父と自分自身の物語を書いていたのだ。
それが兄が死んで以来、母の書く物はがらりと変わってしまった。何かを守る為に死んでいく
事の美しさ……まるで兄への鎮魂歌のようだった。

母はいつもイライラして八つ当たりをする。詩絵はそれが嫌だった。
小学校教頭の父は真面目一本やり、優しいだけで取り得がない。昔母が言っていた、父が母に
とっての太陽だという話も信じられなかった。太陽はもっと堂々としているものだ。
亡くなった兄は太陽だった。詩絵の為に全てを投げうってくれる人はそうは居ない。もし、そんな
人が現れたら、その人を見つめる向日葵になりたいと思う。
ただ、詩絵にとってあの時の兄以上の人が現れるとは、とても考えられなかった。

194 :あすなろ坂第5部 向日葵編3/4:2006/10/01(日) 01:32:36 ID:???
芙美と詩絵は武史の墓参りをする。その際、武史は太陽だったか?と聞かれ、芙美はそうだと
答えた。夫に対する愛情は勿論ある。しかし本当の所、この頃新吾の夢を良く見ていた。
生き続けるとは、自分の心の有り様の様々な色を見せつけられる事なのかもしれない。
その後、2人は以前手放してしまった旧有馬邸を見に行った。あすなろの話を聞いた詩絵は、
「檜になりたがるなんて愚かだわ、その代わり檜より良い木だと思い込めばいいのに」と言う。
いつか屋敷を買い戻してみせると意気込む詩絵は、キラキラと眩しくて太陽のようだった。

珠恵は武雄の死を引きずっていた。武雄が取り残されていくようで、詩絵や忍を愛していても
優しくしてやれずに辛く当たってしまう。
新之介が、武雄が却って悲しむからその分娘達を慈しもう、と言っても取り合わなかった。
愛し合っているはずなのに夫婦の心は離れていく。

知り合った劇作家志望の青年・精一郎の招待を受け、詩絵と忍は芝居を見に行った。
2人は、目元や雰囲気に兄の面影がある精一郎に逢いたかった。
世界中の男の目を惹きつけ、その中で一番愛してくれる人を選びたい。全てを捨ててくれるような
人との愛を望む詩絵。
誰も傷つけず、憎まず、穏やかな愛を育てて幸せな家庭を作りたい忍。
兄や家庭の影から離れられない。それなのに、全く正反対の考え方を持っていた。
『まだ分からないけれど、この気持ちはもしかして……』
これが、詩絵と忍に訪れた初めての恋だった。

3.
英語が苦手な忍は、英語で恋文を書くのが良い方法だと級友から聞く。「好きな人にいつか渡す
つもりで書けばいい」と言われて浮かんだのは精一郎の顔だった。

女優を目指す詩絵は、精一郎が所属する劇団の試験を受けて見事合格した。
ただ、演劇を志す事は偏見を持たれていた時代で、特に女は伝統もなく、人前で芸をするのは
恥さらしだと思う人間も居た。
新之介も「はしたない」と反対する。珠恵は反対こそしなかったが、突き放すような冷たい態度
だった。芙美は女優の道へ進む事の覚悟を確認した。
詩絵は「努力したい。女優の道に飛び込みたい」と決意を固くする。

195 :あすなろ坂第5部 向日葵編4/4:2006/10/01(日) 01:35:18 ID:???
初めての役を貰った詩絵は稽古に励んでいた。
精一郎は、他の劇団員から「ろくな本も書けない劇団の役立たず」扱いされるが腹も立てない。
「今に良い作品を書いて見返してやる」ぐらいは言い返してほしかった詩絵に、「自分の力を
信じていれば、他人から何を言われても気にならない。腹を立てるという事は、自分を侮辱する
相手と同じ次元までおりてしまう事だ」と言う。詩絵には理解出来ない。
「侮辱は侮辱。自分の力に自信があれば、尚更相手を許せない」と思う。

精一郎は、英語は苦手だがシェイクスピアの口語訳をしたいと忍に話す。
同じく英語を苦手とする忍も、何か書いてみてはどうかと言われて、以前級友との話題で出た
英語の恋文を書いて精一郎に渡そうと決心する。

いよいよ初舞台。衣装を台無しにされてしまうというハプニングはあったものの、奮起した詩絵は
機転を利かせて難なく演じてみせた。
「侮辱だと思えば悔しくなる。でも、その人達を乗り越えてみせると思えば腹は立たない」と精一郎の
言った事を理解した詩絵は、「あなたはきっと立派な作品を作ると信じる。だから、私が立派な女優に
なる道のりを見ていてほしい」と精一郎に伝えた。
そのやりとりを立ち聞きして詩絵も精一郎に惹かれているのを知った忍は、姉と争いたくないと
恋文を破り捨てる。

精一郎から初舞台のお祝いを貰った詩絵は、それをいつも控えめで何でも譲ってくれる忍に
あげたいと思っていた。
ただ、譲れないものが1つだけある。もし同じ人を愛してしまったら、それだけは譲れない。
詩絵はきっと全てを賭けて恋をするのだろう、と言う精一郎に、自分の為に全てを賭けて欲しいと
告白する。
詩絵が全てを賭けるなら、自分も全てを賭ける覚悟で答えなければならない。まだその覚悟は
ないが、答える時は全てを賭けるだろう。
これが精一郎の返事だった。


続きは明日にします。

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