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ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART3
- 1 :作者の都合により名無しです:2005/08/13(土) 08:59:45 ID:mvEvqXeG0
- このスレは週刊少年ジャンプのキャラクターで所謂バトルロワイアルのパロディをしようという企画スレです。
これはあくまで二次創作企画であり、集英社や各作品の作者等とは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。
※ここはSS投下専用スレになります。感想、議論は下のスレでお願いします。
ジャンプキャラ・バトルロワイアル感想議論スレ PART.7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1123863035/
前スレ
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1121088002/
ジャンプキャラ主人公&ヒロインバトルロワイアル
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1115216913/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル準備スレ PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1116767239/
ジャンプキャラバトルロワイアル準備スレ PART.3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1117638620/
- 2 :参加者の生死状況1/2:2005/08/13(土) 09:01:17 ID:mvEvqXeG0
- 3/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子 /○中川圭一 /●大原大次郎
4/4【NARUTO】○うずまきナルト /○春野サクラ /○大蛇丸 /○奈良シカマル
3/4【DEATHNOTE】○夜神月 /○L(竜崎) /○弥海砂 /●火口卿介
4/4【BLEACH】○黒崎一護 /○藍染惣右介 /○更木剣八 /○朽木ルキア
4/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /○ニコ・ロビン /○ウソップ /●道化のバギー
3/4【銀魂】●坂田銀時 /●神楽 /○沖田総悟 /○志村新八
4/4【いちご100%】○真中淳平 /○西野つかさ /○東城綾 /○北大路さつき
3/4【テニスの王子様】○越前リョーマ /●竜崎桜乃 /○跡部景吾 /○乾貞治
4/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /○蛭魔妖一 /○姉崎まもり /○進清十郎
4/4【HUNTER×HUNTER 】○ゴン・フリークス /○ヒソカ /○キルア・ゾルディック /○クロロ・ルシルフル
4/5【武装錬金】○武藤カズキ /○津村斗貴子 /●防人衛(C・ブラボー) /○ルナール・ニコラエフ /○蝶野攻爵(パピヨン)
5/5【SLAM DUNK】○桜木花道 /○流川楓 /○赤木晴子 /○三井寿 /○仙道彰
4/4【北斗の拳】○ケンシロウ /○ラオウ /○アミバ /●リン
3/4【キャプテン翼】○大空翼 /○日向小次郎 /●石崎了 /○若島津健
4/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン /○ラーメンマン /○バッファローマン
4/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー /○エリザベス・ジョースター(リサリサ) /○ブローノ・ブチャラティ
3/4【幽遊白書】○浦飯幽助 /○飛影 /○桑原和馬 /●戸愚呂兄
2/4【遊戯王】○武藤遊戯 /●海馬瀬人 /●城之内克也 /○真崎杏子
- 3 :参加者の生死状況2/2:2005/08/13(土) 09:02:43 ID:mvEvqXeG0
- 3/4【CITY HUNTER】●冴羽リョウ /○伊集院隼人(海坊主) /○槇村香 /○野上冴子
4/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /○マァム /○フレイザード
4/5【魁!!男塾】●剣桃太郎 /○伊達臣人 /○富樫源次 /○江田島平八 /○雷電
3/4【聖闘士星矢】○星矢 /●サガ /○一輝 /○デスマスク
4/4【るろうに剣心】○緋村剣心 /○志々雄真実 /○神谷薫 /○斎藤一
6/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /○クリリン /○ブルマ /○桃白白 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
4/4【封神演義】○太公望 /○蘇妲己 /○竜吉公主 /○趙公明
3/4【地獄先生ぬ〜べ〜】○鵺野鳴介 /○玉藻京介 /○ゆきめ /●稲葉郷子
4/4【BLACK CAT】○トレイン・ハートネット /○イヴ /○スヴェン・ボルフィード /○リンスレット・ウォーカー
4/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】○ダーク・シュナイダー /○アビゲイル /○ガラ /○ティア・ノート・ヨーコ
3/5【ジャングルの王者ターちゃん】○ターちゃん /●ヂェーン /●アナベベ /●ペドロ・カズマイヤー /○エテ吉
4/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /●勝利マン /○友情マン /○世直しマン
3/4【世紀末リーダー伝たけし!】○たけし /○ボンチュー /●ゴン蔵 /○マミー
109/130 (○生存/●死亡)
- 4 :まとめサイト等々:2005/08/13(土) 09:05:35 ID:mvEvqXeG0
- まとめサイト
ttp://jumproyal.exblog.jp/
携帯まとめサイト
ttp://www15.plala.or.jp/royale/
現在地&地図サイト
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/
>>1の前スレに
ジャンプキャラ・バトルロワイアルSS投下専用スレ PART.1
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1119971124/
を追加。
- 5 :太公望、竜吉公主と再会す 1/6:2005/08/14(日) 19:42:49 ID:ApL+6twl0
- 放送がすむと、沖田はしばしうつむき、数分ほど何事かを考え込むと、デイバッグを持って立ち上がった。
それを見た斉藤も黙って立ち上がる。
「6時だ。俺達は本州へ渡る」
淡々とした口調で斉藤は言った。沖田は橋の方へ身体を向け、表情が見えない。
「ま、待ってよ」
咄嗟に呼び止めたダイだが、かける言葉が見つからない。
先程の放送で――沖田の知り合いの名前が2つも呼ばれていた。
「6時になったら奴は死んだものとして大蛇丸を追うと行ったはずだ」
「でもっ……」
「沖田、行くぞ」
斉藤の言葉に頷く沖田。
ダイには沖田のの背中が少し小さくなっているように見えた。
「沖田さん……」
「俺ァまだマシな方でさァ。」
まだマシ、という言葉にダイと竜吉公主の表情が陰る。
沖田は2人の仲間を失ったが、ここにはいないもう1人の仲間は、3人の仲間を失っている。
ターちゃんの弟子のペドロ、ターちゃんの友達のアナベベ、ターちゃんの妻のヂェーン。
ダイも公主も自分の仲間の無事は純粋に喜んだが、大切な仲間の大切な人の死に心を痛めている。
「沖田さん……」
「ターちゃんが帰ってきたらよろしく行っといてください」
首だけで振り向いた沖田は、少しだけ唇の端を上げて笑っていた。
心配かけまいとするように。
それが余計にダイ達の胸を痛める。
そこに――。
「お別れのあいさつなら直接言って欲しいのだ」
いつの間にか、木の上にターちゃんがいた。
野生に身を置くターちゃんは、狼にすら気づかれないほど己の気配を断つ事ができるのだ。
- 6 :太公望、竜吉公主と再会す 2/6:2005/08/14(日) 19:44:00 ID:ApL+6twl0
- 「ターちゃん!」
「遅くなってすまないのだ」
木から下りたターちゃんは、沖田同様、痛々しい笑顔を浮かべていた。
ちょっとした刺激を与えれば、今にも泣き出しそうな脆い笑顔。
だがそんな事はお構いなしに、斉藤はいつも通りの口調で声をかけた。
「阿呆が、遅すぎるぞ」
「すまないのだ。それより――みんな注意してくれ、誰かがこっちにやってくる」
「何?」
斉藤と沖田は武器を握りながら木の陰に身を隠し、顔を少しだけ出して橋を見た。
「どうやら橋の下を泳いできてるみたいで、何者なのか分からない。
正体を確かめようかとも思ったけどもう6時を回っていたし、こっちに戻るのを優先したのだ」
「わざわざ本州から四国へ渡ってくるとは酔狂な奴らだ。
あの落雷で人がいると考えてきたのなら――相当腕の立つ殺人者だな」
「もしくはダイ君の仲間かもしれませんぜィ」
落雷を見て人が来るとしたら、斉藤とターちゃんの言った通りマーダーかダイの仲間だろう。
マーダーなら落雷などものともしない実力と自信の持ち主。
沖田は冷静な口調で言った。
「ターちゃん、公主さんを背負ってやってくだせィ」
「分かったのだ」
いざとなったら公主を連れて逃げろという意味だとは、誰もが分かっていた。
その事を情けなく思いながらも竜吉公主は頷き、木の根から腰を上げる。
竜吉公主のデイバッグはターちゃんが持ってくれるため、彼女が手に持っているのは青雲剣だけ。
この剣を振るう事になるのだろうか、竜吉公主の胸で不安が膨らむ。
果たして敵か味方か――。
「ぶぇーっくしょん!」
……橋の方角からくしゃみ。
敵か味方かは分からないダイ達だったが、とりあえずマヌケそうな奴だとは思った。
あんな大きなくしゃみをしては、見つけてくれと言っているようなもの。
さて、どうしたものか。
- 7 :太公望、竜吉公主と再会す 3/6:2005/08/14(日) 19:44:44 ID:ApL+6twl0
- 太公望、竜吉公主と再会す 3/6
「ダアホ! そんな馬鹿デカイくしゃみをする奴がおるか!」
「し、仕方ねぇだろ、全身ずぶ濡れなんだぞ!?」
「もしここにおるのがゲームに乗った奴ならどうするのだ! 雷を落とすような奴だぞ!」
太公望はふと申公豹の雷公鞭を思い出し、身を震わせる。
雷公鞭に比べれば非常に小さな稲妻だったが、それでも回避が困難で威力の高い雷は脅威だ。
しかも今は全身びしょ濡れ、しかも海水。
雷を落とされたらさぞ愉快に全身を駆け巡ってくれるだろう。
「ど、どうする? 逃げるか?」
「泳いで逃げておるところを、橋の上から追ってこられ、雷を落とされたらどうなるかのう」
「じゃあ戦うか!?」
「雷を避けられるほどの身体能力は無いのう。避雷針に使えるものでもあればいいが……」
「じゃあどうするんだよ!?」
「雷を落とした奴がこの場にいない事を祈るしかないが……まだ敵だと決まった訳ではない。
とりあえずわしが様子を見てくるから、お主はここで待っとれ。
いざとなれば五光石をぶつけて逃げる、その時は爆砕符でサポートせい」
「じゃあ作戦を確認するよ。
まず斉藤さんと沖田さんが左右から近寄って、相手が出てくるのを待つ。
もし敵だとすぐ分かったのなら、おれが呪文か紋章閃で奇襲して、二人が挟み撃ちにする。
ターちゃんは公主さんを背負ってここで待機。万が一の時は逃げるか、森の中に敵を誘い込む」
全員頷き意思を統一すると、斉藤と沖田が左右に分かれて森の中を音も無く駆けて行く。
物陰から物陰へと移動し、橋の横に身を潜める。
ダイは小山から上半身を乗り出し、相手の姿を確認しようとする。
竜吉公主もまた、ターちゃんの背中から橋を見つめていた。
あの野太いくしゃみから、橋の下にいるのは自分の知る誰でもないと竜吉公主は悟っている。
妲己は女だから除外、趙公明はもう少し品のあるくしゃみをするだろう。
太公望はもっと若い声をしているから違うはずだけれど橋の下から見覚えのある白い頭巾が登ってきて、
しかも見覚えのある若い顔も出てきて、見覚えのある服も出てきて、見覚えのある宝貝を持っていて、
あの野太いくしゃみは何だったのかと疑問に思っても、そこにいるのはどこからどう見ても彼だった。
- 8 :太公望、竜吉公主と再会す 4/6:2005/08/14(日) 19:45:47 ID:ApL+6twl0
-
「太公望!」
竜吉公主の声にダイは振り向き、斉藤と沖田は眉をひそめ、太公望はギョッと小山を見た。
「その声……公主!? 公主か!」
パッと表情を輝かせた太公望は、小山に足を向ける。
「ダイ、ターちゃん、あやつが太公望じゃ」
竜吉公主の言葉にダイ達の警戒心も解ける。
斉藤と沖田も太公望の名は聞かされていたのでとりあえず警戒を緩めるが、
くしゃみの主が他にいると考えいつでも飛び出して武器を振るえるよう構えたままだった。
小山の森から、ターちゃんに背負われた竜吉公主が顔を出し、ダイも立ち上がる。
「どうやら信頼できる仲間を得ているようだのう」
竜吉公主の力になってくれていただろう少年とパンツいっちょうの男に感謝する。
残酷な言い方だが、彼女は人間界の空気のせいで足手まといになっているだろうと太公望は予測していた。
だからこそ助けるメリットの無い竜吉公主の力になっている彼らは信頼できる。
「富樫、安心せよ。わしの仲間が一緒におる、どうやら信頼できそうだ」
ずぶ濡れの富樫も橋の下から出て、竜吉公主の美しい容貌にちょっぴり感激しながら、
太公望と一緒に小山の森へと向かう。
「チッ……大蛇丸を追うのがますます遅れる」
斉藤は苛立ちながらも、他の参加者と情報交換する必要性を分かっていたため、
すんなりと小山の森へと足を戻す。沖田も同様だが、彼の方は斉藤と違って安堵の表情を浮かべていた。
こうして一時的にではあるが、香川県という狭い地域に、
対主催者の考えを持つ7人もの参加者が集ったのだった。
- 9 :太公望、竜吉公主と再会す 5/6:2005/08/14(日) 20:01:09 ID:ApL+6twl0
- 【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/朝】
【チーム名=勇者一行】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分)、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢(ダイを仮初の主と認めつつある)
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.竜闘気に耐えうる武器を手に入れる。
【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労。普通の空気を吸っている限り、数日後には死んでしまう。
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:無し。
[思考]:1.太公望と話をする。
2.可能なら遠距離用宝貝を手に入れる。
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、公主の荷物一式、恥ずかしい染みのついた本。
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
[共通思考]:アバンの使途、エテ吉を探す。他、仲間になってくれそうな人を集める。
- 10 :太公望、竜吉公主と再会す 6/6:2005/08/14(日) 20:01:59 ID:ApL+6twl0
- 【チーム名=壬生狼】
【斎藤一@るろうに剣心】
[状態]:腹部の皮一枚切れている。体力微消耗、戦闘に少し支障有り。
[装備]:魔槍の剣(鎧の魔槍の鉄甲が変形した物)@ダイの大冒険
[所持品]:荷物一式
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.オリハルコン製の武器を手に入れたらダイに渡してやる。
3.主催者達を悪・即・斬の信念に従い切り捨てる。
【沖田総悟@銀魂】
[状態]:鼻を傷めているが骨に異常は無し。
[装備]:鎧の魔槍(右の鉄甲無し)@ダイの大冒険
[所持品]:荷物一式
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.オリハルコン製の武器を手に入れたらダイに渡す。
3.真選組として主催者を打倒する。
【太公望@封神演義】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料1/8消費) 宝貝『五光石』@封神演技 アバンの書@ダイの大冒険
支給品不明(本人確認済み 鼻栓(薬草でできた、超悪臭にも耐える優れもの)
[思考]:竜吉公主と話し今後の行動方針を考える。
【富樫源次@魁!!男塾】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)爆砕符×2(キルアから譲渡)
鼻栓(薬草でできた、超悪臭にも耐える優れもの)
[思考]:とりあえず成り行きを見守る。
>>7の一行目は削除願います。
- 11 :弥海砂BAD END 1/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:28:05 ID:UegHHZVm0
- ―― ……サガ、稲葉郷子、ヂェーン、アナベベ、ペドロ=カズマイヤー、勝利マン、ゴン蔵。
…以上、18名が脱落者だ。
なかなか良いペースだ。
この調子で、優勝目指して頑張るがよい…。
サガの名を聞いた途端、まもりは小さく震えた。
『私はサガ。
こちらにも戦闘の意志はない。
話し合いにも異論はないよ』
月光の下、出会った銀髪の美丈夫の言葉が思い返される。
(本当に、私は殺人をしたのね)
それを自覚する。
(でも良かった。セナはまだ無事みたい)
始まってから6時間で18人。主催者はいいペースだと言っていたが本当にそうだろうか?
少なくとも自分が何日もこの状況に耐えられるとは思えない。
(早く、早くしなくちゃ)
既に脱落した18人のうち自分はまだ1人しか殺していない。
つまりは自分のほかに何人もこのゲームに乗った参加者がいるということだ。
(その人たちには気をつけなくちゃ、私は弱いから)
夜明け前の海坊主との接触でまもりはそのことを思い知っていた。
麻痺毒を持つベンズナイフがあるとはいえ、近づけなければ意味はない。
いきなり攻撃すれば自分は不利だ。殺意を隠し相手に近づかなければならない。
放送から得られた情報から順番に自分の行動方針を固めていく。
その時、ふと気付く。
(1人? 私が殺したのはたった1人?)
ヤムチャ。
サガを殺害した後、自分はその男を手にかけたはずだ。
その名前は今の放送では呼ばれなかった。
(偽名? ううん、あの時あの人は必死だった。多分、違う)
- 12 :弥海砂BAD END 2/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:29:04 ID:UegHHZVm0
- そういえば自分は彼の死を確認していない。
毒に耐える自信がないと言っていたし、ナイフでかなりの深手を負わせたため
その死まで確認する必要はないと思ったのだ。
(まさか……生きているの?)
ならば殺さなくてはならない。
自分がゲームに乗っていることを他の参加者に知られれば戦闘力に乏しい自分では
その時点で絶体絶命だ。
もし彼があの超神水の毒性に耐え切ったとしても、ベンズナイフの毒を解毒することはできないだろう。
なら、他の参加者に見つかってないならまだあの小屋にいるはずだ。
「今度は……きちんと確認しなきゃ」
まもりは京都へと進路を取った。海坊主と出会った道は慎重に避けて。
ミサは趙公明に襲われて京都から逃げ出した後、滋賀へと向かっていた。
月に会いたいとは思っていたが何の当てもなかった彼女は全く知らない道を行くよりも
僅かでも知っている道をいくほうが安心できたのだ。
元の場所に戻ってどうするのか、そこまでは考えていない。
でも漠然と何とかなるような気がしていた。
そんな時、道の前方から歩いてくる1人の少女を発見する。
学校の制服を着ていることから、自分より年下なのは明らかでなんかしっかりしてそうに見える。
○月以外はみんな敵! ここは隠れてやり過ごさなきゃ!
○月以外はみんな敵! 相手は1人で弱そうだし襲ってアイテム奪っちゃえ!
→○まさか殺人者じゃないよね? 1人じゃ心細いし、話してお友達になろう!
ピッ♪
(まさか殺人者じゃないよね? 1人じゃ心細いし、話してお友達になろう!)
咄嗟に頭の中に浮かんだ選択肢から3番を選ぶとミサは目の前の少女に向かって駆け出した。
「おーい」
いきなり駆け出してきたミサに相手はギョッとして立ち止まったが逃げるようなことはしなかった。
「あ、あの」
- 13 :弥海砂BAD END 3/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:30:04 ID:UegHHZVm0
- 「この道通ってるってことはもしかして京都に行くの?
止めたほうがいいよ、何か変なテンションの外人がいるから。
そいつゲームに乗ってて私の友達殺しちゃったんだから!」
一気に早口でまくしたてる。
それを聞いて、相手は戸惑った顔から真剣な表情へと変わった。
「あの、その話詳しく聞かせてもらえますか? 私、姉崎まもりといいます」
「うん、私は弥海砂。ミサミサって呼んでもいいよ」
そしてミサは城之内と出会ってから一部始終を話した。
趙公明の名前は死神の目で見ることは出来ていたが、彼女には古代中国語が読めなかったので
能力ともどもそのことは秘密にする。
「大変でしたね、辛かったでしょう」
「うん、早く月に会いたいよ……」
「その、月さんというのは? よかったらミサさんが知っている方のことも教えてもらえませんか?」
「いいよ、その代わり後でまもりんのことも教えてね♪」
「……まもりん……ですか」
まもりがミサから引き出した情報は夜神月、竜崎(L)、火口についてだった。
火口については重要視することはないだろう。ミサの話では利己的で卑小な人物のようだ。
恐らく隠れているか、弱い物を狙って襲っているか、既に殺されているかのどれかだろう。
特に強いということもないので例え襲われてもベンズナイフさえあれば対処できる。
問題は月と竜崎という人物についてだった。どちらも突出して頭が切れるらしい。
竜崎はLと呼ばれる世界的な名探偵で今までにいくつもの難事件を解決しているという
まるで映画の中の世界の人物のようだ。
そして月はその竜崎に捜査協力しているというミサの恋人らしい。
月の事を話すミサはとても誇らしげで、恋人というよりは信者のようであった。
二人はキラと呼ばれる世界的な殺人者を追っていて、キラは不思議な力で人を殺すことが出来るという。
そしてそのキラは何人も存在して、火口はその1人だったという。
火口がその顔と名さえわかれば人を殺せる能力を持っているのなら、かなり危険な人物だが
ミサは何故かその能力はもってない、と力説した。
その根拠を尋ねると言葉を濁していたが、どうやらミサには確信があるらしい。
どうやら頭はいいが、物事を深く考えず行動するタイプだとまもりはミサのことを判断する。
- 14 :弥海砂BAD END 4/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:31:12 ID:UegHHZVm0
- 能力は高いのに性格のせいでその能力を活かせないタイプだと。
この殺人ゲームという状況の中でミサのテンションも不安定だったこともあるだろう。
その他にもミサはいろいろと失言をして、まもりに考察の材料を与えている。
彼女は夜神月のことをやたらと持ち上げ、しきりに竜崎と比較していた。
竜崎は月の敵ではないと。月ならば楽勝だと。その類のことを繰り返す。
それはライバルといったニュアンスではないように思えた。
そして自分も捜査協力している立場でありながら竜崎のことを嫌っているようだ。
竜崎の敵。世界的な名探偵が追う世界的な殺人者。
(もしかして……)
夜神月がキラなのだろうか? そしてミサはそれを知っている。
それならば火口がキラの能力を今は持ってないと断言できることにも納得がいく。
もしそれが事実だと仮定すると。
(その夜神さんという人はゲームに乗る可能性がある)
まもりは慎重に考える。
ここまでは仮説を交えた推測に過ぎない。軽率に判断はできない、が。
竜崎という人物とは恐らく相容れない。
聞いたとおりの切れ者なら近づいても自分の演技など瞬く間に見破られて窮地に陥るだけだ。
竜崎と出会ったら即座に殺害するか、逃げるしかないだろう。
だが、夜神月とならば相容れるかもしれない。
彼は自分と同じく特別な力は何も持っていない。
ゲームに乗るとしても、殺意は隠して集団の中に埋もれようとするに違いない。
ならば、夜神月と自分は協力……いや、お互いに利用できるはずだ。
共犯者がいれば潜伏は一層容易になる。
その切れるという彼の頭脳の恩恵にも与れるかもしれない。
問題は裏切るタイミングだが……相手も同じことを考えるだろう。
切り札を持つ必要があるかもしれない。
……そんな展望を短い時間で思考する。
だが、実際は会ってから判断するしかないだろう。
ただここまで考えた事は頭の中に入れておくことにする。
まもりはミサを見た。後は彼女をどうするか、だが……夜神月との交渉に使えるだろうか?
しかしミサ自身は特別な能力も何も持っていないようだ。
会えるかどうか分からない人物との交渉を視野に入れて連れて行くには
- 15 :弥海砂BAD END 5/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:32:09 ID:UegHHZVm0
- 少々、足手纏いが過ぎる。
女の子二人連れならば相手の油断を誘えるか?
いや、油断を誘うなら自分ひとりで充分だし、逆に殺人者を呼び寄せやすくなるかも。
人を殺そうとするたびに演技をするのも困難だ。
(放送では殺された人の名前は呼ばれても、殺した人の名は呼ばれないのよね……)
なら、自分にとってミサの存在は邪魔なだけだ。
自分が殺したということさえ悟られなければ、夜神月との交渉も滞ることはないだろう。
「これで、全部かな。さ、今度はまもりんが話して」
「ええ、その前に」
まもりはミサを抱きしめる。
「え……」
「とても恐かったですねミサさん。
でも大丈夫です。もう恐がる必要はないんですよ」
まもりの温もりを肌で感じてミサはそっと目を閉じた。
不安だった心が平静を取り戻していくのが分かる。
まもりの体温から伝わってくる安心感に思わずミサの目から涙が零れた。
「うん、ありがとう……まもりん」
「安心してください、今度は念を入れますから」
「?」
……どすっ
- 16 :弥海砂BAD END 6/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:33:02 ID:UegHHZVm0
-
ザク、ザク、ザク
ザク、ザク、ザク
……何だろう、何かを掘っている音がする……
ザク、ザク、ザク
ザク、ザク、ザク
……何だろう、さっき一瞬、身体が凄く熱くなったかと思うと
今度は何かが抜け落ちていくように冷たくなっていく気がする……
ザク、ザク、ザク
ザク、ザク、ザク
……何だろう、何も感じられないや……身体が麻痺しちゃったみたい……
ザク、ザク、ザク
ザク、ザク、ザク
……何だろう、凄く眠くなってきちゃった、まもりんもいるし寝ちゃっていいかな……
ザク、ザク、ザク
ザク、ザク、ザク
「おやすみなさい、ミサさん……これでもう恐がる必要はないですね」
……うん、おやすみ…まもりん……起きたら傍に月が居てくれたらいいな……
- 17 :弥海砂BAD END 7/7 ◆zOP8kJd6Ys :2005/08/16(火) 22:33:43 ID:UegHHZVm0
-
そうして……弥海砂は深いまどろみにその身をまかせ……二度と目覚めることはなかった。
まもりが掘っていたのは自分の身体だということに気付かずに――
彼女の意識は深い闇の中へと沈んでいった――
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]腹部に打撲、若干の疲労
[装備]:中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、、核鉄XLIV(44)@武装錬金
魔弾銃@ダイの大冒険:空の魔弾×2 メラミ×1 ヒャダルコ×2 イオラ×1 キアリー×2 ベホイミ×2
[道具]荷物一式
[思考]1.ヤムチャを再殺する
2.セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
【弥海砂 死亡確認】
【残り108名】
- 18 :作者の都合により名無しです:2005/08/17(水) 13:32:44 ID:KIlyxh1b0
- もうすぐ1000だから揚げ足取りみたいなことしちゃうけど、
新作でちょっと気になったところ。
>二人はキラと呼ばれる世界的な殺人者を追っていて、キラは不思議な力で人を殺すことが出来るという。
>夜神月がキラなのだろうか? そしてミサはそれを知っている。
>それならば火口がキラの能力を今は持ってないと断言できることにも納得がいく。
まもりはキラが不思議な力で人を殺す事が出来ることを知っていて、月がキラではないかと疑っているんだから
>彼は自分と同じく特別な力は何も持っていない。
この判断はおかしいよね?
- 19 :作者の都合により名無しです:2005/08/17(水) 14:12:26 ID:odcZ0W0a0
- うん、ここで書くな。
- 20 :作者の都合により名無しです:2005/08/17(水) 14:13:43 ID:odcZ0W0a0
- あ、向こうで謝ってるのか。スマソ
- 21 :作者の都合により名無しです:2005/08/17(水) 18:09:36 ID:220lxdgfO
- >>11-17は無効です
- 22 :作者の都合により名無しです:2005/08/17(水) 19:21:15 ID:vwwCOUbq0
- 27 名前:作者の都合により名無しです :2005/08/16(火) 22:14:10 ID:EItz+7c10
ネット立ち読みサイトが出来たみたい!
インターネットで古本を販売しているサイトがあるよ!
マンガ本が見放題だよー!嬉しいサイトだよね!
http://www.464.jp
- 23 :史上最高に不幸な予兆:2005/08/18(木) 15:42:41 ID:haViwnPMO
- バーンたちによる放送が行われてから約二時間後。
富士の樹海の中、太陽の光が木々の枝や葉に遮られてまばらな影と光の混ざる場所…
そこで三井寿と追手内洋一の二人は同じ一本の木に背もたれて朝食をとっていた。
「なあ…お前はもう平気なのか?」
「…まあ、俺はあの人みたいに凄く大切な知り合いが死んだってわけじゃないから…。一応少しショックだったけど…」
「……そうか」
二人は控えめに少し離れた場所でうずくまって未だ肩を小刻みに震わせながらすすり泣いている香をちらりと見やり、すぐに視線を外す。
『勝利マン』
『冴羽リョウ』
放送で伝えられた脱落者の名。
それを聞いた香はその瞬間地面に崩れ落ち、今までずっと同じ姿のまま泣き続けていた。
「リョ…ウ……リョウ…ッ!」
「………」
その名を小さく繰り返しながらあまりに悲痛な姿で悲しみに暮れるその様子に…男二人は慰めの言葉をかける事も、何をどうする事も出来なかった。
- 24 :史上最高に不幸な予兆:2005/08/18(木) 15:43:39 ID:haViwnPMO
-
「…これからどうする?洋一…」
「…これから?」
「このまま樹海をさまよってても、どんどん知らないうちに死人が増えていくぜ?…まだ生きてる他の知り合いも含めてな…」
「……でも…こんな所に好き好んで来る人、もしかしていないんじゃないかな?このままここで最後まで迷ってたままの方が良いような気が…」
「…おいおい!知り合いを見捨てるつもりかよ?」
「いや、だって死にたくないし…」
「何…!?自分さえ助かれば良いと思ってんのか!?」
洋一の自分勝手とも言えるその言葉に苛立ちを覚えて立ち上がり、怒りの表情でその顔を見下ろす。
「き、君だって死にたくないだろ!?あんなに強い勝利マンさえ殺されたんだ!怖いよ!きっと化け物みたいに強いやつらがウヨウヨいるんだ!」
「………」
「…ここから出ないままの方が良いよ!俺たち、きっとツイてたんだ!どうせ出られないんだし、ここでずっと隠れていようよ!」
怯えたような眼差しで三井を見上げながら必死にそう語る洋一の言葉に腹を立てて歯を噛みしめつつジッと見つめ返す三井だが、何も言い返せず立ち尽くす。
- 25 :史上最高に不幸な予兆:2005/08/18(木) 15:47:19 ID:haViwnPMO
-
「……ちっ!……ん?…おい、あれ…道路標識じゃねーか?」
やりきれない気持ちを隠しきれずに視線を洋一から横に外すと、少し先の木々の隙間に青く四角い何かを見つけて目を見開く。
「…え?……本当だ…」
「やったぜ!やっとここから出られる!!」
「…(ツイてねぇええエエ!!!!)」
樹海からいくら出ようと試みても一向に出る事が出来なかったのに、いざ『出たくない』となると一瞬で出るすべを発見してしまう自分のあまりの不運さを呪うかのように頭を抱えて悶絶する洋一。
「…香さん。…香さんは…これからどうするんだ?」
「……え…?」
突然三井に静かに声をかけられた香が、真っ赤に腫れた目元をそっとそちらへ向けてかすれるような頼りない小声で聞き返す。
「……オレたちは…知り合いを探しに行くつもりだけど、香さんは…」
今のその様子では、とてもじゃないが行動する事は出来そうにないのではないか?との意味合いを込めた眼差しを向けて香からの返事をじっと待つ。
『オレたち!?』と言いたげに驚きながら見上げてくる洋一は無視。
- 26 :史上最高に不幸な予兆:2005/08/18(木) 15:48:39 ID:haViwnPMO
-
「………私も行くわ。…まだ…リョウの所に行く前に……やらなきゃいけない事があるから…!」
袖で汚れた顔をゴシゴシと拭いてからゆっくりと立ち上がり、二人の方に真っ直ぐな瞳を向ける。
「……強いな、香さん…」
「…強くなきゃ…あいつのパートナーはやってこれなかったのよ」
頼りないながらも、いつ以来か思い出せないほど久しくしていなかった『笑顔』を作り二人の元へと歩み寄る香。
「…そうか。……よし!さっさと立て!行くぞ!」
「ええっ!?本当に行くの!!?」
「たりめーだ」
いまだに渋る洋一を半ば無理矢理立たせ、樹海を後にする三人。
しかし三人は知らない。
ちょうどその頃…樹海から出たその場所に向けて遠くから道路をやってくる一人の男の事を。
それが冴羽を手に掛けた張本人である事など…知るよしもなかった。
- 27 :史上最高に不幸な予兆:2005/08/18(木) 15:49:42 ID:haViwnPMO
- 【山梨県/午前】
【チーム「アンラッキー」】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]右腕骨折
[道具]:荷物一式(食料少し消費)
:デスノート@DEATH NOTE(次の0時まで使用不能)
[思考]:死にたくない
【槇村香@CITY HUNTER】
[状態]泣き疲れ
[装備]ウソップパウンド@ONE PIECE
[道具]荷物一式
[思考]:海坊主、冴子を探す
【三井寿@SLAM DUNK】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料少し消費)
:兵糧丸(10粒)@NARUTO
[思考]洋一、香と行動する
([チームの共通思考]
らっきょを探す)
【山梨県/午前】
【ダーク・シュナイダー@バスタード】
[状態]左腕に銃創、魔力消耗
[装備]装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]荷物一式(食料二人分、支給品未確認)
[思考]:魔力を回復したい
:男は殺す、女はハーレムに加える
:ゲームを脱出して主催者殺害
- 28 :帝王雌伏1/2:2005/08/19(金) 16:49:35 ID:FQPPdDAp0
- 愛知県と長野県の境、山中の廃屋。
ホコリが厚く積もった床の上には、干からびた動物の死体が散乱している。
そして廃屋の一番奥、壊れたテーブルや椅子の間に隠れるように、一人の男が座っていた。
「(ぬぅ…動物の血ではさしたる回復は望めんか…)」
支給された食料の果物を使って動物をおびき寄せ、手裏剣でそれを狩る。
夜が明ける前に数匹のウサギなどを獲ることに成功し、気休め程度だが怪我を治すことができたのだが…。
血こそ止まっているものの、腹には穴が開いたまま(多少は小さくなっている)、右腕も傷跡が醜く残っている。
なにより、体力の消耗が激しかった。
「…むっ」
DIOが持っていた手裏剣を投げると、廃屋の隅にいたネズミが小さく悲鳴を上げて倒れた。
手裏剣と共に獲物を回収し、指を突き刺して血を吸う。
「(今は耐えねばならん……かつて100年間海底で耐えたことを思えば、この程度どうと言うこともない)」
ちなみに放送では、特に気になることは無かった。
交戦した相手の名前は聞かなかったので、死んだかどうかも判らない。
主催者の言葉は、徒党を組んでいる奴らを仲間割れさせる作戦だろうと思ったが。
- 29 :帝王雌伏2/2:2005/08/19(金) 16:50:17 ID:FQPPdDAp0
- 体がゴムのように伸びる小僧、そして手から光線を放つ男…
「(このDIOが傷を負わされ、捨てられた犬のように惨めな姿を晒して逃げることになるとはな…!)」
特に光線を放つ男の方は、少なくともスピードではDIOを上回っていることは、プライドの高いDIOも認めざるを得なかった。
無敵のスタンドと自負する『世界』が正面からのラッシュで打ち負けるなどありえないと思っていた。
あの二人(と一匹)に復讐しようにも、体調が万全でなければ不可能だった。
そして、夜が来るまでに体調を万全にするのは無理だとDIOは悟っていた。
(あの時、妙な黒い男の血を吸えていれば、今頃は傷が完治していたのだが)
つまり、次に遭遇する相手は確実に格下でなければならない。
それも相手が一人なら最良。
「(あるいは、誰かがこの廃屋に足を踏み入れてくれれば…時を止め、その隙に血を吸う…いや、成功すればいいが、今の状態では時をどれだけ止められるか判らんな。やはり人が来ないに越したことはない、か)」
DIOは思案を続けながらも、周囲への警戒は怠らない。
このまま何事もなく夜を迎えるのか、あるいは…
【愛知県と長野県の境(山中の廃屋)/朝】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に貫通傷、疲労大。(出血は止まっている)
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)
[道具]:荷物一式(食料(果物)を少し消費)、
[思考]:1、日が暮れるまで廃屋で身を隠す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
[備考]:廃屋の周囲の血痕は消してあります。
- 30 :天才の知略:2005/08/21(日) 15:06:05 ID:X54h0eXa0
- 「ちっ」
逃げようとしたその先を『仲間』とやらに立ち塞がれてアミバは舌を打った。
このタイミングで立ち塞がれていると言うことは今の行為が見られたと考えても良いだろう。
「おぃ、真中に今何をした?」
目の前の少年、一護はアミバから一定の距離を保ちつつ逃げられないように退路を塞いだ。
背面には川、目の前には実力未知数の少年。
「――この天才が筋力と敏捷性を上げる秘孔を突いてあげたのだ、今は……その時のちょっとした副作用だ」
「なら、何で荷物を拾って逃げたんだ?」
今度は心の中で舌を打った。
逃げられない上にはったりも効かない。
開始早々の出来事もある。
餓鬼だからと嘗めていたらこの天才でも足元を掬われるらしい。
だが私なら、この天才アミバ様なら解決方法は幾らでも思いうかぶ筈。
空気が張りつめる中ひたすらに頭を回転し続ける。
――そうか。
相手がじりじりと距離を詰めながら此方の様子を伺っているのを察すると、直ぐさまその行動を取ることにした。
- 31 :天才の知略:2005/08/21(日) 15:06:46 ID:X54h0eXa0
- 「この餓鬼を殺されたくなければ動くなよ」
その行動とは一旦後退し、苦しみもがいている真中を人質に取ることだった。
「糞っ!汚ねぇ……」
「口では抵抗できても、仲間を人質に取れたら反抗はできないのはお見通しだ!!」
「くっ!」
「動けまい!!此奴が死んでも良いなら動いてみろぉ!!フハハハ!!」
アミバは勝利を確信し高笑いを上げる。
脅迫の言葉で目の前の男の顔色が悔しさと怒りとで変貌していく。
「おぉーっと助けは呼ばさせない。幾ら天才といえども多勢に無勢はかなわんからな」
片方の手で真中の動きを封じ込めながら、空いた方の手で一護に向かってニューナンブを構える。
「貴様が武器を使ってこなかった次点で、何も持っていないってのはこの天才にはお見通しだ!!」
口の端と端が上がっていくのが自分でも良く解る。
そうさこの瞬間、この相手が何も出来ず自分だけが優位に立てる瞬間ほど気持ちがいい瞬間はないのだから。
- 32 :天才の知略:2005/08/21(日) 15:07:17 ID:X54h0eXa0
- 一護は焦っていた。
相手の言うとおり武器を何も持ってはいない。
盾みたいな物が支給されたが拳銃を防げたとしても防具としては小さく心許ない。
それに相手は素手でも秘孔とやらを突くことで人の動きを奪ってくる事が出来るらしい。
斬魂刀は愚か何も武器が無い状態では隙を突くことすら容易ではないのだ。
そうやって思考を巡らせている間にも刻は過ぎていく。
あぁそうか。
時間が過ぎるなら過ぎさせれば良いのだ。
その内江田島のオジサンが察して探しに来てくれるはず。
詰まりは自分の唯一出来ること、そしてしなければならないことは時間稼ぎなのだ。
「――一つ質問して良いか?天才さんよ」
「あぁん?まぁ特別に気分も良いし許してやろう」
相手は此方が何も出来ないと言うことを知って余裕に浸っているらしい。
「拳銃もあるし、首も絞められるのに何故真中にトドメを刺さなかったんだ?荷物が欲しいなら俺の分も渡す、だから真中を解放してくれないか?」
正直この時期に二人分の荷物が無くなるのは痛い。
だが命が失われるよりは圧倒的にましな選択肢だ。
少しは時間稼ぎになる上に、生き残るための方法を探る。
それが最前に思えた選択肢だった。
- 33 :天才の知略:2005/08/21(日) 15:07:55 ID:X54h0eXa0
- 「フ……フハハハハハ。この状態で命乞いだと笑わせてくれるっ!!この天才だからこそ今この時も見過ごしてやっていると言うことに気がつかないとはな!!」
笑い声と共に森の中に乾いた銃声が木霊する。
「ぐあっ!」
右膝の皿の部分を銃弾で破壊された一護は片膝をついてしまう。
「あぁん?最初に動くなと言った筈だが……」
再び銃声が響き今度は左膝が破壊されて俯せに一護は倒れ込んだ。
「ん?あぁ足を破壊されちゃ立っていられないか。フフフフ……」
痙攣をおこしている真中をぽいっと興味なさそうに脇に投げ捨てるとアミバは一護に歩み寄った。
「この慈悲深い俺様が貴様を最後に北斗神拳極める為の実験台としてやろう。なに、痛くはしないから安心したまえ……」
俯せに倒れ何も出来ない一護に近寄るとニューナンブを腰に仕舞い、一護の秘孔に狙いを定めた。
「待てぃ!!」
一護を手にかけようとしていたアミバが森中に響き渡ったその怒声に驚き振り向いた。
アミバの笑い声より高らかに、銃声よりも木霊するその声。
「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!!」
最初の銃声を聞いて駆けつけてきた江田島平八その人であった。
- 34 :天才の知略:2005/08/21(日) 15:16:13 ID:X54h0eXa0
- 【埼玉県(森)/朝】
【アミバ@北斗の拳】
[状態]:やや疲労
[装備]:ニューナンブ@こちら葛飾区亀有公園前派出所
[道具]:支給品一式(食料1日分消費)
[思考]:1.目の前の敵と戦う
2.皆殺し
【いちご100%@真中淳平】
【状態】手首捻挫 痙攣中(1時間ほどで治まる)
【装備】無し
【道具】無し
【思考】1.知り合いとの合流
2.東京を目指す
【江田島平八@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明
【思考】1.「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」
2.「日本男児の生き様は色無し恋無し情けあり」
【黒崎一護@BLEACH】
【状態】両膝破壊 (名簿に写真がないため、メガネ藍染かオールバック愛染かは知らない)
【装備】シャハルの鏡@ダイの大冒険
【道具】支給品一式
【思考】1.目の前で襲われている奴らがいたら助ける
2.朽木ルキアとの合流
3.東京を目指す
- 35 :孵化:2005/08/31(水) 00:31:28 ID:lLZ3iZPxO
- 「おっ!なんかウンマソぉ〜な木の実見っけ!」
「ウキウキキッ!ウッキッキー!(訳:こっちも食えそうなもの見つけたぞ!)」
放送が行われてから約二時間後。
悟空たち三人はコテージ周辺の野山で食料になりそうなものを探していた。
放送で知らされた死者たちの名前の中にエテ吉の身内や知り合いが数人含まれていたようであり、人ではなく猿の身でありながらもしばらくはまるで人間のように涙を流して悲しみに暮れていたエテ吉。
しかし一時間もすれば彼は立ち上がり、心配そうに佇むルフィに精一杯の笑顔を見せて
「ウキ…!ウキッキー!(訳:もう大丈夫…!心配するな!)」
と、自分のために一言も話さずに心配そうにそばに付き添ってくれていたルフィに心配を掛けさせまいとニコと笑みを見せて赤く腫れた目を拭って涙を拭き、バシ!とルフィの背を叩いた。
「イテッ!……へへ、もう大丈夫なのか?よかった…!」
泣いているだけでは駄目だ。まだターちゃんは生きている。
自分よりも遙かに深い悲しみと向き合っているであろうターちゃんと生きて再び顔を合わせた時、こんな情けない自分は見せられない。
- 36 :孵化:2005/08/31(水) 00:32:59 ID:lLZ3iZPxO
-
自分が支えてやらなければならない。
そう心に強く刻んで、彼はターちゃんを探そうとする意志をさらに強くしていた。
そして今、楽しげな笑顔で食料探しを続ける二人に対して……一方の悟空。
「………」
彼は二人の様子をどこか遠い目で眺めながら、一人地面に腰を落としてぼんやりと穏やかな風に身を任せていた。
「おーい!悟空ぅ〜っ!あんまりたくさんは無いけど、結構食えそうな物あったぞ〜!」
手に木の実やキノコなどを包み、ルフィが駆け寄る。
「…そうか」
しかし悟空はあまり元気の無いような気のない返事を返すだけ。
「なんだよ、もっと嬉しそーな顔しろよ〜!ほらほら!」
悟空の前にそれらを広げ、その中からキノコ(毒々しげな紫色のキノコ)をつまんで口に運ぶ。
先ほどからいろいろ得体の知れない物を結構口にしているルフィだが、全く体に支障はないようであるのは…彼ならではか。
「…ああ、すまねぇ…」
しかしそんなルフィの様子を見ても、一向に様子を変えない。
「ウッキー!ウキウキウキキーー!!!!」
「ん?どーしたんだ?猿ーっ?」
- 37 :孵化:2005/08/31(水) 00:35:58 ID:lLZ3iZPxO
-
その時突然エテ吉が焦ったように大声で叫びながら二人の元へ走り寄る。
「ウキウキ!ウッキウキッキー!(訳:誰かこっちに来るぞ!二人組だ!)」
「ん?…なんか猿の鳴き声が聞こえないか?」
「おう、猿だな。…捕まえても食えそうにねぇな」
人目を避けるように木々を避けながら道無き道を行く桜木と日向の二人。
前方からエテ吉の叫び声が聞こえてきて足を止める。
「馬鹿言ってんなよ…猿の群れでもいるのかもな」
「群れぇっ!?…ふ、この天才が見事に手なづけて山のようにたくさんのバナナを献上させてやるよ!」
「……お前それ、本気の発言か?」
呆れる日向に気付く様子もなく、桜木は早足で鳴き声の方に向けて足を進める。
「…ん?…おい!お前らもしかしてゲームに乗ってないやつらなのか!?」
草むらから顔を出した桜木が目にしたのは、一匹の猿と二人の男。
そのような言葉を出したのは…ぱっと見たところ武器も持っていないしおそらく三人(?)が行動を共にしているような様子を見て、いきなり襲ってくるような殺人者ではないとの第一印象を感じたためだ。
- 38 :孵化:2005/08/31(水) 00:37:06 ID:lLZ3iZPxO
-
「当たり前だ!…なんだ、良いヤツっぽいな。オレはルフィ!海賊王になる男だ!」
身構えていたルフィは現れた赤髪の男のその言葉を聞いて警戒を少し緩め、胸を張って笑顔でそう自己紹介をする。
「おい花道!不用心すぎだ!…お前ら、本当にゲームに乗ってないやつらなのか?」
桜木の後ろから現れた日向が険しい顔でルフィたちに問いかける。
「なんども言わせるなよ!当たりま…」
「おめぇら……地球人か…?」
ルフィのすぐ横にいつの間にか立っていた悟空が突然ルフィの言葉を遮って二人に問いかける。
「……は?」
「…地球人なのか?」
一瞬、言葉の意味が分からずに呆気にとられたように聞き返す桜木に対して、再びその問いを言葉にする。
「ウキ…?(訳:悟空…?)」
「地球人?ふ、その通り!地球規模の天才、桜木花道とは私の事だ。覚えておきたまえ!」
「…そうか…」
ゆっくりとした足取りで桜木に歩み寄る、無表情に近い悟空。
- 39 :孵化:2005/08/31(水) 00:39:53 ID:lLZ3iZPxO
-
きりきりきりきりきりきりきりきり。
頭が痛む。
(やめろ!オラはそんなの望んでねえっ!!!)
かりかりかりかりかりかりかりかり。
痛い。痛い。どうすれば治まる?
(やめろ!やめろぉっ!!)
簡単だ。原因を取り除けばいい…
(やめろぉおーーーーッッッ!!!!)
「な……なに……!!?」
「なっ!?花道っ!!?貴様ああッッ!!!」
ある程度ゆっくりと間合いを詰めたと思った瞬間、常人には姿を消したかに思えるような恐ろしい速さで一気に花道の眼前に飛び、手刀で胸の中心を貫く。
「悟空っ!!?何すんだよ!!?やめろぉっ!!!!」
突然の悟空の豹変に驚愕の表情を見せて叫びながら悟空の背に走り寄るルフィ。
「クソッ!!罠だったのか!!!?」
ゆっくりと崩れ落ちる花道の体を見ながらそう叫んで日向はとっさにショットガンを構えて悟空に向け、躊躇無く弾を放つ。
「…おめぇも…地球人だろ…?」
ドン!との大きな銃声が響くより先に日向の背後に立つ、残忍な目で日向を眺める悟空。
「な…!?化け物野…郎…!!!」
- 40 :孵化:2005/08/31(水) 00:42:42 ID:lLZ3iZPxO
-
そう口から呟きながら日向は振り返るが……そのままその言葉と共に首が斜めにずれてゆき、目を見開いたまま首から上が地面に落ちてボールのように軽く二度ほど弾む。
「なんでだよっっ!!?悟空ーーッッ!!!!」
ルフィは困惑の色を瞳に浮かべながらも、目の前の惨劇に心から腹を立てて悟空に全力で拳を向ける。
「ルフィ、俺を邪魔するな…!」
今までルフィに向けられていた『仲間』を見るような優しい眼差しはもうそこにはなく…
まるで下等生物を見下すかのような冷たい眼差しでルフィをにらみ返し、空を一文字に切るような鋭い回し蹴りを眼前のルフィのわき腹に叩き込んで数メートル横に吹き飛ばす。
「ウキーー!!!(訳:ルフィーーッ!!!)」
「ふん…俺は忙しいんだ。…じゃあな」
ルフィやエテ吉にはもう興味がないかのように一瞥し、背を向けて歩き出し…木々の中へと姿を消す、悟空。
いや……もう彼は孫悟空では無いのかもしれない。
その体はもう今までのような優しい気ではなく、戦鬼のように凶々しい黒い気で溢れていた。
- 41 :孵化:2005/08/31(水) 00:45:11 ID:lLZ3iZPxO
-
それは、その戦鬼の心の牢獄に閉じこめられた本来の孫悟空の心の叫びなのか……
それを見た者は誰もいなかったが、喜びに満ちた鬼の顔の頬に…一筋の涙が伝い、落ちた。
【長野県/午前】
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:カカロット化、やや疲労
:出血多量、各部位裂傷(応急処置済)
[装備]サイヤ人の硬質ラバー製戦闘ジャケット@ドラゴンボール
[道具]荷物一式(支給品未確認)
[思考]地球人を皆殺し(意識の奥底に本来の自我は少し残っている)
【長野県、別荘地周辺/午前】
【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】
[状態]:各部軽傷、わき腹に重いダメージ
:空腹
[道具]:荷物一式
:山の幸少量
[思考]悟空の変貌に混乱中
【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[装備]パンツァーファウスト(100o弾×4)@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式
:山の幸少量
[思考]:ターちゃんとの合流
:悟空の変貌に混乱中
【桜木花道@SLAM DUNK、日向小次郎@キャプテン翼 死亡確認。残り107人】
- 42 :オッズ:2005/09/01(木) 21:21:21 ID:1VaGCzyqO
- カカロット覚醒す。
この報はすぐにフリーザの元に届いた。
異世界の洋館。
外は雨が降りしきり、今はフリーザ一人がいる大広間に、鎧を身に纏った兵達の足音が聞こえてきた。
「フリーザ王に、我らが主人ハーデス様からのご報告です。
カカロットが覚醒。
桜木、及び日向の二名を殺害いたしました」
ハーデスのしもべ、冥闘士は、フリーザの前にひれ伏し、報告した。
「カカロット?
ああ、あのサイヤ人の生き残りですか。
彼は最後まで私達に立ち向かって来ると思っていましたが…
まあ、嬉しい誤算ですね。あぁ、そうそう。
あなた達にお聞きしたいのですが、この130人の中で誰が優勝しそうですか?」突然の質問に騒めく冥闘士。
何も言わない冥闘士にフリーザは続けて
「実は私の父上が異星人とトトカルチョをしていましてね。
先程も私に、
誰に賭ければ儲かるのかね。
なんて言ってきてるんですよ」
- 43 :オッズ2:2005/09/01(木) 21:22:28 ID:1VaGCzyqO
- 冥闘士達は再びざわざわと話し始めた。
しばらくして、その中の一番右にいた冥闘士が口を開いた。
「はっ。矢張り私は、カカロットかと」
無難にフリーザの敵であるカカロットの名を挙げた。フリーザも笑いながら
「カカロットですか。
まぁ、大本命ですね。
パワー、スピード、スタミナ。
どれを取っても他を一歩リードしてるという感じですか。
それに、サイヤ人としての本能が目覚めたのなら、情けや躊躇も無いといった所でしょうか?」
と、顎に手を当てながら冷静に分析した。
「対抗馬はハーデスさんの宿敵、聖闘士として、大穴だと誰です?」
今度は一番左にいる冥闘士が敬礼をしながら
「はっ。私はバーン様の最大の敵と聞くダイを推します」
再びフリーザはクスッと笑い、見解を始めた。
「ふんふんダイさんね。
ゲーム開始時に突っ掛かってきた子供ですね。
正義感に溢れ、人殺しには向きませんが、バーンさんが言っていたように剣術の扱いには長けていますよ。女子はいませんか?」
- 44 :オッズ3:2005/09/01(木) 21:22:58 ID:1VaGCzyqO
- 今度は左から二番目の冥闘士が発言した。
「女子でしたら私は…姉崎まもりかと」
「姉崎さんですか。
あの性格にして残酷って所がいいですね。
正義ぶってる人にとっては正しく【死の女神】と言ったとこでしょうか。
他にはいませんか?」
最後に右から二番目の冥闘士が答えた。
「自分は世紀末覇者ラオウかと」
「ほほう。最強の拳法北斗神拳の使い手ですね。
ふふふ。いよいよ面白くなってきましたね。
あなた達の意見は全て父上に報告しておきましょう。貴重なお時間をすみませんでした。
これからも彼らの監視をよろしくお願いしますよ」
「はっ。失礼しました」
冥闘士は大広間を後にし、監視室へと引き上げていった。
フリーザも報告書を整理した後、大広間を去った。
今、大広間にはナッパの死体だけが無残に残っている…
- 45 :混沌の作戦1:2005/09/01(木) 23:35:35 ID:Ru4/dgMW0
- 背の低い1人の男が木陰を探して歩いている。
男は休憩に相応しい小さな繁みを見つけると糸の切れた人形のように力なく座り込んだ。
「ふうう。疲れたなぁ」
略奪した分を含む五日分の食料の入ったデイパックを枕に男は寝そべった。
中天に差し掛かった太陽が木々を照らしている。
予想以上の体力の消耗にクリリンは疲れ果てていた。
(これくらいでへバるなんて・・・どうしちゃったんだろ、俺)
(しっかりしろ・・・ベジータ達と戦ったときのほうがずっと辛かったじゃないか)
鉛が全身を包むような倦怠感。このまま眠りに入りたい欲望にかられる。
しかし、いつ誰が現れると知れない状況で無防備に睡眠をとるのは危険である。
どうせ休むのなら見つかりにくい木の上にするべきだったと、クリリンは少し後悔した。
(飯・・・)
(飯、食わなきゃ。だるいのはきっと空腹のせいだ・・・)
のそのそと冬眠から起きる熊のような大仰な動作で枕にしたデイパックの口を開く。
ポイポイカプセルを解除すると無数の簡易食料が現れた。
「うわわ!」
両手では抱えきれず溢れたパンや缶詰が地面に転がった。
「けっこうたまってたんだ」
「悟空の奴、腹減ってんだろうなー。食わせてやりたいなぁ」
クリリンはビスケットの袋を開ける。焼き菓子の香ばしい香りが吹き出した。
瞬間、自分が殺した少女の顔が脳裏に浮かぶ。クリリンはビスケットをまとめて口に放り込んだ。
(どこにいるんだよ、悟空)
一袋目がみるまにカラになりクリリンは2袋目に手を伸ばした。
- 46 :混沌の作戦2:2005/09/01(木) 23:39:21 ID:Ru4/dgMW0
- ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、
(うまい。やっぱり、腹減ってたんだ、俺)
未開封のペットボトルを開け一気に飲み干す。口から溢れた水が喉を伝い服を汚していく。
(だるいのも、これで終わりだ。飯食って、眠れば、回復するさ)
3袋目。ビスケットはこれで終わり。次にクリリンは目についた缶入りのシチューを手にした。
「ご丁寧にスプーンつきか。うまそーな匂い」
実際は鼻のない彼は匂いなんて感じなかったが煮込まれた大ぶりの肉や野菜は食欲をそそるものだった。
(悟空、悟空に食わせてやりたいなぁ・・・
あいつ、絶対空腹で倒れてるぞ・・・きっと自分の食料なんかとっくに食い尽くして
誰かに恵んでもらってるんだろうな。あいつは人のものを奪うなんて絶対にしない奴だからな)
ガツガツ、ゴクン。規則正しい速度でシチューが口に飲み込まれていく。
(こっちは大変な思いしてるってのに)
(早くピッコロと合流しないと)
(俺1人じゃ大変な作業だよ)
空腹を満たしながらも様々な思考と感情が頭の中を駆け巡っている。
空き缶を放り投げ2つ目のシチュー缶を開く。
(あんまり美味しくないな、コレ)
肉を噛む。少女の断末魔が蘇る。(思い出すな!思い出すな!)
租借したシチューが急に吐き出したくなり思わず口を押さえた。
指の間から吐瀉物が滴り胃が痙攣を起こす。(思い出すな!)
俺だって好き好んでやってるわけじゃないんだ!他に方法がないんだから仕方ないじゃないか!
俺は正しい!俺のしていることは間違っていない!間違ってない!!
クリリンは必死で首を振る。罪悪感をかき消すかのように首を振る。
- 47 :混沌の作戦3:2005/09/01(木) 23:43:31 ID:Ru4/dgMW0
- クリリンは缶に残ったスープを無理矢理飲み下す。
そして重苦しい胃の腑を満たすべく三つ目の缶詰をこじ開けた。
(非道でも残虐でもピッコロ以外の参加者を全滅させてピッコロを優勝させる。
そしてドラゴンボールでこのゲーム自体を無かったことにさせてもらう・・・!
コレが最良の方法なんだ。問題なのはどうしたらこの方法を悟空に納得させるかという事だ)
(どうしたもんか・・・先にヤムチャさんに)
クリリンは首を振る。
(駄目だ。この方法はブルマさんを一度は殺さなきゃ成立しない。
あくまでピッコロが優勝してくれきゃ成功しない作戦なんだ。いくら後で生き返るからって
ブルマさんを傷つける方法をヤムチャさんが賛成してくれるとは思えない・・・それに・・・
それは悟空も同じだ。一般人を殺すなんてそんな鬼畜なことをアイツができるなんて思えない)
(どうする・・・!どうする・・・!?)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(教えないでおくか・・・?悟空に。この計画の事を)
しかし、参加者を減らすには悟空の力が必要不可欠なのだ。
クリリンは考える。悟空が殺せないのは戦闘力のない一般市民や女の人、子供だ。
それ以外の危険人物ならば躊躇なく戦うだろう。例え自分自身の戦闘力を上回る化物が相手でも。
なら―――
(俺が・・・)
「俺がかよ・・・」
悟空には意図を伝えず強敵を減らすことに専念してもらおう。
作戦を打ち明けるのはピッコロだけにし彼にはゲームの最終日まで逃げ延びてもらう。
ヤムチャとブルマは悟空と合流されるのはまずい。事態が事態だから固まって行動するだろうし
3人揃って反対されたら厄介この上ない。「別の解決方法」を考えよう!とでも言い出すかもしれない。
自分がどんな想いで決行したか考えもしないで。
(合流するまでに弱い参加者を減らすだけ減らす。合流したら悟空と協力して化物を倒す。
参加者が俺と悟空とピッコロと・・・ヤムチャさんとブルマさんだけになったら打ち明ける。
いくら悟空でもそこまでいけば俺の考えを理解してくれるだろ)
- 48 :混沌の作戦4:2005/09/01(木) 23:52:55 ID:Ru4/dgMW0
- クリリンは考え続ける。
長い付き合いのヤムチャとブルマを自分の手にかけたくない。
それならいっそ合流を邪魔して孤立させ別の強い参加者が彼らを・・・ればいい・・・
目の前が揺れる。
冷酷に計算を続ける自分の思考に感情がどうにかなってしまいそうだ。
気がつけば手は缶詰を握り潰していた。
自分の役目は――
悟空の殺せない人間を――
「ちくしょう・・・なんで俺だけこんな目にあうんだよ・・・」
罪もない少女を手にかけた感触がリアルに蘇る。
クリリンは強く両腕を抱いて赤ん坊のように丸くなった。
そして、押し寄せる罪悪感に潰されないよう次の相手へ奇襲の方法を練り始めた。
【福井県/午前】
【クリリン@ドラゴンボール】
[状態]:体力・気、共に大きく消耗
:精神不安定
[装備]悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料4日分)
:ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]:できるだけ一般人を減らす。
:まずピッコロと合流し、出来る限りの参加者を脱落させてピッコロを優勝させる
- 49 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:30:32 ID:3VMdU7Kv0
- 脇腹を抱えながら一人の少女が朝空の下隠れるようにして駆けていく。
そのスピード自体は逃げ出した時のそれと比べると格段に落ちてはいたが、自分を負傷させた男から距離を取るのには十分な時間が経っていた。
「奇襲するにも蛭魔くんみたいに上手くはいかないものね……」
舌をペロッと出して失敗、失敗と呟いた。
最初の男の人を殺せたのも恐らく運が良かっただけの事だったのだろう。
自分の命を平気に投げ出しても相手を思いやる人間。
この島に、いやこの島で少しの間でもこの空気を味わった人間にその様な人が一体あと何人いるのであろうか?
鯨が0.1mgで動けなくする毒ですら死ななかった人や、幾ら素人のとは言え奇襲の銃撃を避けた人がいたのだ。
放送で名前がなかったことからするとあのヤムチャと言う男ですら毒で死ななかったらしい。
――となると一番の武器はこの姿なのかも。
一見するとただの女子高生。
少なくても相手は猜疑心は抱いても恐怖心は抱かないだろう。
口裏だけ合わせて、相手が気を許した瞬間にブスッ。
相手がそれで死ななくても動きさえ奪えれば何とかやりようはある。
それが今の自分にお似合いな立ち回りの様な気がした。
「待っててねセナ。そしてゴメンね……」
今一番会いたくないのは自分以外の無差別に殺し回っている人でもなく、自分なんかより圧倒的に強い人でもない。
一番助けたくて、一番好きな小早川瀬那その人だった。
知られた瞬間に怒るって悲しむだろう。
そして――嫌われるだろう。
もう戻れない道に駆け出してしまった。
後はその道を走りきって寂しく果てるだけ。
死ぬことよりも、多分自分を捜してくれているであろうセナに顔を見せられないという事実の方が怖かった。
- 50 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:32:29 ID:3VMdU7Kv0
- 「――私は警察官……だから罪人を断罪しなくてはいけない……そして自分も罪人だから少しでも汚れを払って贖罪した後に後を追わなくてはいけない……」
それは無意識に自分に言い聞かせている催眠術。
目をかっと見開きながらそう呟いて野上冴子は彷徨っていた。
目を閉じればあのビデオが瞼に浮かぶ。
汚れきったニンゲンとその世界が。
その姿を一見すると薬でもキメているかの様にも見えるが、彼女の思考は非常にクリアだった。
全てのニンゲンを殺す、唯それだけの目的しか頭に無かったが。
片手に毒牙の鎖を構えつつ辺りの気配を常に伺っている。
先に見つかってしまっては汚いニンゲンの事だ、自分なんて直ぐに殺されるに決まっている。
贖罪を続けるためにも自分が先に発見して殺してあげなくてはいけない。
それが自分の為にも、相手の為にも、果てには汚れきった世界の為になるのだから。
それが警察官としての自分の勤めなのだ。
そんなピリピリと張りつめた空気の中二人の女性は出会った。
相手の気配に気がついたのはほぼ同時。
お互いに身を隠しつつ相手の出方を窺う。
お互いに相手の出方を窺って、まずは自分が殺されないようにしなくてはいけない。
そのまま暫し時間が経ったか経たなかったかの膠着状態時に片一方が動きを見せた。
「あの、私は姉崎まもりといいます。今、暴漢から水も食料も取られ命からがらで逃げてきました。お願いですが少し分けて貰えないでしょうか?」
- 51 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:33:04 ID:3VMdU7Kv0
- 自ら姿を晒し、両手を上に上げてはいるがあの少女を信用しても良いのだろうか?
確かにニンゲンなら水や食料を自分が生き延びるために平気で奪う生き物だ。
だが、生かす気はないが鵜呑みにしてしまっても良いのだろうか?
否、ニンゲンなんて信用できるわけがない。
あの女もまたニンゲンなのだ。
あれがあの女にとっての作戦なのだろう。
冴子は返事を返さずに相手の次の出方を窺った。
暫し待ったが応答はない。
が、人の気配が去った様子がない事から相手はまだ自分のことを窺っているのだろう。
「あのっ、この島にいきなり連れてこられて殺し合いをしろと急に言われ、戸惑いながらも何とか生き延びて来たんです」
相手も一人なのだ。
ならなんとか同情心で少しでも隙が出来れば……
「一人でいるより二人でいた方が心強いですし、人捜しでも何でも手伝いますから……」
- 52 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:33:37 ID:3VMdU7Kv0
- ――人捜し、か。
私が捜すのは世界の汚れ。
確かにこの島のニンゲンを捜していると言えば捜している。
言われてみればその現状が可笑しくも思えた。
「私はね、この島のニンゲンを全て殺して贖罪しなくてはいけないの」
要らない存在を必死に捜しているというその行為が。
鎖を手にしながら此方も姿を現す。
「勿論、貴方も例外じゃないわよ」
笑いながらじりじりと距離を詰める。
つい堪えられずに喋ってしまったが、いつ何処にどんな罠が仕掛けられているが解ったもんじゃない。
「そして、最後に私自身が消えて――誰もいなくなって贖罪は終わるのよ」
慎重に相手に近寄っていった。
- 53 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:35:35 ID:3VMdU7Kv0
- 殺すと言われたときは内心また失敗したかとも思った。
だが、動機は違っても結局は自分と一緒なのだ。
しかも自分が生き残る気は更々無いときている。
ならば……
「実は、私もこの島の人を全員殺そうとしていました」
まるで魔法の言葉のように相手の動きがぴくっと止まった。
「そして、その後自分で自分も自殺しようとも考えていました」
まもりは今だとばかりに口を捲し立てた。
落ち着いて、相手の武器は見え見えで自分の武器は隠している失敗しても不意打ちが出来る有利な状況
なのだと自分に言い聞かせながら。
「そこで一つ提案なんですけど、一緒に手を組みませんか?」
相手は動きを止めて聞いてはいるが、今一此方の言う事を飲み込めていないと見える。
「最初に死んだ人もそうですけどこの島には私達のような普通の人間じゃ歯が立たない人が多いみたいですので」
解りやすい様に口からなにか光るエネルギーを出しながらも簡単に死んでいったナッパを例えに出す。
あの攻撃がどんな物かは解らないが自分達が喰らえば簡単に死んで更にお釣りが来ることも予想が出来る。
「そこで1人よりは2人。全員殺すのにはまず自分が死ぬ可能性を低くしないといけないと思います」
- 54 :作者の都合により名無しです:2005/09/04(日) 22:51:43 ID:LLN1FMSF0
-
- 55 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:52:03 ID:3VMdU7Kv0
- 「――そんな誘惑は地獄の閻魔様にでもして頂戴。全員殺すのが目的と言い切った人間を誰が信用するとでも?」
相手が再びじゃらりと鎖を構え直した。
「ではお互い唯一のルールとして利用できるまで相手を生かしておくって事でどうです?」
そう、これが本当に自分が出したかった交渉のカード。
「全員殺すのが難しいと言うのは事実ですし、そのルールなら信用して貰えるでしょうか?」
裏を返すと利用するだけ利用して相手を途中で裏切るのもお互いに認めると言った契約。
「なら、私が今此処で貴方を要らないと判断して殺しても良いって事ね」
「えぇ、それもOKです。ただ強い人が沢山いますし、利用できるなら利用した方が賢い選択だとは思いますけど」
にこりといつも通り笑ってそう言い返した。
「あ、勿論私もこの島の人を全滅させたとき以外に、殺されそうになったら抵抗しますよ」
暫くそのまま時間は流れていく。
それ以上言葉もそれ以上は紡がれず、お互い下手な動きも出来ない。
その時の中で二人は互いの意図とその後のパターンを何通りにも読み合っていた。
- 56 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:52:49 ID:3VMdU7Kv0
- 「――貴方は本当に汚れきったニンゲンね」
一層強く睨んだ目とは対照に相手に取っていた構えを解いた。
「そして、私も結局は汚いニンゲンよ。貴方を好きに利用させて貰うわ」
「宜しくお願いしますね」
まもりは相手に気付かれないように心の中で溜息を付いて安堵した。
実はこのカードには隠れた1つの思惑と1つの嘘が含まれている。
1つの思惑というのはなるべくセナを殺す可能性がある殺人鬼を目の届く場所に置きたかったからだ。
いざ目の前の女性がセナに出会ったも差し違えてでもセナを護る覚悟はある。
そして1つの嘘というのはそのセナの存在だ。
全員殺すというのは嘘。
ただ、それがばれたら自分だけこの契約のメリットが多いと気付かれてしまう。
女性二人組と言う事で相手の警戒心が解きやすくなる上に、手数も多くなり自然に強い相手にでも不意打ちが成功しやすくなる。
さらに、殺人鬼を監視下に置けるし、いざとなったら捨て駒でも盾にでも何でも出来る。
デメリットは爆弾を抱えてしまったような物で常に注意を払っていなくてはいけないが、それよりメリットの方が1人でも多く殺すためには魅力的だった。
――お手本は蛭魔くん。常に相手の思考の裏の裏まで読んで自分がお払い箱になるタイミングを先に読まなくちゃ。
- 57 :黒き盟約:2005/09/04(日) 22:53:46 ID:3VMdU7Kv0
- 【京都府/朝〜午前】
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]腹部に打撲、若干の疲労
[装備]:中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、
魔弾銃@ダイの大冒険:空の魔弾×2 メラミ×1 ヒャダルコ×2 イオラ×1 キアリー×2 ベホイミ×2
[道具]無し(身につけていた武器以外は全て失った)
[思考]1セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
2取り敢えず目の前の女を利用できるまで利用する
【野上冴子@CITY HUNTER】
[状態]人間に絶望。(難しいが説得は一応可能?)
[装備]毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[持ち物]荷物一式、食料二人分
[思考]1人間を全て殺す。
2取り敢えず目の前の女を利用できるまで利用する
- 58 :修正:2005/09/10(土) 04:22:31 ID:o/ilwRxyO
- 『孵化』の>>41表記の状態表を修正します
【長野県/午前】
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:カカロット化、やや疲労
:出血多量、各部位裂傷(応急処置済)
[装備]サイヤ人の硬質ラバー製戦闘ジャケット@ドラゴンボール
[道具]荷物一式(支給品未確認)
[思考]地球人を皆殺し(意識の奥底に本来の自我は少し残っている)
【長野県、別荘地周辺/午前】
【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】
[状態]:各部軽傷、わき腹に軽いダメージ
:空腹
[道具]:荷物一式
:山の幸少量
[思考]悟空の変貌に混乱中
【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[装備]パンツァーファウスト(100o弾×4)@ドラゴンボール
[道具]荷物一式
[思考]:ターちゃんとの合流
:悟空の変貌に混乱中
【桜木花道@SLAM DUNK、日向小次郎@キャプテン翼 死亡確認】
【残り107人】
- 59 :作者の都合により名無しです:2005/09/10(土) 10:00:11 ID:SfOQDzVR0
- 「おい、ナルト。大丈夫か?」
シカマルが隣に居るナルトに声をかける。
「だ、大丈夫だってばよ。」
先ほど受けた傷はもう治りかけている。
(やっぱり九尾の力はすげぇな・・・)
「にしてもこれからどうする?サクラ、お前はどう考える?」
「・・・そうね、とりあえず三人ともチャクラがほぼ無いことだし、
一休みして徐々に敵を減らしていくしかないわね。」
「ああ、俺もその方法が一番良いと思っていたとこだ。
じゃあ、ここらへんで一休みするか。」
「ごめんな、サクラちゃん、シカマル。迷惑かけちまってよ。」
「お前はもう喋るな。休んどけ。」
「あ、私兵糧丸持ってるわ。二人ともこれ飲んで。」
「サンキューだってばよ。」
「ありがとな。」
そうしてシカマルが見張りをして、二人は眠りについた・・・
- 60 :作者の都合により名無しです:2005/09/10(土) 13:42:37 ID:o/ilwRxyO
- >>59は無効です
- 61 :溺れる者は藁をもつかむ:2005/09/11(日) 02:01:37 ID:o9gTzliS0
- 少年が2人、虫の声を背に線路添いの道を歩いていく。
帽子をかぶった少年は自転車を引き、少し手前を歩く眼鏡の少年は俯きながら何かを考えている。
まもなく姫路を通過、けして速くはないペースで歩き続ける。
山陽道で日本刀の男に襲われ、また別の怪しい男に支給品を奪われたことから
あまり目立つ道を歩くのは自殺行為だということに気付き、相談の末、線路を選んだ。
山陽道路を北上し途中から一般道へと。支給された粗末な地図と標識を手がかりに
志村新八と越前リョ―マは時間をかけて慎重に進んでいった。
砂利で舗装され鉄棒が並ぶ線路は歩きやすい道とは言い難い。だが敵に襲われる状況を想定すれば
見通しが悪く常に繁みや民家に並行していて隠れ場所には事欠かない危険リスクの低い道筋である。
新八は山道で拾った棒切れを腰に挿して気休め程度の武装をしていた。右指を数本骨折しているので
できれば戦闘は避けたいところである。一方の越前は怪我をしている新八に代わって自転車を引き
バックからはテニスラケットの柄が覗かせていた。
そのうち新八がラケットに気付き、それは越前君の持ち物にするの?
と、問うたが越前は特に何も答えなかった。
- 62 :溺れる者は藁をもつかむ2:2005/09/11(日) 02:03:15 ID:o9gTzliS0
-
ほどなくして姫路の駅に到着する。時刻は09:00を指している。
「時刻表があるよ!蒸気機関車が走ってるんだって。コレに乗れば」
「危険な奴と乗り合わせたら逃げようがないじゃないっすか」
新八の驚きに越前がつぶやく。そりゃ、ま、そうだけど・・・新八は近くの長椅子に腰掛けた。
「蒸気機関車」の沿線図には鹿児島から青森までを横断する一本の線路が描かれていた。
越前はあまり興味なさそうにデイパックからペットボトルを出し2口だけ水を飲んだ。
「繁盛してそうっすね」
新八はげっそりと舌を出す。
慎重に進んだせいか姫路までの道中であれきり妙な人間に会う事はなかったが油断はできない。
越前の言う通り列車のような狭い空間で捕まれば飛び降りる他に逃げる手段がなくなってしまう。
軽はずみな行動は簡単に自分の寿命を縮めていく。
新八は姿勢を正して立ち上がった。
「ここも早く移動した方が良さそうだね。危険なのが大挙してこられちゃ迷惑だ。行こう」
時刻表によれば姫路駅に列車が到着するのはまだまだ先らしいが、危険は減らしておくに限る。
新八は疲労した身体を引きずって改めて休憩場所を探すべく駅を出た。
越前も頷いて後を追う。せわしない移動だ。けれど今は身体を動かしている方がよかった。
思い出したくもない出来事と――。
殺人鬼(火口)の言葉を聞いてから越前は竜崎桜乃のことを考えている。
思い出さざるを得ない出来事を抱えて――。
藍染惣右介と名乗る男と出会ってから新八は絶え間なく彼の言葉の意味を考えている。
2人の少年は再び線路沿いを重く歩き始めた。
- 63 :溺れる者は藁をもつかむ3:2005/09/11(日) 02:06:52 ID:o9gTzliS0
- 越前は思考する。
今、この小さな孤島で信じられる人間が何人いるのだろう。手がかりはなく仲間の無事も定かではない。
嘘っぱちだと撥ねつけていた放送の真偽は、あの殺人鬼(越前は火口の名など知らない)との一件で大きく揺らぎ
彼女――竜崎の死を信じないと誓った越前の強固な想いは動転し否応なく剥がれかかっていく。
あの男の証言は越前に大きなショックを与えていた。
(・・・本当に死んだのか?竜崎)
しかし「Lの本名」とはなんだ。やっぱりあの男は錯乱していたのではないのか。
ラケットも、たまたまあの男に支給されていただけかもしれない。
越前は必死に否定を重ねる。
――そういえば、昨夜俺が殺した女の子も二つにしばってたっけな。
男が殺人を躊躇しない性質である上に誰かを殺してきたのは間違いなかった。
越前は少し前を行く新八の背中を見た。
新八はあの殺人鬼(火口)と自分の会話をどの辺りから聞いていたんだろうか。
正当防衛とはいえ人を殺めてしまった新八にあの時の状況を話題に持ち出すのは躊躇いがあり
未だに会話の確認はしていなかった。
あの男の言うとおり仮に竜崎が亡くなっていたのなら午前6時のあの放送は正しかったことになり
そして新八はまだ仲間2人の生存を信じている。
男の証言を伝え仲間の生存の希望が揺らいだら彼はまたショックを受けるだろう。
そして、新八の手を汚すことになったのは自分の責任だ。
越前は男と主催者に対して底知れない怒りと苛立ちを抱え
新八に対してはすまないと思う気持ちがあった。
- 64 :溺れる者は藁をもつかむ4:2005/09/11(日) 02:10:53 ID:o9gTzliS0
- ――僕はこのゲームからの脱出手段を持っている。
僕は琵琶湖で待っているから、出来るだけ多くの人を連れて来るんだ、良いね?
「越前君・・・」
ぐるぐると高速回転する頭を抱えながら新八はやや遅れて歩く越前に問いかけた。
「何すか?」
「どう思う・・・さっきの人の、その」
「ああ、あの泥棒の言ったこと、すね。胡散臭いすよ。信用しない方が良さそうだね」
「でも・・・僕達に嘘ついて何の得があるんだろう。あの身のこなしはかなりの剣の達人だよ。
僕らを斬ろうと思えば簡単に斬れたはずなんだ。なのにそうしなかったのは何故なんだろうって」
自分から一瞬にして剣を奪った光景を思い出す。
たしかに。ゲームに乗っているなら言葉より先に襲い掛かってくるだろう。
「あの人の言う脱出の方法ってのは人が大勢いないと完成しないものなのかもしれない」
「なんすかソレ・・・人がいてどうにかなるとは思えないっすよ」
琵琶湖に人文字でも書いて助けでも呼ぼうというのか。
越前は思わず脳裏に浮かんだ自分の想像にげんなりした。
「例えば・・・・う〜宇宙船とか・・・」
「ハア!?」
自己嫌悪に陥った自分の妄想を越える新八の意見に越前は耳を疑った。
「これだけ人がいるんだ。1人や2人くらい宇宙船の技術者がいてもおかしくないよ。
僕のいた江戸は宇宙中から沢山の天人や物が集まっていたけど、君の乗っていた浮く乗り物。
ウェイバーだったっけ?アレと同じ物を僕は見たことない。想像も出来ない文明世界から
来た人だっていると思うんだ」
うん、考えられるとしたらそれだ!閃いた、とばかりに新八は1人熱っぽい表情で納得する。
――江戸?宇宙!?アマンド??
聞き捨てならない単語が並び越前は顔をしかめたが所詮は文化が違う。
いちいち突っ込んではいられないので不可解なところは聞き流し
自分の常識に当て嵌まる範囲のみの言葉を反芻し検討した。
- 65 :溺れる者は藁をもつかむ5:2005/09/11(日) 02:15:22 ID:o9gTzliS0
- 越前はとりあえず頭に浮かんだ質問を投げる。
「それって作るのに何日かかると思ってんの?」
新八は渋い顔をする。もっともな斬り返しに眼鏡が曇った。
「百何人の人間が乗れる船を作る材料なんてこの世界にあるって本気で思ってんすか?」
「百歩譲って不思議な道具で作れたとしますよ。どうやって動かすの?人力?」
新八は悶絶したあげく「きっと、そのための人足集め・・・なんじゃないのかな・・・」と力なく答えた。
「胡散臭いよ。泥棒の言う事でしょ。見に行く価値なんかないっすよ」
「たしかにそうだけどさ、万が一本当の話だったら僕らは他の人に伝えなきゃいけない」
越前は呆れたように首を振った。
「他の人、ね。罠だったら一網打尽すよ」
新八は再び頭を抱え込む。藍染の張ったものが真実ならば大勢の人間をこの馬鹿なゲームから救える。
罠ならば、大勢の人間を危険にさらす。大量に参加者を傷つけるチャンスを与えてしまう。
罠か 真実か 伝えるべきか 黙殺するべきか
新八の思考がまたもや賛成派と否定派に分かれ論争を再開した。
少なくとも脱出の手段が存在するという希望があれば誰も殺しあう必要はなくなり
詳細な方法はわからないけれど、噂を伝えれば被害者の数も激減するのではないか。
人は考え事をしながら歩くと加速する。ついに一つの結論に至り新八は後ろを歩く越前に向けて
再び言葉を発せようと振り向き石ころにつまずいて飛んだ。
デイパックと眼鏡が空中を舞い越前が呆れながら声を上げる。
- 66 :溺れる者は藁をもつかむ6:2005/09/11(日) 02:20:06 ID:o9gTzliS0
- 線路に転がった新八は思う。
このまま線路を進めば大阪に入る。
その次は京都。
その次は琵琶湖のある滋賀。
それまでに何人の人間に「脱出の可能性」を伝えることが出来るだろうか。
【兵庫県/姫路駅付近/午前】
【志村新八@銀魂】
【状態】中度の疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。
【装備】拾った棒切れ
【道具】荷物一式、 火口の荷物(半分の食料と水を消費)
【思考】1:藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらもそれを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
2:坂田銀時、神楽、沖田総悟を探す。(放送は信じていない)
【越前リョーマ@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】テニスラケット、両さんの自転車@こち亀
【道具】荷物一式(半日分の水を消費)、サービスエリアで失敬した小物(手ぬぐい、マキ○ン、古いロープ
爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ)、ウェイバー@ワンピース
【思考】1:藍染の「脱出手段」に胡散臭さを感じている。
2:情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
3:仲間との合流。 竜崎桜乃の死は信じない(認めていない)
*越前は竜崎が火口(彼の名は知りません)の手によって殺害された可能性があると思っています。
*姫路駅付近にある埋葬された稲葉響子には気付きませんでした。
*神戸方面へ北上中。
- 67 :修正:2005/09/11(日) 19:02:18 ID:PzRBiX4R0
- 『溺れる者は藁をも掴む』>>66の状態表の修正します。
線路に転がった新八は思う。
このまま線路を進めば大阪に入る。
その次は京都。
その次は琵琶湖のある滋賀。
それまでに何人の人間に「脱出の可能性」を伝えることが出来るだろうか。
【兵庫県/姫路駅付近/午前】
【志村新八@銀魂】
【状態】中度の疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。
【装備】拾った棒切れ
【道具】荷物一式、 火口の荷物(半分の食料と水を消費)
【思考】1:藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらもそれを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
2:坂田銀時、神楽、沖田総悟を探す。(放送は信じていない)
【越前リョーマ@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】テニスラケット、両さんの自転車@こち亀
【道具】荷物一式(半日分の水を消費)、サービスエリアで失敬した小物(手ぬぐい、マキ○ン、古いロープ
爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ
【思考】1:藍染の「脱出手段」に胡散臭さを感じている。
2:情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
3:仲間との合流。 竜崎桜乃の死は信じない(認めていない)
*越前は竜崎が火口(彼の名は知りません)の手によって殺害された可能性があると思っています。
*姫路駅付近にある埋葬された稲葉響子には気付きませんでした。
*神戸方面へ北上中。
- 68 :悪のパーティー1/3:2005/09/13(火) 14:10:44 ID:+uXd3DaH0
- ピッコロ大魔王は北へと足を進めていた。
青森の北、北海道が禁止エリアに指定されるのは十分承知している。
だからこそ、そこから逃げてくるものを待ち受けようというわけだ。
もちろん、バッファローマンを殺すことを諦めたわけではない。
いずれは探し出して殺すつもりでいる。
…やがて、北海道へつながる青函トンネルが見えてきた。
「……ん? あれはなんだ、人間ではなさそうだな…」
ちょうどトンネルを出てきたのは、身体の半分が炎、もう半分が氷に覆われた怪物だった。
「ここまで来れば禁止エリアはもう関係ねぇな。少し休むとするか…って、誰だ!?」
疲労回復に努めようとしていたフレイザードは、トンネルを出たところで出くわした「そいつ」に一瞬気圧された。
大魔王を名乗るモノが放つ威圧感を、バーンのそれには及ばないものの、近いものを本能的に感じ取ったのだ。
「テメェ…何者だ!」
「わしはピッコロ大魔王だ。…ふふ、そう怯えるな。その姿、そしてその身に纏う雰囲気…お前もこのゲームに乗っているのだろう?」
緑色の肌をした怪人はゆっくりとフレイザードの方へ歩み寄る。
フレイザードは相手に疲れを見せないように、虚勢を張りながら答える。
「そうだ!俺はこのゲームに勝って、バーン様に勝利の栄光を…」
「バーンだと?確か主催者の一人だったな…(コイツは主催者の部下か…わしがいずれ主催者を倒すつもりであることは、知らせない
方が良いな…)」
「(ちっ…オレは何をベラベラ喋ってるんだ。…だが、攻撃しようにもこう疲労が激しくては…!)」
ピッコロはなにやら思案し、フレイザードは戦うべきか迷っている。
しばしの間を置いて、先に口を開いたのはフレイザードだった。
「オレ様になんのようだ?戦うつもりなら容赦しねぇぜ」
相手を睨みつけ威圧したつもりだったが、炎も冷気も消えかけた姿ではあまり迫力はなかった。
「フン、そのつもりならとっくにそうしているだろう。大方、疲労が激しくてわしに勝てるか迷っている、というところか」
「(クソッ、お見通しかよ)…だったらどうだっていうんだ!?」
ピッコロはニヤリと笑い、さらにもう一歩足を踏み出す。そして…
「貴様…わしと協力せんか?」
「…なに?」
- 69 :悪のパーティー1/3修正:2005/09/13(火) 14:12:20 ID:+uXd3DaH0
- ピッコロ大魔王は北へと足を進めていた。
青森の北、北海道が禁止エリアに指定されるのは十分承知している。
だからこそ、そこから逃げてくるものを待ち受けようというわけだ。
もちろん、バッファローマンを殺すことを諦めたわけではない。
いずれは探し出して殺すつもりでいる。
…やがて、北海道へつながる青函トンネルが見えてきた。
「……ん? あれはなんだ、人間ではなさそうだな…」
ちょうどトンネルを出てきたのは、身体の半分が炎、もう半分が氷に覆われた怪物だった。
「ここまで来れば禁止エリアはもう関係ねぇな。少し休むとするか…って、誰だ!?」
疲労回復に努めようとしていたフレイザードは、トンネルを出たところで出くわした「そいつ」に一瞬気圧された。
大魔王を名乗るモノが放つ威圧感を、バーンのそれには及ばないものの、近いものを本能的に感じ取ったのだ。
「テメェ…何者だ!」
「わしはピッコロ大魔王だ。…ふふ、そう怯えるな。その姿、そしてその身に纏う雰囲気…お前もこのゲームに乗っているのだろう?」
緑色の肌をした怪人はゆっくりとフレイザードの方へ歩み寄る。
フレイザードは相手に疲れを見せないように、虚勢を張りながら答える。
「そうだ!俺はこのゲームに勝って、バーン様に勝利の栄光を…」
「バーンだと?確か主催者の一人だったな…(コイツは主催者の部下か…わしがいずれ主催者を倒すつもりであることは、知らせない方が良いな…)」
「(ちっ…オレは何をベラベラ喋ってるんだ。…だが、攻撃しようにもこう疲労が激しくては…!)」
ピッコロはなにやら思案し、フレイザードは戦うべきか迷っている。
しばしの間を置いて、先に口を開いたのはフレイザードだった。
「オレ様になんのようだ?戦うつもりなら容赦しねぇぜ」
相手を睨みつけ威圧したつもりだったが、炎も冷気も消えかけた姿ではあまり迫力はなかった。
「フン、そのつもりならとっくにそうしているだろう。大方、疲労が激しくてわしに勝てるか迷っている、というところか」
「(クソッ、お見通しかよ)…だったらどうだっていうんだ!?」
ピッコロはニヤリと笑い、さらにもう一歩足を踏み出す。そして…
「貴様…わしと協力せんか?」
「…なに?」
- 70 :悪のパーティー2/3:2005/09/13(火) 14:13:38 ID:+uXd3DaH0
- 「気づいているかもしれんが、このゲームには妙な制限がかかっている。力を100%引き出せぬようだ」
フレイザードも北海道の戦いでそれを実感していた。
思ったよりも体力の消耗が激しく、もしピッコロが自分を倒すつもりだったら、簡単に倒されていただろう。
「そして、このゲームには忌々しい正義感などに溢れた奴らが多い。そやつらは徒党を組む傾向にあるようだ」
「そいつらが大勢でやってきたら……」
思い返せば、北海道ではタイマンに近い戦いが多かった。
それで、ここまで消耗してしまった。…となれば答えは一つ。
フレイザードは冷静に状況を分析し、答えを導いた。
「いいぜ、とりあえず協力してやるよ。だが、オレの目的は優勝だ。それを承知するなら、な!」
「いいだろう。そうだな…残り10人だ。それまでは協力するということでいいな?」
「あぁ、だが見てのとおり少し疲れてるんでな。しばらくは休ませてもらうぜ(ケッ、隙があったら寝首をかかせてもらうがな!)」
「好きにしろ。しばらくはわし一人でも構わん(役に立たなくなったら消させてもらうぞ)」
こうして、二人の怪人は(薄っぺらな)協力体制を取り付けた。
フレイザードの情報によると、北海道に人が残っているかは分からず、いたとしても小娘が一人ということなので、ピッコロたちは南へ向かうことにした。
とりあえずは獲物を狩りながら南下し、途中で角男(バッファローマンとか呼ばれていた)を見つけたら殺す。
残り人数が10人以下になったら…その時は互いに戦うことになるのだろう。
もしかしたら、それまでにどちらかが裏切るかもしれないが。
とにもかくにも、悪人二人のパーティーがここに誕生したのである。
- 71 :悪のパーティー3/3:2005/09/13(火) 14:14:21 ID:+uXd3DaH0
- 【青森県北部/朝】
【ピッコロ@ドラゴンボール】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(支給品未確認)
[思考]:1.フレイザードと協力してゲームに乗る。とりあえず南下。
2.バッファローマンを探し出して殺す。(フレイザードも役に立たなくなったら殺す)
3.残り人数が10人以下になったら同盟解除。
4.最終的に主催者を殺す。(フレイザードには秘密)
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:中〜重度の疲労。成長期。核鉄で常時ヒーリング。
[装備]:霧露乾坤網@封神演義 火竜ヒョウ@封神演義 核鉄LXI@武装錬金
[道具]:支給品一式 ・遊戯王カード1枚(詳細は不明)@遊戯王
[思考]:1.ピッコロと協力してゲームに乗る。(体力が回復するまでは、強い敵との戦闘はピッコロに任せる)
2.相手が現状でも殺せそうなら殺す。ダイ、ポップ、マァム、武藤遊戯を優先。(ピッコロも隙があったら殺す)
3.残り人数が10人以下になったら同盟解除。
4.優勝してバーン様から勝利の栄光を。
- 72 :作者の都合により名無しです:2005/09/19(月) 22:16:48 ID:NtMTjfOfO
- 良い作品が来るように保守!
- 73 :さまよう影1:2005/09/25(日) 23:20:19 ID:Lk4+W1tP0
- 突如として音もなく鳥の影のように視界に滑り込んだ黒衣の塊は
月、イヴ、ゆきめら目の前の進行方向に立っていた。
その時、何が起きたのか受け止められず月の思考は数秒飛んだ。
余所見をしていたわけでもなくお喋りに興じて油断を欠いたわけでもない。
この場にいる誰もが予期せぬ訪問客に言葉を失っていた。
(な、何・・・!?)
(馬鹿な!?こいつ、どこから現れたんだ!?)
(すごいスピード・・・この人・・・気配すら感じられなかった)
太陽の光が強く差し込み始めた林道に突如現れた存在。
背丈や顔立ちから一見して歳若い少年。子供、といってもいい体格である。
しかし黒いマントで包まれた小柄な身体は薄汚れ、およそ清涼な朝の空間には似つかわしくない
濃厚な血と泥と煤の混ざった独特の臭気を放っていた。
(コイツ、ゲームに乗った殺人者か・・・!気配を殺し、僕らに近づいたのは見事だが
何が目的だ・・・。攻撃してこないのは何故だ。敵意がないのか)
漆黒のマントから覗く少年の右腕にはいつ抜かれたのかナイフが握られている。
月の背に汗が噴きだす。こいつも得体の知れない化物なのか。
ゆきめとイヴが月を庇うように前に出たが、月は2人を手で制し小声で囁く。
――危険です。ここは僕が交渉しますから下がっていてください。
有無を言わせず女性2人を下がらせると月は少年と向き合った。下手な交渉をされて戦闘に巻き込まれてはたまらない。
「でもっ・・・この人危険です。危ない感じがする」
食い下がるゆきめに月は内心舌打ちをしながら優しく(特に女性が安心するような)笑みを浮かべた。
――大丈夫です。僕を信用してください。貴女達を危険にさらすようなことになどさせません。
せっかく見つけた貴重な手駒だ。こんなに早く消耗させるには惜しい。
月は少年の目に一歩歩み出た。
- 74 :さまよう影2:2005/09/25(日) 23:28:32 ID:Lk4+W1tP0
- 少年の眼光は鋭く感情の起伏を読み取れない禽獣の目を連想させ月の神経を圧迫する。
空気に飲まれてはいけない。月は(普段の彼なら絶対にしないが)ゴクリと喉を鳴らし唾を飲み込んだ。
空気に飲まれるな。攻撃しないのは理由があるはず。それはなんだ。
少年が言葉を発するより数秒速く月が口を開く。
「僕らはこ」「浦飯幽助という人間を探している」
かすれた低い声が囁く。幽鬼のような死神のような暗く形容し難い声。
「奴の居場所を知っているか?」
出鼻を挫かれまたも一瞬言葉を失う月だがすぐに気を取り直し会話と思考を続ける。
(何かと思えば仲間探しか。元いた世界の仲間なら信じられると本気で思っているのか?
この状況下でご苦労な事だ)
月は恐怖が薄れていくのを感じる。化物でも人間レベルの思考能力はあるらしい。
多少血の気の多い殺人鬼でも言葉さえ通じるのなら操る自信がある。
「貴方も人探しを・・・?この時間まで1人きりで?」
返答は丁寧に。少し驚きも含ませて。月は心細かったでしょう・・といかにも共感しているといった部分を
短い返答の中に押し出しだ。異様な風体と臭いに対し月は少年に生理的な嫌悪と恐怖を感じていたが
表情には出さず同情を装った。その際、少年の表情を一瞥するが微動だにしていない。
静かに自分の質問に対しての答えを待っている感じである。
(彼が欲しがってるのは情報だ。引き出し終わるまで攻撃される危険はないが・・・)
その後、彼が自分達を見逃す保証はない。
相手の望む情報を与えつつ自分を頼らせるように誘導しなくては。
「浦飯、幽助さんですか。僕と同じ日本人のよ」
「あなた、血のにおいがするわ」
今度はイヴが月の言葉を遮った。
「誰かと戦ったのね。事故?それとも貴男はこのゲームに賛同してるの?」
(こ、このガキ・・・!いきなりなんてことをッ!)
- 75 :さまよう影3:2005/09/25(日) 23:47:31 ID:Lk4+W1tP0
- 月はイヴの肩を引き寄せ少年には聞こえないよう耳元で囁く。
――危険なことをするな。
相手が逆上したらどんなことになるかわからないんだぞ!?
「安心して。もし戦闘になったら私が戦うから。月さんは安全な所に下がってて」
イヴは先程からの回りくどい月の交渉に危険を感じていた。
一般人の月よりも防御には自信のある自分が前に出るべきだと考えていたのだ。
そんなイヴの強引な行動に月は怒りで卒倒しそうになった(表情には出さずに)。
――ゆきめさん。彼女をお願いします。 (このクソガキをなんとかしろ!)
月はゆきめにイヴを預けようと振り向いたが彼女はいない。
ゆきめは少年の目の前に立っていた。
怒りと悲しみの入り混じる瞳で少年に問いかける。
「あなたは・・・会いたい人がいるのに、なぜ、戦うの」
- 76 :さまよう影4:2005/09/25(日) 23:54:25 ID:Lk4+W1tP0
- 【山形県/午前】
【夜神 月(ライト)@DEATH NOTE】
[状態]健康
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式 (一食分を消費)
[思考]:目の前の少年と交渉 :使えそうな人物との接触 :竜崎(L)を始末し、ゲームから生き残る
【ゆきめ@地獄先生ぬ〜べ〜】
[状態]健康
[道具]荷物一式 (一食分を少し消費)
[思考]:鵺野鳴介との合流 :ゲームから脱出する
【イヴ@BLACK CAT】
[状態]やや疲労、風邪気味
[装備]いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]:荷物一式 (一食分を少し消費)
:無限刃@るろうに剣心
[思考]:トレイン・スヴェンとの合流 :ゲームの破壊
【飛影@幽遊白書】
[状態]少し疲労(眠気は収まった)
[装備]マルス@BLACK CAT
[道具]:荷物一式
:燐火円レキ刀@幽遊白書
[思考]幽助と決着を付ける、強いやつと戦う
*イヴ、ゆきめの服は乾きました。
- 77 :作者の都合により名無しです:2005/10/07(金) 00:10:42 ID:vWevvctK0
- ホシュ
書き手さんが来てくれますように
- 78 :特別放送 1/2:2005/10/07(金) 17:47:23 ID:yAMUMSil0
- 参加者全員の、頭の中に直接響く…邪悪な支配者たちの声――
───どうも、これは失礼。
…突然の放送に戸惑っている人も多いのではないでしょうか?
…実はさっきお二方と話し合ってですね、意見が合致したことがあるんです。
前回の放送を覚えてる人なら、6時間で18人が死んだということを知ってますね。
…1時間に3人。単純な掛け算をすれば24時間での死者は72人ということになります。
勿論ある程度戦闘意欲の増減があるでしょうから大体80人ぐらいでしょうか。
でもこれじゃあ物足りないんですよね。第一80人程度では結局60人も
人が残ることになってしまいますし。
それに私達、退屈なんですよ。そうですよね、バーンさん?
──ああ、そうだな。こんな愚鈍なペースではあまり楽しめない。
そこで少し早いがこれからゲーム脱落者と一時間後からの立ち入り禁止エリアを発表したいと思う。
なお、今回は特別ということで禁止エリアは一つのみだ。
これで少しは戦闘意欲が増してくれると嬉しいのだがな。
…ちなみに六時間毎の放送はこれからも行うし、これでもペースが伸びない様なら
二回目特別放送をするだろう。
ひょっとしたら新システムや参加者の導入もあるかもしれんぞ?
それではフリーザ王、脱落者と禁止エリアの方を頼む。
- 79 :特別放送 2/2:2005/10/07(金) 17:48:28 ID:yAMUMSil0
- ──ええ、では読み上げますよ。
──火口卿介、防人衛、海馬瀬人、桜木花道、日向小次郎。
以上、5名が脱落していますね。さっきの「一時間に3人」の理屈で言えば
やはり足りないところですが。
ちなみに新規禁止エリアは『鳥取県』です。
ハーデスさん?貴方からは何かおっしゃっておきたい事はありませんか?
………ありませんか。…貴方もお暇なことでしょう─
では最後に少し。
これはあれっぽっちの脱落者と禁止エリアでは
足りないと思ってさっき思いついたことなんですが─
地図を失ってない人は開いて見てください。親しい方の死を信じない、
そんな方の為にそれぞれの死体の場所を記しておきました。
地図にある赤い点に手を翳せば名前が出ますよ。余裕がある方は行って確かめて見たらどうでしょう?
では、次の正規もしくは特別報告まで、誇り高き勇者たちに幸あらん事を…フフフ―――
- 80 :麗しき貴族”C"1/3:2005/10/07(金) 20:52:19 ID:Zd0imwHZ0
- 「助けてください。お願いします。私、ただの学生なのにいきなりこんな所に連れてこられて…」
必死にそう言う目の前のまもりに、趙公明は如意棒を突きつけた。
「ふふふ…君はまずまずの演技力だけど、後ろのオトモダチが一目で分かるほどの殺気を放っていてね…」
それを聞いたまもりは、一瞬だけ後ろを振り返る。
まもりの後ろにじっと佇んでいる冴子は、確かに暗い表情でこちらを見ている。
自分が敵の油断を誘うと言って出てきたのは良かったが、まさか冴子がここまで非協力的だとは思わなかった。
「(まさか、いきなり私を見捨てるつもりかしら…いえ、さすがにそこまでは……っ!!)」
まもりが我に帰ると、如意棒が首筋まで伸ばされていた。
「君からも…そう、何か決意を秘めた様子が見て取れるね。決して追われるウサギのそれではない目をしているよ」
「(このままでは冴子に捨て駒にされてしまうわ…なんとか彼女を利用しないと……!)」
だが、趙公明は不意に如意棒を縮めて手元に戻した。
そして懐から菓子パンを取り出した。
「君たち、お腹は空いていないかな?」
「…え?」
- 81 :麗しき貴族"C"2/3:2005/10/07(金) 20:55:22 ID:Zd0imwHZ0
- 「僕の食料は中々美味なものが多くてね。この餡子が詰まったパンなど最高だよ。上に散りばめられたゴマがなんとも言えない」
「……」
「………」
まもりと冴子は、なんとなく言われるままに趙公明の後について行ってしまった。
目の前の相手を殺さなくてはならないという決意と、しかし隙が無くて手を出せない状態ゆえだ。
誰もいない茶店の席に着くと、それぞれジャムパンとクリームパンを手渡されるが、二人とも手に持つだけで口にしようとしない。
「おや、どうして食べないのかな?毒など入っていないよ。さぁ、食べたまえ」
「……どうかしらね。ニンゲンは人を騙すためなら何でもするわ…」
冴子はクリームパンの袋を破ると、趙公明の口元に突き返した。
「あなた…これを食べられる?」
「いらないのかい?じゃあ遠慮なく」
「…!?」
ムシャムシャとクリームパンを食べる趙公明に、冴子は当てが外れたような顔をする。
見るからに美味しそうな表情でクリームパンを食べつくすと、手についたクリームをハンカチでふき取る。
「まだ、わからないかな。君たちを殺すつもりならいつでもできるんだ。でもあえてそうしない。わかるかな?」
二人とも黙っている。
他の参加者を全員殺すことを目的としている二人には見当もつかないようだ。
「僕の目的は、ゴージャスでエレガントな戦いを楽しむことだ。君たちがそれにふさわしい実力の持ち主なら、喜んでその殺気に答えよう。だが、残
念ながら君たちの実力は僕に遠く及ばない。…相手をするまでもないということさ。実はさっき城乃内くんという少年と戦ったんだが…彼は少々物
足りなくてね。次の相手は、もっとふさわしい相手と決めているんだよ。だから君たちは殺さない」
残念ながら、この派手な男の言うとおりだとまもりは思った。
仮に自分ひとりだったとしても、この男の隙を突いて殺すことは不可能だっただろう。
…実力が違いすぎる。
「……わかりました。行きましょう、冴子さん」
「…………そうね、少なくとも今の私たちでは勝てない」
冴子も納得したのか、椅子から立ち上がる……と見せかけて、毒牙の鎖を振るう。いや、性格には振るおうとした。
その瞬間、腕をつかまれてひねり倒されてしまう。
「君がどうしても戦いたいと言うなら、僕としても答えてあげるつもりだがね…どうする?」
「…わ、わかったわ。私の負けよ…」
- 82 :麗しき貴族"C"2/3修正:2005/10/07(金) 20:57:46 ID:Zd0imwHZ0
- 「僕の食料は中々美味なものが多くてね。この餡子が詰まったパンなど最高だよ。上に散りばめられたゴマがなんとも言えない」
「……」
「………」
まもりと冴子は、なんとなく言われるままに趙公明の後について行ってしまった。
目の前の相手を殺さなくてはならないという決意と、しかし隙が無くて手を出せない状態ゆえだ。
誰もいない茶店の席に着くと、それぞれジャムパンとクリームパンを手渡されるが、二人とも手に持つだけで口にしようとしない。
「おや、どうして食べないのかな?毒など入っていないよ。さぁ、食べたまえ」
「……どうかしらね。ニンゲンは人を騙すためなら何でもするわ…」
冴子はクリームパンの袋を破ると、趙公明の口元に突き返した。
「あなた…これを食べられる?」
「いらないのかい?じゃあ遠慮なく」
「…!?」
ムシャムシャとクリームパンを食べる趙公明に、冴子は当てが外れたような顔をする。
見るからに美味しそうな表情でクリームパンを食べつくすと、手についたクリームをハンカチでふき取る。
「まだ、わからないかな。君たちを殺すつもりならいつでもできるんだ。でもあえてそうしない。わかるかな?」
二人とも黙っている。
他の参加者を全員殺すことを目的としている二人には見当もつかないようだ。
「僕の目的は、ゴージャスでエレガントな戦いを楽しむことだ。君たちがそれにふさわしい実力の持ち主なら、喜んでその殺気に答えよう。だが、残念ながら君たちの実力は僕に遠く及ばない。
…相手をするまでもないということさ。実はさっき城乃内くんという少年と戦ったんだが…彼は少々物足りなくてね。次の相手は、もっとふさわしい相手と決めているんだよ。だから君たちは殺さない」
残念ながら、この派手な男の言うとおりだとまもりは思った。
仮に自分ひとりだったとしても、この男の隙を突いて殺すことは不可能だっただろう。
…実力が違いすぎる。
「……わかりました。行きましょう、冴子さん」
「…………そうね、少なくとも今の私たちでは勝てない」
冴子も納得したのか、椅子から立ち上がる……と見せかけて、毒牙の鎖を振るう。いや、性格には振るおうとした。
その瞬間、腕をつかまれてひねり倒されてしまう。
「君がどうしても戦いたいと言うなら、僕としても答えてあげるつもりだがね…どうする?」
「…わ、わかったわ。私の負けよ…」
- 83 :麗しき貴族"C"3/3:2005/10/07(金) 20:59:44 ID:Zd0imwHZ0
- 全てのニンゲンを消すためには、ここで死ぬわけにはいかない。
この男は、誰か他の強敵と潰し合ってくれることを願うしかない。
冴子はそう結論づけ、趙公明のことは諦めることにした。
「ところで、どうしてパンなんてくれるんですか?」
ジャムパンを見つめながらのまもりの問いかけに、趙公明はにこりと笑う。
「僕は貴族でね。見たところ君は荷物を失っているようだ。そんな君に施しをするのも勤めというわけさ。もっと欲しければ差し上げるが、どうかね?」
「…い、いえ結構です。(変な人…こんなゲームに参加させられてるって言うのに…)」
さすがに少し呆れるまもりであった。
その後二人が茶店の前から離れかけたところで、まもりはジャムパンのお礼を言っていなかったことに気づいた。
趙公明の方を振り返り、声をかけようとするが、既に彼の姿はなかった。
「ではさようなら、レディたち。次に会う時までにせいぜい強くなってくれたまえ!」
頭上から声が響く。
見上げると、如意棒にまたがった趙公明が、棒を伸ばしながら彼方へと飛んで行くところだった。
それを見送りながらまもりは思う。
今回は運良く見逃してもらえた。
でも次もそうとは限らない。
ひょっとしたら、自分の作戦が通用する相手なんてほとんどいないのかもしれない。
「だとしたら……」
「何か言った?」
「ううん…こっちのことよ、こっちの」
やっぱり、この人を囮にするしかない。確実に。
- 84 :麗しき貴族"C"終わり:2005/10/07(金) 21:01:17 ID:Zd0imwHZ0
- 【京都府市街地/午前】
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:腹部に打撲、若干の疲労
[装備]:中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター、
魔弾銃@ダイの大冒険:空の魔弾×2 メラミ×1 ヒャダルコ×2 イオラ×1 キアリー×2 ベホイミ×2
[道具]:ジャムパン(毒は入ってないとほぼ確信している)
[思考]:1セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
2取り敢えず目の前の女を利用できるまで利用する(以前より強く決意)
【野上冴子@CITY HUNTER】
[状態]:人間に絶望。(難しいが説得は一応可能?)
[装備]:毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[道具]:荷物一式、食料二人分
[思考]:1人間を全て殺す。
2取り敢えず目の前の女を利用できるまで利用する
【趙公明@封神演義】
[状態]:左足に軽傷。
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式×2(一食分消費)、神楽の仕込み傘@銀魂
[思考]:1.しばらく京都観光をしながら、戦うに足る相手を探す。
2.エレガントな戦いを楽しむ。太公望、カズキを優先。
- 85 :作者の都合により名無しです:2005/10/07(金) 22:45:02 ID:XTI3KiSp0
- 新作乙。
如意棒に跨って去っていくという馬鹿でトレビアーンなまねをする兆候名を
俺は愛しているぜw
- 86 :袖振り合うも多生の縁 1:2005/10/11(火) 00:29:55 ID:YagLgbEu0
- 九州自動車道を北上し、ひたすら東京を目指す一つの影。
赤毛の長髪を首の後ろでまとめ、左頬に傷を持ち、日本刀を腰に帯びたその青年の名は
緋村剣心。
幕末に人斬り抜刀斎として名を馳せた彼は、ただひたすら東京を目指し、道を駆け続けていた。
とはいえ、流石の剣心も長時間走っていれば疲労するのは当たり前で、今は一旦足を休め、
歩きへと切り換えていた。
それでもその歩みは常人のそれよりも遥かに速い。
かつて志々雄との闘いの折、東海道を通って京都へと向かおうとした剣心に、斎藤がこう
言ったことがあった。
『常人なら十日前後の道のりだが、お前なら五日もあれば充分だろう』
神速を誇る剣心だが、徒歩もまた例外ではない。
全力ではない速さで、けれどできる限り急いで剣心は歩を進める。
早く、早く、早く彼女に、神谷薫に会いたい。
その思いが、剣心の足を更に速める。
目指すは東京。神谷道場。
思いはまさに、飛ぶが如く―――。
「!」
けれど、その思考を止めるものがあった。
剣心が今進んでいる道の前方、そこにいる禍々しい人の形をしたモノは。
かつて死闘を繰り広げた、参號夷腕坊に相違なかった。
(なっ・・・・・!)
剣心は息を呑む。一瞬のうちに、神谷道場での苦い人誅の出来事が脳裏に蘇る。
あの時は、『機巧芸術家』を自称する外印が参號夷腕坊を操っていた。参加者名簿には
外印の名は無かったから、彼以外の者が参號夷腕坊に乗っていることになる。
それが何者かは分からない。だが、人形とはいえ、参號夷腕坊は使いこなすことができれば、
凶悪な『武器』へと昇華する。
中にいるのが外印ではないから、彼のように完璧に操作するのは無理にしても、それでももし
他人を殺める意識を持った者が参號夷腕坊を駆使していたとしたら・・・・!
- 87 :袖振り合うも多生の縁 2:2005/10/11(火) 00:32:11 ID:YagLgbEu0
- 剣心は左手でぐっと鞘を握り締めた。納まっているのは愛刀の逆刃刀ではなく、紛れもない日本刀。
精神が不安定な今、抜刀はできることならば避けたかったが、もしも相手に闘う意志があるのなら。
(抜く・・・・しかなかろう)
かつて闘ったことがあるから、参號夷腕坊の性能や弱点は良く分かっている。
まして、今の己の武器は日本刀。何より、操る者が外印ではないのなら、充分に勝機はある。
短い時間のうちにそれらを逡巡して、剣心は止めていた足を再び踏み出した。
一歩ずつ、少しずつ、参號夷腕坊に近付いていく。
不思議なことに、参號夷腕坊の方も剣心に気付いているだろうに、微動だにしない。
人形だから表情も読めず、その静けさが不気味だった。けれども中にいる者からは、今のところ
殺気は感じない。
この殺し合いに放りこまれて、感覚も幾分か鈍っているようだがら、絶対とは言い切れないが。
剣心は、参號夷腕坊の間合いのぎりぎり一歩外のところで足を止めて、静かに口を開いた。
「お主は、何者でござる?」
午前中の、まだの涼しい空気の中、凛とした声が辺りに響く。
剣心はじっと参號夷腕坊を見据えた。動きは、無い。
もう一度問いかけようと口を開きかけた剣心だったが、
「人に名前を訊くんなら、自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃねぇか?」
恐らくは、参號夷腕坊の内部から、若い男、というよりは青年といった感じの声が響いた。
剣心がそれに反応するより早く、
「すみませんすみませんすみません!」
今度は参號夷腕坊の後ろから、ぴょこっと一人の少年が現れた。やけに腰が低く、剣心に対して
懸命に謝っている。
「いきなり不躾なこと言って、本っ当にすみません!」
「あ、いや、拙者は・・・・・」
ぺこぺこと頭を下げる姿に、剣心の方が面食らってしまう。
- 88 :袖振り合うも多生の縁 3:2005/10/11(火) 00:33:57 ID:YagLgbEu0
- 「オイ、何謝ってんだよ、糞チビ!」
「だだだだだって・・・・・! すみません!」
参號夷腕坊の中にいる青年に怒鳴りつけられ、少年は萎縮しながらも謝っていた。
その様子に呆気に取られながらも、剣心はふっと肩の力を抜いた。どうやら闘う意志は無いようだ。
それに、青年の方から言われた言葉ももっともだ。
「拙者の方こそすまぬな。拙者は緋村剣心と申す」
「あ・・・・僕は小早川瀬那といいます」
セナ、と名乗った少年は、またぺこりと頭を下げた。
見慣れない服装ではあったが、外見や言動から判断するに、恐らくは同じ日本人だろう。
向こうも同じことを思ったのかどうかは知らないが、セナはじ〜っと剣心を凝視してきた。
「何でござる?」
「えと・・・・緋村さんって、見た感じ侍っぽいですけど・・・・やっぱり江戸時代から
来たんですか?」
上目遣いでこちらの様子を恐る恐るといった風に尋ねてきた。
そんなに怯えずとも・・・と内心思いながら、剣心は言葉を返した。
「今の時代がいつなのかは分からないが、拙者は明治十一年の時代から来たでござるよ」
「明治十一年!? ・・・ってことは、百二十年以上前の人なんだぁ・・・・」
セナが単純計算して呟くと、剣心もほんの少し目を丸くする。
「そうか。拙者の時代より、そんなに時が流れているのでござるな」
「僕もびっくりです。このゲームが始まる前に集められた会場には色んな人がいたけど、
時代が違う人もいるなんて・・・・」
そこまで言って、セナはハッと何かに気が付いたような顔になる。
「そうだ! 僕らと会う前に誰かと会いませんでしたか?
僕達、姉崎まもりっていう女の子と、進清十郎って人を探してるんです!」
「セイジュウロウ・・・・」
剣心はその名を反芻する。偶然にも、それは己の師匠、比古清十郎と同じ名前だった。
ふと彼の顔を思い出し、ほんの少し感傷に浸り、不思議な縁もあるものだと剣心は思った。
けれど、残念なことに。
「すまぬな。拙者が会ったのは、お主達が初めてでござるよ」
「そうですか・・・・」
剣心の返答に、セナは目に見えてしゅんとうな垂れる。
- 89 :袖振り合うも多生の縁 4:2005/10/11(火) 00:35:08 ID:YagLgbEu0
- セナが先程名を上げた二人が、彼にとってどのような存在であるかは分からないが、この状況下で
探しているというからには、大切な人であることに違いない。
そう、きっと、剣心が薫を求めているのと同じように。
「実は、拙者も人探しをしているのでござるよ。神谷薫という少女と、斎藤一という男を見なかったで
ござるか?」
「えっと、僕は会ってないですけど・・・・・」
申し訳なさそうに答えながら、セナは背後にいる参號夷腕坊、ひいてはその中にいる者を見遣る。
「ヒル魔さんはどうですか?」
「ヒルマ?」
またも聞き覚えのある名。
剣心が神谷道場に居候するきっかけになった偽抜刀斎事件、それの首謀者の名が比留間兄弟だった。
(またも奇縁でござるな)
二つも偶然が重なったことが不思議で、剣心はふと小さく笑みを漏らす。
思えば、このゲームが始まって以来、初めての安堵の溜息だったかもしれない。
「その参號夷腕坊に入っている青年は、ヒルマ、というのでござるか」
「え、何でこれの名前知って・・・・・」
剣心が『参號夷腕坊』の名を口にしたことに驚きを隠せないセナ。
一方、その件の人形の中にいる青年、蛭魔妖一は先程の剣心とは反対に、呆れたような溜息を吐きながら、
「頭使えよ、糞チビ。事情は知らねーが、そこの緋村サンとこの参號夷腕坊が顔見知りだからに決まってんじゃ
ねーか。ま、人形なのに”顔”見知りってのも、何か変な話だけどな」
ケケケケという笑い声と共に、参號夷腕坊の口の中から蛭魔が這い出してきた。
長身で金髪、といった外見に、剣心は彼は異人なのだろうか、とふと思った。けれど、セナと似たような
格好であることと、遠慮無しに話をしているところから見て、恐らくこの二人は前からの顔見知りなのだろう、
と判断する。
剣心が思考していると、ボン、という軽い爆発音が聞こえた。
蛭魔は参號夷腕坊をカプセルに収め、それをとりあえずズボンのポケットにしまう。
「色々と悪かったな。オレは蛭魔妖一。あんたがこのゲームに乗ってたらまずいと思って、一応参號夷腕坊に
乗ってたんだ」
(・・・・・いや、悪いなんてちっとも思ってないな・・・・・)
一足遅れの自己紹介をしている蛭魔に、セナは内心突っ込みを入れる。
- 90 :袖振り合うも多生の縁 5:2005/10/11(火) 00:40:00 ID:YagLgbEu0
- 「とりあえず、あんたはこのゲームには乗ってないみてぇだな?」
「ああ・・・・殺し合いに参加する気などござらん」
蛭魔の問いに剣心は力強く頷く。
例え己に人斬りの血が流れていても―――それが本性であったとしても―――
この先、このゲームの中で自分をまた見失って、再び修羅道に堕ちてしまうかもしれなくても―――
もう人は斬らない。
剣を振るうとしても、人を殺めるためでなく、人を守るために。
そう、今はただの、流浪人だから。
「お主達が、拙者がいた時代よりずっと後の時代の者なら、恐らく知っているであろう、幕末の動乱を・・・・。
拙者は幕末の頃、多くの人を斬った・・・・」
剣心は静かに語り出す。
どうして初対面である彼らにこんな話をしようと思ったのかは、剣心自身分からなかった。
けれどそれはもしかしたら、自分も含め多くの者が命を賭けて血刀を振るって拓いた新時代の、そのずっと
先にある未来の日本に、セナたちが生きていたからかもしれない。
自分の時代よりずっと先の、新たなる世代。
「けれど、今は―――拙者は『不殺』・・・・もう誰の命も殺めないと決めた。例えそれが、自分以外の
他者を皆殺せば生き残れるような状況下であっても、拙者はもう誰も殺したりはしないでござるよ」
戯言を―――。
頭の中で、誰かの声がする。
今、口にしたことは嘘ではない。紛れもなく本心だ。もう誰も斬りたくはない。
もしも、また人斬りに戻ってしまうようなことがあったとしても。
それでも、それまでは『不殺』の流浪人のままで。
出来得ることならずっと―――流浪人のままで。
- 91 :袖振り合うも多生の縁 6:2005/10/11(火) 00:41:33 ID:YagLgbEu0
- 「緋村さん・・・・」
しん、となった空気の中、セナは驚きと恐怖と尊敬が入り混じった、複雑な表情を剣心に向けていた。
対照的に、蛭魔は感情を表に出さない顔で剣心に尋ねる。
「じゃあ、もし殺る気満々の奴が襲って来たらどうすんだ?」
「その時は・・・・闘うしかないでござるな。できることなら、説得したいでござるが・・・・」
幾らか迷いながらも剣心は言葉を紡ぐ。蛭魔は再び質問を投げかけた。
「幕末に闘って明治まで生き延びた、ってことは、あんたは結構、腕は立つんだろ?」
「・・・・・・」
剣心は肯定の意味で無言を返した。
「じゃあ、俺がさっき乗ってた参號夷腕坊・・・・あれとも闘ったことあるのか?」
「ああ。参號夷腕坊とはかつて闘い、打ち破ったことがある」
それを聞いて、蛭魔は一瞬だけセナに振り向いた。
その時の蛭魔の会心の笑みは一生忘れられないだろう―――とセナは後に語った。
「どうやらあんたは信用できそうだな。オレらもこんなゲームに乗る気はねぇ。何とか脱出してやろうと思ってる。
当面の目的も人探しってコトは同じだし、ここは一緒に行動してみねぇか?」
「蛭魔さん!?」
突然の話にセナが驚いて目を見開いている間にも、蛭魔は畳み掛けるように剣心を言葉巧みに誘う。
「支給武器こそ参號夷腕坊だったものの、オレらは元々殺し合いなんて縁のない、ただの学生なんだ。
あんたみたいな強い剣客がいれば心強いし・・・・・」
(う、嘘は言ってないけど―――!!)
セナは心の中で叫ぶ。蛭魔の言っていることは確かに嘘ではない。
けれど、普段の彼の言動や行動を知るセナとしては、胡散臭いことこの上ないのだった。
「拙者は・・・・構わぬでござるよ。このような状況下の中、お主達のようにしっかりとした意志を持った者と
行動を共にできるのは、拙者としても心強いでござるよ」
剣心は、快く同行を申し入れる。
人斬りと流浪人の狭間で揺れ動く心が、こうして誰かと話せたことで随分と落ち着いた気がする。
薫は今どこで、どうしているのか、果たして無事なのか―――その不安は消えないが、とりあえずは。
- 92 :袖振り合うも多生の縁 7:2005/10/11(火) 00:43:12 ID:YagLgbEu0
- 「あの・・・・ヒル魔さん?」
「ああ、ちょっと待っててくれ。今この糞チビと作戦会議してくる」
不安そうに顔色を窺うセナの首根っこを引っつかんで、蛭魔は剣心に一言入れると、ダッとその場を離れた。
距離にして十mくらいか。
剣心に聞こえないように小声で話す。
「緋村さんは確かに信用できるように見えますけど・・・・でも、何でまたいきなり仲間に?」
「だから、頭使えよ糞チビ! あの外見も機能も化け物じみた参號夷腕坊に勝ったってことは、緋村ってのは
相当の腕前じゃねーか! 仲間にしておいて損はねぇ。
それに、参號夷腕坊と闘ったことがあるって以上、その弱点とか攻略法とか知ってんだろ? つまり、
逆に言えばそれを教えてもらえば参號夷腕坊の弱点は無いも同然だ。分かったか、糞チビ!」
「ハ、ハイ・・・・よく分かりました」
流石は蛭魔、そこまで考えていたとは。セナは感嘆の溜息を吐く。
「いやー待たせたな。これからよろしく頼むぜ。YaーHaー!」
戻ってきてやたら上機嫌な蛭魔と、何故か疲れたような顔をしているセナ。
二人を見比べて剣心は不思議に思ったが、
「そうでござるな」
穏やかな笑顔で、同行の意を改めて固める。
「ところで、セナ殿と蛭魔殿はどちらに向かうつもりでござるか?
拙者は東京を目指していたのでござるが・・・・」
「あ・・・・と、僕達も東京を目指すつもりではいたんです。でも、休息を取ったり、参號夷腕坊の訓練をしたり
するには、熊本の方がいいだろうって」
「ああ、俺もそう思ってたけどな。けど、緋村サンが加わったんなら、わざわざ熊本まで行かなくてもいいだろ。
でもまぁとりあえずは、緋村サンも疲れてるみてぇだし、ここは一つ、この辺で休まねぇか? 情報交換もしたいしな」
「そうでござるな・・・・・」
蛭魔の言葉に剣心は頷く。
確かに、休息を必要とする人間が三人中二人もいるのなら、少しの時間でも休憩して、体の調子を整えてから出立した方が
良さそうだ。
蛭魔の言う通り、情報交換をしたい、というのもある。
- 93 :袖振り合うも多生の縁 8:2005/10/11(火) 00:44:36 ID:YagLgbEu0
- 「道で休んでいては目立つでござるな」
「ここの少し先にパーキングエリアがありますよ。さっき通り過ぎたから・・・・そこで一休みしませんか?」
「・・・・・ぱーきん、とは何でござる?」
聞き慣れぬ言葉に剣心が首を傾げる。セナは一瞬返答に困った。
「・・・・ま、まぁ道路沿いにある建物みたいなものです」
かなり大雑把な説明だったが、剣心は納得する。
「このしっかりした道といい服装といい・・・・拙者の時代とは随分違うでござるなぁ。その辺りの話も聞かせて欲しいでござるよ」
「は、はい! 僕も明治時代の話、聞いてみたいです」
「この時代のこと知ったら、色々と驚くぜ、きっと」
剣心とセナ、蛭魔は明るい言葉を交わしながら歩いていく。
人と出会えたことで剣心の中から焦りは大分消え、再び彼には穏やかな笑みが浮かぶ。
剣心は思いを馳せた。
(薫殿。薫殿は今、どこにいるでござる? 拙者は、同行する者に恵まれた。薫殿も、誰かと共にいるのでござろうか?
再び会う時まで、どうか、どうか無事で―――)
―――奇しくも。
剣心の探し人である薫と、セナ達の探し人の内の一人である進は、兵庫で出会い、行動を共にしていた。
今の彼らが、それを知る由は無いけれど。
これも、何かの縁だろうか。
- 94 :袖振り合うも多生の縁 9:2005/10/11(火) 00:45:49 ID:YagLgbEu0
- 【福岡県/午前】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】やや疲労、精神不安定(精神はセナ達と出会ったことで大分安定してきています)
【装備】日本刀@るろうに剣心
【道具】荷物一式
【思考】1.休息を取る
2.セナ、蛭魔との情報交換
3.人を斬らない
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
[思考]:1.休息を取る
2.剣心との情報交換
3.姉崎まもりと合流し、守る。
【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:夷腕坊操作の訓練のため疲労
[装備]:参號夷腕坊@るろうに剣心(習熟中)
[道具]:支給品一式
[思考]:1.休息を取る
2.剣心との情報交換(主に参號夷腕坊について)
3.ゲームを脱出する。
【共通思考】
1、三人で行動を共にする。
2、薫、斎藤、姉崎、進との合流。
3、休息の後、東京を目指す。
- 95 :再会ならず 1:2005/10/12(水) 21:11:57 ID:rpY1sXyX0
- こちらに歩いてくる男がただならぬ気配をまとっていることは、ただの中学生である洋一にも一目で分かった。
こいつは勝利マンや変身した自分と同じく人外の存在だ。
「逃げよう…あいつは絶対やばいヤツだ」
「そうね、友好的とは思えないし」
「だが、そう簡単に逃がしてくれそうもないぜ…ほらきた」
洋一たちが逃げようとしていることに気づいたか、その男、ダーク・シュナイダーは高く跳躍すると背後に回りこんできた。
逃げられない…そう悟った3人が身を強張らせていると、ダーク・シュナイダーはこちらをじろじろと見てくる。
いや、正確には香を見ていた。
「お前いい女だな。俺様のハーレムに加えてやろう!」
洋一や三井など眼中にない様子で、香に手を伸ばすダーク・シュナイダー。
だが、何者かがその手を横から払った。いや、払おうとした。
結果は逆に手をつかまれ、その男…三井は地面に倒されることになったが。
「弱わっちぃただの人間のクセに、死に急ぎてぇのか?大人しくしてりゃあ少しは生き延びられるのによ…。
まぁ、どの道テメェら男は皆殺しだがな、ククク!」
「…くそっ!」
三井は空いた手でポケットから小瓶を取り出すと、中の丸薬を飲む。
それはすぐに効果を表した。
相手が何の力もない人間だと見くびっていたダーク・シュナイダーは、突然力を増した三井によって腕を振り払われてしまった。
「ん?なんだそれは、ドーピングか?…クックック、ハーッハハハハハハハッ!そんなもんで俺様を倒すつもりなのか!?」
「(ちっ…確かにこんなもん気休めにもならねー。体制を立て直せただけってヤツだな…)」
仲間二人の様子を見ると、洋一はビビって動けないらしい。
そして香は、いつのまにかダーク・シュナイダーに腕をつかまれている。
何とか振り払おうとしているが、全く歯が立たない様子だ。
「(なんとかヤツの気を引いて香サンの手を離させ、その間に洋一と一緒に逃がす。…無理っぽいが、やるしかないな)」
- 96 :再会ならず 2:2005/10/12(水) 21:12:34 ID:rpY1sXyX0
- 「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
三井がダーク・シュナイダーに突撃しようとした瞬間、洋一の声が響き渡った。
全員の視線が洋一のいた場所に集中する。
そこに洋一の姿はなく、洋一は少し先を転びそうになりながら走っていた。
「ククク、逃がさねーぞ!…インテリペリ!!」
洋一の姿が爆炎に包まれる。思わず息を飲む香。
ニヤリと笑うダーク・シュナイダーだったが、次の瞬間その顔が歪む。
ドーピングで反応速度と筋力の上がった三井の蹴りが、首筋を直撃していたのだ。
「ぐ…キサマッ!」
「今のうちに…ぐはっ!」
香はダーク・シュナイダーの手を振り払うことに成功したが、反撃を受けた三井は血ヘドを吐きながらその場に転がった。
「二度も邪魔しやがって。てめぇは魔法でジワジワと…おっと、魔素の浪費は避けた方がいいか。じゃあこうするか?」
ダーク・シュナイダーは腹を押さえて倒れている三井に近づくと、その頭を踏みにじる。
そして、銃を取り出して三井の左腕を撃つ。
「ぐあぁっ!」
「ククッ、お前はこれで殺してやろう。派手さには欠けるがな」
さらに右腕に狙いをつける。
「や、やめなさい!」
背後で香がハンマー(ハリボテ)を構えて立っていた。
「何やってる…!早く逃げ」
「黙れよ」
「うぎぁぁぁぁっ!」
銃で撃たれた傷を踏みつけられ、悲鳴を上げる三井。
ダーク・シュナイダーは香の方を振り返ると、口の端をつり上げる。
「女、お前は俺様のモノになるんだ。そんなものでどうにかできると思ってるなら、せいぜい抵抗してみな」
「くっ…(せめて本物のハンマーなら…!)」
- 97 :再会ならず 3:2005/10/12(水) 21:13:26 ID:rpY1sXyX0
- その時、何かが森の中から飛んできた。
「ちっ!」
ダーク・シュナイダーはそれを見極め、寸前で上体を反らして身をかわした。
さらにもう一発、下半身を狙って飛んできた。
ダーク・シュナイダーは、それも跳躍して避ける。
「ほう、まさか避けるとはな。タダモノじゃねえヤツは他にもいるってことか」
そう呟きながら森から出てきたのは、不敵に笑う銀髪の男だった。
「邪魔ばかり入りやがるな。うっとうしいから消えろ!…インテリペリ!」
銀髪の男とその周辺に爆発が起こり、周囲の木を焼き払う。
…が、その男は立っていた。
「…なに!?クソッ、まさか威力がこんなに落ちてるとはな!」
「気を落とさなくてもいいぜ。俺は黄金聖闘士、蟹座のデスマスク。普通の人間じゃねえからな」
デスマスクはそう言いながら一瞬で接近すると、拳を繰り出した。
ダーク・シュナイダーはそれを受け止めようとするが、間に合わず殴られてしまう。
「うおっ!(ちっ、随分と速ぇな。俺様と同じく能力が制限されてるはずじゃねぇのか!)」
黄金聖闘士が本来ならば光速で動けることなど知るよしもないダーク・シュナイダーは、デスマスクのスピードに焦りを隠せない。
もっとも、デスマスクとてダメージがないわけではない。そこそこのダメージを受けているようだ。
そして、ダーク・シュナイダーには豊富な魔法がある。
近づかせなければ十分に勝てると読んだ。
- 98 :再会ならず 4:2005/10/12(水) 21:14:07 ID:rpY1sXyX0
- 「…くそっ。中々近づけねえな。積尸気冥界波さえつかえりゃこっちのモンなんだが」
「クククッ、お前の取り得はスピードだけか?殴るしか能がないんじゃあ勝てるモンも勝てねえなぁ!」
周囲の魔素にはまだ余裕があった。
あと一撃でいいから強力な魔法を叩き込めば、素手でトドメを刺すこともできるだろう。
「くらえっ!ダムド!!」
「マズイか!?」
デスマスクとて、今の状態でダムドを受ければ大ダメージは必至だった。
が、その時デスマスクとダーク・シュナイダーの間に割って入った人影があった。
デスマスクの目に入ったのは、14番のユニフォームだった。
「(へっ…ガラでもねぇ。見ず知らずの銀髪ヤローを助けるために命を張るとはな…。
花道…みんな…生きてたら、あとは頼むぜ……。ン…あれは仙道?何で最後に仙道が出てくるんだ?
まぁいいや…仙道、がんばって生き延びろよ…)」
「三井くん!」
三井だった死体に駆け寄ろうとする香を、誰かが抑えた。
「今は駄目だ」
小さくそうささやかれると、不思議に安心感を感じた。
「デスマスクさん!」
「来たか!足止めしといたぜ!」
デスマスクは、あとから来たこの男と知り合いらしい。
だが、このジャージを着たただの学生(スポーツマンっぽいところが三井と似てる)に何ができるというのだろうか。
「また男か…だが、大したこと無さそうなヤツにしか見えねぇが…」
ダーク・シュナイダーとしては、魔素を消費しつつあるこの地域で、さらに敵の増援が来るのは好ましくなかった。
「先に殺す!」
呪文を唱え始めるダーク・シュナイダー。
しかし、それが完成するより早く、仙道はカードを取り出した。
「六芒星の呪縛!」
「アンセムッ!」
- 99 :再会ならず 5:2005/10/12(水) 21:16:44 ID:rpY1sXyX0
- 仙道のカードが効果を発揮する方が一瞬早かった。
ダーク・シュナイダーの魔法は効果を発揮せず、声だけが空しく響き渡る。
「どういうことだ!まだ魔素は残っているのに!」
簡単に言えば『六芒星の呪縛』とは攻撃を封じるカードである。
「魔法が使えなければ…!」
直接殴りかかろうとするが、やはり殴れない。
「デスマスクさん、今のうちに!」
「殺していいんだな!?」
仙道は一瞬考え、目の前の死体に目を向ける。
相手は人を殺した。仕方なくという様子でもない。
殺されたのがあの三井寿かもしれないということを除いても、倒しておく必要があるのかもしれない。
「……お願いします」
頷きながら小さくそう答える仙道。
デスマスクもそれに答えて頷くと、ダーク・シュナイダーのほうへ向き直る。
「…攻撃できねえだろ。そういうカードなんだよ。悪く思うな」
殴る。防御。殴る。防御。殴る。防御。
防御に専念している分、ダーク・シュナイダーは直撃だけは避けることができていた。
「(クソッ、だがこのままじゃあ撲殺されちまう!逃げようにも隙がねぇ!)」
何度もパンチやキックを出そうとしているのだが、なぜか出来ないでいる。
残るは逃げるだけなのだが、一瞬でも隙が作れない限り、逃げられそうもなかった。
「…待てよ?……そうか………ダムド!」
「なにっ!?」
- 100 :再会ならず 6:2005/10/12(水) 21:17:22 ID:rpY1sXyX0
- 爆煙が消えた時、ダーク・シュナイダーの姿はなかった。
…確かに攻撃はしなかった。自分の足元に魔法をぶつけることを攻撃とは言わない。
しかし、それによって生じた爆煙に隠れて逃げることはできた。
「…まだ遠隔視なら探せるかも知れねえ」
「じゃあ、しばらく探していてください。俺は…」
「あぁ、そっちの連中は頼むぜ」
デスマスクが周囲を遠隔視能力で探しているうちに、仙道は香と共に三井の死体を埋葬することにした。
「じゃあ、やっぱり俺の知ってる三井さんだったのか…俺がもう少し早く来ていたら……」
「あなたのせいじゃないわ…最初は私を助けるために怪我したんだから。私がもっとしっかりしてたら…」
「三井さん…三井さんのおかげで、俺たちあの男に殺されずに済みました。…ありがとう」
そして、追手内洋一だが…なぜか彼の死体は見つからなかった。
コナゴナに消し飛んでしまったのかもしれないと、香は悲しみに暮れた。
「普段はついてないけどラッキーマンになればツキまくりだって言ってたのよ。…それなのに、ついてないままで死んじゃうなんて…」
「…(ラッキーマンがそんなにラッキーなら、首輪も外せたのかもしれない)」
「…ダメだ。野郎、かなり足が速いな。まぁ、遠隔視の範囲もかなり狭められてるから無理もねえがな」
10分ほどして、デスマスクは諦めた顔でそう言った。
「そうですか…じゃあここから離れましょう。さっきの戦いでかなり派手に爆発が起きてたから、誰かやってくるかもしれない。
それにカードの効果がいつまで続くのか分からないし。もしかしたら、ある程度距離が離れたら消えてしまうかもしれない」
「俺もこの場を離れた方がいいと思うぜ。サガのヤツも殺されちまったからな。さっきの男よりも強いヤツがいるかも知れねえ」
香はこの場を離れると言う仙道、デスマスクと行動を共にすることにした。
また、三井が身につけていた兵糧丸はなくなってしまったが、地面においてあった他の荷物は失われずに残った。
「そうだ、デスマスクさん。さっきの戦いで怪我してたみたいすけど平気ですか?」
「…まぁな。さっきくらいのやつがまた襲って来たらヤバイが、歩くくらいなら問題ねえさ」
「そうですか…スイマセン。俺がもう少し早く着いてたら…」
「なに、先に敵を見つけて飛び出してったのは俺だ。気にすんな」
デスマスクは軽く首を振って背を向けると、先に歩き始めた。
仙道、香は三井を埋葬した場所を振り返ると、頭を下げる。
そうして3人は、東京方面へ向かって歩き始めた。
- 101 :再会ならず 7:2005/10/12(水) 21:18:55 ID:rpY1sXyX0
- 一方、先ほどの戦場から程近い樹海沿いの道路。
追手内洋一は、ふらふらと道路を歩いていた。
背中には荷物を、手にはデスノートをしっかりと握り締めているが、その表情はどこか虚ろだ。
「……らっきょ…らっきょ…」
それだけをブツブツと呟きながら、左足を引きずって歩いている。
左足のふくらはぎは火傷を負っているようだ。
どうやら、ダーク・シュナイダーに魔法を撃たれた際、怪我と衝撃でショック状態になり、意識が朦朧としているようだ。
不運なことに、彼は仙道たちとは逆方向へと足を進めていた。
- 102 :再会ならず 8:2005/10/12(水) 21:19:32 ID:rpY1sXyX0
- 【山梨県樹海沿い/午前】
【仙道彰@スラムダンク】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード
「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…未使用
「六芒星の呪縛」…翌日の午前まで使用不可能
[道具]:支給品一式
[思考]:知り合いを探す/首輪を解除できる人を探す
【デスマスク@聖闘士星矢 】
[状態]:そこそこのダメージ(戦闘に若干の支障あり)
[装備]:アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険
アイアンボール×2
[道具]:支給品一式
[思考]:仙道に付き合う
【槇村香@CITY HUNTER】
[状態]:精神的に疲労
[装備]:ウソップパウンド@ONE PIECE
[道具]:荷物一式(食料二人分)
[思考]:海坊主、冴子を探す
メンバー全員の思考:東京方面へ向かう
- 103 :再会ならず 終:2005/10/12(水) 21:20:15 ID:rpY1sXyX0
- 【山梨県樹海沿い/午前】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、左足ふくらはぎ火傷
[装備]:デスノート@DEATH NOTE(次の0時まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料少し消費)
[思考]:らっきょ(朦朧としてます)
【山梨県(樹海からやや離れた地域)/午前】
【ダーク・シュナイダー@バスタード】
[状態]:左腕に銃創、魔力消耗、
『六芒星の呪縛』による攻撃封印(翌日の午前まで)
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:荷物一式(食料二人分、支給品未確認)
[思考]:攻撃できないことに苛立っている
:男は殺す、女はハーレムに加える
:ゲームを脱出して主催者殺害
【三井寿@SLAM DUNK 死亡確認】
【残り…106人】
- 104 :再会ならず 終の修正:2005/10/13(木) 20:10:19 ID:WvNnbQwo0
- 【山梨県樹海沿い/午前】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、左足ふくらはぎ火傷
[装備]:デスノート@DEATH NOTE(次の0時まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料少し消費)
[思考]:らっきょ(朦朧としてます)
【山梨県(樹海からやや離れた地域)/午前】
【ダーク・シュナイダー@バスタード】
[状態]:左腕に銃創、魔力消耗、右腕打撲
『六芒星の呪縛』による攻撃封印(翌日の午前まで)
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:荷物一式(食料二人分、支給品未確認)
[思考]:攻撃できないことに苛立っている
:男は殺す、女はハーレムに加える
:ゲームを脱出して主催者殺害
【三井寿@SLAM DUNK 死亡確認】
【残り…106人】
- 105 :それは人への鎮魂歌:2005/10/14(金) 08:32:43 ID:oRvsE7eaO
- 「何?あれ…」
川の土手を並んで早足に歩いていた一組の男女の内の一人である神谷薫は、遠くに小さく見えるよくわからない謎の塊に目を止めてふと立ち止まった。
「?」
その声に気付いた進は後ろで止まっている薫に顔を向けた後、その視線の方に自らも視線をやる。
「…!?まさか、あれはっっ!!」
突然薫が血相を変え、その塊のある河原へと降りていく。
軽く息を切らせながらそこへとたどり着き、そして見る。
「……焼…死体!?ウッッ!!」
「な…!!?」
それは、無惨にも全身がまっ黒な炭になるまで焼け焦げた…
『元』人間の、成れの果て。
その人型の黒い残骸の凄惨さ、さらには人が焼けた後の独特の異臭に当てられて薫はこみ上げる物を草場の陰に嘔吐し、進は歯を食いしばりながら呆然と立ち尽くす。
「……」
この殺人ゲームに放り込まれてから、既に幼い少女の遺体を目にはしていた。
だがその少女の体は確かに生きた『人間』であった。
しかしこの目の前に存在する物体は…人としての
『顔』『髪』『肌』
それら全てが失われ、人という生物であった名残りを全く残していない。
- 106 :それは人への鎮魂歌:2005/10/14(金) 08:34:16 ID:oRvsE7eaO
-
人としての『かろうじての原型』しか残していないのだ。
一面に漂う鼻に付く異臭さえ無ければ、ただマネキンが焼けただけに思えたかもしれない。
しかし…これは確かに人間である事は間違いない。
辺りには大量の血痕も残されている事から、この人物が凄まじい殺され方をしたのは二人には想像に難くなかった。
「……」
薫は胃の中の物を全て吐き出し終わり未だ血の気を失った青い顔のままだが、それでも確かめずにはいられない万が一の可能性を確認するべく気力を振り絞って遺体へと再び目を向ける。
「…?」
何か言いたげな進の様子にも反応を返さず、遺体の顔をじっと眺める薫。
「…十字傷は無い…顔の輪郭が…斉藤さんとも違うわ」
「……」
「あなたの知り合いとは…どう?」
屈んで遺体の特徴を目で探りながら頭上の進の顔を不安げにちらりと見上げる。
「…違う」
「そう。良かった…と言うべきかしら。この人には悪いけれど…」
二人の知り合いとは違う人物である事を確認し合い、小さくため息を付いた後に遺体に視線を戻して手を合わせて黙祷する薫。
しばらくの無言の時が過ぎた後、薫が目を開けて立ち上がり進に顔を向ける。
- 107 :それは人への鎮魂歌:2005/10/14(金) 08:38:33 ID:oRvsE7eaO
-
「穴…掘るの、手伝ってもらえる?」
「…ああ」
河原の端に二人掛かりで手で小さな穴を掘り『自分がしたい』と自ら申し出て、嫌な顔一つせずに黒い炭と化した遺体を素手で直接小分けにしながら穴へと運び込む薫。
真摯な眼差しでそれを見つめ続ける進は、ふと遺体のあった場所に何かを見つけてそれを手に取る。
「これは…」
「どうしたの?」
「…首輪だ」
それは煙や熱に燻されて真っ黒に変色してはいたが、しっかりと元の形を保ったままである『参加者に付けられている首輪』であった。
「首輪?一緒に埋葬なんてしたらこの人も安らかに眠れないだろうし…捨てた方がいいわよね?」
「……」
進は首輪を握りしめ見つめながら薫の言葉を聞くが、しばらく何かを考えた後に自分のカバンの中にその首輪をしまい込む。
「え?どうして?」
「…一応、だ」
「???」
進の行動の意味がよく理解できない薫だが、ひとまずはあまり気にも止めずに埋葬作業を再会する。
墓と言える程の立派な物ではないが、大きめの石を墓石代わりに乗せて埋葬を終えた後に二人で再び手を合わせ、気持ちも新たに再び東京へ向けて出発する。
- 108 :それは人への鎮魂歌:2005/10/14(金) 08:39:55 ID:oRvsE7eaO
-
首輪を手にした意味。
これから先にまた人の死を目の当たりにする回数。
そして、この先の結末。
まだ何も見えないまま、それでも希望はあると信じて…未来へと向かう為に。
【京都府/午前】
【神谷薫@るろうに剣心】
[状態]:疲労
:肋骨にヒビ
[装備]クライスト@BLACK CAT
[道具]荷物一式(食料・水、一日分消費)
[思考]:自分と進の知り合いとの合流
:東京の神谷道場へ向かう
【進清十郎@アイシールド21】
[状態]:軽い疲労
:右鎖骨にヒビ
[装備]マグナムスチール製のメリケンサック@魁!男塾
[道具]:荷物一式(食料・水、一日分消費)
:焦げた首輪(サガの遺体から入手)
[思考]:自分と薫の知り合いとの合流
:東京の泥門高校へ向かう
- 109 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 13:53:03 ID:KpRY116S0
- 朝の風で頭上の木々がざわめく。
その度に少女、北大路さつきは立ち止まっては真上を見上げ、暫くしてからそれが杞憂である事を理解してはまた東京に向かって歩を進めた。
「防人さん……」
少しぶかぶかな上着をはためかせながら、防人衛の生存を信じ歩き続けた。
自分を救ってくれた戦士。
それがそう簡単に死ぬはずがないと自分に言い聞かせながら。
歩く事で、信じる事でさつきは不安と悲しみを無理矢理忘れ去り身体を動かし続けていた。
がさがさ……
草々が揺れる音に混じって何処か近くから声が聞こえた様な気がした。
「多分、都があるのならこっちの方向の可能性が高いわ。人の集まる所ってのは自ずと中心に出来る物だし」
「へぇ意外。貴方、結構場慣れしているのね」
「まぁね、こうみえても昔から何度も危ない目に付き合わされていたし」
聞き間違いではない、確かに女性の声が聞こえた。
しかも次第に此方に近づいてきている様な気がしないでもない。
「ですが、都に着いたからといって改造できる設備があるんでしょうかねぇ。どうやらこの世界は私のいた世界ともブルマさんがいた世界とも文明のレベルが違うようですしね……」
その声と同時に道の脇に生えていた草々からぬっと男の人の顔だけが伸びてきた。
「おや、これまた可愛いお嬢さんじゃないですか!」
草々から生えた顔のまま視線だけぎょろりと此方に向けその男は声をかけてきた。
「ぁ……」
その顔とさつきは視線を交え固まった。
なまじ衛を期待していたところにその顔が突然現れたのだ。
「きゃぁぁぁぁああ!!!」
さつきは尻餅をつくと、自分が逃げてきた事も忘れその突然の不審者に向かって盛大に悲鳴を上げた。
- 110 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 13:54:42 ID:KpRY116S0
- 「――で、貴方はそのゲームにのった男から逃げてきた訳ね」
「はい」
取り敢えずお互いに今の状況を話し合った。
この状況では名前や自己アピールより、どんな状況に置かれているのかをうち明けた方が大切だからだ。
「取り敢えずこの世界を知っている人がいて助かったわ。私達だけだと勘で進むしかなかったし」
「えぇその位でしたら」
ブルマとリンスはその場で地図を広げあい、このあたりの都市の位置関係を説明して貰った。
「私達は取り敢えずその、一番近い名古屋……だっけに行ってこのレーダーを改造して人捜しをするつもりなんだけど、貴方はどうするの?」
「私は……」
一瞬、そのレーダーさえあれば真中や他の知り合い、そして防人衛の言っていた錬金の戦士達を探すのも楽になると思ったのだが、自分が着ている上着を思い出しその申し出を丁重に断った。
「では、お嬢さん。宜しければそのゲームにのっている男とやらの特徴を教えて貰えませんか?」
急に横からにゅっと現れたかと思うとアビゲイルが首だけを90度捻り、さつきの顔を覗き込むようにして見ていた。
「!!……いや、あの……頭を坊主にした男の人で……」
その顔から逃げるように後ずさりしながらさつきは答えた。
「『魔』って書かれた服を着ていたように覚えています」
「魔?坊主?まさかそれってピッコロ?」
その二つの単語にブルマが反応した。
- 111 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 13:56:15 ID:KpRY116S0
- 「ねぇ、その人って……ううん、兎に角その男って緑色で背が高くなかった?!」
「緑色……では無かったと思います」
「って事はクリリン君かしら?おでこに模様があったとか鼻が無かったとか……」
ブルマが身を乗り出して質問をした。
「いや、そんな人間離れした格好じゃなくて、見た目は若い男の人で……あ、これ位で背が低かったのが特徴です」
「背が低くて、坊主の若い男の人ね……」
「ちょっとブルマ知り合いなの?」
「多分……100人ちょいしかいない中で其処まで特徴が合っているって事は可能性は高いわね。でも何でクリリン君が……」
「この状況に飲まれてゲームにのってしまったとは考えられませんか?」
頭を抱えたブルマにアビゲイルが180度首を回転させ尋ねた。
「いいえ、クリリン君は何か事情があったとしてもそんなことする人じゃないわ……何度も地球を救ってきた戦士だもの。それは私が保証するわ」
予めリンスとアビゲイルに情報交換していたときに元の世界でのクリリンの活躍も話していたのでそれ以上は尋ねてこなかった。
「と言うことは、そっくりな赤の他人か……」
「この子の見間違い、もしくは……」
「クリリン君に個人的な恨みがあって陥れようとして失敗したかのどれかね」
その発言によって場が一瞬で凍り付いた。
どちらかが嘘を言っているか、どちらかの情報が間違えか……
- 112 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 13:56:53 ID:KpRY116S0
- まぁ良いわ。私達はこのゲームにのる気は無いし、貴方を困らせる気もない。そうね、クリリン君の情報を教えて貰ったって事でOKにしておくわ」
その沈黙を破ったのはブルマだった。
「そうね、これからは別行動らしいし大丈夫よね。それよりブルマどうするの?」
「私としてはあてのないパーツ探しは後回しにしても、十中八、九可能性のあるクリリン君を捜したいんだけど……どう?」
「ふむ、確かに婦人二人に対し護衛が一人というのは些か厳しい。この雷神剣をもってすれば大抵の輩は追い払えると思いますが、相手にもまた同等かそれ以上の武器があるとすると……」
リンスもその意見に同意して、まずはこの少女が逃げてきたと言った方向に向かってクリリンを探しに行くことにした。
結局レーダーが完成しても最初に会うのが人殺しの可能性もあるわけで、それなら可能性の高い戦力になる知り合いにまずは会いに行こうと言う事だ。
「――もう、知らないんだから!!」
相手が提示していた可能性は3つ。
しかし、相手が赤の他人や見間違いという可能性を否定していたと言うことは、即ち残りの自分が嘘を語っていると取られたに他ならない。
相手の身を思い忠告したのに、逆に自分が騙していると思われたのだから腹も立つ。
あの3人組がどうなっても知らないと自分に言い聞かせさつきは一人東京に走り出した。
そう、どうなっても知らない……
あの3人が其奴に殺されたとしても。
しかしその重いとは裏腹にさつきの足は次第に遅くなり、遂には止まってしまった。
「防人さん……」
後ろを振り返ると両手を強く握りしめた。
「大丈夫、あの殺人鬼なら防人さんがやっつけて今頃こっちに向かっているはずだから!!」
自分にそう言い聞かせる。
大丈夫なんだ、あの殺人鬼は今頃倒されていて、あの3人組が探していた人とはきっと別人だったんだと。
しかし、それでもさつきの心の中の不安は晴れなかった。
決して衛を信じていないわけではない。
あんな殺人鬼なんて簡単に倒して今頃こっちに向かっているのだ。
だが、もしかしたら劣性になった殺人鬼が逃げ出したりとか……
「真中、ゴメン。少し送れる」
誰に話すともなくそう呟くとさつきは今来た方向へと再び走りだした。
あの3人だって悪い人じゃなかった。
ならもう一度話せば解ってくれるかも知れない。
- 113 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 14:00:54 ID:KpRY116S0
- さつきが走ると共にキャプテンブラボーの上着が揺れる。
「――ブラボーな判断よね……きっと」
さつきには揺れる上着がそうだと頷いているように思えた。
- 114 :揺れる草葉と上着、そして動かざる思い:2005/10/15(土) 14:01:24 ID:KpRY116S0
- 【長野県/午前】
【リンスレット・ウォーカー@BLACK CAT】
[状態]健康
[装備]ベレッタM92(残弾数、予備含め32発)
[道具]荷物一式
[思考]1、トレイン達、協力者を探す
2、ゲームを脱出
【ブルマ@DRAGON BALL】
[状態]健康
[道具]:荷物一式
:ドラゴンレーダー@DRAGON BALL
[思考]1、さつきから聞いた情報を元にクリリンを探す
2、首輪とドライバーのような物を入手し、大きな都市に行ってドラゴンレーダーを改造する
3、ゲームを脱出
【アビゲイル@BASTAD!!】
[状態]健康
[装備]雷神剣@BASTAD!!
[道具]荷物一式
[思考]1、D・S達、協力者を探す
2、ゲームを脱出
【北大路さつき@いちご100%】
[状態]体力消耗
[装備]ブラボーの上着
[道具]荷物一式(支給品未確認、食料少し減少)
[思考]1、3人組がクリリンに会いに行くのを止める
2、東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す&ブラボーを待つ
3、真中淳平を守る
- 115 :起と承と:2005/10/16(日) 19:28:52 ID:kwwszn4e0
-
「成程…悪くないな」
場所は兵庫と滋賀を結ぶ道中、京都府。風情ある街中の一角。一棟の民家の中にその男はいた。
―――死神、藍染惣右介。和室に、あしらえたかのような着物姿。人が見たら、彼の穏やかな風貌と相まって、まるでこの民家自体が
彼のために拵えられたかのような錯覚を受けたことだろう。
新八たちと別れてからしばらく。策が効するのを待つ意味を兼ねて、藍染は呪文を扱うための試行錯誤を重ねていた。
その結果、習得した呪文がマヌーサを含め、三つ。思いついた仮説が一つ。それは。
(使えるようになった初級呪文の傾向から鑑みるに…どうやら、僕の資質は僧侶より…ということになるみたいだね。死神が僧侶とは、皮肉なものだ)
あの時、窮地(というほどでもないが)に陥った自分の逃亡の一助となった”マヌーサ”の呪文。そして、先刻まで負っていた
ダメージをある程度、癒してくれた”ホイミ”の呪文。そして…もう一つ。それは、使用者の速度を増幅させるという…ピオリムの呪文。
(とはいえ、盤古幡で消耗した今、慣れない呪文を使用するのはあまり得策ではないな…外傷は塞げたが、精神力の消耗はそれ以上だ。
マヌーサは鏡花水月で代用できるし、今の時点では鬼道のほうがコストパフォーマンスに優れている)
最も、初級の攻撃呪文である”メラ”でさえ、いまだに種火のひとつも起こせないのだから、呪文が効果を発揮してくれただけでも僥倖というものだろう。
そう藍染は気を取り直し、疲労の残る身体に鞭を打つかのように立ち上がる。と、歌うように言の葉を紡ぎだした。
- 116 :起と承と:2005/10/16(日) 19:30:01 ID:kwwszn4e0
-
「南の心臓 北の瞳」
静謐な空気の中、一つの声が流れ行く。
「西の指先 東の踵(きびす)」
声を発するは男性、藍染惣右介。低く響く言葉は、死神のみが扱える術、鬼道の言霊。
「風持ちて集い 雨払いて散れ」
その声はまるで詩のように。声の主はまるで影のように。
「縛道の五十八、”摑趾追雀”」
「ふむ…、志村君も越前君も順調にやっているようだね。なによりだ」
先程の鬼道、”摑趾追雀”は一度対面した相手を捕捉するための術。男、藍染惣右介は、
「太公望とは別れたようだが…キルア君たちにも大過ないようだし」
その術を連続して使い、
「おや、大蛇丸も京都にいるのか…賑やかなことになりそうだね」
参加者の動向を探っていく。その表情はわが子を見守るかのような慈愛に満ちて。
数秒の後、まるで初めからそこには誰も居なかったかのように、藍染は和室から姿を消した。
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- 117 :起と承と:2005/10/16(日) 19:30:46 ID:kwwszn4e0
-
「一体…あれはなんなの?」
「…・………?!」
男性、進清十郎と女性、神谷薫は思わず自分の目を疑い、自分の正気を疑い、この世界を疑った。
「人が棒に跨って飛んでいるように見えるが」
「偶然ね、私にもそう見えるわ」
埋葬が終わって。進と薫が何気なく空を見上げたとき、最初に目に入ったのがその光景だった。
軽い立ち眩みがする。今までの陰惨な光景とは、180°別な方向…いや、四次元的に捻じ曲がった方向に
常軌を逸した目の前の現実。一体、あれはなんなのか?いや、これは現実なのか?悪い夢ではないのか?
微かに聞こえる高笑い。自分の足元が崩れていくような思いに囚われながら、薫は進に向き直る。
「…どうする?あの人が飛んでいったほうに行ってみる?最短で東京に行くなら、あの方向なんだけど……」
「…・・・…」
進は無言。だが、薫には、表情から彼が何を考えているのか、朧気ながら読み取れた…気がした。
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- 118 :起と承と:2005/10/16(日) 19:31:57 ID:kwwszn4e0
-
「ハハハ、天の高みから美しい町並みを愛でる。これもまたゴージャスだね」
翔る、翔る、天を翔る。翔るは仙人、趙公明。口に頬張るチョココロネ。このような状況下でさえ、優雅さを感じさせるのは
才能か、人徳か、むしろ異能と称すべきものか。
「さて、エレガントでブリリアントな闘いを楽しませてくれそうな、我が好敵手殿はいるかな?」
呟きながら、下界を見回す。無論、チョココロネは咥えたままで。いうまでもなく、優美な気品を身にまといながら。
そして、彼の目に留まったのは、一人の男性。その身のこなしには隙がなく、その眼光に慈悲はなく。
趙公明は含み笑いを漏らすと、その好敵手(暫定)の元へと降り立つために、如意棒を操作する。伸びる方向に少し角度を
つけてやれば、その程度のことなら造作もない。ただし、趙公明にとっては、という注釈は必要だが。
突然目の前に降ってきた趙公明に対して、さして動じた風も見せないその男。その身のこなしに油断なく、その眼光に甘えなく。
はやる気持ちを抑え、趙公明はその好敵手(暫定)に声をかける。
「やぁ、僕の名は趙公明。君の名前はなんだい?」
「僕の名は藍染惣右介。君達の支給品と能力を教えてくれないか?」
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- 119 :起と承と:2005/10/16(日) 19:32:56 ID:kwwszn4e0
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(――おい、どうすんだよ旦那ァ!あの袴野郎、どうみてもこっちに気づいてるぜ!)
(そのようだな)
(――それに、今、空から降ってきたのって趙公明様じゃねーか!ヤバイ、ヤバイって!)
(静かにしろ、飛刀。どうやら、二人ともかなりの実力者のようだ)
(――旦那、今、二人ともって言った?言った?言ったよな?!趙公明様だけでもヤバイのに、あの袴野郎もヤバイってこと?!そうだよな!?)
(それに、二人とも、既に誰かを殺してきたようだ。血の匂いが酷い)
(――逃げよう、脱兎のごとく逃げよう。蝶のように逃げ、蜂のように逃げよう。そうしよう、それがいい、そうしようぜ、旦那ァ!!)
(少し黙っていろ、飛刀)
建物の影、裏路地の奥。ラーメンマンは考える。眼前の二人は、かなりの使い手。しかも、双方ともに既に誰かを殺めている可能性が高い。
野放しにすれば、更なる犠牲者が出るのは確実。だが――
ラーメンマンの脳裏には、惨殺された少女の遺体と髪飾りが浮かび………
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- 120 :起と承と:2005/10/16(日) 19:42:57 ID:kwwszn4e0
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【京都府市街地/午前】
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]:わき腹に軽い負傷。骨一本にひび。中度の疲労(戦闘に軽い支障あり)
[装備]:刀「雪走り」@ONE PIECE 斬魄刀@BLEACH
[道具]:荷物一式(食料二人分(一食分消費))、スーパー宝貝「盤古幡」@封神演技
ウェイバー@ワンピース
[思考]:1.目の前の男、隠れている存在への対処。できれば琵琶湖に向わせたい。
2.琵琶湖へ向かう
3.出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害。特にキメラの翼を求めている。
4.計画の実行
【趙公明@封神演義】
[状態]:左足に軽傷。
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式×2(一食分消費)、神楽の仕込み傘@銀魂
[思考]:1.目の前の男が戦うに足るか確かめる。
2.エレガントな戦いを楽しむ。太公望、カズキを優先。
- 121 :起と承と:2005/10/16(日) 19:45:11 ID:kwwszn4e0
- 【ラーメンマン@キン肉マン】
【状態】健康 、深い悲しみ、強い怒り
【装備】飛刀@封神演義
【道具】荷物一式
*髪飾りの欠片を持っています。所持の理由は以下の通り。
・形見として少女の仲間、家族に届けるため
・殺人犯を見つける手がかりにするため
【思考】1:弱き者を助ける。(危害を加える者、殺人者に対しては容赦しない)
2:正義超人を探す。
3:ゲームの破壊。
【神谷薫@るろうに剣心】
[状態]:疲労:肋骨にヒビ
[装備]クライスト@BLACK CAT
[道具]荷物一式(食料・水、一日分消費)
[思考]1.上空を飛んでいった不可解な男への対処
2.自分と進の知り合いとの合流
3.東京の神谷道場へ向かう
【進清十郎@アイシールド21】
[状態]:軽い疲労:右鎖骨にヒビ
[装備]マグナムスチール製のメリケンサック@魁!男塾
[道具]:荷物一式(食料・水、一日分消費):焦げた首輪(サガの遺体から入手)
[思考]1.上空を飛んでいった不可解な男への対処
2.自分と薫の知り合いとの合流
3.東京の泥門高校へ向かう
- 122 :眠れぬ朝は君のせい:2005/10/18(火) 02:15:34 ID:w8htyn9z0
- ───ボンチューさん強いっすね
(ちがう……!)
───ボンチュー、やっぱオマエ強えなあ
(オレは……アイツを……!)
───やっぱボンチューさんは最強っすよ
(……オレが弱かったから……)
───ボンチューさん十分強いじゃないですか
(助けることが…………できなかったんだ!!!!)
起き上がる。と、同時に体中に電撃のような衝撃が走りまわった。
(う!!……ぐっ………!!)
ひどく……うなされていた。
気が付くと、自分は木の板の床の上に寝かされていたようだ。
この痛みが激戦の後だったということを思い出させる。
(そして……あの緑野郎に打ちのめされた後…たしか妙な格好をした連中に助けられた……)
ボンチューは辺りを見渡す。
自分以外は誰もいない。
蟹座の黄金聖衣はいつのまにか脱げたのか、元の形態に戻って壁際に置いてある。
- 123 :眠れぬ朝は君のせい:2005/10/18(火) 02:16:12 ID:w8htyn9z0
- (……連中は……どこに行ったんだ?)
ただ自分を助けて、さっさとどこかへ移動してしまったのか?
もしやと思い、一番そばにあったドアを開けてみる。やはり誰もいない。
しかし、その部屋の向こう側にテーブルやキッチンのようなものをみつけた。
どうも意識はハッキリしないが、先ほどから、ひどく喉が渇いていた。
戦闘の疲れか、先ほどの夢にうなされたからか…?
とりあえず、今は水が欲しい。
水を飲むためにキッチンへ向かおうとする……だが、まだ全身が悲鳴をあげていた。
(……グッ…!!こりゃ相当やべえな…!!)
体を引きずるように移動し、テーブルの横を奥側にある流し台の水道に手を伸ばす。
少しずつ蛇口をひねる…が、予想に反し、水は一滴もでてこない。
「……!?」
蛇口を全開までひねるも、結果はかわらず水が出てくる気配は一切無かった。
(マジか…!?クソッ……!!)
前のめりに崩れるボンチュー。精神にも疲れがきたしているのか、急に支えを取られたような感覚だった。
たしか支給品に水があった気がしたが、もう体を動かす気力も無く、バッグも見当たらない。
再び眠ろうかと思った、その時だった。
「……おお、目を覚ましていたか」
キッチンの隣にあるドア…おそらく裏口であろう、頭から角を生やした男がのぞいていた。
ボンチューは流し台から再三体を起こそうとするが、やはり力が入らない。
むしろ足の力が抜けていき……その場に倒れこんでしまった。
「ど、どうした!大丈夫か、オイ!?」
床に伏しているボンチューに、その男が駆け寄る。
- 124 :眠れぬ朝は君のせい:2005/10/18(火) 02:16:56 ID:w8htyn9z0
- 「……………みずを………たの…む……………」
うつろな目で、力なくボンチューがつぶやいた
「水か!?」
男は再び裏口を開け、外に置いてあったバッグをとる。
そのバッグからペットボトルを一つ取り出して、ボンチューの口へと運ぶ。
ボンチューはゆっくりと水を飲み──少しずつ、確実に、体中に力が戻ってくるのを感じていた。
「………バッファローマンっていうのか、あんた……すまないな、また世話になっちまった」
改めて椅子にもたれかかった状態からボンチューは小さく会釈をした。
「お前の名前は……ええと、ボンチューだったな。
別に気にすることは無いさ。苦しむ時に助け合うのは当たり前なもんだろ?」
バッファローマンは食料のホイポイカプセルを取り出し、適当にメニューを選り分けていた。
「いろんな場所を探したんだが、とりあえず今のところ食料と水は限られた分しかないらしい。気をつけておけ」
「……ハッ、だからそこの蛇口からはなにも出てこなかった、てことか。小さな骨折り損だな」
少し鼻にかける感じで笑うボンチュー。
「ああ。だが、あの緑の男との戦闘が響いているはずだ。小さくてもあまり無理に動くんじゃないぞ。」
軽くバッファローマンはボンチューに注意を喚起した。
「なあ…ところであの変な鎧をつけた男はどこにいるんだ……?オレが起きた時から見かけてないぞ?」
「変な鎧ってなあ……はじめ会った時のお前も妙な鎧を着けていたじゃねえか」
「あれは……」
返す言葉の無いボンチューを尻目に、バッファローマンはバッグから地図を取り出し、テーブルの上に広げた。
- 125 :眠れぬ朝は君のせい:2005/10/18(火) 02:17:39 ID:w8htyn9z0
- 「……その鎧男は世直しマンという。
ヤツはいま、青森県の北部……下北半島というのか、その北端の方を調べに行っている」
青森県の北側にある2つの半島のうち、バッファローマンは右側の半島を指し示す。
「………なぜそんなところに?」
「やはり、寝ていたから聞こえてなかったんだな。例の放送だ」
ススス、とバッファローマンの巨大な指が北海道の方を指す。
そこには大きなバッテンのマークと『8:00』という文字が書かれていた
「禁止エリアというルールがあったろ?その場所と時間が放送で発表されてな。
それで北海道がほんのちょっと前、禁止エリアになっちまったのさ
つまり、もうこの海を渡って逃げたりすることは出来ねえことになるわけだ」
「……いやいや、だったらなおさらそんなところへ行く必要は無いんじゃねえのか?」
少し身を乗り出すボンチュー。と、バッファローマンは指を立てて、左右にチッチッと小さく振った
「いや、違う。よく考えてみろ、北海道が禁止エリアになった。そうなると北海道にいるやつはどうする?」
こういう考えることは苦手……といった感じにあたまをボリボリと掻くボンチュー。
「そりゃあ…こっちに渡るしかないんじゃねえの?」
「そのとおり。必ずこっちの列島に移ってくるはずなんだ。そこで世直しマンが連中に声をかける。
あいつは今、心を読む機械をもっている。相手の心を読んで敵か味方かの判断をする。
そして味方になりそうなヤツらを交渉をするわけだ。
このゲームにのっているやつがそう多いとは思わんからな。だから今のうちに仲間を増やしておくってわけだ」
バッファローマンは地図上の北海道と青森県の間を指で行き来させる。
しかし、ボンチューはとりわけ「心を読む機械」という単語の方に反応していた。
もはや何でもありということには魔界での戦いで慣れていたつもりだったが……
世界は広い……それを改めて痛感するボンチュー。
- 126 :眠れぬ朝は君のせい:2005/10/18(火) 02:18:18 ID:w8htyn9z0
- 「まあ襲ってくるなら戦う、敵意が無いなら仲間に誘う、そんなところだ。
仮に敵に出会ったとしても、世直しマンはそんな簡単にくたばるヤツではない。あいつの実力はオレも認めるところだ」
「なんでこっち青函トンネルとかいうヤツのほうに行かねえんだ?
普通、そういう奴らは海じゃなくてここを通ってくるんじゃないのか?」
「もちろんそちら側にも回るさ。
ただ、調べるには順番がいる。ならばここから近い方を調べようってことだ。」
「それじゃあ……時間がかかり過ぎねえか?遠回りしなきゃ…」
「その点は心配に及ばねえな。我々は人間とは比にならん体力を持っているのさ。
対岸まで泳ぐなんて朝飯前のもんだぜ」
「帰ってくる時は?相手もそんなに体力あるわけじゃないだろうし」
「その時はちゃんと陸を回ってくるさ。
ここは本物の日本よりかなり狭くなっていやがる。だいたい1時間もすりゃあ帰ってくるだろうよ」
ボンチューの疑問にバッファローマンは次々と答えを返していった。
「さて、ちょっと話を区切るか。ほらとりあえずメシだ、食っとけ食っとけ」
バッグから取り出したカプセルのスイッチを押してボンチューの元に放るバッファローマン。
「BOMB!」と、そこにどんぶりのままのラーメンがでてきた。
そばのバッグからパックに入ったパンを取り、パリッと袋を破る。
「…………」
ふと、箸を握ったまま、ボンチューが静かになった。
「……どうした?少しでも食べておかないと、この先がもたんぞ?」
パンを取り出し、適当なサイズにちぎって食べるバッファローマン。
「あ、ああ………」
(猫舌とは……言えねえ……)
ボンチューはラーメンを必死に冷まそうと、息をフーフー吹きつづけていた。
- 127 :眠れぬ朝は君のせい・前編:2005/10/18(火) 02:20:37 ID:w8htyn9z0
- 「それと食べながらでいい、ちょいとこいつを見てくれ」
バッファローマンはテーブルの中心に紙を広げた。
なかなか食べられずにいるラーメンと格闘しながら視線をうつすボンチュー。
それはバッファローマンの名前を確認する時に自分も見た参加者一覧の紙。
ただ自分のソレと違うのは、所々名前のところに横線や注意書きのようなものが記されているのだ。
「放送で発表された死亡者には横線を入れてあるんだ。
その中に……自分の知り合いがいるかどうか、確認してくれないか?」
「お、おう……」
そう言われ、ボンチューは咀嚼しながら一覧をながめた。
(………たけし…マミー………んー……二人とも無事みたいだな。)
強敵(とも)の無事を確認し、少し安心するボンチュー。
自分も化け物に殺されかけていたのだ。
あの二人だとしても、必ずしも生き延びてるとは思えなかっただけ、少しばかりの嬉々だった
───ただ、自分の隣にあった「ゴン蔵」にも横線が引かれていたのだが……
ボンチューは「誰だコイツ?」という感じで、気にすら留めていなかった。
「俺の仲間達は無事だった。当たり前だがな。
ただ……まあ、世直しマンの知り合いが一人やられていたそうだ。それもかなりの実力者だったそうだがな」
バッファローマンの言葉を聞きながら、ボンチューはペットボトルの水を口に含む。
「オレのツレも無事みたいだ。そいつはもうしまっていいぜ」
ゴン蔵のことはまったく頭の中に無い様子のボンチュー。
バッファローマンは「そうか」と頷き、一覧をたたんでさっさとバッグにしまった。
- 128 :眠れぬ朝は君のせい・前編:2005/10/18(火) 02:21:34 ID:w8htyn9z0
- 「さて、おれはちょっと出かけることにするぜ。
どうも日本は慣れねえからな……ここらへんをまだ調べなきゃならねえ」
のっそりと椅子から立ち上がり、バッファローマンはパンをまたむしった。
「それと、お前はまだ安静にしとけよ!まだ動ける体じゃねえんだからな!」
さっきまでの口調より、ひとしきり大きな声でボンチューを注意した。
ちぎったパンをもしゃもしゃと食べ、ペットボトルの水を一口だけ飲んだ。
「……ああ、ちゃんとここに残っとくわ。おれもだいぶ調子がよくなった。
もう少し休めばオレも十分動けるようになるだろ。その時は力になってみせるから頼りにしてくれや…!」
ボンチューはいつもの威勢も取り戻し、自身たっぷりの口ぶりで言った。
「ハハハ そいつは頼もしい……………??」
バッファローマンは窓の外を覗いた、そしてそこに何者かの人影が見えた。
「あれは……世直しマンか?」
目を見開き、遠くを凝視するバッファローマン。
「お?」
同じく窓に視線を移すボンチュー。
確かに遠くに見えるのは、自分を助けてくれた時に見た鎧の男、世直しマンだった。
悠然とした面持ちで、ずんずんこちらに歩いてきている。
だが、前に見た時と微妙に違うシルエット。
その肩には…ぐったりとして担がれる、黒髪の少女の姿があった。
- 129 :眠れぬ朝は君のせい・前編:2005/10/18(火) 02:22:13 ID:w8htyn9z0
- 【青森県/午前】
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし】
[状態]ダメージ大、睡眠中
[装備]なし
[道具]荷物一式、蟹座の黄金聖衣(元の形態)@聖闘士星矢
[思考]:一刻も早く体調を回復させる
【世直しマン@とってもラッキーマン】
[状態]健康
[装備]:世直しマンの鎧@ラッキーマン
:読心マシーン@ラッキーマン
[道具]荷物一式
[思考]:?
【バッファローマン@キン肉マン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]荷物一式
[思考]:世直しマンの連れてきた少女が気になる
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:右腕に軽度の火傷、気絶中?
[装備]:コルトパイソン357マグナム 残弾21発@City Hunter
[道具]:荷物一式 ・遊戯王カード(青眼の白龍・次の0時まで使用不可)@遊戯王
[思考]:?
- 130 :迷走の交錯:2005/10/22(土) 23:37:31 ID:zDgUT15FO
-
「へー、んな事やってんのか!掃除屋かぁ…ま、オレも前は似たような事やらされてたからな。ある意味似た者同士って感じだな、オレらは」
「似たような事?幽助も賞金稼ぎしてたのか?」
「んー…賞金稼ぎとは違うけどな。霊界探偵って言ってよ、大抵の仕事は悪い妖怪をふん捕まえたり退治したり、だ。
ま…トレインのやってる事と大差ねぇよ」
「レーカイ探偵?ヨーカイ??聞いた事ねー言葉だらけだぜ」
「オレも聞いた事無ぇ言葉ばっかだよ。クロノスだとかタオだとか。国とか地名もお互いサッパリ知らねー名前のばっかだし、やっぱ違う世界っつーか星っつーか…
とにかく異世界の住人て事になるみたいだな…」
「みたいだな。幽助の言うニホン語って言葉はもちろん俺知らねーし、だったら幽助も俺の世界の言葉なんて知るはずも無いのに…フツーに言葉通じてるのは謎だけどな」
「多分あのいけすかねぇバーンてジジイの仕業なんだろ。こんな事やる目的なんざ知らねぇが、不愉快極まりねぇぜ…!」
「やっぱ気が合うな。俺も同じ意見だ」
幽助とトレインは出会って行動を共にするようになってから今まで、ずっとお互いの事を事細かにいろいろ話している内にすっかり意気投合していた。
まだ生きていると思われる互いの仲間を探すため人の気配を探しながら、しかしそれと共に無駄な戦いは避けるために気配を極力殺しながら慎重に歩を進めている。
- 131 :迷走の交錯:2005/10/22(土) 23:40:02 ID:zDgUT15FO
-
「…?」
「ん?どうした?」
幽助がふと足を止めて右方向辺りに顔を向ける。
「……」
「もしかして誰かいるのか?」
「…のよーな気がしたが……ま、多分気のせいだ」
「仕事柄、俺も人の気配には敏感な方だけど…近くには全く気配なんて感じないぞ?一応行ってみるか?」
「いや、近くじゃねーんだけど……んー、そうだな。行ってみようぜ!」
幽助はトレインの言葉を聞いてポリポリと頭を掻き、二人は右へと進路を変える。
「…うーん…もしかして、完全に見失っちゃったのかなぁ…」
心細げに辺りを見回し、途方に暮れた様子でため息をつきながらも…とぼとぼと歩き続ける女性、真崎杏子は誰に向ける訳でもなく小さく独り言を呟く。
「…脚、痛いな…」
呟く。誰に向ける訳でもなく。
歩みを止める事もなく。
「…早く会いたいよ…」
呟く。会いたい人達全てに向けて。
「…遊戯…海馬君…泥棒さん…」
呟く。声に出せば距離が近くなる気がして。
漠然とした不安の心と小さくとも確かな勇気の心を携えつつ、真崎杏子は歩き続ける。
- 132 :迷走の交錯:2005/10/22(土) 23:43:35 ID:zDgUT15FO
-
「……!」
気の間を縫うように早足で森を駆ける一人の男は周囲にいくつか点在する複数の気配を察知して足を止める。
(…二人?いや、さらにもう一人…。三人か)
男――クロロ・ルシルフルは、冷静かつ瞬時に思考を巡らせる。
(二人組の方は…複数行動だと言う事はおそらくゲームに乗っていない可能性が高い。
奴らの進路を見ると…このまま出会って合流してもおかしくは無いだろうな。)
この世界では不思議な制限を強いられているため『円』を広範囲に展開して周囲の詳細を探る事も叶わない。
クロロは目にオーラを集める『凝』で人の放つオーラを遠距離から見通しながら思考にふける。
(三対一でも負けない自信は有る。しかし…現状やこの先の事を考えるなら得策では無いな。単独の奴のオーラを見る限り、大した奴でも無い…三つ巴の戦いになったとしても、実質二対一…)
襲撃して能力やアイテムを盗もうにも、アイテムはともかく能力の方は複数が相手では難しくなる。
様々な可能性を考慮するも、結論は一つに絞られた。
今は関わるまい、との意を決して道を引き返そうと体の向きを変えて立ち去ろうと足を踏み出すが――
(……いや、待て。盗めるのは能力や物だけでは無い。『情報』も欲しい。
三人もいるならば、もしかすると下手なアイテムや能力等よりも貴重な物が得られるかもしれないな…)
- 133 :迷走の交錯:2005/10/22(土) 23:44:46 ID:zDgUT15FO
-
現状ではこの世界の事も他の世界の事も、何一つ分からない。
情報は何より貴重だ。
クロロは小さく口元に笑みを浮かべると、再び体の向きを変えて二組の進路が交錯するであろう地点へと足を向ける。
木の影に差し掛かり冷静冷酷な面持ちのまま歩きながら少し両目を瞑り…
少しして目を開けた時、そこには気の良さそうな青年の笑顔を携えたクロロの姿が陽の光の元に有った。
能力も、アイテムも、食料も…
情報さえも、盗むために。
- 134 :迷走の交錯:2005/10/22(土) 23:45:40 ID:zDgUT15FO
-
【栃木県/午前】
【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[状態]左腕に軽傷
[装備]ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾二発)
[道具]荷物一式
[思考]1:スヴェン、イヴ、リンスを探す
2:幽助に協力する
3:ゲームからの脱出
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]健康(頭部軽ダメージはほぼ完治)
[装備]新・無敵鉄甲(右腕用)@るろうに剣心
[道具]荷物一式
[思考]1:桑原、飛影を探す
2:トレインな協力する
3:ゲームからの脱出
【真崎杏子@遊戯王】
[状態]歩き疲れ
[道具]無し
[思考]1:ロビンを追う
2:遊戯、海馬を探す
3:ゲームを脱出
【クロロ・ルシルフル@ハンター×ハンター】
[状態]:健康
[道具]荷物一式(支給品不明)
[思考]能力、アイテム、情報などを盗む
[盗賊の極意]:予見眼(ヴィジョン・アイ)
- 135 :甘い果実:2005/10/23(日) 00:48:03 ID:pozBi+rW0
- 「あ、あの……ブチャラティさんもうそろそろ良いでしょうか?」
「ん……あぁそうだったな別にもう振り向いて貰っても構わない」
そう言いながらブチャラティと呼ばれた男が茂みの奧から戻ってきた。
晴子は何があったのかを尋ねようとしたのだが、戻ってきたブチャラティが片手に持った首輪を見てその先に何があったのかを悟った。
「少々待たせてしまったようだな。さて再び移動を……いや、少し休憩させてくれ」
そう言ってその首輪を丁寧にバックの中にしまい込み、ブチャラティはその場で腰を落とした。
- 136 :甘い果実2:2005/10/23(日) 00:48:37 ID:pozBi+rW0
- そうして何分が経ったであろうか。
ブチャラティは一人で何かをぶつぶつ呟きながら考え込んでいた。
ギャング時代に何度も嗅ぎ慣れた鼻につく臭い――血液の臭いに気が付き、戦闘中かも知れないし、罠かも知れないので少女をその場に置いて現場を見に行ってみた。
案の定其処には太った女性の死体が転がっていた。
死因は恐らく短めの刃物による心臓への刺突。
それによるショック死、もしくは出血多量による死に思われる。
どちらにせよその死体――ヂェーンが生き返らせることはない。
それで初めてこの場所に来てから考えていた案を実行に移した。
それはスティッキィ・フィンガーズによる身体と首輪の分離。
首輪さえ外してしまえば主催者から脅される条件が半分に減る。
残りの半分の条件は『元の世界に戻さない』だが、それは主催者を倒してから考えれば済む事だ。
少なくてもその脅しは命を握られている今より、主催者を倒すときの大きな障害になるとは考えられなかった。
だが、どうしても自分の首輪を分離させることには抵抗を感じた。
それは自分の能力があまりにも都合が良すぎたからである。
自分がもしも主催者側ならこんな能力を持った奴を参加させる気にはならない。
つまりは分が悪すぎる賭なのだ。
首輪自体に能力を使った場合それを感知して爆発でもする仕掛けでもされていたら終わりだ。
だったら、人自身の首をスティッキィ・フィンガーズで分離させて、首輪を外してから再びくっつけてはどうだろうか?
だが、それでもまだ不安要素はあった。
放送では主催者側が此方の生死を――そして死因すらも完全に把握していたみたいであった。
ならば、その生死を判別する方法としてはこの外れない首輪が一番最適なのでは無いだろうか?
そうするとこの首輪が生死を判断できると言うことになる。
しかしその判断条件が解らない。
体温や心臓の鼓動かもしれないし、もしかするとナランチャみたいに二酸化炭素濃度で判断しているかも知れない。
それに最悪それらの生死の判断が送られた場合管理者側がなんかしらの手口でその場所を監視しているかも知れない。
長くなったがつまり結論は答えを絞れない状態で首輪を取るのは自殺行為に等しいと言うことだった。
- 137 :甘い果実3:2005/10/23(日) 00:50:28 ID:pozBi+rW0
- だが行動しなくては何も始まらない。
丁度死体も見つけられたのだし、自分は死ぬ覚悟ならとうの昔からしている。
死体からの首輪を取るという行為自体には躊躇はない。
生き残るため、そしてこの無意味な争いを止める為――そして主催者を倒す為には必要な行為なのだから。
死体だと不安材料も格段に少なくなる上に、少女が離れているので最悪でも爆発に巻き込まずに済む。
自分の躊躇いからみすみすチャンスを見過ごすのは勿体ない。
それで決意して行動を起こし、死体からは無事首輪を外すことが出来た。
そして死体から首輪を回収できたことによって幾つかの不安材料は消えたのだが……
- 138 :甘い果実4:2005/10/23(日) 00:51:35 ID:pozBi+rW0
- 「――オレ自身のも試してみるか」
不安材料も減り、確証は得られずとも成功の可能性だってそれなりにはある。
首輪自体に能力を使わず人体に使えばいいのだ。
生きている人体への能力仕様で爆発するのなら自分の様なスタンド使いや最初に殺された男の様なのがまともに戦えなくなる。
それは殺し合いを促している主催者の意図からずれるだろうから、爆発する可能性は低い。
いつかは生きている人から首輪を取らなくてはいけないのなら早めに行動をするに超したことはないのだ。
ならば決断は――
「あの……」
「ん?あぁ、もう休憩は十分だ」
晴子の声によって思考の海から解放されたブチャラティは返事を返しながら立ち上がった。
「あの……大丈夫……でしょうか?何か悩みごとがあるのでしたら……」
「大丈夫、君が気にする必要はない。オレ自身でしか解決できない問題だ」
そう、これはスティッキィ・フィンガーズを操れる自分にしか出来ない問題だ。
多少きつく突っぱね過ぎたかも知れないが、自分とは違う世界を見て生きてきた少女を巻き込む問題では無いのだから……。
「――『年齢』も、『性別』も、『人種』すら違うようだが……、その三つの点で、俺と君は『同一』だ……」
俯いた少女の口から紡がれたのはかつて自分が口にした言葉。
「同一なら、同じ目的を持つのなら……少しくらい悩みを聞かせてくれてもいいかな……って」
「――同じ目的か……」
その単語を自分の胸の中で反芻して飲み込んだ。
「ならば君をこれからファミリーだと思って扱おう」
「ファ、ファミリー……ギャングの……ですか?」
目を白黒させている晴子に取り敢えず今まで考えていたことを掻い摘んで説明した。
首輪さえ取れれば無駄な殺し合いをせずに済む事。
死体からは首輪が自分の能力で外す事に成功した事。
生きた人間で試して初めて成功だと言う事。
自分の能力なら生きたまま首を外してまた付けることも可能だと言う事。
- 139 :甘い果実5:2005/10/23(日) 01:03:11 ID:pozBi+rW0
- 「――そして、オレがまず自分の首輪で試してみる」
ブチャラティはそのまま自分の手を首に持っていく。
「失敗したらいけないからキミは下がっているんだ。そして爆発してしまった場合はその結果と今説明した事からこの首輪の法則を見つけだしてくれ」
「待って!!」
晴子は咄嗟にブチャラティの手にしがみついて止めようとする。
「勿論オレも死ぬ気はない。最悪の場合を話しただけだ」
晴子の瞳をじっと見つめながらブチャラティは続ける。
「元の世界に戻るためには遅かれ早かれ通らなくてはいけない道だ」
「――本当に……それで生きて帰れるんですよね?私もブチャラティさんも、そしてみんなも……」
「勿論だ」
その言葉を聞いた晴子は掴んでいたブチャラティの手を自分の首に持っていってこう言った。
「なら、私の首輪をまず解除して下さい」
「君はこの島に会いたい人がいるのだろう」
「でも……生きたまま首輪を外せる可能性が高いなら……私でも出来ますよね」
「だが高いと言っても100%じゃない。オレは最悪の場合でも覚悟が出来ているが、君は違う」
「――確かに私は怖い、怖いです!足だって震えていて……こうやって立つのも精一杯です。でも、ブチャラティさんに死んで欲しくないんです」
震える唇から精一杯言葉を紡ぎ出す。
「それに……ブチャラティさんが失敗したら誰がみんなの首輪を外せるんでしょうか?」
ブチャラティの手を放すまいとして握る手に一段と力を込めながら言った。
「私は……覚悟とかは出来ないと思うけど……ブチャラティさんが死なないと言ってくれれば、それを信じることなら出来ます」
「――オレにはこの島で失うモノがない」
「でも、ブチャラティさんにしか……その能力は使えないと思います」
「――」
「大丈夫、成功すると一言言ってくれれば、私はそれを信じます」
- 140 :甘い果実6:2005/10/23(日) 01:03:59 ID:pozBi+rW0
- 嫌な予感がしていた。
こうやっている間にもこの島の至る所で殺し合いが起きている。
幸い前の放送では知り合いはいなかったが、それでも人が死んでいると言う事実だけでも嫌になる。
もしかしたら知らないだけで今頃は自分の知り合いが巻き込まれているかも知れない。
私達は普通の人間。
殺し合いに巻き込まれたら一溜まりもない。
晴子は嫌な胸騒ぎを感じ焦っていた。
(流川君……)
だが、その頃既に知り合いの一人が亡くなっていたと言う事実を晴子は知る由もなかった。
「私は――私に出来るのなら、早く戦いを止めてみんなと一緒に帰りたいです」
「この話は無かった事にしよう。東京に行って君の知り合いを捜してからでも遅くはない」
そう言って手を引っ込めようとしたが、より一層強く握りしめられた。
「――」
ブチャラティは晴子を説得しようとしたが、自分を見つめる2つの瞳が彼女の気持ちを代弁していた。
- 141 :甘い果実7:2005/10/23(日) 01:04:43 ID:pozBi+rW0
- ――能力を使うことで起爆する可能性はないのか?
いや、人体への能力使用だけなら爆発はする事はまずない。
――人体からの離別による起爆は?
死体から首輪は外せた。それ単体での理由はあり得ない。
――生体反応を感知して、反応有りの場合外すと起爆するのか?
その可能性は思いうかぶ可能性の中で一番高い。
――ならばその生存反応の判別方法とは?
体温や二酸化炭素濃度では自然現象によって左右されやすい。ならば……
「――心拍数」
再度自問自答して得られた答えはそれ。
それならば全ての答えに説明が付く。
頭と首を胴体から外してしまえば首からは心拍数が感じられなくなる。
そう、それなら……
「――了解した。安心して任せてくれたまえ」
その言葉を聞き晴子は握りしめていたブチャラティの手を放し、静かに目を閉じ座り込んだ。
その座り込んだ彼女の首にブチャラティが再度手を伸ばす。
これで、数時間続いた無意味な争いもひとまず落ち着かせることが出来る。
そう思いつつブチャラティはそのまま手を横に奔らせた。
- 142 :甘い果実8:2005/10/23(日) 01:07:56 ID:pozBi+rW0
- 「おい、一寸止まれ。血の臭いがする」
片手を横に広げ、後ろから付いてくる友情マンと桑原和馬名を静止させた。
「おい、マジかよ!!そいつは大丈夫なのか?!」
「――臭いがするって事は相当流血が流れてるって事だ。自殺にしろ殺されたにしろ、其奴はまず死んでるな」
そう言って忍者マスターガラは臭いを嗅ぎ出した。
「あちらの方向か……。どうする?」
「他に人がいるかも知れないってなら行くしかないだろ」
「そうですね……。殺された人ってのが悪人って可能性もありますし、そうすると桑原くんが探していた浦飯くんや飛影くんだったって可能性も出ますね。ただ逆の場合……」
逆の場合、つまり悪人が人を殺して、そのまままだ近くにいるという可能性だ。
「――ガラくん、もし宜しければ危険かどうかだけでも確認してきて貰えませんか?」
「ん〜、確かにそれだけなら俺が動くのが早いかもな。んじゃちと行って来るわ」
そう言うが早いか友情マン達の目の前からはガラの姿、気配を消していた。
「ガラくん危険だと思ったら直ぐ戻ってきてくれればいいのですが……」
友情マンは本心からそう呟いた。
勿論、此処でガラみたいな強い友達を失いたくなかったし、危険なら巻き込まれたく無いのでいち早くこの場を離れたいと言う本音も隠されていたのだが。
- 143 :甘い果実9:2005/10/23(日) 01:08:42 ID:pozBi+rW0
- (――戦闘力もなさそうな女の心臓を一突きか……えげつねぇ)
風に乗ってくる血の臭いを辿ると難なく殺人現場へ着く事が出来た。
(血の具合、肌の色、死斑、死後硬直の具合から察するに既に2〜3時間以上は過ぎてるな……)
犯人が近くにいるかも知れないので気配を殺しながら死体を調べてガラはそう判断した。
(――首輪が無い?外す方法でもあるのか?)
首は身体に繋がったまま首輪だけが消えて死んでいる。
(ま、考えても仕方ねぇか。使えそうな道具も……ねぇな)
少しばかり考えてみたが自分にはその方法が思い浮かばない。
自分のも外せるのかと思ったが変に触って爆発されても困るので、それ以上は考えるのを止めた。
変なボールが転がっていたが犯人も放置して行く位の代物なのだろう。
この場にいてもこれ以上の収穫はないと判断してそのまま場を去ろうとしたが、少し離れた場所からふと男の声が耳に入った。
どうやら殺し合いをしている様子では無かったが、この近くにいるということは犯人の可能性も高い。
気配を完全に殺し、忍者マスターガラはその場所に忍び寄った。
そして、茂みに隠れながらその場を覗く――すると其処には座り目を瞑った女性の首に手を伸ばしたおかっぱ頭の男が……
(首……首輪!?奴が!!)
首に手を伸ばした男と消えた死体の首輪。
ガラの中で疑問だったモノが解れていく。
(奴が犯人か!!)
ガラの頭の中でそう答えを弾き出した時と目の前の男の手が横に奔った時間は同じだった。
――閃光が奔る。
状況を判断する為ガラはちかちかする目を凝らした。
目に風景が映る前に飛び込んできたのは嗅ぎ慣れた何かを焦がした様な臭い。
それだけで何が起こったのかは理解は出来た。
そしてようやく元に慣れた目を凝らした先に映った風景は、肩口から手が消し飛ばされてはいたが、元いた場所とは違う場所に棒立ちになっている男の姿だった。
- 144 :甘い果実10:2005/10/23(日) 01:14:29 ID:pozBi+rW0
- ブチャラティは呆然としたまま立っていた。
色んな疑問が頭の中に飛び込んできて全く状況の整理が出来ない。
――痛い。
自分の推理は外れていたのか?
――痛い。
目の前の少女はどうなったのか?
――右上半身が焼けるように痛い。
そしてどうして自分は生きているのか?
――いた……
ノイズを訴えてくる右肩の先をばっさりとスティッキィ・フィンガーズで分断する。
浮かび上がる可能性と残ったノイズを次々と業務整理のように冷め始めた理性が否定していく。
そして残った答えはどうやら自分は失敗したらしいと言うことだった。
光にやられ浮かばない筈の風景に映るのは、自分を信じて静かに目を閉じた晴子の顔。
それを自分のミスで消し飛ばしてしまった。
なのに自分自身は本能が危機を察知して無意識の内にもう片方の腕でスティッキィ・フィンガーズを使用し地面を弛ませ、爆発が肩口に届く瞬間には爆発の届かない所まで逃げていた。
そんな瞬間的に危機を察知して反応できたのに、何故能力使用する前に察知できなかったのであろうか。
それが出来なかった自分自身が悔しく、情けなかった。
- 145 :甘い果実11:2005/10/23(日) 01:15:37 ID:pozBi+rW0
- 「――貴様が殺人犯……か。悪いが優勝するにも脱出するにも邪魔になりそうなんでな――死んで貰おうか!」
相手がどうやって助かったのかは解らない。
だが相手は重傷で武器もぱっと見見あたらない。
ならば、今の内に畳みかけるのが得策だろう。
ガラは斬魄刀を構え、今だ棒立ちの相手を見据えた。
首輪という何もしなければなんと言うことはない単なる反ゲームへの抑止力。
しかしそれに幾重にも人々の推察が交差すると、時にそれは強大なトラップになる。
全ての人の首にぶら下げられた甘い果実の誘惑。
だが、禁断の実を手にした者はエデンの園――この島から死という形で追放される。
しかしそのトラップの脅威はまだ終わりそうにない。
【赤木晴子@SLAM DUNK 死亡確認】
【残り…105人】
【宮城県(海岸線添いの道)/午前】
- 146 :甘い果実12:2005/10/23(日) 01:16:37 ID:pozBi+rW0
- 【友情マン@ラッキーマン】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、千本ナイフ、光の封札剣、落とし穴)
[道具]:荷物一式、ペドロの荷物一式、食料セット(十数日分、ラーメン類品切れ)、青酸カリ。
[思考]:1.様子を見に行ったガラを待つ。
2.強い者と友達になる。ヨーコ優先。
3.最後の一人になる。
【桑原和馬名@幽遊白書】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1.様子を見に行ったガラを待つ。
2.ピッコロを倒す仲間を集める。浦飯と飛影を優先。
3.ゲームを脱出する。
【ガラ@バスタード】
[状態]:健康、満腹
[装備]:斬魄刀
[道具]:荷物一式(食料一食分消費、水無し)
[思考]:1.目の前の殺人鬼(思いこみ)を倒す
2.とりあえず友情マンについて行き、ラッキーマンのラッキーを拝んでみる。
3.脱出と優勝、面白そうな方に乗る。
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肩から下消失(現在は傷口を分断させることによって痛覚カット)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]:1.茫然自失
- 147 :ギャンブル:2005/10/25(火) 15:35:16 ID:bxEfwTls0
- ここはバトルロワイアルの始まりとなった場所、大広間。
「誰に賭けました…?」
「はっ?」
ふいの言葉に驚いた顔で澤井良夫は傍らの富樫義博を見る。
「誰に賭けたかって聞いてるんです!」
明らかに苛立った声で富樫は問い返す。
はっと我に返り、自分でもやりすぎかとも思える精一杯の作り笑顔で澤田は答える。
「あ、ええと…。僕は道化のバギーに賭けましたよ」
「そうなんですか…いくらで?」
小馬鹿にしたような口調で富樫は続ける。
「いくら負けたんです?」
「…………5万円です…負けてしまいました」
しばしの沈黙の後、澤田は笑いながら答えた。
しかし性格柄か、苦々しげな口調の中にも、その声には独特の「ストイックさ」があった。
「それじゃ、ちゃんと負け分はうちの担当の方に払っておいてくださいね」
ああそう、となんの興味も無さそうに富樫はぽつり、と付け加えた。
この守銭奴めが…言葉にはしないが、そう呟く澤田の心の中は、ツヤなしの漆黒の色で覆われていた。
- 148 :ギャンブル:2005/10/25(火) 15:40:01 ID:bxEfwTls0
- その日、澤田良夫は朝から気分が悪かった。
大広間のVIP席には、十数人の男がいた。
目の前の二つのスクリーンとライトは煌々と灯っている。
二人の男はスクリーンの巨大モニターを見ていた。
とてつもない大きさのモニターに縮小された日本のマップと参加者達のレート、
そしてl駒であるジャンプキャラ達の生存を示すランプがぼんやりと灯っている。
そのランプを見上げ、澤田は激しく怒っていた。
ちくしょう、バギーのバカが!初日でやられてるんじゃないよ!
楽しみがもう無くなったじゃねーか!それに富樫番かよ!
まったく!「たまには澤田くんとゆっくり語り合いたいんですよ」だと!?ふざけんな!
- 149 :ギャンブル:2005/10/25(火) 15:45:25 ID:bxEfwTls0
- 怒るのは無理もないことだった。
このバトルロワイアルの一番の働き者、影の功労者は彼、澤田良夫だった。
大魔王バーンに渡す定時のアナウンスの為の情報、ワガママで知られる富樫義博の相手、
ジャンプの漫画家(賭)向けの実況…
一日ほとんど休み無く働き、疲労困憊していた。
今からちょうど30分前まではバトルロアイアルの参加者、
つまり駒の賭けをしている先輩漫画家相手に「倍率ドン!」と言っていたところだ。
よくよく考えると、プログラム開始の3時間前から一睡もしていなかった。
そこへきて初日のバギー、だ。
こんな過酷な状況の中では、ギャンブルぐらいしか楽しみは無い。
それが始まって一時間もしない内に、楽しみが無くなってしまった。
- 150 :ギャンブル:2005/10/25(火) 15:57:50 ID:bxEfwTls0
- バカ野郎バギー、なにやってんだ!5万返せ!
クソ、富樫の強突張りが!全部あいつの一人勝ちじゃねーか!連載伸びたくらいでキレんな!
漫画家やバーン達の前では決して見せられない口汚い言葉で、死んでいったバギーを罵る。
無論、心の中で。
こういうタイプは意外とずっと物陰で隠れていて、一番最後まで生き残りそうだと思ったのに。
死んだ者に対して罵ったところで5万円が帰ってくるはずも無いが、そう叫ばざるを得なかった。
何よりも、澤田が最も怒りを感じていたのは、今横に座っている男、富樫だった。
このバトルロアイアルが、この男のただの私怨から始まったこと、
この賭けが、この男の懐が温まるようにできていること、
それに対してこの賭けが、自分に対して何の利益も与えてはくれないこと、
自分がこんなにも働いているのに、こんなに頑張ってるのに、
目の前の男は何もせず、ただ座っているだけで莫大な利益を上げているなんて…。
富樫様と呼ばれるこの男があまりに自分と年が離れているのも澤田の癪に障った。
報われぬ苦労と、その元凶に愛想を振り撒く自分に苛立ち、作り笑顔がぎくしゃくする。
くそ!くそ!くそ!
心の底から涌き出る呪いの言葉を吐きながら、澤田は笑顔で睨んでいた。
- 151 :ギャンブル:2005/10/25(火) 15:58:43 ID:bxEfwTls0
- そのとき不意に富樫の口が開いた。
「ねえ、澤田くん、誰に賭けました…?」
ふん、俗物が。
笑顔で取り繕う澤田を富樫は露骨に嘲笑していた。
隠すこともない。どうせこの小物は僕にへつらうしか道はないのだ。
内心どうであろうと関係ない。それが力という物の本質だ。
勿論、敢えて澤田をいびる必要もなかった。
しかし、必死に不快感を隠そうとする澤田の姿を見るのは愉快だった。
これで多少は鬱憤が晴れるという物だ。
だけど…やっぱり、こんな小物では足らないよ。もっと、もっとだ。
僕の意に背いた週間少年ジャンプという組織が必死にもがいて、もがいて、もがき抜いて、
そしてそれが徒労に終わった時・・
その絶望と恨みこそが、僕を最高の愉悦に導いてくれる。
もがけ、もがけ、ジャンプキャラども。せいぜい派手に散るがいい。
あまりに壮絶な笑みを浮かべる富樫に、澤田は先程届いた
鳥山からのレポートを渡せず凍り付いていた。
- 152 :作者の都合により名無しです:2005/10/25(火) 16:03:17 ID:jnHRuKOp0
- >>147-151は当たり前な話だが無効です。
- 153 :ギャンブル:2005/10/25(火) 16:06:50 ID:bxEfwTls0
- 【富樫義博@漫画家】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:なし
[思考]:1.賭けを楽しむ
【澤田良夫@漫画家】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]: なし
[思考]:1.雑用として特別に賭けに参加。
- 154 :作者の都合により名無しです:2005/10/25(火) 17:15:07 ID:UqOStMup0
- sage
- 155 :作者の都合により名無しです:2005/10/25(火) 17:52:06 ID:X1YkA7en0
- 澤田良夫なんて漫画家いたっけ?
- 156 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:35:27 ID:8Zmt6fJhO
-
「むーん、良い日和だ。絶好のスカウト日和だね」
その呼び名の通りの三日月型の顔に満面の笑みを浮かべながら、ムーンフェイスことルナール・ニコラエフは白いマンションの屋上から顔だけ縁から覗かせて双眼鏡で辺りを見回していた。
見張りを始めて二時間、今の所誰の姿も確認は出来ていない。
「場所が悪いのかな?むん…」
少し三日月を斜めに傾けて苦笑いを浮かべ、腕を組み目を閉じる。
しかし気を取り直して再び双眼鏡に目を通し、前方の三叉路にそれを向ける。
(確か朝の時点で残り112人、仮に朝から今までに10人程脱落していたとして残り100人程。一県につき2〜3人の計算になるね。むーん…運が絡むとはいえ、なかなか人が通らなくとも当然か)
何の収穫が無くとも依然辛抱強く監視を続ける。
それが自分に与えられた任務であり命令だから。
Lという名の太陽の光を受け、月は光輝き美しく幻想的に満ち欠けする。
彼ならば自分を彩る陽になれる。
「楽しいね、心地良い日和だ」
それが今の彼の全て。
殺人ゲームなど二の次だ。
人間を助ける、人間を喰う、人間を護る、人間を殺す、人間を導く、人間を罠にはめる――
それらは全て彼の意のままに、陽の光が導くままに。
「……むん?ようやく仕事のようだね」
三叉路の中央に向けて一つの影が進んでいるのを見やり、口元を緩めてマンションからひらりと飛び降りるムーンフェイス。
その姿、落月の如く。
- 157 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:37:29 ID:8Zmt6fJhO
-
「らっきょ…どこにあるんだよ…らっきょさえ…あれば…」
心、ここに有らずな力無い様子でふらふらと一人道を行く追手内洋一。
まるで夢遊病者とも取れるようなその不安な足取りは、今にもその場で倒れてしまいそうでもある。
(むん、銃火器の携帯は無し。問題無いね)
Lの言葉を思い出し、確認した後に物陰から軽やかにムーンフェイスは洋一の前に姿を現す。
「むーん!そこ行く君、初めまして!」
「えっ…!?う、ウワッ!!?バ!化け物っ!!!」
突如自分の前に現れた異形の顔を持つ妙な人物?に面くらい、脱兎のように元来た道をダッシュで引き返す泣き顔の洋一。
「むん?確かに化け物の私、実に的確な指摘。む〜ん…しかしどうやらこの状況に心神衰弱してしまっているようだね?」
洋一のそんな様子を笑みを携えたまま眺めるムーンフェイスだが、せっかく発見した生存者である。
すぐにその身体能力を生かして素早く駆け、軽く飛び上がり洋一の頭上を越えて反対側に着地し行く手を遮る。
「むん!安心したまえ!私はムーンフェイス、君に危害を加える気は全く無いよ。実は君をスカウトしたいんだよ」
「ヒッ!!!…えっ…!?す、すかうと…!?」
顔面蒼白で涙を溜めたまま後ずさる洋一だが、目の前の化け物から発せられた意味不明の発言に目を丸くする。
「むん、そうだ。生存者を集めて、このゲームを止める方法を探すためだよ」
「あわわ…いや、でも…!(ついてねぇえええ!!!嘘に決まってる!絶対殺される!!ここで殺される!!!)」
- 158 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:41:33 ID:8Zmt6fJhO
-
もはや怯えきってまともに思考も定まらず、アスファルトの地面に尻餅を付いて涙する洋一。
「むーん…どうすれば信用してもらえるのか、む!そうだ!」
ふと自信ありげに笑みを作ると、腕を組んでドサリと腰を落としあぐらをかくムーンフェイス。
「もし逃げたいなら逃げても良いよ。さっきも言った通り、君に危害を加える気は一切無いからね」
「えっ!?いや、そんな事言ったって…!」
さらにゴロンと寝転がる目の前の化け物に動揺を隠せず、尻餅を付いたまま後ずさる洋一。
(…もしこれでも逃げてしまうようなら、残念だけど朝飯になってもらうけれどね)
寝転がり、目を瞑りながらも洋一の動向を探る。
「あ、あわわ、うぅ…!(今なら…に、逃げれるか?いや無理!絶対無理だ!!逆らわない方が絶対良い!!)」
「むーん…どうするんだい?」
「わ…わかりました!ご一緒させて下さい!!」
「そうか!物わかりの良い人物で良かった、むーん!」
洋一の承諾の言葉を耳にすると同時に手も使わず体操選手のようにバッと身を翻して立ち上がり、仮面ライダーのような妙なポージングを取るムーンフェイス。
「ヒッ!?(やっぱりこんな奴から逃げれねえよ!言うこと聞いて良かった…!)」
「じゃあ早速仲間の元へと案内させていただこう!(朝飯は無し、か。少し残念だね。むーん)」
未だ怯えっぱなしの洋一を引き連れ、ムーンフェイスは彼の主の元へと引き返す――。
- 159 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:44:38 ID:8Zmt6fJhO
-
「むーん!やっと一人協力者を見つける事が出来たよ!」
「お帰りなさいムーンフェイスさん。よくやってくれました」
静かな林の奥、体育座りで待っていたLの元へと二人は歩み寄る。
「初めまして、Lと言います。本名ではありませんが、良ければそう呼んで下さい」
「は、初めまして…追手内洋一です…(この人、確か最初の広間で『世界最高の頭脳』とかなんとか言われてた…?)」
洋一はまだ警戒した様子のまま軽く会釈するが、どんな化け物の仲間が姿を現すかと考えていた矢先に現れたのが同じ人間である事を確認すると、内心少し安堵していた。
「早速ですが…良ければその手に持っているノートを見せていただけませんか?」
Lは洋一の手にある黒いノートに視線を向けたまま、何か思案深げに洋一に声をかける。
「むん?そんな普通のノートがどうかしたのかい?」
「いえ、まさかとは思うのですが…見覚えのある物でして」
「え?あ、はい…」
見覚えのある、と言われて洋一は少し不審に思いながらも素直にノートをLに手渡す。
- 160 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:49:45 ID:8Zmt6fJhO
-
「どうも。………」
「……?あ、あの…確かそれ、デスノートとかって名前だったような…」
「………」
洋一の控えめな発言にも反応を示さず、黙々とノートをめくっていくL。
「…えっと…(何だよこいつ!シカト!?)」
「…知ってます。ところで、この主催者の名前を書いたのはあなたですか?」
ノートに小さく頼りない字で書かれている名前を指差しながら洋一に見せて問いかける。
「え?あ、はあ…」
「なるほど…という事は…」
「???…それがどうしたんですか??」
「………」
口をつむんだまま、ひたすら思考にふけるLの様子を意味も分からず眺め続ける洋一。
「むーん、説明してもらえるかい?君の考えを」
木にもたれ掛かったまま静かに待っていたムーンフェイスが静かに口を開く。
「…分かりました。洋一君のおかげで少し考えが進みました。説明します」
「え…考え?」
静かにノートを閉じて二人に視線を向けるL。
「このノートは私の追っている犯罪者の持ち物でして、名前を書くだけでその人物を殺せる不思議な力を持ったノートなんです」
「へぇ、便利なノートだね。むーん」
「はい。便利過ぎてこのゲームには最高のアイテムでしょうね。しかし、このノートを使う上でいろいろとルールがあるんです。ところが今見てみた限り、そのルールが少し変えられている」
表紙裏を開いてそのルールの文章を指で指し示す。
- 161 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:52:21 ID:8Zmt6fJhO
-
「ルール?」
「…この『殺したい人物の名前を一人書いた後、その後に書かれた次の人物に効果が現れるのは24時間後である』と『ゲーム主催者の名前を書いても効果は無い』の二つの下りです」
「えっ!?主催者には意味無いの!?」
今初めてその事実を知らされた洋一は驚いて情けない声でその文章をのぞき込む。
「はい、そのようです」
「そ、そんな…」
がっかりしたようにうなだれる洋一をちらりと見上げるLだが、更に言葉を続ける。
「その『加えられた別のルール』により、一つの仮定が浮かびました」
「むん?仮定?」
「はい。『主催者たちは自分たちの安全を第一の前提としながら、参加者の事を監視している』という仮定です」
「ん?どういう事だい?」
興味深げに視線を向けつつ再び問いかけるムーンフェイス。
洋一はLの言葉の意味が全く理解出来ていない様子で、ただ黙ってLの言葉を聞いている。
「言葉のままの意味です。ムーンフェイスさん、朝に言った事を覚えていますか?『沖縄が除外されている』と言った事」
「ああ。覚えているとも。それがどうかしたかね?」
「あくまで仮定ではありますが、もしかしたら沖縄は存在するかもしれません」
「むん?しかし地図には記されていないが?」
「はい。もしかしたらやっぱり無いかもしれません。しかし有るかもしれない」
「??む〜ん?言いたい事が良く分からないが、どういう事だね?」
- 162 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:58:28 ID:8Zmt6fJhO
-
「……もし沖縄が存在するなら……主催者たちはそこにいるかもしれません」
「!!」
ムーンフェイスと洋一は驚いて同時にLの顔を見る。
「さっきも言った通り、あくまで仮定です。現時点では5%……いや、もっと低いですね」
「お、沖縄にいるんなら…行って奴らをやっつければゲームを止められるの!?」
「…おそらく不可能です。だからこその『これ』と『禁止エリア』です」
洋一の首輪を指さすL。
「あ…そうだった…」
「……しかも『5%以下の仮定』だしね。むーん……そうだ!なら行って沖縄が本当に有るかどうか見に行って見るかい?」
いつの間にか手に持っていた双眼鏡をひらひらと見せながらムーンフェイスが口を挟む。
「実は僕もそう提案しようと思ってました。九州の禁止エリアが増えて不可能になってしまうのも時間の問題ですから早い方がいいですね」
「予定変更だね。では協力者探しも移動しながら同時進行だね」
「はい。という訳で、改めてよろしくお願いしますムーンフェイスさん、洋一君」
ゆっくり立ち上がり手を差し出すL。
「むーん!任せたまえ!今更水臭いじゃないか!」
「よろしく…お願いします…(めっちゃ不安だ…ついてねぇよ…)」
順に握手を交わす三人。
この決断が吉と出るか凶と出るか、まだ誰にも分からない。
時刻は10時過ぎ。
ようやく反撃の狼煙が上がったかもしれないこの時刻は果たして早かったのか、遅かったのか。
- 163 :スタートライン×反撃の狼煙:2005/10/26(水) 01:59:28 ID:8Zmt6fJhO
-
【静岡県/昼】
【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装練金】
[状態]健康
[装備]双眼鏡
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:有用な人材のスカウトと支給品の収集
2:Lを補佐する
3:生き残る
【L(竜崎)@デスノート】
[状態]健康
[道具]:荷物一式
:護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障)
:デスノート(0:00まで使用不能)@デスノート(洋一の持ち物だが仮に所持)
[思考]1:沖縄の存在の確認
2:人材のスカウト
3:ゲームの出来るだけ早い中断
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折
:左ふくらはぎ火傷
:疲労
[道具]荷物一式(食料少し消費)
[思考]1:とりあえずLたちに付いていく
2:死にたくない
- 164 :15少年の受難:2005/10/31(月) 01:04:01 ID:vMrBVoxi0
- 朝。福岡市街。ビル群の隙間を縫うように3人の少年が駆け抜ける。
1人はテナントの看板や電柱を足場に猿のような身軽さで低いビルの屋根に飛び移った。
見慣れぬ街並みを物珍しそうに見渡しながら
「跡部、遅えってばよっ!」
「うるせー!大声上げるんじゃねえ!前見て動け」
ナルトの立ち位置の鉄筋コンクリート3階下から息を切らせた長身の少年、跡部が叫ぶ。
日頃、テニスの猛練習で鍛えている跡部にとってこの程度の距離で息切れを起こすなど
考えられない出来事だったが、自らを忍者と名乗る少年、ナルトの脚力は彼の予想を遥かに越えるほど
強靭で素早かった。一歩の飛距離が常人のものではなく、彼の足には跡部がどんなに全力を出そうが追いつけない。
木の葉が風に舞うように音も気配もなくして走る。己を忍者と称したのもデタラメではないらしい。
ただの能天気なガキだと思っていたナルトの思わぬ能力に、跡部は動揺を隠せない。
(フン、やるじゃねえか、クソッ)
同世代の人間にこれほどの差をつけられたのは初めてだ。
その強靭な足腰を作るためにどれだけの鍛錬を繰り返してきたのか、認めないわけにはいかなかった。
それでもこちらのスピードに合わせようと何度も振り返り仲間の追いつくのを待つ彼の姿は
プライドの高い跡部にとっては少し痛烈だったのだが。
「ナルト!電線に乗るんじゃねえ!下りて来い!」
「なんだよ、うっせーなぁ。おっ、いいもん見っけ・・・」
ナルトは細い電線をつたい向かいの柱に。柱からマンションの屋上フェンスへ孤を描くように着地する。
「ここならよく見えるってばよ!・・・ってゴッチャゴッチャしてよく見えねえ〜。」
繁華街らしく無数の旗や看板、屋台に街灯。街路樹に歩道橋、おまけに縦横無尽に並ぶビルの窓が
昇りはじめた太陽を大袈裟に反射していて見難い事この上ない!
あまりに遮蔽物が多すぎて細かい観察は出来ないが自分達以外の人間の気配はなく
とても朝とは思えぬ不気味な静まりを見せている。玄界灘からびゅうびゅう吹きつける生暖かい潮風に
ナルトはなぜか身震いした。もう少し高い場所に行けば街の全容が見れる、また向かいのビルに飛び移ろうとした。
- 165 :15少年の受難2:2005/10/31(月) 01:06:51 ID:vMrBVoxi0
- 「ナルト!!いいかげんにしろ!」
下からやってくる何度目かの怒気を含んだ呼び声にナルトは仕方なく地上に降りる。
彼は一刻も早く先程響いた音の正体を見つけたくて忙しなく飛び回っていたのだ。
「跡部も一輝も遅すぎだってばよ。そんなんじゃすぐ敵に捕まっちまうってば」
なんとも呑気なナルトの言葉に跡部が怒り出す。
「馬鹿か手前は!銃持ってる奴がどこにいるかもわからねえのに
あんな目立つ行動なんかするんじゃねえ!はしゃぎすぎなんだよテメーは」
「な、なんだよ〜!!大体、ジューってなんだってばよ!?どうゆう忍具なんだ、それ!
それともなんかの術かよ?あの変な音で一体何が起こるんだって・・・あッそうか!爆発だな。爆薬だってばよっ」
「大声を出すなってさっき俺様が言ったよなあ!!?」
2人の騒がしさに一輝が口を開こうとした瞬間、不気味な声が3人の脳裏に流れ込んだ。
「!なんだってばよ・・・頭の中に直接響いてくる・・・」
「クソッ、悪趣味な連中だぜ・・・何が「良いペース」だ!」
ナルト、跡部は、軽々読み上げられていく死者の名前に戦慄し、同時に自分の仲間は含まれていないことに
多少、安堵しつつも込み上げてくる怒りを押さえる事が出来なかった。
(*跡部は同じ世界から来た竜崎桜乃の顔も名前も知らなかったため彼女の存在を知らない)
「チッキショーー!!なんだってばよ!!なんでこんなことになってるんだってばよ!
なんで・・・なんでこんな簡単に、簡単に殺し合いが出来るんだよ!!」
ナルトはこの世には殺人や戦いを好む人間がいることを知っている。
弱い者、力の無い者を容赦なく踏みにじり、戦争の道具とし、自分の欲のために利用する。
そんな世界に身を置き、傷つき、死んでいく仲間や敵見てきたからだ。
だからこそ軽軽しく、命のやり取りを強要する主催者を、ゲームに賛同する人間を許せなかった。
「許せねえ!!一輝、早くハーデスって奴んとこに行こうぜ!!俺がソイツをぶん殴って
皆をもとの世界に返してやるってばよ!一輝、聞いてんのかよ!?」
一輝は腕を組んだまま微動だにしない。ナルトはもう一言何かを言おうと食いついたが
一輝は口を閉ざしたまま僅かに翳りのある表情で顔を伏せた。
ナルトはその瞬間、彼が仲間を失った悲しい事実があることに気がついた。
- 166 :15少年の受難3:2005/10/31(月) 01:21:09 ID:vMrBVoxi0
-
「一輝・・・お前・・・」
「何も言うな」
厳しい口調で一輝はナルトの言葉を遮る。ナルトは口から出かけた言葉をいったんは飲み込むが
素通りしていい問題ではない。
「・・・少し、休んでいくか。ナルト、予定変更だ。戻るぞ」
「いらん!今は銃声の主を確かめる方が先だ。俺たちが止まっていても犠牲者は増え続ける。
今は少しでも前に進み、この愚かな殺し合いを止めさせるのだ」
「一輝・・・」
「ナルト、残念ながら今はまだ、ハーデスたちの行方を知ることは出来ん。
だが、奴が再びその強大な小宇宙を使い、何らかの罠を仕掛けてきたら、そこがチャンスだ。
俺は奴の小宇宙を追いかならずや奴の下へたどり着いてみせる」
熱い、得体の知れない「気」のようなものが一輝の体を覆っていることに跡部は気付く。
怒りだ。主催者に対する断固とした憤怒が彼の中に渦巻いている。
敵がどんなに離れた場所にいようと、そこまでが困難な道のりだろうと、迷わず一輝は進むだろう。
この男の言葉は圧倒的な説得力をもっている。
「・・・わかった・・・先を急ぐか。何か手がかりが見つかるかも知れねえしな」
跡部は一輝に賛同する。だが、ナルトの方はまだ動揺していた。
「ちょ、ちょっと待てってばよ!確かにここでじっとしてたって何にもなんねーけどよ!
・・・だからって、自分の仲間が死んで、なんで、そんな平然としてられるんだってばよ・・・
悲しいんなら、悲しいって言えよ!ちょっとでも亡くなった奴のことを考えて偲んでやれよ!
悲しむ時間も惜しいのかよ・・・?
- 167 :15少年の受難4:2005/10/31(月) 01:22:27 ID:vMrBVoxi0
- 俺だったら・・・俺だったら、とても、耐えられねぇ・・・
想像したくもねぇ・・・考えただけで心が沈んで動けなくなっちまいそうだ・・・」
一輝は先程から涙の1つも見せず、悲しみを出そうともしない。
亡くなった者に対してあまりに冷たいのではないかという憤りをナルトは感じていた。
「ナルト、お前はここに残れ。仲間の死に動揺し、迷うお前にハーデスは倒せん」
「何だとォ!」
「それから跡部。これはお前が持て。前にも言ったが、聖闘士の俺に武器は不要だ。
男なら自分の身は自分で守れ。この中ではお前が一番の足手纏いだ」
手痛い一言に跡部は顔をしかめる。
「チッ・・・言ってくれるぜ・・・。偵察は、まさかお前1人でいく気か?」
跡部は一輝が投げ渡した衝撃貝(インパクトダイアル)を片手で受け取った。
「無論だ」
「フン、勝手な行動するな・・・と言いてえとこだが
この街の広さなら各自で行動したほうが早く見つかりそうだな。
いいぜ。ただし合流場所を決めてから行けよ。偵察に行ったっきり行方不明じゃ本末転倒だ」
その時、再び銃声が轟いた。空気が小さく震え、カラスの悲鳴が聞こえた。
互いに顔を見合わせ雰囲気がさらに厳しいものへと変わる。
「時間が惜しい。お前達で勝手に決めておけ」
そう言い残し、一輝は走り去っていった。
- 168 :15少年の受難5(逆襲の中川):2005/10/31(月) 01:25:54 ID:vMrBVoxi0
- ビル屋上にある人影は消音器を装着されていない状態で2発も無駄弾を撃ち
閑静な街並みに銃声を轟かせてしまうミスを冒してしまったことに苛ついていた。
その影の主、中川圭一は軍用スナイパーライフルを構えてスコープ越しに福岡を一望する。
以前、視察で訪れた時とは違い、西日本一の歓楽街と呼ばれた街ははかつての四分の一程度の大きさしかなく、
その外は山林や荒地と酷く殺風景な風貌へと変化していた。
「まったく最近の子供は油断が出来ませんね、人の縄張りに勝手に忍び込んで背後から襲おうとするなんて
全く世紀末ですよ・・・親の顔が見てみたいなあ・・・きっと先輩みたいに常識のない大人なんだろうな」
少年にえぐられた左肩が鈍く痛み、裂いて巻いたシャツが赤黒く染まっている。
あの時、仕留め損ねた少年を追いかけようと階段を下りようとした矢先、中川の脳内に例の放送が
響き渡った。耳を塞ごうと頭の中に侵入してくる音声に恐怖を抱きながらゲームの開始から何時間経過したか、
何人が脱落したか、禁止エリアの存在など、数々の新たな情報に驚きを隠せなかった。
「やっぱり先輩はゴキブリ並にしぶといや・・・これだけ人死にが出てるのに無事なんて、
まったく人間離れしてるよ・・・殺しても死なないと思っていたけど一発や二発撃たれたくらいじゃ
本当に死なないのかもしれないな」
銃声が響く。たまたま中川の視界に入ったカラスが頭を砕かれて落下した。
「おっと、先輩のことを考えてたら思わず撃ってしまった」
でも、そう来なくちゃ面白くない。中川は唇の端を大きく歪めた。持続する痛みが中川の憎悪を悪化させる。
フェンスの隙間から覗く銃口。この街で最も高いビルの屋上からの眺めは絶景である。
最大射程1000m。射程内すべてが獲物だ。白兵戦ではその重量ゆえ役立たずだったライフルが
朝陽の出現とともに恐るべき殺戮の権化としての存在を主張した。遮蔽物の多い市街だが
中川は世界大会で幾度となく優勝を攫っていった自分の腕に絶対の自信を持っていた。
しかし、どういうわけか、例の眉毛が繋がった上司にだけはどうしても敵わなかった。
錯乱した中川の脳裏に刻み付けられた屈辱の長い歴史が蘇る。
一発が駄目ならニ発。ニ発が駄目なら3発。それでも駄目なら全弾消耗してでもあの下品に繋がった眉毛を粉々にしてやる。
おっと、あの非行少年も忘れちゃいけない。今もこの街のどこかに潜んでいるはずだ。
ふふふふふふ。心臓の昂ぶりが、血の気が失せていた中川の頬を赤く上気させる。
よーく探してよーく探してよーく探してよーく探してよーく探してよーく探してよーく探して狙ってあげるからね。
屋上で1人きり。中川は楽しげに笑っていた。
- 169 :15少年の受難6:2005/10/31(月) 01:31:45 ID:vMrBVoxi0
- 跡部は一輝に渡された衝撃貝(インパクトダイアル)を利き腕に装着した。見た目よりずしりとした重量がある。
遭遇する敵が何者であろうと、これでなんとか戦い、身を守らなくてはならないのだ。
使用方法はすでに頭に叩き込んであるのであとは実践で上手く使うだけだが・・・
「・・・・・・なあ、一輝の奴、どこに行っちまったのかな・・・」
「さあな。実際の福岡より随分小さくなっちまってるからな。何事もなけりゃすぐ合流できるだろ」
「俺、アイツに酷えこと言っちまったかな」
「さあな、自分で考えろ。それよりナルト、よく見とけ。探る範囲を決めとくぞ」
(地図を取り出し、見えるよう広げる)
「俺は「福岡駅」周辺を探る。駅なら黙っていても人は来るし、待ち伏せに最適だからな。
銃の持ち主はその辺りに潜伏してる可能性が高い。ナルト、テメェは海側を見て来い。
「博多湾」の方角だ。間違えて佐賀の方に行くなよ?」
「なんで海なんか見てくるんだってばよ」
「黙って聞け。今、俺たちのいる地点はこの九州地方と中国地方を繋ぐ「福岡」って場所だ。
禁止エリアの情報は憶えてるな?「宮崎」が封鎖されれば、当然「鹿児島」「熊本」にいる連中は
北へ移動する。これは北と南から徐々に範囲を狭めて参加者同士を鉢合わせる作戦だろうぜ。
このまま時間が経過すればいずれは九州中の参加者が「福岡」を通る」
「だからぁ〜なんで海なん」
「地理に詳しい奴ばかりじゃねえだろうが。そういう奴は手堅く海岸線に沿って移動するだろ。
最初と2度目の銃声は放送前。次は30分以上たって鳴った。
あれだけ派手に響いたんだ。室内ってことはないだろう。
撃った奴は多分外にいる。獲物を探してうろついてやがる。
だが、建物が乱立してるせいで音源がつかめねえ。
そこでだ。お前はさっきのように、出来るだけ高いビルの上を伝って下の路地を観察しろ。
あの高さからなら、同時に海側の探索も兼ねられる。漁港なら見通しもいい。人間がいればすぐわかる。
まさか犯人も上から見られてるとは思わねえだろ。お前は、犯人と他県から移動してきた
奴らを探せ。何も知らねえでノコノコやって来て、銃を持った人間の餌食になっちまう恐れがあるからな。
足の速いお前がそいつらに知らせろ。これ以上、犠牲者を出したくねえんだろ?」
ナルトは頷く。
- 170 :15少年の受難7:2005/10/31(月) 01:39:32 ID:vMrBVoxi0
- 「お前は1人で大丈夫かよ?」
跡部は尊大に鼻を鳴らす。
「馬ー鹿。お前に心配されるほど頭悪くねえよ。「合流場所」は憶えてるな。
一時間後に集合だ。一輝の奴はいつ来るかわかんねえがな・・・とりあえずこの作戦でいくぞ。
犯人を見つけたら様子を見て捕まえろ。ヤバイと感じたら迷わず逃げて合流場所に行け。
あと、お前、一輝に会ったらちゃんと謝っとけよ?」
「・・・ところでさ、さっきからずっと疑問だったんだけどよ、ジューってさ
それって一体どんな忍具なんだってばよ?」
「そうか、お前、銃を知らねえんだったな。実物があれば説明しやすいんだがな・・・」
映画やTV、雑誌で得た知識をナルトに教え始めた。
跡部は先程身を隠していたスーパーで手に入れた紙とペンで簡単な図を描く。
「銃ってのは狩猟や戦争で使われる武器だ。種類によって大きさも威力も違う。
さっきも言ったが俺は銃なんて撃った事も触ったこともない。
ただ映画やニュースで見たことがあるってだけだ。だから音だけじゃどんな銃なのか見当がつかねえ。
コイツの・・・この「引き金」って部分を引くと鉛で出来た弾丸がこの「銃」から発射される。
弾丸はだいたい指の第一関節くらいの大きさで、こいつが急所に当たりゃ即死だ。
いや、医者もいねえこんな状況じゃ身体のどこを撃たれたって致命傷か。
手に入れば強い味方になるからな、何とかして手に入れたいところだぜ」
ナルトは跡部の描いた何種類かの「銃」を食い入るように覗き込む。里にはない未知の武器。
しかし、その武器はナルトの想像していたものよりずっと小さく頼りなげなものだった。
博識なサクラや慎重派のシカマルがいれば充分に警戒しただろうが。
(だいたい、忍者のいない国の武器なんて大したことないってばよ。)
戦争の兵器と言ったって跡部のようなただの人間が使いこなせる程度の武器ならば恐れるものでもない。
ナルトの常識ではまず使用者・本人が強力な術や体術を使い、武器は攻撃を補うための目くらましや
囮などの補助の道具であることが多い。武器メインの攻撃を得意とする者もいないわけではないが
やはり、自分の世界で扱われている武具や兵器からすれば見劣りしてしまう。
しかし、実際、跡部の世界ではまるで逆なのだ。非力だからこそ強力な武器が発達する。
ナルトはそのことにまるで気づかず跡部の忠告を軽く流そうとした。
- 171 :15少年の受難8:2005/10/31(月) 01:50:02 ID:vMrBVoxi0
- 「よーするにぃー、大筒の小せーヤツのことだろ?そんなの簡単に避けてやるってばよ!」
「馬ー鹿。簡単に避けられたら苦労はしねえよ。弾丸のスピードは瞬きするより早え。
俺のいた世界じゃ数秒かに1人は銃に撃たれてくたばっちまうって話だ。油断すんなよ」
長身の跡部に脅かされて思わずナルトがあとずさる。
「わ、わかったってばよ。」
(でも俺の足のほうが絶対速いってばよ!油断なんかした事ねえし!)
「いいか。敵の位置がわからねえ以上、不用意に動くんじゃねえぞ。
テメーのせいで殺されんのは真っ平ゴメンだぜ」
「な、なんだってばよ!!お前こそ弾に当たんねえように今度は早く走れってばよ」
「ああん!?早い遅いの問題じゃあねーんだよ!てめー俺の言った事全く聞いてねーな!!」
「わかった!わかったってばよ!」
ナルトは強引に会話を打ち切った。長話は苦手だ。
「こんな高い建物ばっかじゃあ一輝も困んだろ!俺もさっさと偵察に行ってきてやるよ」
跡部が何かを言い返す前にナルトが身を翻す。そもそも大人しくしていることが苦手なのだ。
こうして話している間にも、誰かが襲われているかもしれない。
そんな想いもあってナルトは走り出す。
「ついでに、そのジューってのも、倒すついでに貰ってきてやるよ!
そんで味方集めて一輝の奴をビックリさせてやろうぜ!」
呆気にとられている跡部を尻目にビルの壁を垂直に走り(文字通り)、ナルトの姿は小さくなっていく。
「アイツ・・・踵に吸盤でもついてんのか?」
(ま、あの速度なら銃で狙い撃ちは難しいだろ。あいつに限っちゃじっとしてるよりかは安全かも知れねえな)
跡部は半ば呆れながら、駅や周辺建物の内部を探るべく、屋上へ向かうナルトから目を離した。
ダッーーン ッ
- 172 :作者の都合により名無しです:2005/10/31(月) 01:57:07 ID:n5MEpC3V0
-
- 173 :15少年の受難9:2005/10/31(月) 01:57:21 ID:vMrBVoxi0
- 中川の位置からおよそ400m。弾丸は屋上に立ったナルトの右腕を貫通した。
【福岡県(市街地)/早朝】
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】健康、襲われたらやり返す覚悟を決めた
【装備】衝撃貝(インパクトダイアル)の仕込まれた篭手@ワンピース
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ノートとペン、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.銃声のした方に行ってみる。 2.乾と越前を捜す
【一輝@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】無し
【道具】荷物一式
【思考】1.銃声のした方へ行ってみる 2.ハーデスを倒す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】右上腕に弾丸貫通 空腹
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.銃声のした方へ行ってみる、可能なら空腹を満たす
2.サクラ、シカマルを探す 3.主催者をやっつける
【中川圭一@こち亀】
[状態]:左肩を負傷 精神不安定 錯乱気味
[装備]:スナイパーライフル(残弾17発)
[道具]:荷物一式 ベアクロー
[思考]:1.少年(若島津健)の狙撃 2.優勝する
- 174 :Fact or Fiction:2005/10/31(月) 03:03:02 ID:7/z2CaZ+O
-
(…!この臭い、こいつは…)
両隣を林に囲まれている起伏の激しいアスファルトの道路を一人行く巨漢の男、海坊主は…静かな風に乗って微かに届いた異質な臭いに足を止める。
「近いな…」
林の方へ向いて様子を伺うようにしばらく動きを止めた後ぽつりとそう呟くと、その大きな体を感じさせないような身軽な動きでガードレールをひらりと飛び越える。
パキパキ、パキパキと落ち葉を踏みしめながら、ゆっくり林の中へと足を踏み入れていく…。
逆のぼる事早朝、謎の若い女からの襲撃を受けて速やかにその場を離れた後、海坊主は移動を続けつつもいくつかの建物を探索しながら移動を続けていた。
その目的は銃火器やその他武器になりそうな物を探す事と、香・冴子・リョウたちを探す為である。
何カ所か探索したがどの場所でも収穫らしい収穫は無く、琵琶湖から離れて最初に立ち入った小さな一軒家の中の家具類も何も無いがらんとした空き部屋で朝食を摂っている最中、その悪夢とも言える…死者を告げる声は、響いた。
『冴場リョウ』
「な…んだとっ!!?」
己の中で時が止まる。
「死ぬ、わきゃ…ねえだろ!」
奥歯を噛みしめ、食べかけの保存食の缶を中身ごと床に叩きつける。
「死ぬわきゃ…ねえだろ!あの、百回殺しても死なないようなバカが!」
押さえきれない感情をぶつけるかのように床に向けて拳を強く打ちつける。
- 175 :Fact or Fiction:2005/10/31(月) 03:04:15 ID:7/z2CaZ+O
-
そんな海坊主の怒りの様にも関係なく、次々と死者の名が告げられていく。
呆然としながらも流れていくゲーム脱落者たちの名前…
結局、知っている名は冴場リョウだけであった。
「…大嘘付き共が…!」
彼は信じない、受け入れない。
どんな逆境をも越え、どんな危機でも幾度となく生き延びてきた冴場と香のコンビを長く見続けてきた彼にとって、そのような戯言は到底信じられる物では無かった。
「くそったれが…!」
激しい動揺を感じながら憎々しげに天井を見つめ、吐き捨てるように声を漏らす。
(ブラフに決まってやがる!チッ!香のやつがこんなの聞いちまったら…)
頭をよぎる、過去。
沈みゆく大きな船の中、リョウが一人で船内に残されて船と共に命を散らしたかと思われたあの時…
香は沈みゆく船に向かってまるでこの世の終わりであるかのようにリョウの名を叫び、涙した。
頭をよぎる、その時の香の姿…
「…そうか」
気付く。
このブラフを聞けば、あの時と同じように香は絶望してしまうだろう。
考えたくはないが、自ら命を絶つかもしれない。
そうではなくとも、自暴自棄になりゲームに乗った奴に簡単に殺されてしまうかもしれない。
香の場合は考えにくいが、もし違う者が親しい者の死を知った場合は復讐を考えてゲームに乗る者が出てしまってもおかしくは無い。
- 176 :Fact or Fiction:2005/10/31(月) 03:07:19 ID:7/z2CaZ+O
-
それらの可能性に考え着き、海坊主は『確信を得た』と言わんばかりに口を閉ざして前を向く。
「あの…くそったれ共がッ!」
ゲーム開始前に見た主催者たちのあの下等生物を見下しているかのような嫌な笑みを思い出し、怒りと苛立ちを露わにして声を荒げる。
もはや食事を続ける事も頭から全く消え、海坊主は『禁止エリアや死者たちの名を記す僅かな時間ももったいない』と言わんばかりに、出していた地図と名簿の紙を無造作にポケットに押し込んで急いでその場を後にする。
一刻も早く、主催者の悪計を止めるために。
(…結構時間が経ってやがるな)
そして、時は四時間ほど後の現在。
周囲に人の気配は全く無い森の中で海坊主は異臭の元を辿っていき、おそらく臭いの元であろう場所へとたどり着いた。
海坊主は目が見えないと言うハンデは負っているものの、そのハンデを補うために通常より遙かに発達した視覚以外の五感を頼りに、その普通の人間には気付き難い僅かな異臭を嗅ぎ付ける事が出来た。
(周囲に死体は無い。戦いが有ったのは確実のようだが…しかし…)
嗅ぎ付けたのは二つ。
乾いた血の臭いと…微かな硝煙の名残り。
少し身を屈めて血の臭いの出元を探すが死体や体の一部などは一切見当たらない。
地面におびただしい量の血が飛び散っただけであろう事のあたりを付け、続けて硝煙の出元を探す。
- 177 :Fact or Fiction:2005/10/31(月) 03:08:31 ID:7/z2CaZ+O
-
「…!!」
地面をまさぐる手に硬く冷たい物体が当たる。
「弾は…まだ有るな。よし…」
それは彼が最も欲していた種類の武器…まごう事無く銃火器である、マシンガン。
すぐ近くに落ちていた参加者のカバンを見付ける事もでき、その中からマシンガンの弾や食料類の回収も行ってから少し推理する。
(状況から考えるなら…ここで戦いが起こって怪我人が出て、そいつが相手から逃げ出した…もう一人も急いで追いかけてった、ってのが妥当か?)
しばらくの間いろいろと可能性を探るが結局ヒントが少なすぎて結論は出ず、海坊主自身も推理する事自体にあまり意味は無いであろうとの結論にたどり着き、周囲を一瞥してから元の道へと引き返す。
万能の神などこの世にはいない。
この状況…人間であれば、今ある材料・今持ちうる情報から推理するしかない。
それが的を得ていたにしろ、間違いであるにしろ。
それでもその巨漢の男は、必ず間に合うと信じて歩みを止めない。
マシンガンを背に、その巨漢の戦士は戦場を一人往く。
- 178 :Fact or Fiction:2005/10/31(月) 03:11:43 ID:7/z2CaZ+O
-
【福井県/昼】
【伊集院隼人(海坊主)@シティーハンター】
[状態]健康
[装備]:排撃貝(リジェクトダイアル)@ワンピース(ただの貝殻だと思っている)
:ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(道化のバギーの物を回収)
[道具]:荷物一式(食料・水、九日分)
:超神水@ドラゴンボール
[思考]1:銃火器類を探す
2:香・冴子・リョウを探す(放送は信じず)
※荷物一式は道中でカバン一つにまとめました。
- 179 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:51:56 ID:2Dt4w5W40
- 彼の原点。それは遥々続く大海原。苦い潮の匂い。時に荒くときに優しく、絶え間なく打ち寄せる波の音。
船の刻むリズムに、笑い合う友達の声。
少年には、仲間がいた。
皆の頭脳として常に先の先を読む、利発で頼れる航海士。女性に優しく情に厚く、腕も脚も確かな料理人。
その少年には、短い時をともに過ごした仲間がいた。
わき目も振らずに剣の高みを追いかけ続ける剣士。道化の仮面の下にあふれんばかりの勇気を秘めた狙撃手。
髑髏の旗に命を救う志を誓う、人よりも動物よりも優しい船医。
少年には、短くも濃い時をともに駆けた、かけがえのない仲間がいた。
ふとした瞬間に散ってしまいそうな、ガラスで出来た繊細な花のような、そんな危うい微笑を浮かべていた女。
「ウキ、ウキィ……(なあルフィ、こんな辛気くせぇところ早くはなれようぜ……?)」
天高く上った太陽が、全てを平等に暖め始めている。
木も草もコテージも、それから赤にまみれて地面に転がる死体たちをも。
「……………」
ほんの少し前まではさわやかな森の香に包まれていた空気の中に、今は確かな死臭が自己主張をしている。
それは先刻の悪夢が悪夢ではなかったことを、彼らに改めて思い知らせようとしているかのようだった。
「ウキ、ウキ、ウキィ…(そりゃ、あんなところ見せられたらショックだったのかもしれないけどよ…野生の摂理だとおもやぁ、仕方ないって…思えねーか)」
「…………」
ずっと寝転がって嫌味なほど青い空を眺めていた赤いベストの少年は、
日にあぶられて強くなり始めた死臭が鼻についたのか、無言のままかぶっていた麦藁帽子を顔の上に載せた。
白いブーツにえぐられたわき腹の傷が、単純な怪我以上にじくじくと痛む。
「ウキィ、ウキキィ……?(なあルフィ、もしかしてそんなに悪いのかよ?)」
- 180 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:52:59 ID:2Dt4w5W40
- ルフィは何も言わない。悟空無しではエテ吉の言葉が分からないこともあるが、
実のところ、彼の周りをさっきから落ち着きなくうろつく獣の心づかいは、ことごとく的を外れていた。
彼は若くして海賊の一味を率いる男である。
修羅場の一つや二つは味わって当然だし、流血を強いられたことも、血を吐きながら死線を潜り抜けたことも幾度となくある。
こともあろうか国家の内乱にまで関わり、億にも上る額の賞金をかけられたその首にかけられた彼が、
今更血だの人の死だのを目にして怖気づくほどのもろさを持っているわけもない。
ただ、一度は「仲間」だと信じた人間が、目の前で凶行に及んだというただ一点の事実が彼の心を固まらせていた。
仲間という言葉は、そして友達という言葉は、ルフィの人格形成にとって特別な意味を持っている。
彼が命の次に大切にしている麦わら帽子のもともとの持ち主は、赤毛のシャンクスと名乗る海賊だった。
生も死も共にし、手に手をとってあらゆる障害を乗り越えるかけがえのない仲間たち。
赤髪のシャンクスが体現していた海賊の理想の姿に、どれほど幼き日のルフィはあこがれただろうか。
そして、ルフィのせいで片腕を失うことになったとき、シャンクスはルフィを怒りも責めもせず、
取り乱し泣き喚く自分を抱きかかえ、ただただ出会ったばかりの『友達』の、ルフィの無事を喜んだのである。
―――――おそらくは、ずっと共に航海してきた友に対してするのと同じように。
結局、それがルフィの人生を決定付けたようなものだった。
何よりあのシャンクスがそうだったのだ、
そういう姿勢でいさえすれば、仲間は自ずから集まってくるものだとルフィは固く信じている。
だからこそ村をたった一人、小船一艘で飛び出してきたのだし、事実未熟ながらもその姿勢を貫いて今まで、大きな間違いはなかった。
- 181 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:53:31 ID:2Dt4w5W40
-
いつなんどき死を迎えてもおかしくない海賊の時間は、不安定な代わりにとても濃い。
仲間は仲間であり、その絆の強さに共に過ごした時間の長い短いは関係ないのだ。
旅先で出会った人物の寄せ集めで出来たルフィ海賊団は、そんなルフィの理念の塊のような存在である。
では、もしそんな仲間が、彼に何も言わずに裏切ったら。
彼の兄が白ひげ海賊団を裏切った「黒ひげ」を追っていたのと同様、
本来ならルフィは裏切り者を率先して処分せねばならない立場にある。
「…………」
だがそれを即断するには、悲しいかな、ルフィはあまりにも友人に恵まれすぎていた。
だから彼は疑う。仲間が裏切ったというその事実自体を認められずに疑ってしまう。
例え仲間のする何を肯定できても、仲間としての忠告や処罰を行うことが出来ても、
「裏切られた」ということを肯定することだけは、彼にはどうあっても出来ないのである。
それは麦わら帽子の形をした十字架。
夢のために苦痛も悲しみも死すらも受け容れられる彼がただひとつ、幼い日に背負った最大の呪縛。
「ウキ…ウッキ!(お、ルフィ!)」
反応のないルフィにやきもきして、ふてくされ気味に寝転がっていたエテ吉が飛び起きる。
「よいせっ……っと」
目を輝かせるエテ吉の前で、ルフィはひざに手を付くと傷ついたわき腹をかばうようにゆっくりと立ち上がった。
おもむろに周囲を見回したルフィの目に、落ち葉の上にぽつぽつと数滴垂れ落ちた血痕が映る。
「悟空は、あっちにいったのか」
「ウキ!ウキィ!(ああそうだ、確かにあっちのほうだぜ)」
「……そっか」
ルフィはエテ吉の甲高い声を肯定の意味ととったらしい。
だから逆のあっちに行こう、とエテ吉が言おうとする前に、ルフィは無造作にすたすたと歩き出した。
- 182 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:54:02 ID:2Dt4w5W40
- 「よし、行こうぜ」
「ウ、ウキ?ウキー!?(おい、そっちは違うぞ!?)」
ルフィはもうエテ吉を見ていない。
「あのやろ、ひでえことしやがって」
「ウキー!ウキー!ウキー!(おい、おい!?まさか追いかける気じゃねえだろうな!)」
ルフィはもはや前しか見ていない。
「ゆるさねー、絶対一度ぶん殴ってやるから」
「ウキキキ!ウキ!(待てってルフィ、おい!)」
ルフィが見ているのは、何も告げずに自分の元を立ち去った「仲間」のみ。
「ウキッ、ウキキキー!ウキーーー!」
必死で訴えるエテ吉の声にも、彼の足取りは止まらない。
よしんばルフィがエテ吉の言葉を解したとしても、彼の行動は変わらなかっただろう。
エテ吉には野生に培われた観察眼のせいか、ルフィの意思の固さが嫌というほど分かってしまった。
彼の脚に取りすがって何とか引きとめようとしていたエテ吉の脚がたたらを踏んで止まる。
「ウ…」
- 183 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:55:21 ID:2Dt4w5W40
- 今自分一人で逃げてもいい。
というかこの先に待っているのは間違いなく危険だ、今なら逃げられる、逃げるなら今しかない。
そう、自分一人で。あれらの化け物から。
あれらの他にどこにまぎれているかもしれない化け物と。
――――戦えるのか?逃げ切れるのか?一人で?
あの殺しても死なないようなジェーンが死んだような環境の中で、何時どこにいるとも知れないターちゃんと出会うまで?
「ウキャーーーーー!!!!」
エテ吉は絶叫した。
何者かに聞きつけられる可能性もあったが、それでも普通の人間が聞いたらただの獣の咆哮だ、構うことはない。
「ウ…キー!ウキキキキキー!(どうなってもしらねえぞ!やばくなったら俺は逃げるからな!)」
一度は離れかけた足音が再び追いすがってきたのに気づいたルフィは、そこではじめてエテ吉のほうを見た。
「お、なんだお前も来るのか?」
「ウキー!(来るのかじゃねえよ!)」
半分以上お前が無理やり同行させてるようなもんだ、ついて行ってやるのをありがたく思いやがれ!
ルフィには理解できぬ声でそう言って、エテ吉はずり落ちかけたザックを背負いなおした。
「安いもんだ、腕の一本ぐらい」
赤髪のシャンクスはかつてルフィを許して、そう言った。
ではもし、孫悟空のあの行動が何か理由があってのことで、それを許そうとしたとき、ルフィは言えるのか。
人間二人の命ぐらい安いものだ、と。
もし許せなければ、そのときルフィは本気で彼と殺しあうことが出来るのか。
幸か不幸か、ルフィの考えはまだそこまでは至っていない。
花の代わりに色とりどりの木の実を手向けられた二人の青年の遺体が、立ち去って行く彼らを見送っていた。
- 184 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 08:58:36 ID:ikiADYPa0
- ――――――――――――
あの場からどれだけ離れただろうか。
無理のきく身体ではないのに、どうもかなり酷使してしまっていたらしい。
らしい、というのはそれまでの経緯がはっきりしないからだ。
しなくてはならないことがあって急いでいたような気もするし、何かから必死で逃げてきたような気もする。
気が付いてみると、青年は大きな平たい岩の上で仰臥していた。
全身からは、甘ったるい鉄錆の匂いが濃厚に漂っている。
日に掲げて見た白いグローブは美しく毒々しい赤に染まっている。
何がどうなったのか。何がどうなっているのか。
興奮状態が去ったばかりの朦朧とした理性で、青年はぼんやりと思考する。
自分は何をした?この先何をしようとしている?
脳髄をしびれさせるこの快感は何だ?心の芯を冷え切らせるこの罪悪感は何だ?
俺は
誰だ?
艶のある黒髪が金色の日光を弾く。
この辺りに少なくとも今地球人はいない。
何故かその事実に一抹の安堵を覚えて、青年は今はそれ以上考えるのをやめることにした。
――――――――――――
- 185 :其を呪縛するものは:2005/10/31(月) 09:00:24 ID:ikiADYPa0
- 【長野県、別荘地周辺/正午辺り】
【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】
[状態]:各部軽傷、わき腹に重いダメージ、空腹(山の幸は供えてしまったのでほとんど手をつけていません。)
[道具]:荷物一式
[思考]:悟空を追いかけて一発ぶん殴る
【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[装備]パンツァーファウスト(100o弾×4)@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式
[思考]:ターちゃんとの合流、とりあえずルフィに同行
【現在地不明/正午辺り】
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:カカロット化?(不安定)、疲労、休息中
出血多量、各部位裂傷(応急処置済)
[装備]サイヤ人の硬質ラバー製戦闘ジャケット@ドラゴンボール
[道具]荷物一式(支給品未確認)
[思考]?(周囲に地球人がいないので目的を失っている。誰かと出会ったら……?)
- 186 :其を呪縛するものは(訂正) ◆hpxW1quo8. :2005/11/01(火) 12:10:49 ID:QUyI/Ado0
- >>185の状態欄の修正をお願いします。前回ルフィのダメージが修正されてたのを見落としていました・・・
【長野県、別荘地周辺/正午辺り】
【モンキー・D・ルフィ@ワンピース】
[状態]:各部軽傷、わき腹に軽いダメージ、空腹(山の幸は供えてしまったのでほとんど手をつけていません。)
[道具]:荷物一式
[思考]:悟空を追いかけて一発ぶん殴る
【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[装備]パンツァーファウスト(100o弾×4)@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式
[思考]:ターちゃんとの合流、とりあえずルフィに同行
【現在地不明/正午辺り】
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:カカロット化(不安定、思考力低下)、疲労、休息中
出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済)
[装備]サイヤ人の硬質ラバー製戦闘ジャケット@ドラゴンボール
[道具]荷物一式(支給品未確認)
[思考]?(周囲に地球人がいないので目的を失っている。誰かと出会ったら……?)
- 187 :旅立ち 1/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 19:54:55 ID:2rIcTL1n0
-
秋の早朝の冷たい風に木々がざわつく森の中。
枝から離れた枯れた葉が、余命の尽きかけた蝶のように力なく舞い、湿った土に吸い込まれる。
「あたし何しちゃったんだろ……」
東城綾は先程の出来事を何度も頭の中で反芻し、その度に言い様のない不安に駆られるのであった。
鼻をもぎ取り、首を裂き、血管を引き千切る……
是までの自分にとって想像も絶する数々の蛮行が、後から後に浮かび上がってくる。
血も凍るような殺人鬼は、あれから徐々に気配を消してゆき、今では完全に気配を潜めている。
「あの時は命の危険が迫っていたから。罪もない人を襲うことはない……はず」
嫌な考えを必死で打ち消そうと足を速める。
人の気配は全くない。聞こえるのは葉の擦れる音のみ。
冷たく薄暗い森で、少しでも立ち止まったり後ろを振り向いたりすると、
追ってくる闇に捕らえられ、引きずり込まれてしまいそうだ。
「こんなときに真中くんがいれば……」
――諸君、ご苦労。爽やかな朝だ。
そのとき静寂を打ち破り頭の中に声が響く。
――まずは脱落者の名を読み上げるとしよう。
脱落者? ……駄目。聞いては駄目。
自分が殺した男の名前を聞くのは耐えられない。
しゃがみこみ耳を強く押さえつける。
そんな彼女の心を嘲笑うかのように名前が続けられる。
――大原大二郎、道化のバ……
「いやぁぁぁぁあああ!!」
- 188 :旅立ち 2/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 19:55:58 ID:2rIcTL1n0
-
……そして声が止み、辺りはまたも静寂に包まれる。
生命感のない冷たい森。役目を終えた落ち葉が、誰にも弔われることなく積み重なり腐ってゆく。
大声を出したことで緊張感が解れたのか、腐った落ち葉独特の匂いに紛れ、微かな異臭が鼻を突く。
――血の匂い……
あの悪夢を思い出させる匂い。今は嗅ぎたくなかった匂い。
しかし本能が行けと誘っている。惨劇が起こったであろう場所に。
……結局来てしまった。
目の前にあるのは夥しい血を浴びた肉片。それでも嘗ては人の姿をしていただろう。
つい先ほど死体を見たからだろうか。気持ち悪くて吐き気がするという事はない。
近寄って傍にしゃがみ込む。どこが顔かさえ判別がつかない。
この人は何を想い何を感じながら散ったのだろうか。それも今となっては判らない。
ただ言える事は、こんなゲームさえなければ、この人もどこかで普段通りの生活を送っていたことだ。
「待っててね。あなたの無念はきっと晴らすわ」
主催者たちを広間で初めて見たときは、ただ怖いとしか感じられなかった。
しかし今は深い憎しみを持っている。
絶対に許さない……心の中でそう誓ってから立ち上がり、その場を後にしようとした。
そのとき地面に何かが落ちていることに気付いた。
落ち葉とは色も形も異なるもの――それは三枚のカード。
近づいて拾い上げると、表面に付いた夜露を弾き、艶やかな姿を現わにする。
下敷きになっていたメモ用紙――そのカードの説明書らしい――を読む。
ただのカードではなく、読み上げることで魔法が発動するらしい。持っておいて損はないだろう。
「ありがたく頂いておくわ」
カードと説明書をデイパックにしまう。
そして最後にもう一度だけ、名前も知らない死体――戸愚呂さんを振り返る。
「さようなら」
- 189 :旅立ち 3/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 19:56:54 ID:2rIcTL1n0
-
辺りが随分明るくなった頃、東城綾はふと我に返る。
いつの間にか森を抜け平地に来ていたようだ。
はるか向こうの方には、朝焼けに染まった海が見える。
毒々しい波が岸辺の岩石を幾度となく打ち付ける様子は、ギロチンに掛けられた死刑囚をも連想させる。
「夜明けが近いのね」
何気なく放ったその言葉が、彼女の頭にこだまする。
――逃げなきゃ。早く隠れなきゃ。太陽が昇る前に……
この感触は何なの? 私の中にまだ何かいるの?
考える間もなく、彼女の足が勝手に駆け出していた。
平地から近くの茂みに。その中で葉っぱが一際多く繁った一本の木に。
幹に噛り付き、片手で無我夢中でよじ登っていく。
まさか自分にこんな力があったとは……
――ここまで来れば安心ね。
十メートルほど登り、枝に腰を下ろし、荷物を脇に置き、一息つく。
先ほどの森とは違い、緑色で整った流線形の葉が重なり合い、周りを覆い尽くしている。
生命感。それを追い求めていた彼女にとって、ここは掛け替えのない場所だ。
「ふぅー」
大きく息を吐き出すと緊張が解けていくのが感じられる。
- 190 :旅立ち 4/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 19:58:43 ID:2rIcTL1n0
-
目を閉じると、今までの出来事が浮かび上がってくる。
いきなり広間に集められて、大男が爆殺される様子を見せられた。
あのときは正直言って心臓が止まるかと思った。
森に飛ばされて暫く泣いていたんだっけ。
真中くんと離れ離れになって悲しかったから?
……それは変だと思う。普段の私だったら無理矢理引き離した張本人に怒りをぶつけるはず。
そこにバギーさんが襲ってきたのよね。
バギーさんは私を本気で殺しに来た。
そして私は生き延びるために……
ところで、この人は普段からそういう人だったのかな?
何となくだけど違うような気がする。
格好からは、どこかのお笑いサーカスで活躍をしていたと考えるのが自然かな。
……そこまで考えて、東城綾はある考えに行き着いた。
このゲームは普段の考え方が出来ない人が死ぬように上手く作られている。
参加者たちの正常な思考を奪い、隙をついて一人ずつ殺していく卑劣な犯行――それが本質なのだ。
怒りに震えながら、拳を強く握り締めている自分に気付く。
――いけない。こんな時こそ冷静にならなければならない。
戦闘力に自信があるなら兎も角、感情的になっても生き残れるほど、このゲームは甘くないだろう。
もう一度目を閉じて、大きく深呼吸、そして思い切り体を伸ばす。
頭を空っぽにして、風の音に耳を傾ける。
日が昇り風が弱まってきて、辺りは水を打ったような静けさに包まれる。
- 191 :旅立ち 5/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:02:21 ID:2rIcTL1n0
-
緑に囲まれながら暫くゆっくりしていると、あれほど怒りに満ちていた心も自然に晴れ渡ってくる。
「もう終わったこと……ね。今はこれからの事を考えよう」
この状況で頼れるものは自分の頭だけだ。そう自分に言い聞かせ、考えを張り巡らせる。
いずれにしても、こんな場所からは早く抜け出したい。そのために優勝を狙う?
うまく作戦を練れば確かに可能かもしれない。
「でも……」
それが出来たとしても、真中くんは既に死んでしまっているなら元も子もない。
第一、あの主催者たちが優勝者をそんなに易々と帰すはずはない。
彼らが自分たちを安全圏に置いていることを考えると、
そのうち力をつけて復讐する可能性のある参加者を無事に帰すのは、理に合わない。
すなわち脱出するには、主催者を
「……殺しに行くしかないのね」
出来ればもう二度と殺人はしたくなかった。
しかし、自分の命さえ危うい状況では、そんなことは言っていられない。彼女は覚悟を決めた。
もちろん彼女だけでは、どうしようもない。
一人で思いつくような奇襲方法なら、当然相手も想定してくるだろう。
何せ主催者たちには、こちらの情報は全て筒抜けだという事だから。
広間で行なわれた会話で、参加者の誰かがそんな事を言っていたような気がする。
「きちんと聞いておけば良かった」
後悔しても始まらない。そのために仲間がある。
会話の内容を覚えている仲間がいれば、そんなことは問題にならない。
「三人寄れば文殊の知恵とは、よく言ったものね」
仲間がいるメリットのもう一つは、このことだ。
この諺によると、考え方が異なる者が意見を出し合ったら、思いもよらない結論が出てくるそうだ。
これに賭けるしかない。
- 192 :旅立ち 6/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:04:10 ID:2rIcTL1n0
-
主催者の打倒。同じ事を考えている参加者は他にもいるはずだ。
実際に会って仲間に引き込む。それが無理でも知恵を授かること位はできるだろう。
「そうと決まれば、他の参加者を探さないとね」
そのときに問題になりそうなのは……
視線を自分の胴体に落とすと、何一つ身に着けていない。強いて挙げれば首輪だけ。
戦闘でボロボロになった上着スカート下着それに眼鏡が、歩く途中にずり落ちてしまったのだろう。
しかも体の至る所に血がこびり付いている。
露出度の高い服は好きだが、さすがに
「こんな格好で歩いていたら、間違いなく変質者扱いね」
まとまった結論は、血を洗い流して服を探すこと。それが第一目標。
海は立ち入り禁止になっているので、血を洗い流すのは必然的に川になる。
琵琶湖という案もあったが、危険な外来魚がいるかもしれないので、却下しておく。
ちなみに今の場所は、地図によると石川県との境界付近だそうだ。
出来るだけ近い川がいいが、今まで福井県にいて川を一度も見かけなかった。
現実の福井県に川が一つもないことはないだろうが、ここでは縮尺の関係で省略されているらしい。
ある程度有名な川ならば、きちんと再現されているだろう。
こんな所で地理の知識が役に立つとは思っても見なかった。
富山県の神通川というのが妥当な案だろう。
理由は、日本海側のほうが通行に不便で人通りが少ないこと。
川で血を洗い流すまでは誰とも会いたくないのが最大の理由だ。
その川がなかった場合でも、もう少し足を延ばせば、日本で一番長いことで有名な信濃川がある。
信濃川が省略される可能性は限りなくゼロであることも大きな魅力だ。
他人に見つかりにくい森の中を通っていこう。
服のことは後でまた考えるか。
- 193 :旅立ち 7/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:06:51 ID:2rIcTL1n0
-
デイパックを背負い、木から下りようとして考え直す。
自分がここに来た理由、それは太陽の光を恐れてのことだった。
そんな物がなぜ怖いのか見当も付かなかったが、早まった事はすべきでない。
時計を取り出して見ると、時刻は午前八時を少し過ぎた頃、太陽が沈むまで時間がある。
先ほどの放送で立ち入り禁止になる都道府県が発表されたはずだが、大声を出していて聞けなかった。
確か午前八時からと言っていたので、ここ福井県は指定されなかったはずだ。
でもすぐ隣の県が指定されなかったという保証はない。
やはり此処にいるのが安全だろう。
「まあいいや。取り敢えず、他の参加者たちの名前でも覚えておこう」
デイパックから名簿を取り出して、ざっと眺めてみる。
高校で日々鍛えているので、暗記力には自信がある。
「こういうのって、口に出すと覚えやすくなるのよね」
……よし完璧。全員の名前を空で言える。
デイパックに名簿をしまい、それを背負って、幹に持たれかかる。
目を閉じて、木々の息吹に耳を傾け、ゆっくりとした時の流れに身を任せる。
夜明けの冷え込みはだいぶ薄れている。
暖かい空気に包まれ、東城綾は眠りに落ちていった……
- 194 :旅立ち 8/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:10:23 ID:2rIcTL1n0
-
どれだけ時間が経ったのだろう。下の方に気配を感じ、東城綾は目を覚ます。
一人の青年が食事を取っている姿が目に入る。よりにもよって同じ木の根元で。
何かの道着を身に着けていて、頭は綺麗に剃り上げている屈強そうな青年である。
いつの間にか、そこも日陰になっていた。
青年は寛いでいて、こちらに気付く様子は見せていない。
あの人なら仲間になってくれるかな?
中々判断し難い時は最悪のケースを想定するのがよい。
隙を見せて油断を誘っている可能性は?
……それは少し考え過ぎな気がする。食事を取りながらでは反撃もままならないだろう。
――今がチャンス! 獲物を逃がすな! こっちは早く血が飲みたいのだ!
何? 今の。まだ、まだ消えてなかった訳?
勝手に動き出しそうな体に咄嗟に力を入れて硬くする。
ん……何とか押さえつけることに成功したらしい。
また下を覗き込むと、青年は食事を終え、しゃがみ込み何かを呟きながら考え事をしているようだ。
青年の近くに落ちている物を見て、絶句する。
空き缶がクシャクシャになって放り出されていたのだ。
凄い力……安易に近づかなくて良かった。
ほっと息をついた。そのとき……
――まだ隙は残っているぞ!
不意を付かれたので、今度は止められず、体が勝手に起き上がる。
しかし起き掛けのためかバランスを崩して落ちてゆき……
「痛っ!」
背負ったリュックのほうから落ちたため、怪我は免れたらしい。
- 195 :旅立ち 9/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:13:47 ID:2rIcTL1n0
-
ん? 背中のほうに何か違和感を感じる。鈍い音?
急いで立ち上がると、リュックの下だった場所に、あの青年の頭がある。
顔を鼻血で真っ赤に染めて、驚きの表情でこちらを見つめている。
「ご、ごめんなさい」
一メートルほど後ずさりして慌てて謝ると、青年が表情を柔らかくして口を開く。
「ははは……不意打ちのことばかり考えていたから罰が当たったのかな」
時々顔を苦痛で歪めながら青年は続ける。
「どうやら首の骨が折れて、首から下が動かなくなったようだ。俺はもう駄目だろう」
衝撃を受けた。確かに殺人を厭わないと誓ったはずなのに。
「あ、あたしはただ……」
青年はその言葉を目で制して問いかけてくる。
「良ければ最後に俺の話を聞いてくれないか?」
怖くて何も喋れず、頷くのが精一杯だった。青年はそれを確認すると話し始めた。
名前はクリリンということ。ゲームに参加している知り合いのこと。
その一人ピッコロの持つドラゴンボールが、どんな願いでも叶えてくれること。
ピッコロを優勝させて、ゲームを無かった事にしてしまうという作戦。
そしてそれを実現するために、既に二人の人間を手に掛けてしまったこと……
東城綾にとっては、想像もつかないことの数々であり、恐怖も忘れてその話に夢中になっていた。
この場で考えた作り話にしては、巧く出来すぎている。彼女はクリリンという青年の話を信じることにした。
しかしこの人の作戦には致命的な欠陥がある。
「でもそのピッコロさんて、主催者全員を一度に相手にして勝てるの?」
「えっ? どういう事だ?」
「あの人たちが、優勝者を簡単に帰すほど、お人好しだと思ってる?」
「……」
クリリンは、そんなことは全く考えてなかったという表情で、口を噤んでしまった。
「俺は全然見当違いの事をしていたのか……」
- 196 :旅立ち 10/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:15:26 ID:2rIcTL1n0
-
二人の間に暫し佇む沈黙。先にそれを破ったのは東城綾だった。
「あなたの思いを引き継ぐわ。それがあたしに出来る唯一の罪滅ぼし。あなたを殺してしまった事への」
その瞳に宿す強い決意を読み取ったのか。
「わかった。後は任せるよ。別に今までの話は気にしなくてもいい。
そこの荷物は全部渡すよ。有効に活用してくれ。
それと最後になるけど……」
そこまで言ってクリリンは視線を宙に彷徨わせ、大きく溜め息をついた。
「さつきっていう女の子に会ったら伝えてくれないか? 相棒を殺してすまなかったと」
絞り出すような声で、最後の言葉を言い終わると、クリリンは顔に満面の笑みを浮かべる。
肩の重荷が全て取れたとき、人は天使のように優しくなれるのだろう。
東城綾も負けずに、クリリンに向けて、是までで最高の笑顔を振り撒ける。
その瞬間、二人の間に確かな契約が生まれた……
クリリンのリュックにある地図には、北海道と宮崎県の所に大きく×印が書き込まれている。
名簿には脱落者の名前の脇に小さく×印。時計が指し示す時刻は、午前十時を少し過ぎた頃。
そして今、東城綾はクリリンから頂いた道着を着ている。
臆することはない。ただ現実に向き合えばよい。
ところで、先ほど驚いて後ずさりした時に、うっかり日なたに出てしまっていた。
けれでも体に異常が見られる様子はない。あれは、ただの思い過ごしだったのだろう。
何はともあれ、服の問題と太陽の光の問題は片付いた。
「がんばれ綾。これからが正念場よ」
そして、最初の目的地――富山県に向けて、十時間余り過ごした福井県に別れを告げた。
- 197 :旅立ち 11/11 ◆NKCqu160yw :2005/11/03(木) 20:17:16 ID:2rIcTL1n0
-
東城綾が立ち去った後、クリリンはもう一度目を開ける。
まだ微かに生きていたらしい。
「これで良かったのか」
小さくなっていく東城綾の背中を横目で見送りながら、クリリンはそっと呟く。
もはや全てを託すしかないことは判っていたが、彼女はただの非力な女の子だ。
それでも何かを成し遂げてくれそうな気がする。あの強い意志で道を切り開く予感がする。
僅かな希望を胸に抱き、クリリンは目を閉じた。
どこにでも在りそうな普通の茂み。
心地よい秋風に耳を擽られながら、クリリンの意識は徐々に遠ざかっていった。
【福井県(石川県との県境)/昼】
【東城綾@いちご100%】
[状態]:健康、精神正常化、強い使命感、身体能力は上がったまま、意識の底に吸血鬼AYA
[装備]:悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料6日分)
:ディオスクロイ@BLACK CAT
:グリードアイランドのスペルカード@HUNTER×HUNTER
[思考]:福井→石川→富山、川で水浴び
:仲間と知恵を集めて主催者を殺害、ゲームを無かった事にする
:優勝しても意味がない、クリリンの言葉を信じる
(自分の身体能力が高くなっていることには気付いていません)
【クリリン@ドラゴンボール 死亡確認】
【残り104人】
- 198 :旅立ち 8/13 (193の続き) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:01:32 ID:JbqZXUiA0
-
どれだけ時間が経ったのだろう。下の方に気配を感じ、東城綾は目を覚ます。
上半身は幹に持たれかかり、太い枝に沿って足を延ばしているので、下から見える心配は無い。
音を立てない様に注意深く頭をずらして、下を覗き込む。
一人の青年が食事を取っている姿が目に入る。よりにもよって同じ木の根元で。
何かの道着を身に着けていて、頭は綺麗に剃り上げている屈強そうな青年である。
こちらは葉っぱに囲まれて、字が何とか読める程度に真っ暗のままだが、下の方も薄暗くなっている。
空が曇ってしまったのだろうか。秋の天気の移り易さも、きちんと再現されているようだ。
一方、青年は寛いでいて、こちらに気付く様子は見せていない。
あの人なら仲間になってくれるかな?
中々判断し難い時は最悪のケースを想定するのがよい。
隙を見せて油断を誘っている可能性は?
……それは少し考え過ぎな気がする。食事を取りながらでは反撃もままならないだろう。
――今がチャンス! 獲物を逃がすな! 我は早く血が飲みたいのだ!
何? 今の。まだ、まだ消えてなかった訳?
勝手に動き出しそうな体に咄嗟に力を入れて硬くする。
ん……何とか押さえつけることに成功したらしい。
また下を覗き込むと、青年は食事を終え、しゃがみ込み何かを呟きながら考え事をしているようだ。
青年の近くに落ちている物を見て絶句する。空き缶がクシャクシャになって放り出されていたのだ。
凄い力……安易に近づかなくて良かった。
ほっと息をついた。そのとき……
――まだ隙は残っているぞ!
不意を付かれたので、今度は止められず、体が勝手に起き上がる。
しかし起き掛けのためか、バランスを崩して傾いてゆき……
- 199 :旅立ち 9/13 (修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:02:29 ID:JbqZXUiA0
-
落ちている。今まで座っていた枝がゆっくりと遠ざかっていく。
ゆっくりと? ……そう、時間が止まりかけている。
あの高さから落ちたのでは、助かる見込みはない。これで全てが終わるのだ。
高い所から落ちて死ぬ間際には、忘れていた今までの記憶が甦って来ると、何かの本で読んだ。
今それが目の前で起こっている。
自分が生まれた時の風景。
幼稚園児、小学生、中学生、高校生と成長していく過程で出合ったもの。
それらが目まぐるしく再生されてゆく……
やがて場面はゲームに移る。
あの広間で爆発した大男の最期の表情。
自分が殺す直前のバギーさんの恐怖に歪んだ顔。
そして道行く途中に出合った原形をとどめぬ死体……
ふと思う。自分はこのまま死んでもいいのかと。まだやることが有ったのではないかと。
――まだ死にたくないか?
そのとき頭の中に声が響く。
――それなら我の言うことを聞くがよい。頭を押さえて出来るだけ丸くなるのだ。
言われた通りに、膝をたたみ両腕で頭を二つの膝の間に押し込む。
こう? ところで、あなたは誰?
――うむ。もう一人の自分とでも言っておこうか。
後ろから何かが迫ってくる。そして……
- 200 :旅立ち 10/13 (修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:03:34 ID:JbqZXUiA0
-
「痛っ!」
背負ったリュックのほうから落ちたため、奇跡的に無傷で済んだらしい。
ん? 背中のほうに何か違和感を感じる。鈍い音?
急いで立ち上がると、リュックの下だった場所に、あの青年の頭がある。
顔を鼻血で真っ赤に染めて、驚きの表情でこちらを見つめている。
――死に損ないか。吸う価値もないな。
思わず背中のリュックの表面に手を伸ばす。
何か硬いものの感触がある。食料品の缶詰だろうか。
リュックを触った手のひらには……鮮血が付着している。
「ご、ごめんなさい」
一メートルほど後ずさりして慌てて謝ると、青年が表情を柔らかくして口を開く。
「ははは……不意打ちのことばかり考えていたから罰が当たったのかな」
時々顔を苦痛で歪めながら青年は続ける。
「どうやら首の骨が折れて、首から下が動かなくなったようだ。俺はもう駄目だろう」
衝撃を受けた。確かに殺人を厭わないと誓ったはずなのに。
「あ、あたしはただ……」
青年はその言葉を目で制して問いかけてくる。
「良ければ最後に俺の話を聞いてくれないか?」
怖くて何も喋れず、頷くのが精一杯だった。青年はそれを確認すると話し始めた。
名前はクリリンということ。ゲームに参加している知り合いのこと。
その一人ピッコロの持つドラゴンボールが、どんな願いでも叶えてくれること。
ピッコロを優勝させて、ゲームを無かった事にしてしまうという作戦。
そしてそれを実現するために、既に二人の人間を手に掛けてしまったこと……
- 201 :旅立ち 11/13 (修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:04:43 ID:JbqZXUiA0
-
東城綾にとっては、想像もつかないことの数々であり、恐怖も忘れてその話に夢中になっていた。
この場で考えた作り話にしては、巧く出来すぎている。彼女はクリリンという青年の話を信じることにした。
しかしこの人の作戦には致命的な欠陥がある。
「でもそのピッコロさんて、主催者全員を一度に相手にして勝てるの?」
「えっ? どういう事だ?」
「あの人たちが、優勝者を簡単に帰すほど、お人好しだと思ってる?」
「……」
クリリンは、そんなことは全く考えてなかったという表情で、口を噤んでしまった。
「俺は全然見当違いの事をしていたのか……」
二人の間に暫し佇む沈黙。先にそれを破ったのは東城綾だった。
「あなたの思いを引き継ぐわ。それがあたしに出来る唯一の罪滅ぼし。あなたを殺してしまった事への」
その瞳に宿す強い決意を読み取ったのか。
「わかった。後は任せるよ。別に今までの話は気にしなくてもいい。
そこの荷物は全部渡すよ。有効に活用してくれ。
それと最後になるけど……」
そこまで言ってクリリンは視線を宙に彷徨わせ、大きく溜め息をついた。
「さつきっていう女の子に会ったら伝えてくれないか? 相棒を殺してすまなかったと」
絞り出すような声で、最後の言葉を言い終わると、クリリンは顔に満面の笑みを浮かべる。
肩の重荷が全て取れたとき、人は天使のように優しくなれるのだろう。
東城綾も負けずに、クリリンに向けて、是までで最高の笑顔を振り撒ける。
その瞬間、二人の間に確かな契約が生まれた……
- 202 :旅立ち 12/13 (修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:06:26 ID:JbqZXUiA0
-
クリリンの息がなくなると、東城綾は近くの地面に手を伸ばした。
柔らかい土。それが草むらの命の証。
ごめんなさい。心の中で草たちに謝ると、彼女は手で土を掘り始めた……
人ひとりが軽く納まるほどの穴が完成すると、今度はクリリンの死体に向き直る。
道着に血が出来るだけ付かないように両手でゆっくりと脱がし、それを自分が身につける。
そしてクリリンを穴の中に寝かせる。その顔にはまだ笑みが残っている。
「安らかに眠ってね。あなたの荷物は大切に使わせてもらうわ」
そして自分のリュックをクリリンの脇に添えて、土を被せてゆく。
何か大切な事を忘れているような気がしたが、それが何なのか思い出せなかった。
クリリンのリュックにある地図には、北海道と宮崎県の所に大きく×印が書き込まれている。
名簿には脱落者と思われる名前の脇に小さく×印。時計が指し示す時刻は、午前十時を少し過ぎた頃。
――臆することはない。ただ現実に向き合えばよい。
そうね。昼の放送はしっかり聞こう。何かヒントがつかめるはず。
そして、最初の目的地――富山県に向けて、十時間余り過ごした福井県に別れを告げようとした。
――早まるな。我は太陽の光に弱い。いつ天気が変わるとも判らない中、歩き回るのは危険だ。
それなら、夜になるまで木の上でじっとしていよう。
――それと先程はすまなかった。我と汝は一心同体。傷つける心算はない。
ううん。そのことならいいの。でも、もう私の体を勝手に動かすのは止めてね。
――うむ。何かあったら遠慮なく頼むがよい。
そう。彼女はいつでも私の味方。これからの旅の仲間。
どんな障害が現れても、恐れず怯まず、ふたりで力を合わせて立ち向かっていこう。
「がんばれ綾。今夜が正念場よ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
- 203 :旅立ち 13/13 (修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/05(土) 09:22:29 ID:JbqZXUiA0
-
クリリンは、暗い土の中で目を覚ました。あの娘が埋葬してくれたのだろう。
「生き埋めかよ……」
しかし気分は先程より幾分か和らいでいる。体の治癒能力が働いているのだろうか。
こういう時は安静にするのが一番である。
土の中では誰かが襲ってくる心配はないので、意外と運が良かったかも知れない。
「全く、あの娘には頭が上がらないな」
名前も聞いていない少女。彼女はただの非力な女の子だ。
それでも何かを成し遂げてくれそうな気がする。あの強い意志で道を切り開く予感がする。
僅かな希望を胸に抱き、クリリンは目を閉じた。
大地の息吹に耳を擽られながら、クリリンの意識は徐々に遠ざかっていった。
【福井県(石川県との県境)/昼】
【東城綾@いちご100%】
[状態]:健康、精神正常化、強い使命感、身体能力は上がったまま、意識の奥に吸血鬼AYA
[装備]:悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料4日分)、ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]:太陽が沈むまで待機、福井→石川→富山、川で水浴び
:仲間と知恵を集めて主催者を殺害、ゲームを無かった事にする
:優勝しても意味がない、クリリンの言葉を信じる
(自分の身体能力が高くなっていることには気付いていません)
【クリリン@ドラゴンボール】
[状態]:首骨折、生き埋め
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料2日分)、グリードアイランドのスペルカード@HUNTER×HUNTER
[思考]:安静にする、東城綾の無事を祈る
- 204 :旅立ち 10/15 (199の続き) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 17:52:14 ID:6FgxcIWp0
-
「痛っ!」
背負ったデイパックのほうから落ちたため、奇跡的に無傷で済んだらしい。
ん? 背中のほうに何か違和感を感じる。鈍い音?
急いで立ち上がると、デイパックの下だった場所に、あの青年の頭がある。
顔を鼻血で真っ赤に染めて、驚きの表情でこちらを見つめている。
しかし目の照準は合っていないようだ。
思わず背中のデイパックの表面に手を伸ばす。
何か硬いものの感触がある。食料品の缶詰だろうか。
デイパックを触った手のひらには……鮮血が付着している。
「ご、ごめんなさい」
一メートルほど後ずさりして慌てて謝ると、青年は上半身を起こしながら口を開く。
「ごめん。こんな時に本当に悪いんだけど……」
言い終わらないうちに頭が少し揺れて、そのまま後ろ向きに地面に落ちてゆく。
頭の当たりそうな場所には……クシャクシャになった空き缶!
「危ない!」
言うより先に、彼女は前のめりに倒れていった。
青年の頭の下に腕を突き出し、指で缶を弾く。
突き指の痛みを堪え、二の腕を青年の頭の下に滑り込ませる。
その瞬間、腕に重みを感じた……
ドジっ子の自分。緊張のあまり、人前で転んでしまうことも多かった。
こんな自分が、転倒する人を助ける日が来るなんて……
先程の木登り。そして今回の人助け。
「これが火事場の馬鹿力ってやつなの?」
- 205 :旅立ち 11/15 (再修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 17:55:56 ID:6FgxcIWp0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは困惑していた。
女の子の顔がすぐ近くまで迫っている。
頭の後ろ側には彼女の腕の柔らかい感触。
思わず顔が熱くなるのを感じる。
慌てて起き上がろうとするが、もう片方の手で頭を押さえつけられる。
「起き上がっちゃ駄目。こういう時は安静にしてないと」
女の子は、頭の後ろ側の腕を持ち上げ、その下に正座をしてから、腕をゆっくり退けた。
今度は太ももの感触。こんな所で膝枕に抱かれるとは……
「ごめん。何か非常に言いづらいんだけど、はだ……
いや、なんで服を着ていないのか、なんて」
自分でも何を言っているのか分からない。
女の子は少し考えてから一言だけ呟く。
「襲われたの……」
こんなに優しい子を……服が全部無くなるまで?
思わず息を呑む。
しかし自分も他人のことを責められない。
あの計画を完遂する為には、この子も殺さねばならないのだ。
目の周りが熱くなる。泣いているのか、俺は。
……話そう。この子に何もかも。打ち明けてしまおう。その後なら……この子も分かってくれるはず。
ゆっくりと呼吸を落ち着けてから、クリリンは目の前の女の子に声を掛けた。
- 206 :旅立ち 12/15 (再修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 17:57:43 ID:6FgxcIWp0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あの、実は……」
青年にいきなり声を掛けられて、東城綾は小さく息を呑む。
「本当に悪い。すまないと思っている。でも、みんなを守るために……」
この人は何を言っているのだろう。
「俺はあんたを殺さなければいけない」
えっ、今何て……
――出番か?
いや、ちょっと待って。まだ襲われている訳じゃないから。
折角助けた人を直に殺してしまうのは嫌だ。
それに、いきなり手は出さない所を見ると、話し合いには応じてくれそうだ。
――あまり待たせるなよ。
「事情を聞かせて頂けませんか?」
青年はその言葉を確認すると話し始めた。
名前はクリリンということ。ゲームに参加している知り合いのこと。
その一人ピッコロの持つドラゴンボールが、どんな願いでも叶えてくれること。
ピッコロを優勝させて、ゲームを無かった事にしてしまうという作戦。
そしてそれを実現するために、既に二人の人間を手に掛けてしまったこと……
東城綾にとっては、想像もつかないことの数々であり、恐怖も忘れてその話に夢中になっていた。
この場で考えた作り話にしては、巧く出来すぎている。彼女はクリリンという青年の話を信じることにした。
しかしこの人の作戦には致命的な欠陥がある。
- 207 :旅立ち 13/15 (再修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 17:58:55 ID:6FgxcIWp0
-
「でもそのピッコロさんて、主催者全員を一度に相手にして勝てるの?」
「えっ? どういう事だ?」
「あの人たちが、優勝者を簡単に帰すほど、お人好しだと思ってる?」
「……」
クリリンは、そんなことは全く考えてなかったという表情で、口を噤んでしまった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは呆然とした。
「俺は全然見当違いの事をしていたのか……」
ショックから立ち直れない。
そんな表情を見て取ったのか、女の子が頭を撫でてくる。
「心配しないで」
全く、この子は何処まで優しいんだよ……
あることを思い出す。自分が二人目を殺した時のこと。
確か女の子が逃げて行ったんだっけ。名前は何だったかな。
(ここはオレに任せて、行け!さつき!)
そんな事を言っていたような。
いずれにしても、あの女の子には会わせる顔がない。
この子に頼んで、代わりに謝ってもらうか。
「さつきっていう女の子に会ったら伝えてくれないか? 相棒を殺してすまなかったと」
ん、何だ? 今、目の前の女の子の顔が微かに震えたような……
- 208 :旅立ち 14/15 (再修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 18:01:31 ID:6FgxcIWp0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さつき……北大路さん? 相棒って誰? もしかして……真中くん?
真中くん、本当に死んじゃったの? 嘘でしょ……
自分が膝枕をしている青年を見る。この人が殺ったのね。真中くんを。
――出番のようだな。
ふと目の前が赤く染まる。意識が心の声に吸い込まれてゆく……
「クリリンさん。どうやら私とあなたの立場が逆になってしまった様ですね」
そして……
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは再び困惑した。
目の前の女の子が、意味の分からない言葉を発した後、自分の服に手をかけて脱がそうとしたからだ。
咄嗟に手を掴む。が、その手は先程と違い氷のように冷えきっていた。
何だかよく分からない恐怖を感じ、その手を振り解こうとする。が、手はびくともしない。
凄い力。ただの女の子のものとは思えない。
あっさり脱がされてしまい、胸があらわになる。
女の子が人差し指で胸をなぞり、やがてそれが中心付近――心臓の位置に達する。
針で刺したような痛み。一瞬だけ胸が苦しくなるが、直に治まる。
何だか不思議な気分だ……
- 209 :作者の都合により名無しです:2005/11/06(日) 18:14:01 ID:s7E1MuKw0
-
- 210 :旅立ち 15/15 (再修正版) ◆NKCqu160yw :2005/11/06(日) 18:20:43 ID:6FgxcIWp0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
血を抜かれ、蝋人形のように白くなったクリリンの死体。辛うじて原形を保っている。
それを見下ろしながら、東城綾は服を着る。クリリンが着ていたものを。
クリリンの荷物の中身を確認する。
地図には、北海道と宮崎県の所に大きく×印が書き込まれている。これが禁止エリアだろう。
名簿には、いくつかの名前の脇に小さく×印。大原大二郎、道化のバギー、……脱落者の名前だ。
真中くんには×印が付いていない。死んだのは放送の後なのだろうか。
「……取り敢えず、木の上で夜まで待とう」
クリリンのデイパックを背負い、再び木に登っていく。
東城綾の目的はただ一つ。復讐。主催者を殺し、ゲームを無かった事にする。
手段を選ぶつもりはない。これは情報戦だ。役に立たない者は、たとえ親友でも殺してしまおう。
空はどす黒い雲に覆われている。嵐になりそうだ。
【福井県(石川県との県境)/昼】
【東城綾@いちご100%】
[状態]:健康、吸血鬼化、強い使命感
[装備]:悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料4日分)、ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]:仲間と知恵を集めて主催者を殺害、ゲームを無かった事にする、優勝は目指さない
(東城綾の荷物、グリードアイランドのスペルカード@HUNTER×HUNTER は近くに放置してあります)
【クリリン@ドラゴンボール 死亡確認】
【残り104人】
- 211 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:33:02 ID:N1p+/3HT0
- ――――――――ダァ――――……ン――――……
聞き覚えのある音と共に、右腕に衝撃が走る。
続いて襲った激痛に、ナルトはその場に転がり倒れた。
「……っ……痛ってぇ…………」
忍者であるナルトにとって、怪我の痛みは日常茶飯事のものだ。
だが、この焼け付くような痛みは。
「……すっげぇ痛いってばよ……」
痛み、熱をもつ傷を押さえた左手からは血が零れ、ナルトの服に次々と染みを作っていく。
跡部に言われたように高いビルの上を目指して屋上まで駆け上り、フェンスの上から海の方角を確かめようとした
その時に、突然衝撃と共に右腕から血が噴き出したのだ。
近くに敵の気配がしないことから、これが長距離……少なくともナルトの視界外からの攻撃なのだと解る。
その上、手裏剣やクナイといったナルトの知っている忍具で攻撃されたのではない。
もっと、目に見えないくらいのスピードで目に見えない何かがナルトの右腕を撃ち抜いたような感じだった。
例えるのなら、火遁の術を小さくして威力を高めてような術。
サクラやシカマルなら何か知ってるかもしれないが、少なくともナルトの知識にはそんな忍術はない。
「一体何なんだってばよ……」
呻き声と共にそう呟いてから、ようやく「もしかしたら」と思い当たる。
「コレ……もしかして銃ってヤツか……?」
だとしたら、半分ほどしか聞いていなかった跡部の銃に関する沢山の脅しも納得が出来る。
――――――――ドスッ
上半身を起こしたナルトの頬を、また何かがかすめ飛んだ。
鈍い音を立ててコンクリートに穴が開く。
「……ッ!!」
本能的に危険を感じ、とっさに貯水タンクの裏に回る。
「どっから攻撃されてんだかわかんねぇってば……」
――――弾丸のスピードは瞬きするより早え。
今更ながら跡部の言葉を身をもって実感する。
自分の服の裾を裂き、その切れ端で右腕をきつく縛り上げる。
目に見えない攻撃。
- 212 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:34:02 ID:N1p+/3HT0
- 敵の居場所は分からない。
しかも跡部によれば『身体のどこを撃たれたって致命傷』らしい。
「どうすりゃいいんだってばよ……」
忍者を生業とする少年は、彼にしては珍しく困り果てることになった。
ライフルの射程距離内に突然現れた少年に、中川圭一は驚きながらも笑みを浮かべた。
中川のいる建物から少し離れた所にあるビルの屋上のフェンスに、金髪の少年がひょっこりと立っているのだ。
キョロキョロと周囲を見回している少年は、中川にはまったく気が付かない。
「僕は警察官だからね。少年犯罪は未然に防がないと」
そう。子供は危険だ。
油断すると今朝のように急に襲われるかもしれない。
ああいう少年達が非行に走り、先輩のようなろくでもない大人になるのだ。
だから早く殺してしまわないと。
「ふふふふふふふふ」
自身から零れる笑いに気付くこともなく、中川は少年に狙いを付けた。
少年の金髪は朝日に反射してとても目立つものだったし、何よりも自分の狙撃の腕はオリンピック選手並みだ。
外すなんてあり得ない。
「ふふふふふふふふ」
よーく狙いを定め確信を持って中川は引き金を引く。
――――ダァ――――……ン――――
- 213 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:34:42 ID:N1p+/3HT0
-
「外した?!」
頭部を狙ったはずの弾丸は少年の右腕を貫通し、中川はその事実に驚愕した。
「まさか!」
自分が外すはずがない。
自分の狙撃の腕は絶対のはずだ。
「……そうか」
今朝、黒髪の少年から負わされた左肩の傷。
このひどい傷のせいで左腕に力が入りきらず、わずかに狙いがずれてしまったのだろう。
「まったく……!!」
腹立たしそうに再度スコープを覗き込むと丁度、金髪の少年が上半身を起こすところだった。
「今度こそ!」
まるで的の様に目立つ金髪に再び狙いを付ける。
――――――だが。
「クソッ!」
二度目の弾丸も少年の頭を撃ち抜くことはできなかった。
思っていたよりも左肩の傷は深刻らしい。
そういえば何だか左腕の感覚がなくなってきているような気がする。
もしかしたら神経がやられてしまったのかもしれない。
「全く忌々しいったらないなぁ……。先輩を殺す前に子供を皆殺ししたいなぁ」
もちろん最優先は今朝のあの少年だ。
でもその前に。
スコープから確認すると、金髪の少年の姿はもう見当たらなかった。
どこかに隠れたのか。
隠れたとしたら屋上から降りて別の建物に入ったか、もしくはあの貯水タンクの影か……。
「早く出てきなよ……ふふふふふふふふ」
今度は絶対に外さない。
左肩と左腕がこのままな限り獲物を狙っても結局同じ事になる、という簡単な予想をたてる理性すらなくした中川は、
止めどなく笑いながらスコープを覗き続けている。
- 214 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:35:24 ID:N1p+/3HT0
-
本日何度目かの銃声に、跡部景吾は体を強張らせた。
(……近ぇな)
今までのどの銃声よりもはっきりと大きい。
建物の影に回り込み、息を殺して様子を窺う。
(ナルトは無事か?)
上を眺めてみてもナルトの姿は見えない。
あの騒がしい忍者はどこに行ったのだろう。
(まさか撃ち殺されてねぇだろうな)
一抹の不安が脳裏をよぎる。
ナルトのスピードがあればそう簡単に狙撃されることはないと思うが、先程までの油断しまくっていたナルト様子は、
跡部を安心させるには程遠いものだった。
これが一輝なら、こんなに不安にはならなかっただろうが。
「……確かこのビルだったよな」
今、跡部の目前に立つこのビルの壁を、ナルトは登っていったはずだ。
(念のためだ)
人の心配をしてやるほどお人好しな性格ではないのだが、高い建物の上に行けと指示したのは自分だ。
もしナルトに何かあったら、自分にも少しの責任はあるかもしれない。
そう思い、足音を立てないように注意しながら階段を駆け昇る。
途中でまた、近くで銃声が響いたが、跡部が足を止めたのは一瞬だけだった。
屋上の扉を慎重に開く。
跡部がまず目にしたのは、転々と散らばる血痕だった。
「跡部!!」
名前を呼ばれ振り向いた跡部の耳を弾丸がかすめていく。
「ッ!!」
「こっちだってばよ!」
給水タンクの影から、ナルトが必死に手招きをする。
素早くそこに転がり込んだ跡部は、状況を悟り舌打ちをした。
- 215 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:36:11 ID:N1p+/3HT0
- 「おい。どこから狙撃されてるかわかるか」
「それが全っ然わかんねーってばよ……」
ナルトの情けない声に跡部は再度舌うちをする。
このビルの屋上は丁度中央に、跡部が昇ってきた階段へと続く扉がある。
出入り口はそこだけだ。
今、跡部とナルトが隠れている貯水タンクはその扉の南西に設置されていて、高さはおよそ2メートル。
この影に入ってから弾丸が飛んでこないということは、狙撃者は貯水タンクを背にした正面である西側にはいないのだろうか。
先程扉を出た途端に狙撃されたことを考えると、東の方――――しかも、このビルと同じくらいの高さの建物に潜んでいると
考えるのが妥当なところか。
(なんとかして階下に降りねぇと)
相手の正確な位置を掴めないこちらが圧倒的に不利だ。
狙撃者が高いところにいるのなら、遮蔽物の多い地上の方が隠れやすい。
「おい、ナルト。どうにかして下に……。……テメェ!撃たれたのか?!」
改めてよくナルトを見ると、その右腕にはべっとりと血が滲んでいる布が巻かれている。
先程別れた時にはなかったものだ。
「ちょ、ちょっと油断しただけだってばよ!俺ってば怪我とかには慣れてるしたいしたことないって!」
「テメェは本物の馬鹿だ!撃たれてたいした事ないわけないだろうが!!」
ナルトのやせ我慢に跡部は怒鳴り声を返す。
あれほど注意したにも関わらずやっぱり油断したナルトに、跡部がもう一怒鳴りしようとしたその時。
「確かに普通の人間が撃たれるのはたいした事だろうね」
突然聞こえた声に、跡部とナルトは息をのんだ。
扉から現れた人物は二人。
形容しがたい妙な全身タイツとマスクを身につけた細身の男と、これまた形容しがたい髪型の、頬に変なマークの入った男。
どこか道化師のような出で立ちの二人の男は、少年達に笑顔を向けた。
「派手に銃声が聞こえたから街に出てきてみれば……早速獲物を発見できるとは」
「ツイてるね★」
- 216 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:39:58 ID:N1p+/3HT0
-
――――ただの、人間じゃない。
直感的に跡部はそう思う。
見た目も異常だが、この状況を楽しむような会話と口調が気色悪すぎる。
そして何よりも、今まで感じたことのない程の危険な雰囲気。
跡部の隣にいるナルトも、明らかに警戒した眼差しで二人をを睨んでいる。
(チッ……どうするか……)
どこからか銃で狙われ、目の前には危険そうな二人組。
間違いなく絶体絶命、という状況に、跡部は衝撃貝を装着した右手を握りしめた。
- 217 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:40:38 ID:N1p+/3HT0
- 【福岡県(市街地)/早朝】
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】健康、襲われたらやり返す覚悟を決めた
【装備】衝撃貝(インパクトダイアル)の仕込まれた篭手@ワンピース
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ノートとペン、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.現状をどう脱するか考え中
2.乾と越前を捜す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】右上腕に弾丸貫通(応急処置はしたがまだ出血中)、空腹
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.目前の二人組(パピヨン、ヒソカ)への対処
2.サクラ、シカマルを探す
3.主催者をやっつける
【中川圭一@こち亀】
[状態]:左肩を負傷 精神不安定 錯乱気味
[装備]:スナイパーライフル(残弾17発)
[道具]:荷物一式 ベアクロー
[思考]:1.金髪の少年(ナルト)の狙撃
2.両津を探して射殺する
3.優勝する
- 218 :少年(15)の受難は続く:2005/11/07(月) 21:41:18 ID:N1p+/3HT0
- 【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス少量消費)
[道具]:荷物一式(食糧二食分消費)
[思考]:1.目前の少年達から首輪を手に入れる
2.知り合いとの合流、ヒソカと行動
【ヒソカ@ハンターハンター】
[状態]:健康 全身に軽い打撲、裂傷(処置済み)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食糧一食分消費)
[思考]:1.目前の少年達から首輪を手に入れる
2.更木を含む強者と戦いたい
3.知り合いとの合流、パピヨンと行動
- 219 :大阪探索しちゃい隊 1/4 ◆NSwjTBRSKw :2005/11/07(月) 23:10:54 ID:iXdQDpvJ0
- 大阪。日本三大都市に数えられるその街は、日本西部にいる参加者が、人を求めて集うだろう。
同一世界の友を求めて、異世界の新たな仲間を求めて、そして、獲物を求めて。
ハイリスクハイリターンの場所、それがこのゲームに置ける大都市だった。
故に妲己は考えていた。大阪を離れるべきか否か。
自分の本性を知る趙公明を生かしておいては後々不都合が出るだろう。
何とかして始末したいが、果たして趙公明は大阪にいるのだろうか?
とりあえず趙公明を探し、何とか口封じをしたい。
太公望と竜吉公主についても考えたが、自分がゲームに乗らず脱出をしようとしていると話せば、
一時的に協力を仰ぐ事は可能だろうと妲己は推測した。
聡明な太公望ならここで妲己を殺すより、妲己の知識・智謀を脱出に生かしたいと思うはず。
もちろん、脱出不可能と悟るや妲己が優勝を目指すだろう事を分かった上で。
自身の力が弱体化している以上、脱出不可能と分かるまでは、脱出を前提に行動すべきだ。
仲間を集め、太公望に遭遇したら一時的に同盟を組み、元の世界に帰る。それが妲己の希望だ。
趙公明は強者とゴージャスに戦う好戦的な男だが、力の無い弱者相手ならば、
そちらから仕掛けられない限り趙公明は戦おうとしないだろうと、妲己から説明を受けたカズキ。
だから趙公明という敵がいたとしても、彼から弱者を守る必要は無い。
しかし、とカズキは思う。
斗貴子さん、ブラボー、蝶野攻爵という強者を見たら、趙公明は戦いを挑むだろう。
仲間の強さを信頼しているカズキだが、それでも仲間が趙公明という強敵に殺される可能性を恐れている。
大阪を離れるべきではない。趙公明を探し、被害者を出さぬため倒すべきだ。
しかし問題点が2つ。
1つ、倒せるのか? この3人、この武装で趙公明を倒せるのか?
2つ、倒したとしてどうする。殺すのか?
殺せば安全だ。だがそれをしたら自分もただの殺人鬼に成り下がる。
しかし倒したからといって、趙公明は悔い改めて殺しを止めるだろうか? 脱出に協力してくれるだろうか?
少年漫画のように、全力で戦い合って友情が芽生えるといった展開が起こるとは限らないのだ。
どうするにせよ、趙公明を無視する訳にはいかない。
大阪に留まり趙公明を探し、何らかの解決を図る。それが武藤カズキの希望だった。
- 220 :大阪探索しちゃい隊 2/4 ◆NSwjTBRSKw :2005/11/07(月) 23:12:44 ID:iXdQDpvJ0
- 城之内君が死んだ。死んだ。親友が、一番の親友が死んだ。
悲しい、寂しい、つらい、苦しい、そんな遊戯を妲己は優しく包み込んでくれた。
臆病ながらも性根に確かな強さを持つ遊戯は立ち直る。そして思う。
守ろう。
どこかで怯えている杏子を。ライバルである海馬君を。仲間のカズキ君を。優しくしてくれた妲己さんを。
守ろう。しかしどうやって? 非力な少年、遊戯は思う、どうやって守りたい人を守る?
自分には武器が無い。自分には力が無い。あるのはゲームを切り抜ける知恵、だが妲己の知恵には劣る。
何も無い、自分は役に立たない。だが何もしない訳にはいかない。
小さくてもいい、出来る事から地道に解決していくしかない。
今出来る事は何か? 遊戯は思う、妲己とカズキが戦った仙人、趙公明を。
カズキと同じく、この危険な男を野放しにはしておけないと遊戯は思う。
それは純粋な正義感からだった。
しかし、親友城之内克也を殺したのが趙公明だと知った時、遊戯の心に湧くのは恐らく憎しみ。
それを妲己は見逃さない。不の感情を操る術に長けている妲己は、即座に遊戯を傀儡とするだろう。
カズキ同様大阪に留まり趙公明を探し、何らかの解決策を図る。それが武藤遊戯の希望だった。
彼の望む選択が彼自身に暗い影を落とすかもしれない可能性を知る者はいない。
大阪府郊外の民家の中に、妲己と愉快な武藤達は居続けていた。
遊戯が泣き止んで、軽く食事を取ってから作戦会議が始まっている。
「わらわは名古屋に行こうと思ってるわぁん」
先手を打つ妲己。
「で、でも趙公明を放ってはおけないよ」
「カズキちゃん、わらわだってそう思ってるわぁん。でもね、今のわらわ達じゃ勝てるかどうか疑問よ。
勇敢と無謀は違うわ、だから勝てると確信が持てるまで戦いを挑むべきじゃないと思うの」
口を封じたいと思いながらも、封じるだけの力が無い事を妲己は口惜しく思う。
もっとも自分の正体がバレたとしても、脱出したい気持ちは本当だと説得すれば、
カズキと武藤のようなお人よしでなくとも、脱出を願う人間を懐柔する自信があった。
「でもっ……! 今こうしている間にも、趙公明の手に誰かが……」
「わらわも心苦しいわぁん。もし趙公明ちゃんが、あなたや遊戯ちゃんのお友達を殺したらなんて思うと」
妲己はあくまで例えで言ったのだが、事実趙公明は遊戯の親友を殺していた。
が、それはいかに妲己といえど知りえる事ではない。例えが偶然にも事実だっただけだ。
- 221 :大阪探索しちゃい隊 3/4 ◆NSwjTBRSKw :2005/11/07(月) 23:13:30 ID:iXdQDpvJ0
- 「それにね、当ても無く探して見つかるような趙公明ちゃんじゃないと思うわぁん」
「当ても無くって……大阪にいるはず、現実の大阪より狭いからきっと……」
「趙公明ちゃんが大阪に留まってるとは限らないわぁん。
ゴージャスな所が大好きな趙公明ちゃんだけど、大阪はゴージャスというよりゴミゴミしてる」
面積が狭く、さらに半分以上が山の日本では、どうしても人が密集してしまう。
故にゴミゴミしているというのは、主要都市ならば日本国内どこにでも言える話だ。
「彼なら自分にふさわしい戦場を求めて移動していると思うわぁん。大阪には留まらないでしょう。
とすると、日本最大の都市東京を目指す可能性が高いわね。
彼もこの国の事は知らないでしょうけど、誰かから聞く機会はあるでしょうし」
実際趙公明は京都の慎ましい美に感動し、しばらく京都に留まる事に決めたのだが、
妲己がそんな事を知る由も無く、カズキも「ゴージャス」という言葉が京都の雰囲気と正反対なので、
美の都京都にいる可能性に思い至らなかった。遊戯も同様だ。
「だから趙公明ちゃんを止めたいなら、わらわ達も東京へ向かうべきだわ。
それに、大阪で待っているのもいいけれど、やっぱり首都が東京だと知れば、
参加者はみんな東京を目指すわぁん。仲間を探すにしても人を助けるにしても、
人の集まる東京に行った方が効率がいいんじゃないかしら?」
妲己の言葉は正論のようだが、それは大阪に集まる人間は見捨てようという意味でもあった。
大阪より西にいる参加者の大多数が大阪を目指すだろう事は妲己にも予想がついている。
しかし大阪に留まるメリットも考えてはいた。
「もっとも、わらわだって今すぐ移動しようと言ってる訳じゃないのよ。
とりあえず大阪を探索して仲間や武器を集めましょう。
趙公明ちゃんに遭遇する危険もあるけど、多分もういないでしょうし。
それよりもゲームが始まってずいぶん経つし、大阪を目指している人間もそろそろ到着するはずよぉん。
だからといってあまり大阪に執着していると、今度は名古屋と東京、
特に首都の東京を目指す人間との合流に不都合が生じるわぁん。切りを見て大阪を出ましょう」
大阪を探索するというのは、趙公明打倒を考えるカズキと遊戯にとってありがたい提案だった。
「次の放送の正午まで大阪に留まって、それから名古屋へ移動。それでいいわねぇん?」
「はいっ」
「うんっ」
同意する武藤達。
妲己達の行動方針は決まった、そして妲己をブレーンとしたチームとしての統率も取れていた。
- 222 :大阪探索しちゃい隊 4/5 ◆NSwjTBRSKw :2005/11/07(月) 23:14:33 ID:iXdQDpvJ0
- 聡い女だ。しかしまだ信用する訳にはいかないと、もう一人の遊戯は考える。
千年パズルに宿るもう一つの人格、闇遊戯は、蚊帳の外から3人を見ていた。
だからこそ見えるものがあるのだろう。
妲己は確かに頼りになる。正午まで待てばゲーム開始から実に12時間、
この縮小された日本ならば、それだけの時間があれば大阪の西側にいる人間はほとんど大阪へ辿り着くだろう。
九州最南端などから大阪を目指していればその限りではないが、
そんな極少数のために名古屋や東京を目指す人間と会えるチャンスを逃すのは惜しい。
悪くない判断だと思う。
だが、こうも思っていた。
(妲己はただ、自分を守るための仲間と、ゲーム脱出の手がかりを効率的に手に入れようとしているだけで、
本当は俺達の命なんて何とも思っていないんじゃないか?)
愚かかもしれないが、本当に他人をも守ろうとするのなら、趙公明を命に代えても止めようとするはずだ。
勇敢と無謀は違うと妲己は言ったが、それは保身のためではないのか?
それが悪いとは思わない、誰だって自分の身を守りたいものだ。
仲間のために命を懸けるほどの人間でなくとも、仲間のために手を貸してくれる人間なら、それは善良と言えるだろう。
考えていても答えは出ない。闇遊戯はただ妲己を見張るだけ。尻尾を出すのを待つだけだ。
だが、闇遊戯とて妲己が悪人である事を願っている訳ではない。
疑いが晴れ、妲己が心から信頼たる仲間になるのが一番いい。
それなら相棒も悲しまずにすむ。この甘い考えが悪い結果に繋がる可能性もあったが、それが闇遊戯の希望だった。
- 223 :大阪探索しちゃい隊 5/5 ◆NSwjTBRSKw :2005/11/07(月) 23:16:18 ID:iXdQDpvJ0
- 【妲己ちゃんと愉快な武藤達】
【大阪郊外/朝】
【蘇妲己@封神演義】
[状態]:健康
[装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(一食分消費)
[思考]:1 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集める。
2 太公望、竜吉公主、趙公明から自分の本性を明かされるのを防ぎたいが、
本性がバレても可能ならば説得して脱出のため協力し合う。
3 どんな事をしてもゲームを脱出し元の世界に帰る。
可能なら太公望や仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる。
【武藤カズキ@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:ドラゴンキラー@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(一食分消費)
[思考]:1 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集め、趙公明を発見したら倒す。
2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
3 蝶野攻爵がこの状況でも決着をつける気なら相手になる。
4 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。
【武藤遊戯@遊戯王】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(一食分消費)
[思考]:1 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集め、趙公明を発見したら倒す。
2 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
3 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。
[闇遊戯の思考]:妲己の警戒を続けるが、妲己が善人ならばと希望を抱いている。
- 224 :少年(15)の受難は続く(状態表改訂):2005/11/07(月) 23:22:48 ID:N1p+/3HT0
- 【福岡県(市街地)/早朝】
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】健康、襲われたらやり返す覚悟を決めた
【装備】衝撃貝(インパクトダイアル)の仕込まれた篭手@ワンピース
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ノートとペン、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.現状をどう脱するか考え中
2.乾と越前を捜す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】右上腕に弾丸貫通(応急処置はしたがまだ出血中)、空腹
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.目前の二人組(パピヨン、ヒソカ)への対処
2.サクラ、シカマルを探す
3.主催者をやっつける
【中川圭一@こち亀】
[状態]:左肩を負傷 精神不安定 錯乱気味
[装備]:スナイパーライフル(残弾15発)
[道具]:荷物一式 ベアクロー
[思考]:1.金髪の少年(ナルト)の狙撃
2.両津を探して射殺する
3.優勝する
- 225 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:33:07 ID:dENfD8sD0
- 「本当にこっちで良いんだろうな?」
「あぁ宮崎県とやらが封鎖されただろ?なら鼠は八方塞がりになる前に熊本県とやらを通って逃げる筈だ」
そう歩きながら包帯の男――志々雄真実は地図を指さして説明した。
「ってもこの県ったって広いぜ。わざわざこんな広い通りを通る奴なんているのか?」
応急処置として首に着物を引き千切っただけの代物を巻き付けた死神――更木剣八が再び尋ねる。
首が切られたのだ。
本来ならば動けないであろう傷だったのだが、この死神はそんな乱雑な処置だけで既にけろっとしていた。
「なに、俺達の狙いは鼠の中でも大鼠だろ。更木、お前ならどの通りを行く?」
「はっ、なるほどな。俺なら広い通りを選ぶ」
「そう言うことだ。獲物が強いか自分が強い奴程隠れずこの通りを選ぶ」
志々雄の指が鹿児島、熊本、福岡と順に進んでいく。
勿論志々雄がその通りの存在を知っていた訳ではないが、今までの道との比較や自分が暮らしていた時代の地理的関係等からこの道が主要道だと言うことは安易に想像できた。
そして二人が選んだ道こそ、九州自動車道だった。
- 226 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:34:15 ID:dENfD8sD0
- 「――志々雄」
「あぁ解ってる。この先に誰かいるな……っと向こうも此方に気付いたようだ」
場に気が凛と張りつめる。
相手に動く気はがない。
動けないのか、それとも準備をしているのかはまだ解らない。
否、逃げられないと悟っているのかもしれない。
「大物だな……それも特級品」
「前の二人組と同じかそれ以上……」
まだ見ぬ相手を品定めしつつ二人は更に歩を進める。
一歩、また一歩と進むたびに相手の強さが感じられてくる。
「――おぬしでござったか、志々雄真実」
二人の目の前に現れたのは、腰に刀を差し着物姿の侍――緋村剣心であった。
- 227 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:34:42 ID:dENfD8sD0
- 「悪ぃな、更木。ご氏名だ」
目の前の男が片手で今にも戦い出そうとする大男を制す。
「なに俺が勝ったら其処の刀でお前との約束を果たす。俺が負けたらその刀で奴と戦えばいい。悪い条件じゃないだろ?」
「けっ、名指しなら仕方ねぇ。野暮な真似はしねぇから早くけり付けてこい」
そう言ってムラサメブレードを志々雄に投げ渡す。
刀は空中を舞い、更木を制するために出した志々雄の手に収まった。
「俺も決着を付けたい相手がいるんでな。ただ俺の気が変わらない内に頼むぜ」
その言葉を受け取ると志々雄は荷物を下ろし、空いた方の手を上げ更木に了解と無言で伝えた。
「――よぉ、待たせたな抜刀斎。後ろのは気にするな。奴は仲間でも何でもない、勝った方の敵だ」
「――説得は……無理でござるな」
殺気を感じた時、情報交換を中断して小早川瀬那と蛭魔妖一の二人を下がらせたのは正解だった。
相手は二人とも自分と良くて互角。
一人は抑えられたとしても、二人目の行動を止める手だてはない。
そして二人は死合と言う物を知らな過ぎた。
説得すら効かない相手――戦うしかない宿敵と言う存在を。
「志々雄――おぬしこれからどうするつもりでござるか?」
「知れた事よ。元の世界で果たせなかった悲願、国盗りを成し遂げる迄よ」
「全てを殺した先には何も残らんでござるよ」
「それは成し遂げた後考えれば済む。決着がまだついていない貴様との戦いの前には無粋な事」
それ以上は不要とばかりに志々雄が鞘から刀を抜き放った。
鞘より出たる刀身は太陽の光を鈍く鋭く照り返し、其れが名刀である事を証明していた。
- 228 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:35:45 ID:dENfD8sD0
- しかし剣心の脳には志々雄のある言葉がどうしても引っかかっていた。
「決着がまだついていない――とは、どう言う事でござるか?」
そう、志々雄はあの時自分の目の前で燃え尽きて死んでいったのだ。
「言葉通りよ――宗次郎と貴様の戦い後、どうしてかこんな所にいたが貴様も此処に来ているとはな」
宗次郎との戦いの後やってきた?
剣心自身はその後の記憶もしっかりしている。
志々雄が燃え尽き、縁との因縁も断ち切った。
束の間かも知れない安息の日々であったが、それをやっと感じ取れるようになった頃この世界に飛ばされた。
しかし目の前の男はどういう訳か燃え尽きて死ぬ前、自分と決着を付ける前にこの世界に飛ばされたらしい。
目の前の男はそんな事では偽りを騙らないだろうし、現に自分より百二十年以上後の世界から連れてこられた二人組とも出会っている。
詰まりは異なる適当な時代から人を連れてきてこの日本の様な場所で戦わせているという事なのだろう。
「――いやはや宿命ってのはあるものでござるな」
100名。
たったそれだけの数に時代を超えた人が集められた中に志々雄が混ざっていたのだ。
これを宿命と言わずに何と言う。
「いくでござるよ」
それだけ言うと剣心も半身になって腰に差した刀を構えた。
剣心が一旦構えるとその雰囲気は一変していた。
目つきは鋭く、そして身体から出るオーラは殺気そのもの。
かつて人々はその剣心を恐れ怯えこう称した――人斬り抜刀斎と。
腰に差した刀は志々雄と交えた逆刃刀・真打ではなく普通の刀。
まもる者の為なら再び修羅の心構えにもなれる。
嘗て志々雄の配下、十本刀の刀狩りの張を斬ると覚悟した時と同じである。
- 229 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:39:42 ID:dENfD8sD0
- 次の瞬間、剣心の身体が一瞬沈んだかと思った瞬間には抜き身の刀が宙を舞っていた。
剣心が使用するは抜刀術を主とする飛天御剣流。
神速の殺人剣は次の瞬間を待つまでもなく相手の間合いに入っていた。
「飛天御剣流 双龍閃」
言葉と同時に第一撃が決まる。
神速で放たれた刀が一直線に志々雄を襲うが甲高い音と共に弾かれ軌道を反らされる。
そしてそのままの回転の勢いで左手に持った鞘でのコンビーネーション。
だが、其れすらも志々雄の左手で当たる瞬間に止められた。
逆刃刀と普通の刀では重心が異なる。
逆刃刀に慣れていた剣心の右腕ではどうしても必殺の抜刀が出来ないでいた。
「この程度か抜刀斎」
志々雄の人離れした握力によって掴まれた鞘は捨て、剣心は即座に次の行動に移った。
「飛天御剣流 龍翔閃」
刀の重心にまだ慣れていないのならと、下段に構えた刀を峰に添えたもう片方の手で力のままに突き上げる。
今までなら逆刃刀で峰に刃があり、自分が切れない様に刀を横にするしかなかったのだが、この刀では最強の殺人剣の威力をそのままに出すことが出来た。
しかし、それすらも刀で反らす志々雄真実。
「飛天御剣流 龍巻閃」
そのまま流された方向に身体を捻り、回転しつつ攻撃。
「龍巻閃・嵐」
横ベクトルの回転をそのまま縦ベクトルに移行させて打ち下ろす。
「龍槌閃」
そのまま縦ベクトルを利用し空中から更に一撃を加える。
続けざまに飛天御剣流を4連発。
しかしどれも志々雄の身体に届く事は叶わなかった。
「飛天御剣流 龍巣閃」
ならばと更に連撃を叩き込むが、ある攻撃は刀で反らされ、其れすらも必要としない攻撃は紙一重でかわされた。
- 230 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:43:33 ID:dENfD8sD0
- それからも数回打ち合ったが剣心は決定打に欠けていた。
しかし状況が剣心圧倒的であることには変わらず、剣心自身もそれを理解していた。
一つ、慣れない刀とはいえ飛天御剣流を自由自在に使用できる自分とは違い、志々雄の秘剣は無限刃という刀に依存する技であり今は使用できない点。
二つ、秘剣のない志々雄は通常の剣舞で攻撃するしか他ならず、剣心の飛天御剣流の前では防戦をしなければいけないと言う点。
三つ、防戦するしかない志々雄だが、その身体は発汗作用の異常により15分の制限時間付きである点。
5分経ち、6分経ちと時間は徐々に減っていく。
以前に剣心達が対峙したときとの違いは両者共に未だほぼ無傷である事。
志々雄の動きが良くなってきたかと思えば、次第に剣心は人斬り時代の刀の重心を思い出し技に一層のキレがでてきた。
8分経ったが両者互角。
しかし10分を過ぎる頃両者に決定的な違いが見え始めた。
人の斬れない逆刃刀から普通の刀に変わった剣心。
片や殺傷力をぎりぎり保つ限界を見極めて作られた無限刃から光速の速さでの斬撃も耐えうる忍者マスターガラのムラサメブレード。
両者の動きが良くなるにつれて剣戟が掠めることが増えてきた。
以前ならば掠めてもなかなか斬ることが出来なかった刀であるが今は違う。
お互いに掠めれば斬れるし血も吹き出す。
だが額の鉢金に受けたとは言え斉藤の牙突を耐え、左之助の二重の極み、剣心のまともに入った飛天御剣流五連撃や九頭龍閃すら耐えうる防御力の前に体力面での差が出始めた。
- 231 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:49:13 ID:dENfD8sD0
- 「そろそろ宿命とやらも終わりにしようでござるよ、志々雄」
剣戟ではもう時間稼ぎすら出来ないと言うことを悟った剣心は再び志々雄から距離を取った。
ふぅと呼吸を整え構えを正眼に持ってくる。
「飛天御剣流 九頭龍閃!」
嘗ては志々雄を吹き飛ばしただけの技であったが今回は違う。
きちんと刃が通った刀なのだ。
唐竹、袈裟斬り、右薙ぎ、右斬上げ、逆風、左斬上げ、左薙ぎ、逆袈裟、刺突。
玖の刃の同時斬撃。
殺意のこもった刃が瞬間にして志々雄を捉える。
咄嗟に後ろに飛びつつ、幾つかの斬撃を瞬時にして叩き落とした志々雄であるが、流石に玖の刃の前には敵わず数撃受けてしまう。
其の恰好の隙を見逃さずに剣心は次の行動に移す。
最初に捨てた柄を拾いに行きその場で刀を納め抜刀術の構えを取った。
前の世界で相見えた志々雄に大打撃を与えた技――天翔龍閃。
神速を文字通り超えた超神速で抜刀する飛天御剣流の奥義。
目の前の志々雄が戦う前の志々雄ならばこの奥義の正体を知らない筈である。
場所、時代は違くとも最終的に同じ技で相見えた宿敵同士。
剣心は既に戦いの中で嘗ての刀の重みを完全に取り戻していた。
- 232 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:50:28 ID:dENfD8sD0
- 「飛天御剣流奥義――」
左足で地面を蹴りつけ右足を滑らせる。
「天翔龍閃!!」
右足が地面に着くか着かないかの刹那に今度は右足で地面を蹴りつけ、左足で踏み込みつつ抜刀した。
抜刀には向かないと言われた逆刃刀を扱うために鍛えた腕力と、空気をも超神速で切り裂く刃がシンクロする。
嘗てない迄に加速された刃が志々雄を襲う。
だが、鈍い音と共にその刃が瞬時に左足踏切を確認した志々雄の刀によってまたしても防がれた。
刀が抜かれてからでは遅い。
抜刀する前に技を読むという志々雄の策である。
だが、真の天翔龍閃は隙を生じぬ二段構えの抜刀術。
龍の牙をかわしたとしても二撃目の龍の爪が相手を屠る奥義なのである。
一撃目の抜刀を受け止めた志々雄であったがその防御は刀を跳ね上げられ無防備状態に陥っていた。
そのまま一撃目に作り出された真空状態により弾かれ後退した筈の志々雄が再び剣心の間合いに押し戻される。
そのまま踏み込み勢いを殺さないようにしてもう一度剣心が踏み込んだ。
遠心力を伴い更に加重を加えた二撃目が今度こそと志々雄を捉える。
――が、龍が起こした吹き荒れる風が止んだ時其処に残っていたのは真っ二つに斬られた志々雄ではなく、真っ二つに折れてしまった龍の爪であった。
剣士としての技量は志々雄の方が上かも知れないが、奥義が使えない志々雄と剣心では技の差としては圧倒的に剣心に分があった。
それなのに刀が折られてしまったと言うことは、何度もの撃ち合いによるダメージの蓄積と純粋に刀の差によるものなのだろう。
その蓄積されたダメージの所に多大に負荷のかかる天翔龍閃を使用したのだからよほどの刀でない限り同じ結果になっていたであろう。
決して幾度も死線を潜り抜けてきた斉藤の刀が悪かったわけではない。
超音速で城を斬ったりしても無事な刀が相手、そもそも世界が違ったのだ。
- 233 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:51:20 ID:dENfD8sD0
- 「ヒル魔さん……あのままじゃ緋村さんが……」
「だまってろ糞チビ。俺達に何ができるってんだ」
道路から少し離れたビルの中で二人は隠れていた。
「でも緋村さんは僕たちに色々教えてくれたし、悪い人じゃ……」
「――確かに悪い奴じゃないかもしれねぇが、アレが悪い奴と仮定しても出会って即殺し合いを始めるか、普通?」
「……」
その問いに答えられず瀬那は黙ってしまった。
「俺達とは生きた時代が違うんだよ」
生きた時代が違えば常識も違う。
確かにこの世界では悪い奴にあったら即殺した方が理屈としては正しいのかも知れない。
だが、現代で生まれて育った蛭魔と瀬那はその理屈を真っ正面から受け止められずにいた。
『できることなら、説得したいでござるが』と言う剣心の言葉を少なからず信じたいと思っていた。
だが、信じようとしていた端から殺し合いを剣心は始めたのだ。
未だ直接は命の危険に晒されていない彼らにとって、説得が効かない相手の存在と言うのは想像することすら出来なかったのである。
「だけど……」
それでも納得がいかないと言うような瀬那。
確かに自分たちとは違う時代の住人かもしれないが、逃がしてくれたのは事実。
悪い奴ではなさそうだし、思いっきり腕も立つ。
其れは蛭魔自身も感じていた。
ただ剣心を含め外の3人と自分達との実力差、そしてなにより死にたくない、殺したくないと思う気持ちが冷静に判断させていた。
何度も逃げる以外自分達に出来る事はないかと考えた。
ただ1つだけ方法がある事はあるのだが通用するのは1回のみ、しかも自分達の存在をバラしてしまうおまけ付きだ。
相手が1人ならまだしも2人の場合もう片方に殺されてしまうのがオチだ。
万が一瀬那の足なら逃げられるかも知れないが、恐らく自分の足では無理だろう。
だが、その方法は自分がやった方が確率がぐっと高まるので下手に瀬那にやらせることは出来ない。
やるにはあまりにもリスクが大きすぎる一か八かの大博打。
アメフトで作戦を1回失敗してもそれ以上取り返せば結果的には構わないが、この場でのミスは命取りに繋がる。
口では冷たく言い放っていた蛭魔だが内心非常に迷っていた。
- 234 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:52:19 ID:dENfD8sD0
- そうやって迷っている間にも剣心は次第に劣勢になっていった。
最初は常に攻め素人目で見ても優勢であったが、今では所々から血が滲み明らかに動きが落ちてる。
「ヒル魔さん!」
「うっせぇってんだ、少し黙ってろ糞チビ」
しかし、瀬那は今にも剣心の元に走って向かいそうな目をしていた。
止めても聞かないだろうと言う位は想像がつく。
「――お前が行ったら俺までバレるだろうが」
減らず口を叩きながら、ポケットの中からある物を取り出す。
「合図と共に奴等とは逆方向に逃げるぞ」
「でも、それだと緋村さんが……」
「俺達が出来る限りの事をすればいい。ただ無駄死にってのは御免だ」
そう言ってビルの窓の傍に立ち再び剣心達を眺める。
「――距離は40ヤード……いや40.5ヤードか」
手に持った物を弄びながらそう呟いく。
「用意は良いな糞チビ」
その言葉に応じて瀬那がコクンと頷く。
後は外のタイミングを計るだけ。
その時剣心の大技がやっと決まり相手に一瞬隙が出来たのを見逃さなかった。
「YA―――HA―――!!」
2、3歩ステップしつつ腕を撓らせオーバースローで投げ、次の瞬間には反転して走り出していた。
「ぼけっとすんな、走れ!」
「あ……うん」
成功かどうかは見届けなくても解る。
これでもクォーターバックなのだ。
この距離でアメフトのボールより投げやすい物を外す訳がない。
- 235 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:52:58 ID:dENfD8sD0
- 蛭魔が走り出した瞬間にはもう剣心の天翔龍閃は終わっていた。
0.1秒にも満たない刹那の間であったが二人はその結果に呆然としていた。
しかし次の瞬間には自分達に向かって迫り来る物体に顔を向けた。
それは決して大きくはなく、当たっても大したことのない物体に思われた。
が、無視して無防備になった剣心に止めを刺そうとした瞬間頭上で大きな音を立ててその物体が爆発した。
咄嗟に振り向くと大きなヒトガタの何かがもう目前まで迫っていた。
瞬時に斬りつけるがそのヒトガタの分厚い表面によって斬撃の威力が全て吸収される。
「なっ……夷腕坊?!」
外見は異なるのだがその特徴的なフォルムと性質から嘗て仲間であった十本刀の一人を思い出した。
しかし、気がついたからといって何になろうか。
斬ることも出来なかったその物体はそのまま志々雄の上に音を立てて着地した。
「――参號夷腕坊でござるか……」
あの金髪の少年が乗っていた参號夷腕坊が志々雄の代わりに目の前に俯せに横たわっていた。
恐らく衝撃吸収機巧と元からの頑丈さによって下の志々雄は殆どダメージを受けてはないだろう。
(さて、どうしたもんでござるか……)
じっとしていても折れた刀じゃ出てきた志々雄の刀の錆になるだけだろう。
かといってほって置いても犠牲者が増えるだけ。
判断の時は直ぐ其処まで迫っていた。
- 236 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:56:46 ID:dENfD8sD0
- 「ねぇヒル魔さん何をしたの?」
「ケケケ、あの参號夷腕坊をカプセルごと相手にダイレクトパス」
その顔は先程までの悩んでいた顔とはほど遠い、何かを思いついた時の表情と全く一緒だった。
「アレが相手の上に落ちれば良し、落ちなくてもその隙を見て逃げるだの、知っているらしいからそれに乗って戦うことも出来るって訳だ」
情報交換が途中で終わった為に蛭魔は剣心から参號夷腕坊の情報を聞き逃していた。
もし、乗れなかったとしても弱点を知っていればこそ利点も応用できるだろうしまだ巧く使えない自分が乗っていても仕方がないので手放した。
「さ、やっちまったもんは仕方がねぇ、さっさとずらかるぞ。後は彼奴を信じて合流すればいい」
そのままビルの階段を駆け下り裏口から出たのだが……
「一寸待ちな、全員でかかられる分には気にしねぇが、全員で逃げられると面倒なんでな」
いつの間にやら先回りしていた大男が其処につったっていた。
「なっ!!」
走り出してからまだ15秒も経ってはいない。
投げる瞬間までは剣心の戦いを傍で見ていたのは確認している。
其れなのに裏口に回り込む事が出来る人間がいると考えられる訳がなかった。
もっともその男は死神であり人間とは違うのだが。
「彼奴の戦いを見てたら身体がうずいてな、彼奴らが終わるまで楽しませてくれや」
その大男は殺気を解放する。
武器は持ってはいなかったが、その殺気だけで武器無しで自分達を簡単に捻り殺すことが出来る存在だというのは何となく理解が出来た。
「くそったれめ……」
参號夷腕坊があったとしても即座に殺されるであろう。
しかし、そのカードすら無いとなると対抗する術はもう思い浮かばない。
いや、弱気でどうする。
こんな時こそ何かを思い浮かばせなくてはいけないのだ。
横で震えている瀬那を横目に入れつつ必至に方法を模索する。
刹那の第一幕は燃え尽きる炎の様に幕を降ろし、狩りの第二幕が静かに幕を開けようとしてた。
- 237 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 20:58:44 ID:dENfD8sD0
- 【福岡県/午前〜昼】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、中程度の疲労、精神不安定(精神はセナ達と出会ったことで大分安定してきています)
【装備】無し
【道具】荷物一式
【思考】1.志々雄の処遇について
2.セナ、蛭魔との再合流、情報交換
3.人を斬らない
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式 野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
[思考]:1.更木から逃げる
2.剣心との再合流、情報交換
3.薫、斎藤、姉崎、進との合流。
【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:夷腕坊操作の訓練のため疲労
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考]:1.更木から逃げる
2.剣心との再合流、情報交換
3.薫、斎藤、姉崎、進との合流。
- 238 :刹那の風と燃え滾る炎:2005/11/09(水) 21:00:26 ID:dENfD8sD0
- 【更木剣八@ブリーチ】
[状態]:首筋に中度の裂傷。(簡易止血済み)
[装備]:ムラサメブレード@バスタード
[道具]:荷物一式 サッカーボール@キャプテン翼
[思考]:1.瀬那と蛭魔で遊ぶ
2.志々雄、ヒソカと決着を付ける
3.強いヤツと戦う
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]:身体の至る所に軽度〜中度の裂傷(戦闘から11分程経過)
[装備]:ムラサメブレード@バスタード
[道具]:無し
[思考]:1.まずは目の前の剣心と決着を付ける
2.剣八と決着を付ける
3.全員殺し生き残る
【荷物一式 ゴンの釣竿@Hunter×Hunterは志々雄との戦闘場所の近くに放置】
【参號夷腕坊@るろうに剣心は志々雄の真上にのし掛かるようにして横たわってます】
- 239 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:29:06 ID:fwKx9GT60
- 両津勘吉と別れたあと、鵺野ことぬーべーは森の街道の脇にある茂みに身を隠しここを通るであろう者を待っていた。
両津によるとその者はぬ〜べ〜の五倍の戦闘力だという。
もしも、その者と戦闘になれば間違いなく自分の命は無いだろう、とぬーべーは思う。
自分の命を奪うかもしれない人物を待つ、そんなことをしている己に呆れて笑うぬーべー。
本音を言うと、今すぐにでもこの場から逃げ去りたい、今すぐ両津さんを追いかけたい。
しかし逃げるわけにはいかない。もしゲームに乗っている者ならなんとかしなければならない。
放っておけば、必ず被害者が出る。彼の生徒、稲葉郷子のように。
もう彼女のような人間を増やしてはならない。そのためにも残って食い止めねば。我が身を賭して。
「(…!!!遂に来たか!)」
向こうから男がやってくる。最初はぼんやりしていて男の姿ははっきりと分からなかったが
こちらに近づくにつれ、男の容貌がはっきりと見えるようになった。
男はガクランで、胸は肌蹴ており、腰にサラシを巻いてる。とても学生には見えない。
更にその男の顔には両頬に三本づつ傷が入っており、それが一層近寄りがたい空気を生み出している。
しかしぬーべーはその男の容姿より、男が持つあるものに視線を奪われていた。
「(あれは…首さすまた!!!)」
そう、それは先刻別れた同僚の妖狐、玉藻が愛用していた首さすまたであった。
そして、首さすまたを所持しているということが何を意味しているのかも。
「(あいつが…玉藻と争った男か。)」
ぬーべーは考える。玉藻が話していた男の特徴と、今、眼前にいる男の特徴が一致している。ならばどうするか。
玉藻がいうにはこのゲームには乗っていない、とのこと。
しかし玉藻との戦闘によって男の行動方針が変更されたことも考えられる。
…このゲームに乗ってしまっているかもしれない。
あの玉藻を軽くあしらった男だ。俺も相手にはならないだろう。あのスカウターの値も納得できる。
- 240 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:29:48 ID:fwKx9GT60
- 「南無大慈大悲救苦救難…」
出来るだけ声を押さえ、言葉を綴っていく。男に聞こえていないことを祈って。
そしてぬーべー唯一の武器、鬼の手が現れた。
ぬーべーとて、このゲームに乗るつもりは毛頭ない。
しかし、無防備のままでゲームに乗っているかもしれない男の前に出ることは出来ない。
もし男がゲームに乗っていた場合…それは死に直結する。それだけは避けなければならない。
鬼の手を出していても、あまり結果は変わらないかもしれない。しかし少なくとも戦えるだろう。
戦闘になった場合、妖怪ではない人間相手に俺が出来るのは…鬼の手で男の霊魂を引き抜くしかない。
覇鬼の反応が無い今、御鬼輪を使えばなんとかなるかもしれないが、あれを使うには少々時間が足りない。
あの男が味方であった場合も考慮すると使わないほうがベストだ。
「(準備は整った…あとはどう接触するかだな)」
ザッザッザッザッザ
男の足音が聞こえてくる。歩調は普通なのに、今のぬーべーにとってはとても
重々しく、遅々として聞こえる。
その足音が聞こえるたびに額から脂汗が流れ、ここにいるだけで精神が磨り減っていく。
はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…
何もしていないのに呼吸が乱れる。それに体も重い。恐怖という感情に身体が支配されているからだろうか。
息をするのも怖い。男に気付かれたりしたら…。
男が近づいてくる。もうほんの数メートル程の距離だ。ここまで来たらもう逃げることは出来ない。
最早男の足音は聞こえない。聞こえてくるのは激しく鼓動を鳴らす己の心臓の音。
頼む、収まってくれ…やつにきこえてしまう。
通常では考えられないことを今は本気で願う。少しでも不安を取り除きたいために。
- 241 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:30:13 ID:fwKx9GT60
-
「おい、そこの野郎。出てきな」
一瞬、わが耳をぬーべーは疑う。馬鹿な、物音一つ立ててはいない!
それなのになんで俺がいることが分かってしまったんだ!
「出てこないならそれでも構わないぜ。…ただし、ただで済むとは思うなよ」
ぬーべーの疑問が解決しないうちに男が言葉を続ける。男の言葉に従わなければ間違いなく戦闘になる。
いや、待っているのは死のみ。
ぬーべーは己が取れる選択は男に従うのみだと悟り、しぶしぶ姿を男の前に晒した。
「…ずいぶん妙な手をしているな」
「…!」
ぬーべーは驚愕する。ぬーべーの左手は鬼の手と呼ばれ、通常、霊力のある人間にしかみることは出来ない。
ただ、それはこの世界では異なっていて、通常の人間でも見ることが出来るのであった。
しかし、そのことをぬーべーは知る由もない。
「妙に感覚が鈍いこの世界でも、てめえのようなド素人なら簡単に見つけられるぜ」
「フン、まぁそんなことはどうでもいい。てめえはこのゲームに乗っているのか?」
ぬーべーは首を横に振る。声を出して答えようとするが言葉を忘れたか如く声がでない。
蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。ぬーべーは完全にこの男の雰囲気に飲まれていた。
「貴様はこの男達を知っているか?」
男が淡々と質問を続ける。どうやら男はぬーベー自身には興味がなく、情報のみを求めているようだ。
男が尋ねた男達とは無論男塾の面々であったが、ぬーべーは知るはずもない。
静かに沈黙を続けるぬーべーを見て察したのか、男は再び歩みだし、ぬーべーの横を通り過ぎた。
「(何をやっているんだ俺は…これじゃ両津さんと別れてここに残った意味がないじゃないか!)」
ぬーべーは己を恥じる。いくら恐怖に飲まれていたからといえ、これでは情けないを通り過ぎて惨めだ。
いくら命のやりとりをしたことがあるぬーべーでも、それは除霊行為の延長上のものであって
今回のような人間同士の、純粋な殺し合いとはまた異質なものである。
全く初めてと言ってもいい、殺し合いの中で恐怖を感じるのは当たり前なのだが、
今のぬーべーにとってはそれすらも恥に思えるのだ。
「…ま、待て!!!」
意を決して男を呼び止める。男は歩みを止めると静かに振り向き、まるで射殺すのような眼光を向けた。
「ほう、言葉を発する勇気があったか。どうやら腰抜けじゃないらしい」
男は口元に笑いを浮かべながら冷ややかに見つめている。その視線に耐えながらぬーべーは言葉を続ける。
- 242 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:32:03 ID:fwKx9GT60
- 「俺の名は鵺野鳴介、小学校の教師だ!あんたの名は?」
「…」
男は目を伏したまま、まるで興味のないが沈黙を続ける。
対してぬーべーは一言発するたびにますます必死の形相になり、恐怖に負けないよう自身を奮い立たせていた。
「あんたは…ゲームに乗っているのか?」
「…フ、今はどちらとも言えん」
「…!なら、誰か殺したことはあるのか?」
「今まではない。だが、これからは分からん」
ぬーべーはほっと安堵の溜息をついた。今まではない、ということはこの男は郷子を殺した者ではない。
勿論嘘をついている可能性もあるが、この自信に満ちた顔をしている男が嘘をついているようには見えない。
「あんたが俺の敵でないなら頼みがある。俺は今このゲームから脱出するために仲間を集めている。
…俺の仲間になってくれないか?」
ぬーべーの額に絶え間なく脂汗が流れる。とりあえず敵ではないことが分かったが
この男から絶え間なく発せられる威圧感、それによってぬーべーの精神は常に削られている。
常人であれば即座で逃げ出すであろう威圧感の中でぬーべーはひたすら絶えているのだ。
「悪いがそいつは無理な話だ。やることがあるんでな」
ぬーべーは少し肩を落とす。だがこの男が敵でないことが分かっただけでもここに残った甲斐があった。
そう前向きに考えるとある疑問が頭に浮かぶ。
男が言った、「これからは分からん。やることがある」の言葉。この言葉の意味を考えたとき
ぬーべーは自然とその答えを男にぶつけていた。
「これから誰かを殺そうとしているのか?」
「フ、そういうことになる」
ぬーべーはその返答を聞き、悟る。この男は少し前の俺と一緒なのだと。
この男が純粋な意味でこのゲームに乗っているのなら、今頃俺は生きちゃいない。
それなのに俺を殺さず、誰かを殺そうとしているのならば……この男はきっと……
「…仇討ちか?」
男は眉をピクッと動かすと目を開き、鋭い視線をぬーべーに送った。
が、その眼差しは先程までの冷たく、威圧感のある眼差しではなく、いなくなった誰かを思い出し、
遠いどこかを見つめているような眼差しであった。鋭いながらも温かみさえ感じられた。
「フ、そんなもんじゃねえよ」
男は笑いながらそう言う。
- 243 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:32:36 ID:fwKx9GT60
- 「なら…どうして?」
「あいつは…俺達の中心だった」
あいつ、きっと殺された仲間のことだろう。ぬーべーは静かに耳を傾け、続きを待った。
「それだけじゃねえ。あいつは俺達の看板を背負ってたんだ」
「看板?男塾というところのか?」
ぬーべーは先程男が自分に問うた時、男塾の面々という言葉を口にしていたことを思い出した。
その男塾がどういった塾かは分からないが、この目の前の男のような屈強な男達が揃う場所であろうことは容易に想像できる。
「それなのにあいつはやられちまった。それは男塾の看板に泥を塗ったことに等しい」
「だから、死んだあいつ、桃の代わりに俺が泥を拭いに行く。ただそれだけだ」
「…仲間を殺した相手に恨みはないのか?」
ぬーべーは素朴な疑問を口にする。郷子が殺されたと知ったとき、俺はどうしようもない不の感情に襲われた。
そう、殺した相手をきっと見つけ出し、仇を討つ、と。それは今も変わらない。
だが、目の前の男は恨みからではなく、看板に泥を塗られた、という傷つけられた名誉のために戦うという。
それはぬーべーにとって理解しがたいことであった。
「殺されたんじゃねえ。倒されたんだ。その違い、分かるか?」
「…」
「不意打ちや、逃げ出して死んだのならそれは殺されたってことだ。だが、あいつはそんなやつじゃねえ」
ぬーべーは黙って次の言葉を待つ。
「正面から戦って、負けて死んだ。つまり倒された」
「男としてのスジを通してあいつは死んだ。だが、あいつが背負っていた看板に泥を塗られたのも事実。
だからあいつの仲間の俺が代わりに泥を拭いに行く。男同士の戦いの結果に恨みなんてもんはねえよ」
そうか…ようやく分かった。この男、いや、男塾に集う男達がどういう人種なのかを。
ぬーべーは男の話を聞き、今までに感じられた喉に引っかかったような疑問が解消できた。
この男達はきっと男としての道をまっすぐに歩んでいくような人種なのだと。
言葉には出来ないが、男に生まれた者なら誰もが一度夢見た生き方。そんな生き方を貫いている人種。
そんな人間が全力を尽くして倒されたのなら、少々の恨みはあっても、自分のように取り乱しはしないだろう。
この男、口調はぶっきらぼうで、近寄りがたい印象はあるが、信用できるのではないか?
ぬーべーは密かにこう思い始めた。だが、まだ言わなければならないことがある。
「…あんた、その槍の持ち主と戦っただろう?」
そう、それは玉藻のこと。この男は知らないだろうが玉藻は今もこの男の命を狙っている。
彼の妖狐としての象徴である首さすまたを取り返すために。
- 244 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:33:26 ID:fwKx9GT60
- 「ほう、それを知っているのか」
「ああ…あいつは俺の同僚だ。さっき偶然再会できて、その際話を聞いたんだ。
今はもうあんたを追ってここにはいないが…」
ぬーべーは素直にこれまであったことを話す。隠していても仕方ない。
「…で、それがどうした?」
男は当然のことを問いかける。ぬーべーはしばらく沈黙を保ったのち、
遂に重い口を開いた。
「あいつは今もあんたの命を狙っている。その首さすまたを取り戻すために。
…戦闘になればあいつも必死だ、先程の戦いみたいにあんたも無事にはすまない」
男は静かにぬーべーの話に耳を傾けている。あの玉藻という男が生きていたこと、
そして再び目の前に立ちはだかろうとしていること。
それらは男にとって新しい情報であるにも関わらず眉一つ動かさない。
仮にも命を狙われているのに未だにその余裕の表情を崩さない。
男にとってそれは些細なことなのか、それとも予想していたのか。ぬーべーには分からなかった。
「無理を承知で頼む。…首さすまたを玉藻に返して「断る」」
ぬーべーが言い終わる前に男は断った。
男にやるべきことがある以上、武器が必要。それが相手を倒すことならなおさら。
ぬーべーは一縷の望みにかけて男に訴えたがやはり予想通りの結果に終わってしまった。
「今度は俺の番だ」
きょとんとした顔で男の顔を見上げるぬーべー。思いもよらぬ男の発言で一瞬呆然としてしまったのだろう。
男の質問には最初に答えたはず…。他に聞きそびれたことでもあったのだろうか?
「その玉藻ってやつはてめえの仲間なのか?」
「あ、ああ…さっきも言ったが、あいつは同じ小学校の同僚だ」
「…分かっちゃいねえな…」
???
ぬーべーは男の真意が理解できず、思わず首をひねってしまう。
この男は何が言いたいのだろうか…。
「分かりやすいよう言い直してやる。…てめえは俺を襲ったやつの仲間か?」
ぬーべーは一瞬にして男の言ったことを理解する。背筋が凍るとはまさにこのことだ。
つまり男が言いたいのは…玉藻の仲間だというなら俺も…敵だということ。
そして…敵なら命はないということに違いない。
いつの間にか男から絶え間なく殺気と威圧感が感じられる。そう、初めて会ったときのように。
- 245 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:34:26 ID:fwKx9GT60
- 「…」
ぬーべーが返答を渋っていると男がにわかに組んでいた腕を外し、その手に首さすまたを手にする。
「(まさか…)」と思ったその刹那、首筋に冷たいものを感じた。
殺意と威圧感の中に晒されている最中、この冷たさですら気持ちよく感じられる。
だが、ぬーべーは分かっている。これ冷たさこそ男から発せられる殺意と威圧感を一身に集められ、
まさに今、ぬーべーの命を奪おうとしている首さすまたの刃であることを。
「さっさと答えな」
返答を迫られる。その声は恐ろしく冷たく感じられる。
ぬーべーは今一度状況を確認する。手足は自由が動くが首筋に刃を当てられ、返答しだいでは
冷たき刃は軽やかにその首を飛ばすであろう。…状況は絶望的である。
抵抗しようとすればそれもまた首が飛ぶ結果に繋がろう。
そういえばこんな間近でこの首さすまたを見ることなんてなかったな…きれいなもんだ。
ぬーべーは刃に映った自身の顔を見ながら懐かしい者達のことを思い浮かべる。
ゆきめ…郷子…広…美樹…皆、すまん、俺はここまでのようだ。分かってくれるな。
例え命を落とすことになろうとも…俺の返事は決まっているんだ。俺はお前達のためなら喜んで身を投げ出す。
それはあいつも同じなんだよ。あいつとは何度も戦ったけど、それと同じくらい助けてもらったんだ。
……でも、せめてお前達の中学校の制服姿をゆきめと一緒に見たかったよ。
「あいつは…玉藻は…俺の仲間だ!!!」
…?まだ生きてる?それに…冷たい感触もなくなっている…一体何が?
「フ、一度仲間と言ったやつを売るやつは碌な者はいねえ」
男はいつのまにか槍を引っ込め、微笑を浮かべながら語りかけてくる。
先刻まで放たれていた殺気と威圧感はいつのまにかどこかへ消えていた。
「この槍は流石に手放すことはできん」
ぬーべーは未だ呆気に取られていて言葉を発することができない。
ただひたすら男の言うことに耳を傾けている。
「だが、教官殿に免じて取引になら応じてやる」
教官?取引?一体なんのことだ?
呆気の取られたままのぬーべーは事の急展開に余計頭を混乱させる。
その様子を見て男は一笑すると、また話を続ける。
- 246 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:34:49 ID:fwKx9GT60
- 「出来れば槍との交換が良いが、この際刀や棍棒等でも構わん。
但し、銃器の類はお断りだ。あんたのその手みたいな訳の分からん物もな」
…ようやく話が飲み込めてきた。どうやら俺は助かったらしい。
それどころか、玉藻を救える可能性も出てきた。
俺が誰かから武器を入手して、二人が戦う前に男と取引できれば余計な血は流れずに済む…!
「俺が武器を手に入れてあんたと取引すれば玉藻と戦わないでくれるんだな?」
「そうは言ってねえ。ただこの槍は返してやるってことだけだ。
取引前に玉藻ってやつと会えば返すわけにはいかねえ、そのときは遠慮無しにぶっ倒す。
無論、取引後でも奴が喧嘩売ってきたらその場でぶっ倒す」
と、とにかく奴と取引して玉藻に首さすまたを返せばそれだけで戦う理由も少なくなる。
…プライドの高いあいつがそれだけで再戦を諦めるとは思えんが、
それを抑えるのは同僚である俺の役目だ。なんとしてでも説き伏せてやる。
「分かった、あんたが玉藻と戦うまでにきっと、その槍に代わる武器を持って行く!」
「フ、分かったならそれでいい。それじゃ俺はもう行くぜ教官殿」
「待ってくれ、あと2、3聞きたいことがあるんだ」
ぬーべーは去ろうとしている男を呼びとめ、質問を投げかける。
「なんで俺があそこに隠れているのが分かったんだ?気配とはそういう類か?」
「それもあるが、一番の理由は足跡だ。新しい足跡にしばらく足踏みした痕跡、
あとはハッタリかましただけだ」
思わずこけそうになるぬーべー。
「俺はその根拠に基づいたハッタリにだまされたわけか…」
「フ、教官殿よ、何事もデータが全てじゃねえんだぜ。確立が高くても確証がなければ
ハッタリかまして相手がドジ踏むのを誘うだけだ。何事も冷静に対処しなけりゃ
ダンディさを失っちまうぜ」
ダンディって…。
ここにきて男のイメージが一気に崩れ、いや、変わっていった。
最初こそ、冷たく恐ろしい男だと思えたが、今ではとっつきにくいが人間味のある男、と
男に対するイメージが一新されていた。
- 247 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:35:43 ID:fwKx9GT60
- 「ま、まぁ次の質問だが、なんで俺を教官って呼ぶんだ?」
「こう見えても俺は学生なもんでな。俺達はいつも教師を教官殿って呼ぶ。
癖みたいなもんだ。あまり気にするな」
が、学生…。
確かにガクランは着ているが、ものすごく筋肉質でその顔つきは強面。
おまけに口調まで威風堂々ときたもんだ。とても学生には見えん。むしろ俺より年上に見える。
何より威圧感が違う。ほんとに学生か?
「質問が無ければ俺はもう行くぜ」
「あ、ああ…」
男が立ち去ってゆく。さて、これからどうするか…。
取引するとは言ったが、その武器をを入手するためにはここを動かざるを得ない。
しかし、俺は玉藻、両津さんにここを動かないと約束した。
だが、放っておけば玉藻は間違いなく男と戦い、命を落とすだろう。
約束を守ってここに残るか、玉藻を助けるために約束を破って動くか。
それとも両津さんが帰ってくるまでここにいて、帰ってき次第、動くというのも…。
だが、そんなに時間はない…二人はこれだけ近い距離にいるのだから。
どうする、どうする?
ぬーべーは去り行く男を見ながらこれからのことを考えていると
男は振り返り、こう言った。
「ああ…そうそう、玉藻ってやつのことだが」
「あいつはいい友を持ったな。教官殿みたいな友を」
思わず目頭が熱くなる。ははは、仮にも俺を殺そうとしたやつが何言ってるんだよ。
あんたがやることを成し遂げなら、また会って、そのときこそ仲間になってくれよ。
…そういやまだ名前も聞いていないな
「最後に!あんたの名前を教えてくれ!」
- 248 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:37:25 ID:fwKx9GT60
-
桃よ…てめえは男塾の看板を背負っていながら負けちまった。
男塾に敗北の二文字は無い。そういったのはてめえなのによ。…負けたことを責めるつもりはねえが。
だが、安心しろ。お前のけじめは俺がつけてやるぜ。看板の泥は俺が拭ってやる。
それがてめえと一緒に戦った仲間として、男としてのスジってもんだろ?
だから…てめえの肩書きを借りるぜ。けじめをつけるまでな。
…てめえに対する誓いの証として。いいだろ?桃よ…。
「俺は…男塾一号生筆頭 伊達臣人だ」
- 249 :新男塾一号生筆頭:2005/11/11(金) 00:38:59 ID:fwKx9GT60
- 【初日兵庫県西部@朝】
【鵺野鳴介@地獄先生ぬーべー】
【状態】精神困憊
【装備】御鬼輪@地獄先生ぬーべー
【道具】水を7分の1消費した支給品一式
【思考】1.ここに残るか動く、または他の選択を考える。
2.取引のため武器を調達する。
3.ゆきめ、両津との合流。
【伊達臣人@魁!!男塾】
[状態]:軽度の火傷、行動に支障無し
[装備]:首さすまた
[道具]:荷物一式。
[思考]:1.剣桃太郎を倒した者との決闘
2.男塾の仲間と合流。
3.ゲームに乗る気は無いが邪魔をするヤツとは躊躇なく戦う。
- 250 :希望の風:2005/11/12(土) 01:53:34 ID:uH43QrKDO
-
「………と言うわけじゃ。ダイとターちゃんに出会えなければ、私は何も出来ないまま死んでいたかもしれん。二人には感謝の言葉も無い…」
「そんな、公主さん…」
「……そうか。ま、何はともあれ無事で安心したわい。しかもお主の元にこんなに大勢の力強い仲間が集っていたとはのぅ」
竜吉公主たちと太公望組が合流してすぐ後、竜吉公主と太公望を中心として互いに今までの経緯や手に入った情報などを自己紹介も程々に森の中で報告し合い、その他の者達もそれぞれにその話に耳を傾ける。
「ふむ、では先ほどの落雷はそのダイとやらが起こした物だったのか」
「あ…うん。さっきのライデインを見てこっちに来たの?」
「うむ」
「…不用心な奴だ」
腕を組んでずっと静かに話を聞いていた斉藤がぼそりと呟きダイと太公望の話を遮る。
「…確かにその通りだのう」
「しかもあの状況であんなくしゃみをするような阿呆を引き連れて堂々と近寄るとは…相手が相手なら死んでいたぞ」
「アホウだと?てめぇ、喧嘩売ってやがんのか!?」
斉藤の言葉を聞くなり、青筋を立てて怒りの形相で斉藤を睨みつける富樫。
「待て待て富樫!そう興奮するでない!」
「…しかし…確かにそうじゃ太公望。なぜわざわざ死に急ぐような危険を犯してまでこの場所に来たのだ?」
ダイと並んで座っている公主がその意図を探るかのように太公望の顔をのぞき込む。
- 251 :希望の風:2005/11/12(土) 01:54:39 ID:uH43QrKDO
-
「わしとてまだ死にとうはないわい。わしなりに考えがあっての事だ」
「考えだと?」
「てめぇ…シカトするとはいい度胸じゃねえか!」
「まぁまぁ、落ち着いて下せィ富樫の兄さん」
「チッ、おい太公望!俺はこのヒョロ長野郎を仲間にするのは大反対だぞ!」
「だ〜か〜らっ!とにかく少しは冷静になれ富樫!話が進まぬ!」
「……阿呆が」
「〜〜〜〜!!!この野郎っ…!!!!」
沖田や太公望の制止の声も耳に入らず、すました顔で冷静にたたずむ斉藤に富樫が一瞬即発なマジ切れ寸前の様でにじり寄る。
どうして良いか分からない戸惑った様子のダイと公主だが、その時突然その不穏な空気を払うかのように公主が口に手を当てて激しくせき込んでその場を凍り付かせる。
ゴポというような嫌な水音と共に…公主の口元に紅い花が咲いたのだ。
「お!おい!?」
「公主さん!!!」
突然の事に驚いて青ざめた顔で公主の名を叫ぶダイ。
富樫も同様に驚きを隠せず、斉藤への怒りもどこへやら…公主の方へと急いで歩み寄る。
「公主!やはりお主は…!」
「ふ…心配はいらぬよ。まだ大丈夫じゃ…」
口元の赤い血を拭いながらも気丈に微笑みを返す。
「だ、大丈夫には見えねぇよ!病気なのかおめぇ!?」
- 252 :希望の風:2005/11/12(土) 01:59:24 ID:uH43QrKDO
-
「富樫…公主の体にはな、下界の空気自体が毒であるような物なのよ。仙人界のような澄んだ綺麗な空気の場所でしか生きられぬ身なんじゃ」
「へ…?」
「死を待つのみ、と言うことだ」
愕然とした表情で公主の顔を見つめ続ける富樫。
何か言葉を掛けようと口を開きかけはするが、結局良い言葉は出てこない。
「何かっ…良い方法は無いの!?公主さん!太公望さん!空気を綺麗にするアイテムとか、良くなる薬とか、他にも…他にも…っ!」
ダイが悲痛な声で二人に問いかけるが、返事をするものは誰もいない。
「…クソッ!!どうしようもねぇのかよ、畜生っ…!」
ギリギリと己の拳を強く握りしめ、己の無力さ加減やこのゲームの理不尽さに対して沸き上がる怒りと苛立ちに胸を詰まらせ立ち尽くす富樫。
「この様子では、香を焚いた浄室に入ったとしても…気休め程度にしかならんじゃろうな」
「…香?」
少し沈んでいる公主の諦めを含んだような微笑から呟かれた言葉を耳にすると、富樫が小さく聞き返す。
「香くらいなら、どっかの仏壇屋でも探せば置いてるんじゃねぇのか?」
富樫のその言葉に全員の視線が集中する。
「ブツダンヤ?」
「…しかしのう富樫、この世界に香なんぞあるかどうかも分からぬ。仏壇屋とやらが見つかったとしても無駄足に終わる可能性の方が高いぞ?」
複雑な表情で顔を見る太公望。
- 253 :希望の風:2005/11/12(土) 02:00:47 ID:uH43QrKDO
-
「でもよぉ…」
「…良いじゃないすか。可能性があるなら賭けてみるのも」
今まで黙って話の成り行きを見守っていた沖田が富樫に助け船を出すかのように口を挟む。
「気休め?それでも無いよりはマシってもんでさァ。探してみましょうや、香を」
「……阿呆、そんな暇は無い。俺は話が終わり次第、大蛇丸を追う為本州へ出発する」
「え?」
思わぬ言葉を放った斉藤の方へ視線が集まる。
「てめぇ、自分の事しか頭に無ぇのかよ…!」
再び怒りに火がついた富樫は頬をひくつかせて斉藤へとゆっくり詰め寄る。
「…悪いが、足手まといに割く時間は俺には無い。探すならお前たちの方で勝手に探せ」
「なっ…!!?足手まといッ!?」
富樫のみならず、ダイまでもがさすがに今の発言には憤りを感じて斉藤の顔を睨みつける。
「…良い、その通りじゃからな。私などの為に無駄な時間を費やしている暇など無いのじゃ。二人共…彼を責めるのは筋違いじゃ」
落ち着いた優しい声で富樫とダイを制止する公主。
「フン、大体話は終わったようだな。こちらも必要な話は聞けた。そろそろ俺は行かせてもらう」
「さ…斉藤の旦那…」
斉藤は自分の荷物を肩に担ぎ上げ、ダイの後ろにある一回り大きな木を見上げる。
「おい!周囲に異常は無かったか!?」
「無いのだーっ!ずっと誰も何も見えなかったのだーっ!」
- 254 :希望の風:2005/11/12(土) 02:04:36 ID:uH43QrKDO
-
木の上でずっと一人で見張りを続けていたターちゃんのその返事だけ聞くと、背を向けて歩き始める斉藤。
「待て斉藤!わしの言った事は覚えておるのか!?」
「当たり前だ。愛染とやらの事、脱出方法を持つ奴を探す事、ダッキ、ブンチュウ、男塾……問題ない。じゃあな」
「斉藤っ!死ぬでないぞっっ!!!」
遠ざかる斉藤の背に向けて大きく叫ぶ。必ず再会があると信じて。
「…じゃ、俺も旦那と一緒に行きまさァ。あんた達と会えてよかった…必ずみんな一緒に元の世界に帰りましょうや」
「沖田さん…」
ダイたちに軽く笑みを向け、振り返ると斉藤の後を早足で追う。
「行ってしもうたのう…」
「せいせいするぜ」
「全く、お主と言う奴は…ハァ…」
富樫の顔を一瞥し、盛大にため息をつく太公望。
「…それで、これからどうするの?太公望さん」
「ダイよ、太公望でよい」
「あ…うん」
「太公望!仏壇屋を探しに行こうぜ!」富樫が力強い声を張り上げ、太公望の目の前にドサリと腰を落とす。
「………」
「太公望?」
だが、太公望は何かを考えているかのように頭を捻って沈黙したままである。
「おい、何とか言えよ…!」
「…まぁ〜ったく!お主は斉藤の言う通りの阿呆じゃ!トンマじゃ!間抜けじゃ!」
「なっ!!?どう言う意味だてめえっ!!」
- 255 :希望の風:2005/11/12(土) 02:05:48 ID:uH43QrKDO
-
突然、小馬鹿にしているようなふざけた笑みを見せながら自分に対して悪口をぶつけてきた太公望にむかっ腹を立てて襟首を掴み問いつめる。
「言葉のままじゃよ!全く成長の兆しが見えぬお主があまりにも哀れでならん」
「て、てめえ…!もういっぺん言ってみやがれ!!」
「公主自身も言ったであろう!足手まといの自分などに時間を割くなと!わしらにはそんな無駄な時間は無ぁ〜い!!」
ニョホホホ〜、と例の謎の奇声を放ちながら怒りの富樫を意にも介さない平然とした様子で言葉を続ける。
「そっそんな!ヒドいよ!!仲間なのに!!」
そんな太公望の様子を見てダイまでもが感情を露わにして太公望に詰め寄る。
「えぇ〜いっ!!やかましいわっ!!男には非情にならねばならぬ時があるのよ!ならぬったらなら〜ぬ!」
「てめえ!この冷血野郎っ!!ふざけんじゃ…ねえっっ!!!!」
「グハッッ!!!!」
大きく拳を振りかぶり太公望の顔に思い切りストレートを叩き込み、数メートル後ろの木の幹に叩きつけられる太公望。
「ハァ…ハァ……もういい!俺は一人でも探しに行くぜっ!待ってろよあんた、必ず香をたんまり持って帰るからよ!!」
軽蔑したように太公望に視線を向けた後、唾を吐き捨てて後ろを向き歩いていく富樫。
「あ、ちょっと待って…!」
「ダイ!ならん!!お主は公主を守らねばならんのであろうっ!!」
- 256 :希望の風:2005/11/12(土) 02:09:55 ID:uH43QrKDO
-
思わず富樫の後を追おうとしたダイに向けて制止の声を張り上げる太公望。
「で…でも…!!!」
足を止めて迷いの眼差しでそれぞれに視線を投げかけるダイだが、そうこうしているうちに富樫の姿は森の先に消えてしまう。
「…全く…相変わらず不器用な男よの…太公望…」
口の端に赤い物を滲ませながら木にもたれ掛かっている太公望の元へ公主がゆっくりと歩み寄り、労るように頬に手を当てる。
「…こうでもせねば、あやつの願いは叶えられぬからのう…」
目線を富樫の消えた方向に向けたまま、苦笑いを浮かべる。
「え?…願い?」
きょとんとしたままダイが立ち尽くし、その隣にターちゃんが軽やかに降り立つ。
「だ、大丈夫なのか!?一体どういう事なのだ!?」
「成り行きは聞いておったかターちゃん?お主に頼みがある。耳を貸すんじゃ」
「?」
よく分からないまま耳を貸し、ゴニョゴニョと太公望から何かを聞くターちゃん。
「……分かったのだ。じゃあ私は行くのだ」
「えっ!?どこに行くの!?」
「ダイ君、公主さんの事は頼んだのだ!」
「え、ちょっとターちゃん!!?」
笑顔でダイたちに手を振った後、颯爽と富樫の去った方向へと駆けてゆく。
「一体どういう事!?」
「…富樫のお守りをあやつにまかせたのじゃよ。あと…動物と会話できる、あやつにしか出来ぬ事を頼んだのよ」
- 257 :希望の風:2005/11/12(土) 02:11:01 ID:uH43QrKDO
-
「…いつもそうやって、私たち周りの者には詳しい説明も無いまま事を進めるのじゃな」
「すまんのう。ま、わしらはこのまましばらく待機せねばならぬし…ゆっくり説明するわい」
どっこらしょ…と腰を上げて背の後ろに付いた土を払い、再び地面に座り直す。
「…富樫さんの願いって、何のこと?」
「あやつはわしを気にしてあまり口にはせなんだが…先ほど皆に教えたあやつの仲間、男塾の者たちを一刻も早く探したいはずじゃからのう」
「仲間…」
その言葉を聞いて自分の仲間であるポップとマァムの事を頭によぎらせ、複雑な思いに駆られるダイ。
「だったら直接その事を富樫さんに言えばいいのに…!」
「逆効果にしかならぬ。言ったところであやつの事じゃ…意地を張って『俺の仲間にはすぐに死んじまうようなヤワなやつはいねえ!』とかなんとか言って突っぱねるに決まっとる。それに…」
言葉の途中で公主の顔を見る太公望。
「それに?」
「…お主はわしが別行動を取る事がつらいであろうからのぅ」
「太公望…」
まるで心を見透かしたかのように公主に笑顔を向ける。
実際、せっかく再会できた太公望と再び別れねばならない事があったりしたら…などと考えると、公主は胸が締め付けられるようであった。
「だからわしが動けぬ以上、ああするしか富樫の願いは叶えてやれぬのじゃ」
- 258 :希望の風:2005/11/12(土) 02:13:33 ID:uH43QrKDO
-
「太公望さん…」
突然ポカリとダイを小突く。
「だから『さん』はいらぬっちゅーに」
「いてて…ヘヘ…!」
「(…ま、あまり大人数で固まるよりは別行動を取った方がメリットも大きいしのぅ。危険が増えるには増えるが…悠長にしとったらゲームはどんどん進行してしまうからな)」
「…で、ターちゃんに頼んだ動物に関する事とは一体なんなのじゃ?」
少し会話に間が空き、公主がその間を埋めようと太公望に問いかける。
「それは秘密よ。まぁ心配いらぬ、あやつならしっかりやってくれる。信頼しとるよ」
「答えになってないよ!隠さないで教えてよ太公望!」
「ヌフフ…簡単に教えてしもうたら面白くないであろう」
ええー!?と言った具合に不満げに漏らすダイ。
「フフ…諦めよダイ。こやつは一度言い出したら聞かぬ性分であるからな」
「そういう事よ。それはそうとダイ、今思い出したがもしやこの『アバンの書』とやらはお主の世界の物か?ライデインとやらの名が書いてあったのでな」
自分の鞄を探りながら問う太公望だが、その言葉を聞くなりダイの目が変わる。
「アバンの書!!?」
- 259 :希望の風:2005/11/12(土) 02:15:48 ID:uH43QrKDO
-
太公望からそれを受け取ると、少し涙を目の端に溜めて笑顔を見せる。
「アバン先生……」
アバンの書を大切そうに胸に抱き目を瞑るダイを見て、小さく微笑みを浮かべる二人。
「…やはりそうであったか。それをよく知っている者に出会えたら、聞こうと思っていた事があるのじゃ」
「…え?何を?」
顔を上げ、太公望に疑問の表情を向けるダイ。
「『バギ』とやらの事、詳しく教えてくれぬか?」
口を紡いでニヤリと笑みを見せる太公望。
それが何を意味する言葉なのか意図が読めず、公主とダイはただ首を傾げるだけであった。
- 260 :希望の風:2005/11/12(土) 02:18:04 ID:uH43QrKDO
-
【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/午前】
【チーム名=新・勇者一行】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康、MP微消費
[装備]出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分)
:公主の荷物一式
:ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1:竜闘気に耐えうる武器の入手
2:公主を守る
3:ポップ・マァムを探す
【竜吉公主@封神演義】
[状態]疲労進行中
[装備]青雲剣@封神演義
[道具]無し
[思考]1:遠距離用宝貝の入手
2:富樫を待つ
【太公望@封神演義】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費、支給品不明)
:五光石@封神演義
:アバンの書@ダイの大冒険
:鼻栓
[思考]1:バギの習得を試みたい
2:富樫を待つ
3:ゲームの脱出
- 261 :希望の風:2005/11/12(土) 02:32:46 ID:uH43QrKDO
-
【チーム名=壬生狼】
【斉藤一@るろうに剣心】
[状態]健康(腹部はほぼ完治)
[装備]魔槍の剣@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:ダイの使える武器を探す
2:大蛇丸を追う
3:主催者の打倒
【沖田総悟@銀魂】
[状態]健康(鼻はほぼ完治)
[装備]鎧の魔槍(右鉄甲無し)@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:斉藤に付いていく
2:主催者の打倒
【チーム名=富樫とお守り】
【富樫源次@魁!男塾】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
:爆砕符×2
:鼻栓
[思考]1:公主のために仏壇屋を探して香を持って帰る
2:男塾の仲間を探す
3:ゲームの脱出
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[道具]:荷物一式
:恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]1:富樫に付いていく
2:太公望からの頼み事の実行(内容は次の方にお任せします)
- 262 :作者の都合により名無しです:2005/11/12(土) 02:50:50 ID:uH43QrKDO
- >>254の『ブンチュウ』は『チョコウメイ』に脳内変換して下さいorz
- 263 :一つの希望 1/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:03:41 ID:XKoo2azV0
-
秋の早朝の冷たい風に木々がざわつく森の中。
枝から離れた枯れた葉が、余命の尽きかけた蝶のように力なく舞い、湿った土に吸い込まれる。
「あたし何しちゃったんだろ……」
東城綾は先程の出来事を何度も頭の中で反芻し、その度に言い様のない不安に駆られるのであった。
鼻をもぎ取り、首を裂き、血管を引き千切る……
是までの自分にとって想像も絶する数々の蛮行が、後から後に浮かび上がってくる。
血も凍るような殺人鬼は、あれから徐々に気配を消してゆき、今では完全に気配を潜めている。
「あの時は命の危険が迫っていたから。罪もない人を襲うことはない……はず」
嫌な考えを必死で打ち消そうと足を速める。
人の気配は全くない。聞こえるのは葉の擦れる音のみ。
冷たく薄暗い森で、少しでも立ち止まったり後ろを振り向いたりすると、
追ってくる闇に捕らえられ、引きずり込まれてしまいそうだ。
「こんな時に真中くんがいたら……」
――諸君、ご苦労。爽やかな朝だ。
そのとき静寂を打ち破り頭の中に声が響く。
――まずは脱落者の名を読み上げるとしよう。
脱落者? ……駄目。聞いては駄目。
自分が殺した男の名前を聞くのは耐えられない。
しゃがみこみ耳を強く押さえつける。
そんな彼女の心を嘲笑うかのように名前が続けられる。
――大原大二郎、道化のバ……
「いやぁぁぁぁあああ!!」
- 264 :一つの希望 2/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:05:15 ID:XKoo2azV0
-
……そして声が止み、辺りはまたも静寂に包まれる。
生命感のない冷たい森。役目を終えた落ち葉が、誰にも弔われることなく積み重なり腐ってゆく。
大声を出したことで緊張感が解れたのか、腐った落ち葉独特の匂いに紛れ、微かな異臭が鼻を突く。
――血の匂い……
あの悪夢を思い出させる匂い。今は嗅ぎたくなかった匂い。
しかし本能が行けと誘っている。惨劇が起こったであろう場所に。
……結局来てしまった。
目の前にあるのは夥しい血を浴びた肉片。それでも嘗ては人の姿をしていただろう。
つい先ほど死体を見たからだろうか。気持ち悪くて吐き気がするという事はない。
近寄って傍にしゃがみ込む。どこが顔かさえ判別がつかない。
この人は何を想い何を感じながら散ったのだろうか。それも今となっては判らない。
ただ言える事は、こんなゲームさえなければ、この人もどこかで普段通りの生活を送っていたことだ。
「待っててね。あなたの無念はきっと晴らすわ」
主催者たちを広間で初めて見たときは、ただ怖いとしか感じられなかった。
しかし今は深い憎しみを持っている。
絶対に許さない……心の中でそう誓ってから立ち上がり、その場を後にしようとした。
そのとき地面に何かが落ちていることに気付いた。
落ち葉とは色も形も異なるもの――それは三枚のカード。
近づいて拾い上げると、表面に付いた夜露を弾き、艶やかな姿をあらわにする。
下敷きになっていたメモ用紙――そのカードの説明書らしい――を読む。
ただのカードではなく、読み上げることで魔法が発動するらしい。持っておいて損はないだろう。
「ありがたく頂いておくわ」
カードと説明書をデイパックにしまう。
そして最後にもう一度だけ、名前も知らない死体――戸愚呂さんを振り返る。
「さようなら」
- 265 :一つの希望 3/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:06:27 ID:XKoo2azV0
-
辺りが随分明るくなった頃、東城綾はふと我に返る。
いつの間にか森を抜け平地に来ていたようだ。
はるか向こうの方には、朝焼けに染まった海が見える。
毒々しい波が岸辺の岩石を幾度となく打ち付ける様子は、ギロチンに掛けられた死刑囚をも連想させる。
「夜明けが近いのね」
何気なく放ったその言葉が、彼女の頭にこだまする。
――逃げなきゃ。早く隠れなきゃ。太陽が昇る前に……
この感触は何なの? 私の中にまだ何かいるの?
考える間もなく、彼女の足が勝手に駆け出していた。
平地から近くの茂みに。その中で葉っぱが一際多く繁った一本の木に。
幹に噛り付き、片手で無我夢中でよじ登っていく。
まさか自分にこんな力があったとは……
――ここまで来れば安心ね。
十メートルほど登り、枝に腰を下ろし、荷物を脇に置き、一息つく。
先ほどの森とは違い、緑色で整った流線形の葉が重なり合い、周りを覆い尽くしている。
ここには太陽の光は届かない。朝だというのに真っ暗だ。
けれども不思議と心が落ち着く場所でもある。
生命感。それを追い求めていた彼女にとって、ここは掛け替えのない場所なのだ。
「ふぅー」
大きく息を吐き出すと緊張が解けていくのが感じられる。
- 266 :一つの希望 4/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:07:38 ID:XKoo2azV0
-
目を閉じると、今までの出来事が浮かび上がってくる。
いきなり広間に集められて、大男が爆殺される様子を見せられた。
あのときは正直言って心臓が止まるかと思った。
森に飛ばされて暫く泣いていたんだっけ。
真中くんと離れ離れになって悲しかったから?
……それは変だと思う。普段のあたしだったら無理矢理引き離した張本人に怒りをぶつけるはず。
そこにバギーさんが襲ってきたのよね。
バギーさんは、あたしを本気で殺しに来た。
あたしは生き延びるために……
ところで、この人は普段からそういう人だったのかな?
何となくだけど違うような気がする。
格好からは、どこかのお笑いサーカスで活躍をしていたと考えるのが自然かな。
……そこまで考えて、彼女はある考えに行き着いた。
このゲームは普段の考え方が出来ない人が死ぬように上手く作られている。
参加者たちの正常な思考を奪い、隙をついて一人ずつ殺していく卑劣な犯行――それが本質なのだ。
怒りに震えながら、拳を強く握り締めている自分に気付く。
――いけない。こんな時こそ冷静にならないと……
戦闘力に自信があるなら兎も角、感情的になっても生き残れるほど、このゲームは甘くないだろう。
もう一度目を閉じて、大きく深呼吸、そして思い切り体を伸ばす。
頭を空っぽにして、風の音に耳を傾ける。
日が昇り風が弱まってきたのか、辺りは水を打ったような静けさに包まれる。
- 267 :一つの希望 5/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:10:28 ID:XKoo2azV0
-
緑に囲まれながら暫くゆっくりしていると、あれほど怒りに満ちていた心も自然に晴れ渡ってくる。
「もう終わったこと……ね。今はこれからの事を考えよう」
この状況で頼れるものは自分の頭だけだ。そう自分に言い聞かせ、考えを張り巡らせる。
いずれにしても、こんな場所からは早く抜け出したい。そのために優勝を狙う?
うまく作戦を練れば確かに可能かもしれない。
「でも……」
それが出来たとしても、真中くんは既に死んでしまっているなら元も子もない。
第一、あの主催者たちが優勝者をそんなに易々と帰すはずはない。
彼らが自分たちを安全圏に置いていることを考えると、
そのうち力をつけて復讐する可能性のある参加者を無事に帰すのは、理に合わない。
すなわち脱出するには、主催者を
「……殺しに行くしかないのね」
出来ればもう二度と殺人はしたくなかった。
しかし、自分の命さえ危うい状況では、そんなことは言っていられない。彼女は覚悟を決めた。
もちろん彼女だけでは、どうしようもない。
一人で思いつくような奇襲方法なら、当然相手も想定してくるだろう。
何せ主催者たちには、こちらの情報は全て筒抜けだという事だから。
広間で行なわれた会話で、誰かがそんな事を言っていたような気がする。
「きちんと聞いておけば良かった」
後悔しても始まらない。そのために仲間がある。
会話の内容を覚えている仲間がいれば、そんなことは問題にならない。
「三人寄れば文殊の知恵とは、よく言ったものね」
仲間がいるメリットのもう一つは、このことだ。
この諺によると、考え方が異なる者が意見を出し合ったら、思いもよらない結論が出てくるそうだ。
これに賭けるしかない。
- 268 :作者の都合により名無しです:2005/11/12(土) 14:11:03 ID:NWJPxOtsO
- 支援
- 269 :一つの希望 6/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:11:45 ID:XKoo2azV0
-
主催者の打倒。同じ事を考えている参加者は他にもいるはずだ。
実際に会って仲間に引き込む。それが無理でも知恵を授かること位はできるだろう。
「そうと決まれば、他の人を探さないとね」
そのときに問題になりそうなのは……
視線を自分の胴体に落とすと、何一つ身に着けていない。強いて挙げれば首輪だけ。
戦闘でボロボロになった上着シャツ下着スカート靴それに眼鏡、その全てが歩く途中でずり落ちてしまった。
しかも体の至る所に血がこびり付いている。
露出度の高い服は好きだが、さすがに
「こんな格好で歩いていたら、間違いなく変質者扱いね」
まとまった結論は、血を洗い流して服を探すこと。それが第一目標。
海は立ち入り禁止になっているので、血を洗い流すのは必然的に川になる。
琵琶湖という案もあったが、危険な外来魚がいるかもしれないので、却下しておく。
ちなみに今の場所は、地図によると石川県との境界付近だそうだ。
出来るだけ近い川がいいが、今まで福井県にいて川を一度も見かけなかった。
現実の福井県に川が一つもないことはないだろうが、ここでは縮尺の関係で省略されているらしい。
ある程度有名な川ならば、きちんと再現されているだろう。
こんな所で地理の知識が役に立つとは思っても見なかった。
富山県の神通川というのが妥当な案だろう。
理由は、日本海側のほうが通行に不便で人通りが少ないこと。
川で血を洗い流すまでは誰とも会いたくないのが最大の理由だ。
その川がなかった場合でも、もう少し足を延ばせば、日本で一番長いことで有名な信濃川がある。
信濃川が省略される可能性は限りなくゼロであることも大きな魅力だ。
他人に見つかりにくい森の中を通っていこう。
服のことは後でまた考えよう。
- 270 :一つの希望 7/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:13:04 ID:XKoo2azV0
-
デイパックを背負い、木から下りようとして考え直す。
自分がここに来た理由、それは太陽の光を恐れてのことだった。
そんな物がなぜ怖いのか見当も付かなかったが、早まった事はすべきでない。
時計を取り出して見ると、時刻は午前八時を少し過ぎた頃、太陽が沈むまで時間がある。
先ほどの放送で立ち入り禁止になる都道府県が発表されたはずだが、大声を出していて聞けなかった。
確か午前八時からと言っていたので、ここ福井県は指定されなかったはずだ。
でもすぐ隣の県が指定されなかったという保証はない。
やはり此処にいるのが安全だろう。
「まあいいや。取り敢えず、他の参加者たちの名前でも覚えておこう」
デイパックから名簿を取り出して、ざっと眺めてみる。暗闇にも目は慣れていた。
高校で日々鍛えているので、暗記力には自信がある。
「こういうのって、口に出すと覚えやすくなるのよね」
……よし完璧。全員の名前を空で言える。
デイパックに名簿をしまい、それを背負って、幹に持たれかかる。
朝の冷え込みはだいぶ薄れている。
……冷え込み? そんなに寒かったっけ?
思い出せない。でも服を着ていなくても平気だった事は事実だ。
感覚が無くなってしまったのか。それとも……
「変温動物……?」
そう。外の気温に合わせて自分の体温を変えることで暑さ寒さを凌ぐ動物。
自分は既に人間ではないのだろうか。もう二度と戻れないのだろうか。
何とも言えない恐怖に包まれるが、ずっと怖がっていても意味がない。
目を閉じて、木々の息吹に耳を傾け、ゆっくりとした時の流れに身を任せる。
昨晩からの疲れが溜まっていたのだろうか。いつとも言えず彼女は眠りに落ちていった……
- 271 :一つの希望 8/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:14:06 ID:XKoo2azV0
-
どれだけ時間が経ったのだろう。下の方に気配を感じ、東城綾は目を覚ます。
上半身は幹に持たれかかり、太い枝に沿って足を延ばしているので、下から見える心配は無い。
音を立てない様に注意深く頭をずらして、下を覗き込む。
一人の青年が食事を取っている姿が目に入る。よりにもよって同じ木の根元で。
何かの道着を身に着けていて、頭は綺麗に剃り上げている屈強そうな青年である。
こちらは葉っぱに囲まれていて真っ暗のままだが、太陽の傾きが変わったのか下の方も暗くなっている。
一方の青年は寛いでいて、こちらに気付く様子は見せていない。
あの人なら仲間になってくれるかな?
中々判断し難い時は最悪のケースを想定するのがよい。
隙を見せて油断を誘っている可能性は?
……それは少し考え過ぎな気がする。食事を取りながらでは反撃もままならないだろう。
――今がチャンスよ! 獲物を逃がさないで! 早く血が吸いたいの!
自分の中に殺人鬼の欲望が芽生えたらしい。でも従うことは出来ない。
勝手に動き出しそうな体に咄嗟に力を入れて硬くする。
ん……何とか押さえつけることに成功したらしい。
また下を覗き込むと、青年は食事を終え、しゃがみ込み何かを呟きながら考え事をしているようだ。
青年の近くに落ちている物を見て絶句する。空き缶がクシャクシャになって放り出されていたのだ。
凄い力……安易に近づかなくて良かった。
ほっと息をついた。そのとき……
――まだ隙は残っているわ!
不意を付かれたので、今度は止められず、体が勝手に起き上がる。
しかし起き掛けのためか、バランスを崩して傾いてゆき……
- 272 :一つの希望 9/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:15:01 ID:XKoo2azV0
-
落ちている。今まで座っていた枝がゆっくりと遠ざかっていく。
ゆっくりと? ……そう、時間が止まりかけている。
あの高さから落ちたのでは、助かる見込みは殆どない。これで全てが終わるのだ。
高い所から落ちて死ぬ間際には、忘れていた今までの記憶が甦って来ると、何かの本で読んだ。
今それが目の前で起こっている。
自分が生まれた時の風景。
幼稚園児、小学生、中学生、高校生と成長していく過程で出合ったもの。
それらが目まぐるしく再生されてゆく……
やがて場面はゲームに移る。
あの広間で爆発した大男の最期の表情。
自分が殺す直前のバギーさんの恐怖に歪んだ顔。
そして道行く途中に出合った原形をとどめぬ死体……
ふと思う。自分はこのまま死んでもいいのかと。まだやることが有ったのではないかと。
――頭を押さえて出来るだけ丸くなろう!
そう。こんな時は頭に衝撃を与えないのが一番だ。
少しでも助かる可能性があるのなら……
膝をたたみ両腕で頭を二つの膝の間に押し込む。
後ろから何かが迫ってくる。そして……
- 273 :一つの希望 10/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:16:35 ID:XKoo2azV0
-
「痛っ!」
背負ったデイパックのほうから落ちたため、奇跡的に無傷で済んだらしい。
ん? 背中のほうに何か違和感を感じる。鈍い音?
急いで立ち上がると、デイパックの下だった場所に、あの青年の頭がある。
顔を鼻血で真っ赤に染めて、驚きの表情でこちらを見つめている。
しかし目の照準は合っていない。
思わず背中のデイパックの表面に手を伸ばす。
何か硬いものの感触がある。食料品の缶詰だろうか。
デイパックを触った手のひらには……鮮血が付着している。
「ご、ごめんなさい」
一メートルほど後ずさりして慌てて謝ると、青年は上半身を起こしながら口を開く。
「……」
言葉も発しないうちに頭が少し揺れて、そのまま後ろ向きに地面に落ちてゆく。
頭の当たりそうな場所には……クシャクシャになった空き缶!
「危ない!」
言うより先に、彼女は前のめりに倒れていった。
青年の頭の下に腕を突き出し、指で缶を弾く。
突き指の痛みを堪え、二の腕を青年の頭の下に滑り込ませる。
その瞬間、腕に重みを感じた……
ドジっ子の自分。緊張のあまり、人前で転んでしまうことも多かった。
こんな自分が、転倒する人を助ける日が来るなんて……
先程の木登り。そして今回の人助け。
「これが火事場の馬鹿力ってやつなの?」
- 274 :作者の都合により名無しです:2005/11/12(土) 14:17:55 ID:NWJPxOtsO
- 支援
- 275 :一つの希望 11/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:19:23 ID:XKoo2azV0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは困惑していた。
女の子の顔がすぐ近くまで迫っている。
頭の後ろ側には彼女の腕の柔らかい感触。
思わず顔が熱くなるのを感じる。
慌てて起き上がろうとするが、もう片方の手で頭を押さえつけられる。
「起き上がっちゃ駄目。こういう時は安静にしてないと」
女の子は、頭の後ろ側の腕を持ち上げ、その下に正座をしてから、腕をゆっくり退けた。
今度は太ももの感触。こんな所で膝枕に抱かれるとは……
「ごめん。何か非常に言いづらいんだけど、はだ……
いや、なんで服を着ていないのか、なんて」
自分でも何を言っているのか分からない。
女の子は少し考えてから一言だけ呟く。
「襲われたの……」
こんなに優しい子を……そんな姿になるまで?
思わず息を呑む。
しかし自分も他人のことを責められない。
あの計画を完遂する為には、この子も殺さねばならないのだ。
目の周りが熱くなる。泣いているのか、俺は。
……話そう。この子に何もかも。打ち明けてしまおう。その後なら……この子も分かってくれるはず。
ゆっくりと呼吸を落ち着けてから、クリリンは目の前の女の子に声を掛けた。
- 276 :一つの希望 12/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:20:03 ID:XKoo2azV0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あの、実は……」
青年にいきなり声を掛けられて、東城綾は小さく息を呑む。
「本当に悪い。すまないと思っている。でも、みんなを守るために……」
この人は何を言っているのだろう。
「俺はあんたを殺さなければいけない」
えっ、今何て……
思わず本能に従いそうになるが、折角助けた人をすぐに殺してしまうのは嫌だ。
それに、いきなり手は出さない所を見ると、話し合いには応じてくれそうだ。
「事情を聞かせて頂けませんか?」
青年はその言葉を確認すると話し始めた。
名前はクリリンということ。ゲームに参加している知り合いのこと。
その一人ピッコロの持つドラゴンボールが、どんな願いでも叶えてくれること。
ピッコロを優勝させて、ゲームを無かった事にしてしまうという作戦。
そしてそれを実現するために、既に二人の人間を手に掛けてしまったこと……
東城綾にとっては、想像もつかないことの数々であり、恐怖も忘れてその話に夢中になっていた。
この場で考えた作り話にしては、巧く出来すぎている。
彼女はクリリンという青年の話を信じることにした。
しかしこの人の作戦には致命的な欠陥がある。
「でもそのピッコロさんて、主催者全員を一度に相手にして勝てるの?」
「えっ? どういう事だ?」
「あの人たちが、優勝者を簡単に帰すほど、お人好しだと思ってる?」
- 277 :一つの希望 13/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:21:00 ID:XKoo2azV0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは呆然とした。
「俺は全然見当違いの事をしていたのか……」
ショックから立ち直れない。
そんな表情を見て取ったのか、女の子が頭を撫でてくる。
「後悔なんて駄目。無かった事にすればいいのよ」
全く、この子は何処まで優しいんだよ……
あることを思い出す。自分が二人目を殺した時のこと。
確か女の子が逃げて行ったんだっけ。名前は何だったかな。
(ここはオレに任せて、行け!さつき!)
そんな事を言っていたような。
いずれにしても、あの女の子には会わせる顔がない。
この子に頼んで、代わりに謝ってもらうか。
「さつきっていう女の子に会ったら伝えてくれないか? 相棒を殺してすまなかったと」
ん、何だ? 今、目の前の女の子の顔が微かに震えたような……
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さつき……北大路さん? どうして「さつき」って言ったの?
その相棒って人が「さつき」って呼ぶのを聞いたってこと?
相棒って誰? もしかして……真中くん?
そう。彼女を「さつき」と呼んでいるのは、知る限りでは真中くんだけだ。
今日初めて会った人は「北大路さん」が普通だと思う。
- 278 :一つの希望 14/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:21:47 ID:XKoo2azV0
-
真中くん、本当に死んじゃったの? 嘘でしょ……
自分が膝枕をしている青年を見る。
――この人が殺ったのね。真中くんを。
込み上げて来る怒りが、吸血を求める本能に共鳴する。
もう恥も外聞も要らない。後は欲望に任せよう。
「クリリンさん。どうやら私とあなたの立場が逆になってしまった様ですね」
そして……
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリリンは再び困惑した。
目の前の女の子が、意味の分からない言葉を発した後、自分の服に手をかけて脱がそうとしたからだ。
咄嗟に手を掴む。が、手はびくともしない。
凄い力。普通の女の子のものとは思えない。
あっさり脱がされてしまい、胸があらわになる。
呆然としていて、何もできない。
女の子の人差し指が胸をなぞり、やがてそれが中心付近――心臓の位置に達する。
針で刺したような痛み。一瞬だけ胸が苦しくなるが、すぐに治まる。
体が軽くなっていく。何だか不思議な気分だ……
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
- 279 :一つの希望 15/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:23:28 ID:XKoo2azV0
-
「……っ!」
東城綾は自分がしている事に急に恐怖を覚え、咄嗟に指を抜く。
ゲームが始まってから会った人の中で、今生きているのは、この人だけだ。
こんな所で下手な復讐に出るよりは、この出会いを大切にしたほうが良いと思う。
気絶した青年の胸には自分の人差し指の大きさの穴。
穴から血が流れる勢いを見ると、幸いにも心臓には達していない様だ。
まだそれほど吸ってはいないので、急いで応急処置を施せば、命は助かるだろう。
取り敢えず傷口を塞ぐ物が必要だが、自分の持ち物には適当な物は無かった筈だ。
クリリンのデイパックを覗いて見る。
地図には、北海道と宮崎県の所に大きく×印が書き込まれている。これが禁止エリアだろう。
名簿には、いくつかの名前の脇に小さく×印。大原大二郎、道化のバギー、……脱落者の名前だ。
……知りたかった情報が手に入ったが、この際どうでも良い。それよりも何か……
もっと奥のほうに手を入れると、やわらかい物の感触がする。
服? 半袖のシャツに長ズボン。この人の普段着だろうか?
この服の布を利用しよう。本当は消毒もしたかったが諦めよう。
後で自分が着ることも考えて、シャツの袖の部分を使うことにする。
縫い目の糸を丁寧に手で切って取り外す。輪を展開して長方形状にする。
それを傷口に乗せると、あっと言う間に血が染みる。
そこで、もう一方の袖でも同じ事をしておく。
……何とか塞げたようだ。後は、見つかりにくい場所まで運んで、安静にしておけば良いだろう。
自分のデイパックを見る。あの石仮面は壊れたし、もう大事なものは入っていない筈だ。
何か重要なことを忘れているような気がしたが、それが何なのか思い出せなかった。
青年のデイパックを背負い、彼の体を傾けないように気をつけて担ぐ。
ゆっくりと木を登ってゆき、自分が先程までいた枝に寝かせる。
- 280 :一つの希望 16/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:25:10 ID:XKoo2azV0
-
クリリンのデイパックから服を取り出して着てみる。
あまり大柄な人ではないので、ベルトを調節すれば問題なく着られる。
気絶していたクリリンは、いつの間にか安らかな寝息をたてている。疲れているのだろう。
この人を仲間にしたい。でも、この人には怪しい動きを見られてしまった。
自分が人間ではない事を丁寧に説明すれば、分かってくれるだろうか?
……いや、それは絶対にしてはいけない。
先程考えた通り、これは情報戦だ。いかにして相手を欺くかに懸かっている。
自分の情報を出来るだけ相手に与えずに、相手の情報を引き出すのが重要なのだ。
自分が人間ではないと話してしまうと、太陽の光を恐れている事が何かの拍子にばれる可能性がある。
自分の弱点が相手に知られる事は、即ち死を意味する。
自分が人間ではない事は隠して説明する必要がある。
出歩くのが夜になるのは、見つかりにくい夜の方が大規模な行動には向くとでも言っておけば良い。
問題はやはりこの胸の傷だ。下手な答え方をすれば、この場で殺されてしまうだろう。
いずれにしても危険な賭けである事に変わりはない。
……いっそのこと、安全策を採って、今この人を殺してしまおうか?
クリリンは眠っていて隙だらけだ。今なら成功するだろう。
……いや、それは安全策には全然なっていない。
この人の話によると、知り合いには強そうな人が揃っているらしい。
下手をすると、それら全員を敵に回してしまう事にもなり得る。絶対に避けたい。
どうやら、この危険な賭けからは逃げられそうにない。ここが正念場だ。
どう説明するかを考える必要があるが、幸いにも暫くは目を覚ましそうにない。焦らなくても大丈夫だ。
時刻は午前十一時を少し過ぎた頃。次の放送までの時間が刻々と近づいている。
- 281 :一つの希望 17/17 (第4版) ◆NKCqu160yw :2005/11/12(土) 14:26:02 ID:XKoo2azV0
-
【福井県(石川県との県境)/昼】
【東城綾@いちご100%】
[状態]:健康、吸血鬼化、強い使命感
[装備]:クリリンの服
[道具]:荷物一式(食料4日分)、ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]:自分が人間でない事を隠す、クリリンを仲間にする
:太陽が沈むまで待機、福井→石川→富山、川で水浴び
:仲間と知恵を集めて主催者を殺害、ゲームを無かった事にする、優勝は目指さない
【クリリン@ドラゴンボール】
[状態]:睡眠中、体力・気とも大きく消耗、胸に怪我(傷口は布で塞いだ)
[装備]:悟飯の道着@ドラゴンボール
[道具]:なし
[思考]:ゲームを無かった事にする、東城綾に感謝、東城綾を不審に思う
(荷物一式(食料2日分)、グリードアイランドのスペルカード@HUNTER×HUNTER は木の下に放置)
- 282 :変相・変奏:2005/11/13(日) 04:54:10 ID:eSc85Jnm0
-
「ボクたちに戦う気はないよ、一つ譲ってもらいたいものがあってね」
突如現れた二人組。その片方、奇術師のような男は、唐突にそんな言葉を発した。
「譲ってもらいたいもの?なんだそりゃ?」
「うーん、説明し辛いな。強いていうなら、キミたちの命かな?」
主催者が盗聴している限り、首輪を欲していることを言葉にすることは出来ない。
故に、ここまでの説明しか出来ない。いや、するつもりはないといったほうが正確か。
首輪は、単に殺して奪えばいい。ただそれだけのコト。
「別にあっちの狙撃手のでもいいんだけどね。とりあえず、キミたちの方が先に見つかったから」
「まぁ、運が悪かったということか。所詮、命なんてこんなもの」
蝶々覆面のイカれた格好をした男が言葉を継ぐ。空気は既に重い。が、その言葉は
空気に更なる鋭さを加えていくようで。
跡部は再三、舌うちをする。
(ツイてねぇな…こっちは手負いが一人、誰かから狙撃されていて、さらに新手に変態が二人)
「チッ、どうする、ナルト!」
「跡部はここに隠れていてくれ。こういうことは忍者の仕事だってばよ!」
ナルトは、いまだに血が滴る右腕を持ち上げると、印を結んだ。
「行くってばよ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 283 :変相・変奏:2005/11/13(日) 04:55:12 ID:eSc85Jnm0
-
「まったく、何なんだ、あの変質者共は?風紀を乱すにも程がある…あの少年たちに悪影響を与えてしまうじゃないか」
戦場の傍ら。廃ビルの一室。警察官、中川圭一は形のいい眉を顰める。
「でも良かった。幸いなことに、僕は警察官だからね。市民を危険から守る義務があるんだ」
構えているのは狙撃銃。肩には黒い血のカタマリ。流れ出す気配は、無機質なようで、底冷えがするようで、熱に浮かされているようで。
「公然猥纐の現行犯…迷惑防止条例への抵触…でも、状況が状況だし、情状酌量の余地はある。それを考慮して…」
そこまで考えて、ほんの少しの間、宙をにらむ。そして、何かを思いついたのか、陽が差し込むような笑顔を見せた。
そして、再度、狙撃銃のスコープを覗き込む。その顔に笑顔は張り付いたままで。
「さて。不肖、中川圭一が判決を下そう。まぁ、被告の精神状態を考慮して、刑一等減刑してあげようかな?判決は…」
「…死刑」
よーく狙いを定めよう
「死刑」「死刑」
今度は決して外さないように
「死刑」「死刑」「死刑」
一瞬で苦痛を断ち切ってあげるために
「死刑」「死刑」「死刑」「死刑」
淋しくないよ、そこの子供たちも送ってあげるから
「死刑」「死刑」「死刑」「死刑」「死刑」
さぁ、よーく、よーく、よーく、よーく、よーく、狙いを定めよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 284 :変相・変奏:2005/11/13(日) 04:57:34 ID:eSc85Jnm0
- 「影分身の術!!」
ナルトが吼える。刹那の間もおかず、その場に七つの人影が現れる。五体がヒソカとパピヨンに躍りかかり、二体は怪我を負ったナルトを
護るかのように後ろへと下がった。何故か、ナルト本体の左掌に両手を合わせて。
「へぇ、これはこれは」
「なかなか芸達者だね」
対する二人は余裕を崩さず。
「ウオオオオオオォォォォッ!」
奇術師ヒソカは、上体を反らす。顔面を狙ったナルトの一撃は虚しく空を切る。別のナルトが、下半身に蹴りを見舞うが、上体を反らした勢いで
後転したヒソカを追いきれず、足刀はコンクリートの足場をたたく。ヒソカの軌道に併せ、弾丸のように走りこんだ第三のナルトの首に、小指の先ほどの
蝶が舞い込み、軽い破裂音とともにその延髄を吹き飛ばすと、第三のナルトの姿は煙の如くに霧消する。全く同じ軌道で、滑り込むが如く走りこんだ第四のナルトは
体勢を立て直したヒソカの打撃を受け、たまらず数歩たたらを踏む。その脇を潜りぬけた第一のナルトの拳はパピヨンの下顎を狙うが、咄嗟に上げた両腕に阻まれ、
まともなダメージを与えるには至らなかった。が、その隙を逃さず、背後から第二のナルトがパピヨンに蹴りかかる!
パピヨンはその攻撃に反応は出来たものの、先の一撃の反動で出来た硬直のため避けきることができず、被撃。体勢を崩したところに、第五、第四のナルトが追撃を
かけようと飛び出した。同時に、第四のナルトの身体は何かに引き寄せられるかのように、ヒソカへ向って吸い込まれていき、頚動脈を切断される!
第四のナルトの姿も、煙の如くに霧消した。そのまま、ヒソカがパピヨンの姿を見やったときには、既に。
第五のナルトはパピヨンの手刀によって貫かれていた。その姿もまた、塵と消えていく。
「クソッ!なんなんだ、あいつらは!ナルト!」
跡部は焦る。と、第一のナルトが弾き飛ばされたのか、かなりの勢いで突っ込んできた。思わず、右手で受けると、驚いたことに殆ど衝撃は無く。
だが、第一のナルトの姿も掻き消えた。
だが、臆することなく、第二のナルトは再度、敵に向って特攻をかけ――――
――――ダァ――――……ン――――
凶弾に貫かれ、消失した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 285 :変相・変奏:2005/11/13(日) 04:58:38 ID:eSc85Jnm0
-
「まったく、あの少年は!せっかく僕が変質者に鉄槌を食らわせてやろうというのに射線に入るなんて!やっぱり最近の少年はなってないね!
公務執行妨害で、死刑が妥当かな。って、もう死刑って決めてたんだっけ。二回死刑ってどういう風に言えばいいのかな。
極刑?極刑?刑の極みってことで極刑っていうのがいいのかな?」
中川は内心で臍をかむ。邪魔された!邪魔された!神に愛されているこの僕が!
金髪の子供がわらわらと出てきて、僕の正義が邪魔された!僕の優勝を邪魔された!ゴキブリみたいに沢山出てきて!
余計なことを!余計なことを!まるで先輩みたいだ!ああいう子供が、先輩みたいな傍若無人な大人になるんだ!
先輩みたいに…先輩みたいなのが、あんなに沢山?!殺さないと!殺さないと!
先輩が、沢山、沢山…先輩を沢山殺せる…先輩を…
狙撃手は、己の凶器に己の狂気を装填する。その顔は、何故か驚喜しているようで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 286 :変相・変奏:2005/11/13(日) 05:28:56 ID:eSc85Jnm0
-
その瞬間、確かにその場の全員の注意が逸れた。それは、瞬きをするよりも短い時間。
「今だってばよ!!」
機を逃さずに、ナルトは地面に己が左手を叩き付ける!
「螺旋丸!!!」
ナルトの手の平に生み出された、圧縮された暴風のような衝撃で、ビルの屋上に無数の罅割れが走る!
階段から下にいけないのなら、床から下に逃げればいい、と考えた一手。戦闘能力を持たない、跡部を逃がすための策。
だが―――床は今にも崩れそうだが、かろうじて原形を留めている。
「チッキショー!もう少しなのに、床が抜けねぇ!」
「跡部!お前は逃げるってばよ!」
「諦めんな!もう少しだっつーんなら、俺様が最後の一押しをしてやる!」
吠える跡部が掌を床に叩き付ける。跡部が今、持っている支給品、衝撃貝。その能力を確かめるために。
(説明書がデマじゃねーことを祈ってやるぜ!感謝しな!)
篭手から、とてつもない衝撃が発生し、結果。跡部の右腕は大きくはじかれ、床は耐え切れず大きな穴を穿たれた。
間髪いれず、二人の少年は階下へと逃げ出す。二人の超人はそれを追おうとしたものの。
最後の影分身体、第六、第七のナルトによって足踏みを余儀なくされる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 287 : ◆KiE.EJHwuY :2005/11/13(日) 05:32:11 ID:eSc85Jnm0
- それを見て。
「あー、器物破損の現行犯。最近の子供たちはキレやすいって聞いていたけど。それにまた子供が増えてる。
一人見つけたら三十人っていうし、徹底的に掃除しないと駄目だなぁ」
狙撃手は微妙に残念そうな顔をする。が、まだ気は抜けない。あの変質者共にも、正義の鉄槌を食らわさねば。
この中川が勝ち残る。それが正義だ。なら、それを邪魔する奴らは悪だ。悪は裁かなければならない。
何故なら、自分は警察官なのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 288 : ◆HKNE1iTG9I :2005/11/13(日) 06:29:31 ID:eSc85Jnm0
- 【福岡県(市街地)/早朝】
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】右肩が痺れている、襲われたらやり返す覚悟を決めた
【装備】衝撃貝(インパクトダイアル)の仕込まれた篭手@ワンピース
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ノートとペン、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1.とりあえず、安全を確保する。
2.乾と越前を捜す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】右上腕に弾丸貫通(応急処置はしたがまだ出血中)、空腹、疲労困憊
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1. とりあえず、安全を確保する。
2.サクラ、シカマルを探す
3.主催者をやっつける
【中川圭一@こち亀】
[状態]:左肩を負傷 精神不安定 錯乱気味
[装備]:スナイパーライフル(残弾16発)
[道具]:荷物一式 ベアクロー
[思考]:1.金髪の少年(ナルト)の狙撃。新しく現れた少年(跡部)の狙撃。
蝶々覆面の男(パピヨン)の狙撃。奇術師のような男(ヒソカ)の狙撃。
2.両津を探して射殺する
3.優勝する
- 289 : ◆HKNE1iTG9I :2005/11/13(日) 06:30:07 ID:eSc85Jnm0
-
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 背中に極軽度の打撲(再生能力のため、直ぐに回復します)
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス少量消費)
[道具]:荷物一式(食糧二食分消費)
[思考]:1.逃げる少年達か、狙撃手から首輪を手に入れる
2.知り合いとの合流、ヒソカと行動
【ヒソカ@ハンターハンター】
[状態]:健康 全身に軽い打撲、裂傷(処置済み)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食糧一食分消費)
[思考]:1.逃げる少年達か、狙撃手から首輪を手に入れる
2.更木を含む強者と戦いたい
3.知り合いとの合流、パピヨンと行動
- 290 :作者の都合により名無しです:2005/11/14(月) 00:35:54 ID:xRw0AbtkO
- 曝し上げ
- 291 :作者の都合により名無しです:2005/11/14(月) 06:56:49 ID:kxfKKcel0
- VIPから来ました。
- 292 :最強の厚着 1/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/14(月) 23:58:23 ID:0CxBTTQQ0
- 悟空は水をすくって飲んだ。冷たくて気持ちいい、身体の芯に染み渡ったような気がした。
野生児の本能ゆえか、水の匂いに引かれた悟空は川を見つけ、今は小岩の上にしゃがみ込んでいる。
わずかに落ち着きを取り戻した悟空は、ふと、自分は何なのだろうと考えた。
――オラは地球育ちのサイヤ人だ。
――そう、サイヤ人。だから俺は地球人を殺すんだ。
頭はもやがかかったようにぼんやりとし、いまいち思考がまとまらない。
今度は水でバシャバシャと顔を洗ったが、まだ気持ちは晴れないままだった。
流れる水をぼんやりと見ていると、悟空の腹の虫が大声で鳴いた。
群馬県を流れる湯檜曽川まで休み休み歩いてきた悟空だが、休みながら歩いたとて腹が減らぬ訳ではない。
何か食べ物はないかと悟空はデイバッグを開け、パンや干し肉があったためそれを食らった。
二食分ほど食べてもまだ飢えは残っていた悟空だが、ふと、手を止める。
バッグの中に見覚えのある物があった。
「ホイポイカプセル……」
自分は特に必要としていなかったが、ブルマ達がよく使用していたので馴染み深い物でもあった。
いったい何のカプセルなのかと悟空はスイッチを押して放る。
カプセルはボンッと煙を立てて、大きな金色の箱になった。
- 293 :最強の厚着 2/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/14(月) 23:59:15 ID:0CxBTTQQ0
- 東京へ向かうため新潟から群馬へ入った承太郎は、岩陰からスタープラチナの目で黒髪の青年の姿を発見した。
川の対岸で、金色の箱の隣に座り、ザアザアと流れる川をじっと見つめている。疲れているようだ。
東京に入れば水の補給は出来なくなるだろうと思い川へやってきたら、まさか人に遭遇するとは。
承太郎達はすでに水と食料を一食分消費しているが、
その一食分の水を補給するために危険を冒すつもりは無かった。
しかし相手は弱っているようだし、仮にゲームに乗っている奴だとしても御する事は恐らく可能だろう。
警戒すべきは未知の能力、未知の支給品。
あの箱の正体は気がかりだったが、現状では何とも言えない。
無論、あの男がゲームに乗っていない可能性もある。
負傷しているためすでに何者かと交戦したのだろうが、自衛の可能性もある。
姿を隠しながら声をかけ、様子を探ってみようと承太郎が考えたその時。
「おーいっ、そこの君ー!」
承太郎の相方、翼が元気いっぱいに声をかけた。
黒髪の男が立ち上がり、こちらを見る。驚いている様子だ。
「いい筋肉をしているね! 僕と一緒にサッカーをしようよ!」
急にかけられた声が、悟空の思考を刺激した。
ハッと立ち上がって声の方を見てみれば、青年がにこやかに手を振っている。
友好的な笑顔。敵意など微塵も感じられない。
だというのに、なぜ自分は岩を蹴ってあの青年に飛び掛ろうとしているのだろう。
悟空は、まだ水で濡れたままの手を振り上げた。
- 294 :最強の厚着 3/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/14(月) 23:59:47 ID:0CxBTTQQ0
- 川を跳び越す悟空の跳躍力に驚愕しながら、承太郎は翼の服を引っ張って自分の後ろに隠し、
スタープラチナで拳の弾幕を張った。
「オラオラオラー!!」
空中で方向転換不能の悟空はスタープラチナの拳を全身に浴びるはずだった。
だが、悟空は振り上げた手を、まるで野球ボールを投げるように振り下ろす。
虚空を握っていたはずの手からは光の球が放たれた。
即座に危険を察知した承太郎は、避ければ後ろの翼が危ないと判断し、
強烈なフックをエネルギー弾に叩き込んだ。
エネルギー弾は承太郎の顔の横を通り抜け、後方の川原に着弾する。
スタープラチナの拳が痺れているのを感じながら、迫り来る悟空が身体をひねって放った回し蹴りをしゃがんで避ける。
「てめぇっ! ゲームに乗ってやがるのか!!」
目の前に着地した悟空に向かってスタープラチナの拳の連打を放ちながら、承太郎は叫んだ。
悟空はすべての拳を身体を振って避けていたが、少しずつ後ずさっていた。
「……DIO?」
承太郎が操るスタープラチナを見て、悟空は自身に傷を負わせた男を思い出した。
あの男、DIOもこんなようなもの――スタンドを出して戦っていた。
承太郎のスタープラチナは、DIOのザ・ワールドと同等のスタンド。負傷した悟空には荷が重かった。
悟空は大きくバックステップし、手のひらを承太郎に向けて牽制した。
エネルギー弾を警戒した承太郎は深追いをやめ、爪先立ちになって回避体勢を取る。
一瞬の硬直、緊張――先に動いた方が、その隙を狙われる。
- 295 :最強の厚着 4/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/15(火) 00:01:22 ID:0CxBTTQQ0
- 「お前かああああああああああああああああああっっ!!??」
硬直も緊張もしていない翼がいきなり叫び、横から悟空の脇腹に強烈なシュートを叩き込んだ。
「ぐあっ!?」
予想外の攻撃を受けた悟空だったが、無意識に手を振るって翼の顔面を叩いていた。
だが無理な体勢から放った拳は翼を地面に這いつくばらせるだけに終わり、致命打にはならない。
さらに承太郎が迫ってきたため、悟空は金色の箱があった位置までジャンプして戻った。
スタープラチナの脚力ならそれほど広くないこの川を飛び越えられるだろうと承太郎は考えたが、
翼の奇行が気になって側を離れられずにいた。
「いきなり飛び掛ってくるなんて、スポーツマンシップという言葉を知らないのかぁー!
さてはお前だな!? 石崎君を殺したのは!!」
「何……?」
そういえば、と承太郎は思い出した。
午前6時に主催者が行った放送で死者の名が発表され、石崎という名に翼が反応した事を。
寡黙な承太郎は特に慰めの言葉をかけはしなかったが、
――この微妙にズレた発言をする翼にどう声をかければいいか分からなかった部分もあるが――
黙って震えている翼は悲しみに耐えているようにも見え、
その後も東京を目指す足を止めたりしなかったので、自力で立ち直ったのだろうと考えていた。
が、それが今この場でこんな形で爆発するとはさすがの承太郎も思っていなかった。
だいたい、このゲームに乗ってる奴はそれなりにいるだろうに、
なぜあれだけの行動で石崎を殺したのがあの男だと判断できるのか。
どうやら本格的に翼の頭はプッツンしているらしい。
- 296 :最強の厚着 5/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/15(火) 00:04:12 ID:lUc1YCxh0
- 「いしざき……?」
それが誰の事なのか分からなかった悟空は、翼の容姿から同年代の青年の姿を思い出した。
それは日向小次郎というまったくの別人ではあったが、彼もまた翼の仲間であり、
サッカー選手として翼と共通する空気を持っていた。
――もしかしたらあの男の名前はいしざきだったのかもしれない。
――オラが殺したのか? 声をかけてきた時はとびっきりの笑顔だったのに、今はあんなに怖ぇ顔して。
――オラの……せいなのか? あいつが俺を蹴飛ばしてきたのは。
――オラは……いったい――
――俺、は――
二つの相反する思考が、悟空のかたわらにある黄金を輝かせた。
つなぎ目の見当たらない箱は突如として開き、黄金に輝く全身鎧が姿を現す。
それは意志を持っているかのように悟空の身体に向かって飛び、自動的に装着された。
双子座(ジェミニ)の黄金聖衣(ゴールドセイント)……。
かつて二つの心を持った黄金聖闘士、今は亡きサガが装着していた鎧……。
二つの精神の間で揺れる孫悟空の手にそれが渡ったのは、何の因果だろうか。
ちなみに、悟空は元々ルフィからもらったフリーザ軍の戦闘スーツを着ており、
これはゴムのように伸ばしたり形を変えたり出来るため、黄金聖衣を上から着ても中で肩当がグニャリと潰れ、
装着自体に支障は無かったのだが……やはりゴワゴワして着心地が悪かった。
フリーザ軍の戦闘スーツ+黄金聖衣の防御力たるや生半可なものではないが、
群馬を降りれば春の地域に入るため、こんな厚着ではきっと暑いだろう。
エジプトの砂漠でも学ラン姿だった承太郎級の精神力が必要だ。
- 297 :最強の厚着 6/6 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/15(火) 00:05:03 ID:lUc1YCxh0
- 【群馬県 湯檜曽川/日中】
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:カカロット化(不安定、思考力低下)、疲労、
出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済)
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@ドラゴンボール 双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
[道具]荷物一式(食料二食分消費)
[思考]目の前の地球人を殺す。迷い有り。
[備考]厚着のせいで防御力上昇、機敏さ減少、春地域に行くときっと暑い。
【大空翼@キャプテン翼】
[状態]:顔を殴られて痛い。精神的にやや壊れ気味?
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、禁鞭@封神演義
[思考]:1.悟空を石崎の仇と勘違い。
2.東京へ向かう。
3.仲間を11人集める。
4.主催者を倒す。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、らっきょ@とっても!ラッキーマン
[思考]:1.可能なら悟空からDIOの情報を聞き出す。
2.ゲームに乗っていると判断し悟空を再起不能にする。不可能なら逃亡。
3.バーンの情報を得るべくダイを捜す
4.東京へ向かう
5.主催者を倒す
- 298 :最強の厚着 3/6修正 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/15(火) 00:43:36 ID:lUc1YCxh0
- 川を跳び越す悟空の跳躍力に驚愕しながら、承太郎は翼の服を引っ張って自分の後ろに隠し、
スタープラチナで拳の弾幕を張った。
「オラオラオラー!!」
空中で方向転換不能の悟空はスタープラチナの拳を全身に浴びるはずだった。
だが、悟空は振り上げた手を、まるで野球ボールを投げるように振り下ろす。
虚空を握っていたはずの手からは光の球が放たれた。
即座に危険を察知した承太郎は、避ければ後ろの翼が危ないと判断し、
強烈なフックをエネルギー弾に叩き込んだ。
エネルギー弾は承太郎の顔の横を通り抜け、後方の川原に着弾する。
スタープラチナの拳が痺れているのを感じながら、迫り来る悟空が身体をひねって放った回し蹴りをしゃがんで避ける。
「てめぇっ! ゲームに乗ってやがるのか!!」
目の前に着地した悟空に向かってスタープラチナの拳の連打を放ちながら、承太郎は叫んだ。
悟空はすべての拳を身体を振って避けていたが、少しずつ後ずさっていた。
「……DIO?」
承太郎が操るスタープラチナを見て、悟空は自身に傷を負わせた男を思い出した。
あの男、DIOもこんなようなもの――スタンドを出して戦っていた。
承太郎のスタープラチナは、DIOのザ・ワールドと同等のスタンド。負傷した悟空には荷が重かった。
悟空は大きくバックステップし、手のひらを承太郎に向けて牽制した。
エネルギー弾を警戒した承太郎は深追いをやめ、爪先立ちになって回避体勢を取りながら考える。
(野郎……DIOの名を! あの傷は奴が?)
承太郎は宿敵DIOの情報を引き出そうと考えたが、
この好戦的な男から果たしDIOの情報を得られるのだろうか。
同士討ちを企んでDIOの居場所を話すかもしれないと頭の片隅で考えたが、
今はこの場を切り抜ける事が先だ。ここで殺されてしまってはDIOを倒すなど不可能。
睨み合う悟空と承太郎。
一瞬の硬直、緊張――先に動いた方が、その隙を狙われる。
- 299 :機人流浪:2005/11/15(火) 08:43:45 ID:ieSCaG6rO
- 静寂…一面の静寂。
小さな公園の公衆トイレ。
その狭い空間に、微動だにせず固まったままの影一つ。
ただ一つの違和は、狭い空間内に幾度も小さく薄く繰り返し響く異音。
コー…ホー…
コー…ホー…
コー…ホー…
(怖い…怖い…)
(もう18人も死んだ)
(仲間にも裏切られる)
(オレなんかじゃどうにもならない)
(これは試合じゃない…血生臭い戦場だ)
(殺される…虫ケラのように…殺される…)
(怖い…怖い…)
その者の名はウォーズマン。
正義超人と呼ばれてその自信に満ちていたかつての面影の全てを失い、その脆弱な機械人形はひたすらに今の現実に恐怖していた。
場所は名古屋にほど近い公園。
彼はDIOに襲撃されて後、徐々に自らを浸食していく恐怖心に飲み込まれていきながらフラフラと流浪していった。
本来の『弱者を守る』という目的も徐々に忘れ。
東京へ向かうという事も徐々に忘れ。
先程のような人外の化け物に再び出会ってしまわぬような安全な場所を求め。
(殺される…何も出来ずに…殺される…)
(死ぬ…みんな死んじまうんだ…)
(いくらキン肉マンでも…あんな化け物には絶対かなわない…)
(どんな必殺技も無意味だ…四角いリングなんてどこにも無いんだ…)
- 300 :機人流浪:2005/11/15(火) 08:44:48 ID:ieSCaG6rO
-
頭を隠し、丸くなったままひたすら今の現実に怯え続ける。
膝を抱え子供のように小さくなっているその者の胸と膝に挟まれた、彼の支給品である長い筒がその彼の恐怖を映して静かに佇んでいた…。
「……」
「どーした?」
「足跡が…あるわ」
今まで共に早足で進んでいた相方の女性、マァムが突然足を止めて地面に視線を向けているのに気が付いた流川はマァムの方へ振り返りぶっきらぼうに問いかける。
「足跡?新しいのか?」
「…詳しくは分からないわ。うっすらとしか残ってないから、そんなに新しくはないと思うけど」
「……」
「とりあえず、後ろの二人を待ちましょ」
「ああ」
マァムたち二人は後方から徐々に近寄ってくる二人組、リサリサとつかさの方へと視線を向けたままその場にたたずむ。
「どうしたの?何かあった?」
「リサリサさん、これ…」
マァムが指差した先には一人分の足跡。それが真っ直ぐ右前方へと続いている。
「どうします?辿ってみますか?」
「うーん…どうしたものかしら。一人で行動している人物というのはゲームに乗っている可能性も高いと思うから、分の悪い賭けになるかもしれないわね」
「…流川君みたいに楽観主義の人ばかり、ってわけじゃないでしょうしね」
「…うるせー…」
リサリサの後ろから笑顔を流川に向けて茶々を入れるつかさの言葉に少し不機嫌そうに返事を返す流川。
- 301 :機人流浪:2005/11/15(火) 08:48:16 ID:ieSCaG6rO
-
「フフ…そうね、あの時は驚いたわ。『全部夢だと思って二度寝してた』だなんて聞いても、にわかには信じられなかったわ」
「そうそう!あの状況で普通すぐ寝れる?の○太君じゃあるまいし!」
「悪かったな…」
つかさにからかい口調で突っ込まれ、少し気まずげに視線を横に逸らす。
の○太君?と、その例えの言葉の意味がよく理解できないといった顔で二人のやり取りを眺めるマァムとリサリサも、顔を見合わせてクスクスと互いに笑みをこぼしあう。
…余談だが、流川はどこでも3秒で寝れる男である。その例えはあながち間違ってはいなかったり。
「とりあえず…やっと見つけた手掛かりでもあるから、私たち誰かの仲間と合流できる可能性が有る限りは…辿ってみるしかないわね」
「そうですね。でももし…危険な人物だったりした時は?」
「……どちらかの組が接触を試みて、その間もう一組の方が距離を少し置いた場所で隠れたままいつでも奇襲のように援護に飛び出せるように監視…でどう?」
リサリサが三人に向けて落ち着いた声で提案し、三人共首を縦に小さく振る。
「じゃあもし相手が見つかったら私と流川君で接触してみますから、リサリサさんたちは援護をお願いしますね」
「分かったわ。危険を感じたらすぐに逃げるのよ?」
「…はい」
- 302 :機人流浪:2005/11/15(火) 08:49:43 ID:ieSCaG6rO
-
「…流川君?危ない役目を押しつけてしまったみたいで…ごめんなさい」
「……」
足跡を追い始めて数分後、マァムは並んで歩いている流川にすまなさそうに顔を向ける。
「西野さんよりは貴方の方が動けるみたいだし、私とリサリサさんでバディを組んでしまったら…貴方たち二人が危険過ぎるし…それに…」
「別に気にしてねーよ」
ぼそ、と前を向いたままマァムの言葉を遮る。
「あ…うん。…ありがとう…」
流川と出会ってからまだ時間は浅いが、ある程度話をしてみてマァムは妙な信頼と親近感を流川に抱いていた。
(不愛想で、口数も少なくて…でも本当は…とっても優しい心の人。…少し子供みたいな所もあるから、ヒュンケルとポップを足したみたいな人ね)
そんな事を一人考えながら、前を向いて足を進ませつつも薄く微笑む。
「なあ」
「おい」
「おーい」
「…あ、な、何?」
自分を呼ぶ流川の声にようやく気が付き、少し慌てたように顔を上げる。
「足跡、あそこで途切れてる」
「!!」
その言葉を受け、瞬時に真剣な顔つきに変わる。
二人の視線の先には…小さな公衆トイレ。
- 303 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:01:10 ID:ieSCaG6rO
-
「……!!?」
ウォーズマンはふと扉の外に人の気配を感じ、バッと顔を上げる。
(だっ、誰だ!!?)
「…中の人!私たちに戦う意思は無いわ!」
(…女?なんだ?よく聞こえないぜ…)
(たたか……し……?)
思わぬ弊害。
今までは特に音や声を聞く機会がなかったために気が付けなったが、ウォーズマンが首に受けた損傷により彼の聴覚に多少の問題が発生していたのだ。
聞いた言葉に小さなノイズが混じってしまう。
(戦い……し……?)
(…戦い…死……!!?)
彼の怯えきった心が全てをネガティブな言葉に変換していく。
「あなたも殺し合いなんて嫌でしょう!?あなたの世界に帰りたいでしょう!!?」
(ころし……たの……い…?)
(…殺しが…楽しい…!!!?)
最悪の脳内変換。
氷の固まりを心臓に押しつけられたかのようなショックに身を震わせ、膝の上に乗る大筒に手を伸ばす…。
「………返事、無いな」
「……」
「…自殺とか…」
「ば、バカな事言わないで…!」
流川の言葉に動揺を隠せず否定の言葉を吐くも、しかし一向に返事も音も帰ってこない事実にその最悪の仮定を心が否定しきれず、ゆっくりとドアに手をかける。
- 304 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:04:55 ID:ieSCaG6rO
-
「一、二の、三で…いい?」
「……」
警戒の姿勢を取ったまま無言で頷く流川。
「一、二の…」
息を整え…
「三っ!!!」
バン!と扉を開き、暗い中の様子を覗こうとする。
ブワッ…!
「……なっ!!?」
「何!?これ!!?」
その瞬間、内部から二人に向けて生暖かい風が勢いよく吹き当てられ、思わず顔を手で覆う。
「何…このにおいっ…!?」
「……!?まさか…!!!」
流川が一瞬の判断でマァムを押し飛ばそうと前に出る。
「逃げろ!!ガス…」
…それは、一瞬の出来事であった。
その時マァムには何が起こったのか理解できなかった。
ただ最後に見えたのは、流川の体が自分の前を塞ぎ…まるで皆既日食を見ているかのように流川の体の輪郭がくっきりと真っ青な光で照らし出されていて…少し、綺麗だな…だとか、そんな事を思いながら…
意識はそこで、途絶えた。
- 305 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:09:48 ID:ieSCaG6rO
-
「マァムーッッ!!!!流川くぅーーんッッ!!!!」
「イヤアァアアッッ!!!!」
扉の奥から放たれた巨大なガスバーナーの炎のような火柱に包まれた二人を離れた木陰から見ていたリサリサとつかさは悲痛な声を上げ、固まって動けないつかさに構わずリサリサは二人に全力で駆け寄る。
(こんなに…こんな…威力があるなんて……!!?)
トリガーに指が掛かったままであるウォーズマンは、呆然としていた。
扉の先に転がる…黒く炭化した固まりを凝視する。
(死…ん…?……オレ……オレが……殺……?)
突然の事だった。
外にいるのはゲームに乗った奴だと考え、この武器で威嚇をしながら逃げるつもりだった。
しかし…心の準備が出来ていないまま突然扉が勢いよく開き突然の音に頭がパニックになってしまい、思わず攻撃してしまったのだ。
(こんな…説明書きには……こんなに…威力が…あるなん…て…!?こんなに……!!!?う…あ…?)
「ウゥオあアあァアぁあアァーーーッッッッ!!!!!!」
絶望と悲壮のこもった半狂乱な叫び声を上げながら外に飛び出し、凄まじい勢いでリサリサとは真逆の方向へ走り去る。
- 306 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:14:34 ID:ieSCaG6rO
-
「……!!!」
リサリサはその男に思わず身構え足を止めるが、走り去る後ろ姿を追うよりも…まず優先すべきは二人の安否確認であると自分に言い聞かせてマァムたちの元へ駆け寄る。
「……そん…な!!?」
その場に倒れていたのは、全身至る所に火傷を負ったマァムの姿と…
真っ黒く、見るも無惨に焼け焦げた…流川の姿であった。
- 307 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:18:19 ID:ieSCaG6rO
-
【愛知県、春日井にある小さな公園/午前】
【マァム@ダイの大冒険】
[状態]:全身各所に火傷・気絶
[装備]アバンのしるし@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:気絶中
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(ダイ・ポップを優先)
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式
[思考]1:事態の把握
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]:ショック状態
:移動による疲労
[装備]天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[道具]荷物一式
[思考]1:ショック状態
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(真中・東城・北大路を優先)
- 308 :機人流浪:2005/11/15(火) 09:19:35 ID:ieSCaG6rO
-
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]極度のパニック状態
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ワンピース
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]極度のパニック状態
【流川楓@スラムダンク 死亡確認】
【残り104人】
※流川の荷物一式(支給品不明)は死体横に放置
- 309 : ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 19:52:53 ID:u3fuXo9J0
- 宮城県の海岸線よりの道。そこから少し外れた森の中で二人の男が対峙していた。
「・・・戦う気はない。といっても無駄なようだな」
「へへへっ、そーゆーこと、お前と戦う方が面白そーだからな。怪我しているとこ悪ぃが」
ブチャラティは考える。
(オレは失敗したのか、そして晴子は・・・だが悔やむことはいつでもできる
今はこの危機を乗り切きることだ!
事実はどうあれ、この状況を見られては説得は難しいだろう。
とはいえ腕一本で戦うのも厳しい・・・、逃げることはたやすいが・・・・やむをえんな)
「オレはブローノ・ブチャラティ。名を聞いておこう」
「おう、オレはニンジャマスター・ガラ。ガラでいーよ」
(この目の前の大男―ガラ−、相当の手だれのようだが、けして生かしておくわけにはいかない。
もしガラがこの状況を他の参加者に話せば、オレはいっそう不利な立場になるだろう。
ここは多少のリスクを背負ってもこのガラを始末しておくべきだ。)
「おっ、やる気になったか?」
「ニンジャというのは聞いたことがある。確かこの国の隠密部隊だったな」
「ンなコトより丸腰のようだが大丈夫なのかぁ?」
「お互い闇に生きる者だ。覚悟はいいな?オレはできてる」
「おいおい冗談だろ。とても同業者には見えねー」
じりじりと近づく両者の間合い
「オレはガンダムより強えーぜ」
こいつぁモノホンだ。斬魄刀を構えながらガラは思った。
(おもしれー、相当な修羅場をくぐってきてるな。しかし片腕で丸腰のくせに自信満々に間合いを詰めてきやがる。
こりゃあ何かあるな・・・。「あの技」で様子を見るか・・・)
- 310 :作者の都合により名無しです:2005/11/15(火) 19:54:16 ID:U6lAMi020
-
- 311 :ブチャラティVSガラ2/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 19:57:39 ID:u3fuXo9J0
- 「おらぁーー、「魔神(人)剣」!!」
ガラの必殺技「魔神(人)剣」。高速で剣を振るうことで衝撃波を奔らせ、対象を切断する技。衝撃波のスピードは音速を超える。
「ちょっと手加減したぜー。これで終わりってこたぁねーよなぁ」
それでも至近距離、見てから避けることなど不可能だし、ましてや生身の人間がガードできるわけ無い。しかし―!
「なにぃ!!?、ブチャラティが消えた?」
バリバリバリ・・・・ドブォォォン!!!!
衝撃波が当たる寸前、ブチャラティは忽然と姿を消していた。
目標を失った衝撃波は、轟音とともに一瞬前まで彼がいた場所の大地をえぐり、そのまま大木に命中してなぎ倒した。
どこからか声が聞こえる。
「・・・「魔神(人)剣」か、スゴイ威力だ。まともに食らったらまず助からないな」
「なにっ、地下から!!」
「ステッキー・フィンガーズッ!!」
ありえない方向。
地面からの攻撃がガラに襲いかかる。なぜだと思う前に体が反応し、かろうじて右腕で攻撃をガードした。
「ふー、あぶねぇあぶねぇ。おめぇ地面に潜れんのか。ひょっとしてその体から出てる「ロボット?」みてーのの能力か、」
「・・・「スタンド」だ。見えるとは驚いたな。確実にしとめたと思ったのに、気配でわかったのか、反射神経がスゴイのか。
しかし、ガードしたな・・・」
次の瞬間、ガラは信じられないものを見た。
「少々でかいが、まぁそのうち慣れるだろう。おまえの右腕はいただいた。」
「なにーー、オッ、オレの右腕がねぇ?」
- 312 :ブチャラティVSガラ3/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 20:00:19 ID:u3fuXo9J0
- ジッパーのようなもので、ブチャラティが失っていたはずの右肩から下に接合したモノは、
一瞬前までガラ自身の右腕だったモノだった。
「オレの腕が〜〜〜〜、てってめェ・・・
だ、だが、わかったぜぇ。あそこの死体に首輪が無かった理由が。そのなんだ「スタンド」か?ジッパーみてーな能力で首輪を外したのか。
だが、どーゆーわけかもう一人の方はしくじって・・・、結局そのザマってわけだ」
「・・・「失敗」して「そのザマ」、か・・・、その通りだ・・・オレは・・」
ふと視線を逸らすブチャラティ。
その一瞬の隙を突きガラは落としていた斬魄刀を拾い、間合いを離した。
ガラは考える。
(腕が取られちまったがどうせまた生えてくる。しかし解ってきたぜぇ。やべぇのはあの「スタンド」っつーヤツだ。特に「拳」には絶対に触れちゃいけねー。ジッパーみてぇのでオレの右腕のように切り離されちまう。
狙うのは本体だ。動きでわかったが本体は生身の人間と大差ねぇ。)
「どーやらマジで殺りあう事になりそーだな!」
ガラは愛用の鎧(飛龍)を脱ぎ捨てた。
「なるほど、わが能力の前には鎧など無力と悟ったか・・・。接近戦は望むところだ。」
斬魄刀を左手に持ち替え、構え直すガラ。
スタンドを出すブチャラティ。
「スタンドの右腕は復活しねぇみてぇだなー。お互い利き腕を無くしたってことで、もう手加減はしねぇぜー!」
「手加減していただと・・・?強がりを言うな・・・」
張り詰める空気。
「アリアリアリアリアリアリアリアリィィィ!!」
「うおおおりや――――ーーーーーーーーー!!(いやアリアリはねぇだろ・・)」
- 313 :ブチャラティVSガラ前編4/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 20:02:13 ID:u3fuXo9J0
- 一そのころー
「おい友情マン!何だあのでけぇ音は」
「すごい音だった。ガラ君が何者かと戦っているのか・・・」
「なんかスゲーヤな予感がするぜ!オレは行くからな」
「ちょっと待て桑原君。あ〜いっちゃった。・・・僕は少し遅れて行こう。(あの単純バカ)」
「ばっ、ばかな。ステッィキーフィンガーズの攻撃が当たらない!?」
「へっへー、なかなかのスピードだが、もう見切ったぜぇ」
「こいつッ、強い!!!」
ステッィキーフィンガーズの攻撃を全て紙一重でかわすガラ。
一方ブチャラティはなんとか致命傷は避けているものの全身に無数の傷を負っていた。
「ぬんっ」
「ぐはっ」
ガラの膝蹴りが、もろにはみぞおちに入り、ブチャラティは吹っ飛んだ。
「くっ、ステッィキーフィンガーズ!!」
「おっ、ま〜た地面にもぐったかぁ〜」
地中を移動しながらブチャラティは焦っていた。
(まっ、まずい、ガラという男、利き腕を失いながらこれ程までの強さとは。
勝てない、例え両手が無事だったとしても!
ここは一旦土中に潜み・・・・)
「そっこだぁ〜。魔神(人)剣!!」
(ハッタリだ!地上から地面の中が見えるわけが無い!!)
- 314 :ブチャラティVSガラ前編5/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 20:03:10 ID:u3fuXo9J0
- しかし、魔神(人)剣の衝撃波は地面をえぐりながら正確にブチャラティの隠れる方向へ・・・
「なっなにいいいいい」
ドッゴーーーーン
「ぐっはぁぁ、ば、ばかな・・・」
・・・ぐぅぅ・・・!動くか体・・・?
・・・わき腹が裂けている、左足と右肩も重症だ・・・
・・・しかし、まだ動く・・・!、何とか致命傷は免れたのか・・
・・・まともに命中したのに、まだ動けるのは、土中だから威力が弱まったのか。
・・・しかも片手で、利き腕ではなかったから・・・
「隠れても気配でわかるぜぇ。まだ死んじゃいねぇよな。出てきなよ」
(気配か・・・もはや隠れる意味も無い・・・)
やむをえず地上に姿を現すブチャラティ。
(・・・・・この男、純粋に強い。小細工がまったく通用しない・・・)
「大分きつそぉだな。観念するかぁ〜、ってそんな目つきじゃねぇな」
(・・・もう・・・限界が近い・・・こうなったら、不確定要素も大きいが・・・「あれ」を・・・・)
(ま〜だ何かやってきそ〜だな〜、厄介なことになる前に止めを刺すかぁ?よしっ!)
「うおおおお〜〜〜!!こーゆー手負いが一番怖ぇからな〜、一気に決めるぜーっ・・・!
忍法七ツ身分身の術!!!」
「―!!!!」
目の前の光景にブチャラティは自分の目を疑った。
- 315 :ブチャラティVSガラ前編6/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 20:04:58 ID:u3fuXo9J0
- 「バ、バカな・・・!これは一体・・ガラが6人、いや7人か!」
「ははははははは・・・」
突如7人に増えたガラが、あっという間にブチャラティを取り囲んだ。
さらに全員が一糸乱れぬ動きで一斉に斬魄刀を構える。
「しまった!囲まれたッ」
「なかなか面白かったぜブローノ・ブチャラティ。その力に敬意を表し我が奥義によって応えよう、忍者の剣を受けられるか!!?」
「ぶっ、分身の術だと!それに、こ、この感じは先程の「魔神(人)剣」以上の・・・」
「地面に逃げても無駄だぜー、このあたり一面丸ごとかーるく削り取ってやるからよ〜」
大地が震えだした。ガラの体にかつてないほどの力があふれる。
(ほ、本体は一つの筈だ。いや本体がわかっても、おそらく「魔神(人)剣」以上のスピードと威力であろう技を、避け切れるのか?
命中したら間違いなく死ぬッ!地下に逃げても、そこを狙われる!ど、どうする、どうすればいい?)
―その時、さらなる衝撃がブチャラティをおそった―
ガサガサガサッ!
「おーーい、ガラーっ!さっきの音は何だー!!?大丈夫かー」
「しっ、桑原君!声が大きいよ!」
茂みの奥から二つの声。おそらく後1,2分でこちらのほうへ来るのだろう。
「馬鹿なーッ!!ガラには仲間がいたのか!!?」
(最悪の事態だ!追い詰められ、名前も顔も能力も全てばれた。そして新手ッ。最早・・・逃げることも・・・・。)
「あいつら・・・、待ってろって言ったのになぁ」
今にも振り下ろそうとしていた斬魄刀をいったん止め、「七人」のガラは一瞬、声のした方角に注意を向けた。
(・・・晴子、・・・オレは・・・)
- 316 :ブチャラティVSガラ前編7/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/15(火) 20:05:41 ID:u3fuXo9J0
- 【宮城県、道から少し外れた森の中/午前】
【友情マン@ラッキーマン】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、千本ナイフ、光の封札剣、落とし穴)
[道具]:荷物一式、ペドロの荷物一式、食料セット(十数日分、ラーメン類品切れ)、青酸カリ。
[思考]:1.本当は来たくなかったが桑原に引っ張られる形で様子を見に来た。
2.強い者と友達になる。ヨーコ優先。
3.最後の一人になる。
【桑原和馬名@幽遊白書】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1.戦闘音が聞こえたので様子を見に行く。
2.ピッコロを倒す仲間を集める。浦飯と飛影を優先。
3.ゲームを脱出する。
【ガラ@バスタード】
[状態]:右腕がブチャラティに奪われる。ただし再生中。まだまだ余裕。満腹
[装備]:斬魄刀
[道具]:荷物一式(食料一食分消費、水無し)
[思考]:1.ブチャラティとの戦いを楽しみ、勝利する。
2.とりあえず友情マンについて行き、ラッキーマンのラッキーを拝んでみる。
3.脱出と優勝、面白そうな方に乗る。
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ガラの右腕をジッパーで固定した。ただし、スタンドの右腕は復旧不能。
全身に無数の裂傷。さらに左足を引きずり、右肩、わき腹にも深い傷。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]:1 晴子・・・オレは・・・
- 317 :作者の都合により名無しです:2005/11/16(水) 01:05:33 ID:/9dsPf8u0
- >>187-210「旅立ち」、
>>263-281「一つの希望」 は無効です。
- 318 :悪のカリスマ1/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 03:49:01 ID:No+Mhj+I0
- 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあアアアア!!!!!」
公園に響き渡る少女の絶叫。
目の前の光景――黒焦げの死骸に代わった流川楓の姿を目にして、西野つかさは髪を振り乱ししゃがみ込んだ。
この奇怪なゲームに招待されて以来、初めて出会った自分と同じ高校生。
死の恐怖に怯えてばかりの自分とは違って、豪胆で無愛想で、けれど何処かカッコよくて。
『全部夢だと思って二度寝してた』
悪夢の世界で寝呆けていた彼の吐いた、楽観的な台詞。
地獄のようなこの世界の中で、初めて私、心から可笑しくて、笑えたのに――
「いや……、いや、流川君、流川君、ねえ!ねえってば……!」
頬を大量の涙で濡らしながら、最早動くことのない流川の身体を揺すり続けた。
切れ長の瞳も、サラサラの髪の毛も、残酷な炎によって無残に焼き焦がされてしまった――
「ねえ……ねえ……」
掛ける言葉にも、彼女の涙にも、流川楓は応えない。応えることが出来なかった。
- 319 :悪のカリスマ2/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 03:49:59 ID:No+Mhj+I0
- エリザベス・ジョースターは、マァムの負傷箇所を確認し、応急手当を施しながら硬く唇を噛む。
私が居ながら、私を信頼してくれた者の命を守ることが出来なかった。
――甘く、考えていたのか。
波紋使いのエキスパートだから。歴戦の戦士だから。誰よりも長く生きているから。
どれも理由にはならなかった。守るべき青年の命は奪われた。結果だけが、無残にも横たわる。
狂ったように西野が泣き続けている。横たわったマァムの身体は、半ば焦げかけている。
大柄な死体と、一人の青年の姿が重なって見えた。
シーザー・ツェペリ。
自分の弟子の一人であって、単独で敵との戦いに向かった後―― 殺された、青年。
"――何故戦力を分けようなどと思ったのか"
こうなることは可能性は予測できた筈だ。一刻も早く、この場所に辿り着くべきだった。あの時も間に合わなかった。
救えなかった二人目の青年のことを思えば、身体から力が抜けそうになる。不甲斐なさに消し飛ばされそうになる。
歴戦の波紋戦士とは言え、エリザベス・ジョースターも、一人の人間であるから。
然し――
- 320 :悪のカリスマ3/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 03:51:11 ID:No+Mhj+I0
- 「……追わなきゃ」
自分に割り当てられた武器――クリマタクトを握り締めると、西野はゆらりと立ち上がる。
流川楓の仇を、とらなければ。擦れ違いざまに見た黒い殺人鬼の表情を、思い出していた。
――唇の端の吊りあがった、悪魔のような笑み、ウォーズマンスマイル。
当の殺人鬼こそが恐怖と混乱に怯えていたことを、西野が知るよしもない。
彼女の目に焼きついているのは、彼女にとって重要なのは、あの黒い殺人鬼が"笑っていた"ことなのだ。
"――アイツは笑いながら流川君を殺した"
だから、私もアイツを笑いながら、殺害する。焼け焦げた流川の代わりに。
復讐は当然の報いのように、無論許される行為のように、感じられた。彼女は、狂い掛けていた。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺――――
「待ちなさい」
今にも走り出しそうだったところに、暖かな掌が肩に触れるのを感じた。西野は力任せに振り払う。
自分と行動を共にしていた女性の掌だった。振り払われても、静かに立ち尽くし、西野を見据えている。
女の冷静な眼差しが、何処か達観したような眼差しが、酷く不快だった。人が一人死んでいるのに!
- 321 :悪のカリスマ4/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 03:52:39 ID:No+Mhj+I0
- 「うるさいッ!
リサリサさんも、見たでしょう。あの、黒の殺人鬼を。
アイツ、笑ってた!流川君をあんなに……、あんなに無残に殺しておきながら、笑ってた!」
子供のように言葉を吐き棄てるたびに、涙の雫が辺りに飛び散った。
怒ってるの悲しいのか、良く分かりもしなかった。ただ、行き場のない感情をぶつける先が欲しかった。
「もう、耐えられない、私、耐えられないよ……。
如何してあんなに簡単に人を殺せるの。如何してあんなに簡単に人が死んじゃうの。
こんな世界、早く抜け出したい。流川君が言ったとおり、全部夢ならいいのに……
私、もう、……ごめんなさい」
言いたいだけ言って、背を向けて走り出そうとする。殺人鬼を追うために。
もう勝てなくても良かった。
もう生き残れなくても良かった。
もう、死んでしまっても良かった。
希望なんて、初めから用意されていなかったのだ。
- 322 :悪のカリスマ5/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:03:15 ID:No+Mhj+I0
- 「……私達は、生き残らなければなりません」
噛み締めるように吐き出されたリサリサの言葉を耳にして、西野は駆け出そうとした足を、止める。
腫れた目で振り返れば、リサリサの瞳は、悲しみと――、決意に満ちていた。
「私たちが"生き残ったから"ではありません。
彼が、――、死んでしまった彼が命を張って"遺してくれたもの"が私達だからです」
立ち止まり、目を見開いた西野の掌を、リサリサは優しく包み込んだ。
「私も、マァムも、つかさ―― 貴方も。
遺された者は、渡されたものを未来に引き継がなければならない義務がある」
震える少女の肩を、静かに抱きしめた。殺意のタクトが地面に吸い込まれるように落下する。
「渡されたもの……」
如何すれば良いのか分からなかった。唯、女の胸の中で泣くことしか出来なかった。
震えて、怯えて、悲しんで――、死ぬのだ。怖かった。リサリサのように、強くなれないのだ。
少女の弱さを、リサリサも理解していた。だからこそ、自分は強くあらねばならぬと思った。
涙を見せるわけにはいかぬ。あの時と、シーザーが死んだときと、同じように。
抱いた少女の身体を離し、其の整った瞳を覗き込む
「貴方は貴方の命を粗末にしないこと。
彼の意思を、――、楓の意思を、高潔な魂を。私達は引き継がなければならないのですから」
リサリサの瞳は、優しく輝いて。
其れは、西野が流川の瞳の中に見たものに、似ていた。
- 323 :悪のカリスマ6/9 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:04:43 ID:No+Mhj+I0
- (殺すつもりはなかった……本当に、オレは……!)
懺悔を繰り返しながら、ウォーズマンは走り続けた。知らぬ間に、山道に紛れ込んでいる。
乱雑に生い茂った草を力任せに千切り飛ばし、時には転びそうになりながらも、走り続けた。
瞳に焼きついた黒焦げの死骸。耳に木霊する少女の絶叫。振り払うことは出来なかった。
――オレガコロシタ
何が正義超人だ。何がファイティングコンピューターだ。何が
――オレハ昔トナニモ変ワッチャアイナイ
視覚を司るカメラの前に、ジラジラとノイズが走った。既に消去した筈の映像が再生される。
血飛沫。
"昔のオレハどんなダッタ?"
鋭利な鋼の爪先。凶器ベアクロー。ノイズ。脳味噌を一突き。深くねじ込んで、抉り取る。
――ザンギャクチョウジン
ノイズ。ジラジラとした砂嵐の向こうに忘れていた過去。残虐超人。再起不能。一撃必殺。
「ウア……… チガウ、チガウ、オレはセイギ……
ウアアアアアアアアアア!」
叫び声を挙げながら、機人は走り続けた。逃げるように、耐え難い何かから逃げ出すように。
山道を、抜ける。獣のように、駆ける。
- 324 :悪のカリスマ7/8 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:06:29 ID:No+Mhj+I0
- やがて叫ぶのも忘れた頃、ひっそりと佇む小屋を見つけた。長野の山奥。隠れるような山小屋。
(疲れた……頭もはっきりしない……ガー……
休養を取る必要がある……落ち着けば……キン肉マンに会えば……)
全力で喚きながら駆け回ったせいだろうか、何もかもが曖昧なノイズの向こう側の出来事のように思えた。
自分が無抵抗な誰かを殺してしまったことも。自分が凶悪な相手と戦ってきたことも。
キン肉マンに会えば。キン肉マンに、会えさえすれば。
何度か、呟くように繰り返した。唯一の希望。
血の雨を好む残虐超人だったオレが変われたのも、あの間抜け面の超人のおかげだった。
オレは、若しかしたら故障してしまったのかもしれない。首筋に、傷を受けて以来、オレはおかしくなってしまった。
けれど、キン肉マンに会えば。アイツなら……、アイツなら、何とかしてくれる。
あの男のことを思い出すと、力が沸いてくるのを感じた。アイツに、会わなければ。
何度も何度も呟きながら、辿り着いた小屋の扉を――、開いた。
ギィ、小屋の入り口に日の光が差した。全て、閉じられた窓。中は、暗かった。
何時の間にか高く昇った太陽は、空の真上に近く、小屋の奥には光が差し込まぬ。
――コレイジョウサキニ、ススムベキデハナイ
頭脳に埋め込まれたコンピュータが幾度も警告を発する。"何かが居る"。暗闇の中に。
構うものか、と勇気を振り絞る。どうせ何処に逃げても、逃げ場所などないのだ。
油断なく燃焼砲を構え――出来れば頼りたくはなかったけれど――踏み込んだ。
(さあ、来るなら来い!オレはファイティングコンピューター!ウォーズマンだ!)
- 325 :悪のカリスマ8/8 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:07:06 ID:No+Mhj+I0
- 『―― やあ。待っていたよ。』
透き通るような声で、ココロに、踏み込んでくる。
『―― 朝方の機械の男だろうか?
その節は悪いことをしたね。また会いたいと思っていた』
揺れる椅子に、魔性の美を称えた男が、座っていた。優雅に。絵画のように。
恐怖が、押さえつけた筈の恐怖が、ココロの底から、湧き上がってくる。
『―― 何を、震えているのだい? 怖がることは何もないじゃないか
名前を聞こうじゃないか、人と人との出会いには、必要なものだからね。
私は――』
凶悪な火炎放射機を突きつけられて。
人を殺すために生まれてきたような、凶悪なロボ超人を前にして。
微塵も臆すことなく、それどころか、男は優しげに、ウォーズマンに笑い掛けたのだ。
『――DIO』
バタン。
扉の閉まる音が響き渡った。
- 326 :悪のカリスマ ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:24:34 ID:No+Mhj+I0
- 【愛知県、春日井にある小さな公園/午前】
【マァム@ダイの大冒険】
[状態]:全身各所に火傷・気絶・応急処置した
[装備]アバンのしるし@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:気絶中
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(ダイ・ポップを優先)
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式・流川楓の支給品と荷物(未確認)
[思考]1:マァムの回復を待つ
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]:ショック状態
:移動による疲労
[装備]天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[道具]荷物一式
[思考]1:ショック状態
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(真中・東城・北大路を優先)
- 327 :悪のカリスマ ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 04:35:54 ID:No+Mhj+I0
- 【愛知県と長野県の境(山中の廃屋)/朝】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に貫通傷(出血は止まっている)
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)
[道具]:荷物一式(食料(果物)を少し消費)、
[思考]:1、日が暮れるまで廃屋で身を隠す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
3、悪のカリスマ。ウォーズマンと会話する。
[備考]:廃屋の周囲の血痕は消してあります。
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]疲労・精神不安定
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ワンピース
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]流川殺害への後悔/DIOに対する恐怖
- 328 :最強の厚着 6/6修正 ◆lEaRyM8GWs :2005/11/16(水) 04:36:59 ID:k+E9dg0x0
- >>297
『最強の厚着 6/6』の時間を『日中→正午(放送)直前』に修正。
- 329 :悪のカリスマ 状態修正 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/16(水) 17:36:09 ID:O9GdZbPe0
- >>327 悪のカリスマの修正
時間を朝⇒昼に。
【愛知県と長野県の境(山中の廃屋)/昼】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に貫通傷(出血は止まっている)
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)
[道具]:荷物一式(食料(果物)を少し消費)、
[思考]:1、日が暮れるまで廃屋で身を隠す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
3、悪のカリスマ。ウォーズマンと会話する。
[備考]:廃屋の周囲の血痕は消してあります。
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]疲労・精神不安定
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ワンピース
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]流川殺害への後悔/DIOに対する恐怖
- 330 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:10:40 ID:hqIRzpGc0
- 「――ふむ、では貴様が来た方角にはもう人がいないのだな」
「ケケケ、何人殺したかは覚えてねぇがな。餓鬼を一人逃がしちまったが、それも大方死んじまっただろうしよ」
どかっと腰を下ろし、胡座をかいた上に肘をつきながらフレーザードの話に耳を傾ける大魔王――ピッコロ。
つまり、この地点で北から来た奴をもう探さなくても良いと言うことだ。
優勝するためには皆殺ししながら南下すれば良いだけの事。
解りやすい分下手に真ん中配置されるよりは幸運といえた。
尤も、その近くに配置された者としてはたまったモノでなかった訳であるが。
「で、テメェは何を支給されたんだ?」
次は自分の質問の番だとばかりにピッコロに喋りかける。
「支給……そう言えば最初にそんな事も言っておったな。無論、この儂にはその様な小道具等不必要であるが」
「なに、そう馬鹿にしたもんじゃないぜ。忌々しい制限もあるし運が悪いと虫螻如き相手にこれだ」
そう言ってフレイザードは自分を指し示した。
北海道闘ってきた相手は決して強い相手ではなかった。
召喚されたモンスターも普通ならば負けない相手だ。
しかし支給品を理解し其れを応用することで通常での効果の二倍、三倍に威力を引き出せる事を高い授業料だったが教わった。
体力、攻撃力そして防御力までもがぐっと制限され、虫螻呼ばわりしていた人間との差も忌々しい事ながら縮まっている。
つまりはそれだけ支給品が影響するファクターが占めているのであり、重要性も増してくるという事だ。
無論フレイザードの中の本音としては、隙あらば襲いかかる時の不安要素を一つでも減らしたかったのであるが。
- 331 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:11:22 ID:hqIRzpGc0
- 「――――」
確かに目の前の怪物の言うことも一笑に出来ない。
先程戦った男も金色の鎧を装備したとたんに腕力などが上がっていた。
それでも雑魚には変わりないのだが、それが多人数を一遍に相手するとなったら苦戦を強いられるだろう。
そしてなにより、自身が長年の間その小道具に封印されていた苦い記憶がある。
電子ジャーと魔封波――その両者が揃えばまた自分自身が封印される可能性も出てくる。
クリリンと孫悟空という魔封波を知っている者がいる限り可能性が零では無いわけだ。
噛みしめた奥歯と握りしめた手のひらから青い血がつつと流れ落ちる。
「確かに小道具であろうが馬鹿にはできんかったな」
そう言って今の今まで仕舞っていたカプセルを初めて取り出した。
ピッコロがカプセルを投げると、ぼんっと音と共に木の実らしき物が入った瓶が出てきた。
「ケッ、武器じゃねぇのかよ」
毒づきながらフレイザードが一緒に落ちていた説明書の方を氷の手で掴む。
「前世の実、トキタダレの実の果汁を飲むと少しの間若返ることが出来る……だとよ」
「儂は今が強さの絶頂期、無用の代物だったか」
ピッコロの言葉を耳に入れつつフレイザードが人差し指と親指で瓶の口をつまみ持ち上げる。
「此奴にそんな効果があるとはな。欲しい奴はとことん欲しがるぜ」
「――確かにな、また老いたその時に……うっ!」
口を押さえながらピッコロが立ち上がりフレイザードを睨み付ける。
「き、貴様……何をした?」
「ケケケ、飲みたいなら俺が飲ませてやろうと気を遣ったのによ」
そう言いつつ間合いを取るためにピッコロから離れる。
「此奴は俺の支給品、宝貝『霧露乾坤網』だ。使い方は……まぁ今見せた通りだ」
フレイザードの直ぐ横には水の塊が宙に浮かんでいた。
そしてその手には蓋を開けた前世の実の瓶が握られている。
つまりは、そう言うことなのだろう。
「貴様……良い条件を目の前にぶら下げれば喰い付いてくるかと思いきや、力関係も理解できないような犬だったとはな」
怒りと、次なる戦いへの喜びで身体が震え出す。
「この、大魔王も嘗められたもんだ。よかろう、頭で理解できないのなら身体で教えてやる」
- 332 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:11:52 ID:hqIRzpGc0
- 「ちっ、話が違ぇじゃねぇか」
そう毒づき、自分の意志とは無関係に目の前の脅威から一歩、また一歩と後ろずさる。
声と表情は平然を装ってはいるものの内心は非常に穏やかではなかった。
本当ならば前世の実を飲ませ、弱体化したピッコロを襲うはずだったのだ。
正直今の自分では体力が全回復していたとしてもピッコロ相手では五分の戦いに縺れ込むだろう。
今までの相手とは格からして何もかも違う。
一緒に行動すれば体力は回復するかも知れない――が、休んでいる間にピッコロが強い武器を手に入れる可能性も多分に出てくる。
そうなるとかなり厄介ではある。
何も策が無いのなら従ったフリをしていても良かったのだが、そこに降って湧いたチャンスが此だった。
ピッコロ自身が今が絶頂期と口にしたのをはっきりと耳にした。
つまりは昔に戻れば戻るほど弱り、勝てる確率が反比例してぐんと増える。
水を操る霧露乾坤網もばれていない今なら奇襲が通じる上に液体の前世の実との相性は抜群だ。
そして何より前世の実の瓶が自分の手の内にあるのは今しかない。
だが、その結果がこの通りだ。
外しても良いように飲ませようと球にして飛ばした液体の量が少なかったからなのか、何か起きる気配すら全くない。
目の前の魔王に勝てるならば体力回復のチャンスを捨てても良いとも思ったのだが、それがとんだ裏目に出た。
もう十分な間合いは取っている筈なのにフレイザード足は震えていた。
其れは決して武者震いではなく、純粋なる恐怖からである。
将軍と魔王の激突に呼応するかの如く大地も震えている様にも見えた。
- 333 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:12:17 ID:hqIRzpGc0
- 距離を取るフレイザードに大地を蹴りすかさず魔王が肉薄する。
フレイザードはそのまま繰り出される岩をも抉るかのような手刀を紙一重でかわした。
だが疲労が激しく大技は愚か、反撃に移ることすら出来ない。
ピッコロも其れを見越して怒りのまま一撃必殺の大振り攻撃を仕掛けてきているのだろう。
だが、それはフレイザードにとって幸運でもあった。
避けることに集中していれば何とかかわす事の出来る攻撃だ。
「ふはははは、怯えて手も足も出ないか!所詮はこの程度よ!!」
笑いながらその場でショットガンのような拳を連射する。
多少のダメージなら核鉄で回復できる。
威力の低い牽制は敢えて喰らい、その後に来る大技を集中して避ける。
「流石に虫螻とは違いしぶといな。身体も温まった事だ、そろそろ本気で行くぞ」
魔王が左手を使わず右手だけで先程と同じ威力のパンチを繰り出してくる。
「ケッ、流石自称大魔王を名乗るだけある」
咄嗟に取り出した火竜ヒョウで消えかけた左半身の炎を強化して迎え撃つ。
しかしフレイザードは焦っていた。
体力が無いから持久戦に持ち込まれれば負けるという事もある。
が、それ以上にピッコロの左手に集中するエネルギーと怪しげな輝きが気になっていた。
- 334 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:15:45 ID:hqIRzpGc0
- ――冗談じゃねぇ。こんな所で殺される位なら一か八か死ぬ覚悟で弾岩爆花散に賭るぜ。
だがピッコロの怒濤の攻撃の前ではその技を使用する一瞬の隙も無い。
そうやってタイミングを計っている間にもピッコロの左手に集まる光は大きくなっていく。
片手での爆力魔波。
威力は街を破壊した両手時より数段落ちるが、制限下の元其れでいて尚直撃すれば自分が核ごと消滅する威力はフレイザードも本能で察知していた。
使うなら相手がそのエネルギーを解放する前しかない。
そう決心したその時、ふと拳の嵐が止んだ事に気が付いた。
「な、何がっ!!」
そう叫びつつ、空へと逃げるピッコロ大魔王。
よくは解らないがなにやら戸惑っている事だけは察しが付く。
左手に集まっていた光も今では霧散し、体格が一回り小さくなっていた。
「――今頃あの液体が効き始めたのか。此奴はついてるぜ」
今がチャンスと左手に持っていた火竜ヒョウを投げ付ける。
「く、糞っ!!」
ピッコロがフレイザードの行動に気が付き、慌てて回避行動を取ろうとする。
「へっ、やっぱり勝つのは俺様なんだよ!!」
おまけとばかりになけなしの魔力で渾身のメラゾーマを火竜ヒョウ目がけてぶっ放す。
回転しながら飛んでいく火竜ヒョウより直線で進むメラゾーマの方が速度的に速い。
ピッコロが叩き落とそうとする直前に火竜ヒョウに当たったメラゾーマが唯でさえ読むのが難しい火竜ヒョウの軌道を更に変更させた。
更に速度、火力と共にメラゾーマで跳ね上がった火竜ヒョウがピッコロを襲う。
これ以上と無い必殺のタイミング。
避けるのも、軌道を読み叩き落とすのも無理と悟ったピッコロ大魔王はすかさず防御姿勢に入った。
直後に起こる大爆発。
「ざまぁみろってんだ」
巻き起こる煙を見上げフレイザードは勝利を確信した。
- 335 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:16:44 ID:hqIRzpGc0
- 「ふ……ふはははは!やってくれるではないか!」
しかし戦闘姿勢を解除しようとしたその瞬間、煙の中から最悪の笑い声がその場一帯に木霊した。
「ば、馬鹿な!直撃だぜ……」
もう魔力も体力も使い果たしたフレーザードは狼狽えるしかなかった。
全ての手は尽き、最高の一撃も大したダメージは与えられていない。
唯一カードが1枚残っていたが、バッグから取り出し使用する隙が何処にあろうか?
「この大魔王に火傷を負わせたこと誇りに思うが良い」
煙の中から手が伸びてきてフレイザードが抱えていた前世の実の瓶を奪い取る。
「此奴は大したアイテムだ……」
煙から現れたのは両腕に軽い火傷をしただけで瓶を眺めているピッコロ大魔王。
ぱっと見外見は変わってはいない。
だがその身体から放たれる威圧感は出会った時と比べものにならない迄に増大していた。
其の威圧感を前に金縛りにあっていたフレイザードにもう片方の腕が襲いかかった。
「ぐっ……」
気が付いたときにはもう遅く、首を絞められたままフレイザードの巨体は宙に浮いていた。
「ククククク、見事だ。以前の数倍も力が湧き溢れる」
其処にいたのは神と分裂する前のナメック星の天才と呼ばれた戦士そのものであった。
「しかし、この肉体でいられるのが少しの間とは口惜しい。神龍もこの肉体まで若返らせてくれれば良かったものを」
空中からすとんと着地して前世の実の瓶を地面に置いた。
そしてもう空いた手を伸ばしフレイサードの顔の前で手のひらを広げる。
「さて、このまま貴様を一撃で吹き飛ばしてやろう。この距離だとろくな攻撃も出来は出来やしまい」
確かにこの距離だと制限されている弾岩爆花散では大してダメージを与えられずに終わるだろう。
勿論そんな事をする魔力ももう無い訳だが。
- 336 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:18:14 ID:hqIRzpGc0
- 「――だが、この力を発見した貴様にもう一度チャンスをやろう」
最早此までと半ば諦めかけていた時にその言葉が耳に入った。
首を絞めていた手を開き、掴まれていたフレイザードはそのまま重力に引かれ腰から落ちる。
「なに、此で馬鹿な犬だろうと立場をわきまえるだろうよ」
「クソが……」
悪態を付くフレイザードと、其れを気にもかけないピッコロ大魔王。
「但し二度目はない。其れだけは心に止めておく事だな」
フレイザードはこの世界で最要注意人物が誰か改めて思い知った。
最後の10人迄待つ必要なんて何処にもない。
隙あらば殺す――否、優先的にでもまず目の前の障害を排除しなくてはいけない。
「先程飲んだ量から考えて、飲めて後3、4回か……」
瓶を拾い、落ちていた蓋を閉めカプセルに再び仕舞う。
カプセルに仕舞われては近づいて破壊も霧露乾坤網で操作も出来はしない。
ならば3、4回使った後、もうあの化け物に変身出来なくなった時迄体力を温存して……
「ククク、言い忘れたが貴様が死ぬまではこの水は残しておく。貴様の命の為にも変な事は考えない様にな」
笑いながら一人先へと進んで行く。
取り残されたのはフレイザードと落ちていた火竜ヒョウ。
武器を残して行ったのは余裕の現れか?
体力がないので逃げる訳にもいかない。
全てはあの大魔王の手の上という事らしい。
希望は全て断ち切られた。
ならば新たな希望が現れるまで傍に付いて体力回復に専念するのが無難か……
何度目かになる悪態を飲み込み、フレイザードは立ち上がった。
今はまだ耐える時だと自分に言い聞かせながら。
- 337 :激震の大地、大魔王新生:2005/11/16(水) 18:19:17 ID:hqIRzpGc0
- 大地を闊歩する大魔王は宿敵、孫悟空を思い浮かべる。
だが今のピッコロ大魔王が悟空の知る其れではないのと同じく、ピッコロが知る悟空は過去の悟空。
あれから成長した悟空もまた此処に来てピッコロと同じく忘却の彼方にあった過去の自分を取り戻していた。
尤もピッコロの場合は記憶ではなく肉体、悟空の場合は肉体ではなく本能であったが。
斯くして、東北の地に新たなる大魔王が新生した。
名を忘れたナメック星人ではなく、恐怖のピッコロ大魔王として。
【青森県北部/午前】
【ピッコロ@ドラゴンボール】
[状態]:両腕に軽度の火傷
[装備]:なし
[道具]:荷物一式 前世の実@幽遊白書
[思考]:1.フレイザードを利用してゲームに乗る。とりあえず南下。
2.残り人数が10人以下になったら同盟解除。バッファローマン、悟空を優先。
3.最終的に主催者を殺す。(フレイザードには秘密)
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]:重度の疲労。成長期。傷は核鉄で常時ヒーリング。
[装備]:霧露乾坤網@封神演義 火竜ヒョウ@封神演義 核鉄LXI@武装錬金
[道具]:支給品一式 ・遊戯王カード1枚(詳細は不明)@遊戯王
[思考]:1.体力をまず回復させる。
2.回復次第チャンスを見つけピッコロを殺す。
3.残り人数が10人以下になったら同盟解除。ダイ、ポップ、マァム、武藤遊戯を優先。
4.優勝してバーン様から勝利の栄光を。
- 338 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:47:24 ID:izDX+pSG0
- ガサガサガサガサガサガサガサ
ん?なにか変な音がする…
そう竜吉公主は思い、周りを見渡してみると…そこには太公望は地面を這いずり回っている姿があった。
「太公望…おぬしなにをやっておるのじゃ?」
「なぁ〜に、ちょっと調べることがあるのでな」
そういわれると公主は何も言えない。この男はよく奇行に走りがちだが、その行為には必ず意味があった。
恐らく今の行動にも意味があるのだろう。私には理解しがたいが。
「ねえ…公主さん、あの人ってどんな人なの?」
隣でその奇行を一緒に眺めていたダイがふと問う。
思えばダイはこの太公望という男の人となりを知らない。そんな子供が太公望を見れば
多少なりとも不信感を持つかもしれない。たとえ私の仲間といえども。
「そうじゃな…あの男は普段はあんなお茶らけておるが、いざとなればその知能を用いて
どんな局面も切り抜けてしまう、頼りになる男じゃよ」
私は実際、太公望の戦いを見たことはない。しかし、あやつを知る者は皆口をそろえて言う。
あいつは大した男、だと。そして、口にすることこそ無いが、皆同じ気持ちを抱いているだろう。
太公望に対して言い知れぬ安心感と信頼を。
かつて太公望の師、二つある仙人界の一つの崑崙山の主、元始天尊はあの男についてこう語った。
天才でも最強でもなくていい…部下をまとめ民を憐れみ…この人の力になりたいと皆に思わせる資質、
それを持つ男が太公望である、と。
「(まぁ…それは太公望と一緒にいるにつれ、自然と理解できるじゃろう)」
竜吉公主が太公望の人となりについて説明していると、当の太公望は地面を這いずり回るのをやめたかと思えば
今度はバードウォッチングをしている始末。う〜む、この奇行までは説明できん…と頭を悩ます公主。
「俺、あの人ことまだよくわからないけど…なにか重いものを背負っているように見えるんだ」
ダイは太公望のことをあまり知らない。が、そのお茶らけた行動をとる彼の瞳の奥に埋まっている強い決意みたいな
ものを感じ取っていた。ダイ自身、竜の騎士として、勇者として使命を負っているからこそ、それに感づいたのかもしれない。
- 339 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:48:14 ID:izDX+pSG0
- 「…確かにあやつは人間界、殷に巣食う仙道どもを滅する封神計画に抜擢され、そのために日々奮闘しておった」
更に公主は言う。あやつが抜擢されたのは決められた運命みたいなものじゃと。
ダイはどうして?と問う。
「あの男は仙人界に来る前…殷という王朝の周りに暮らす遊牧民の一族の村で平和に暮らしていたのじゃが・・・
ある日、時の皇帝が死に、その死後の付き人として太公望の村の人間が生きたまま埋められたのじゃ。
…親兄弟皆殺され、助かったのは太公望だけと聞く。運良く離れていたおかげらしいが…」
太公望を見ないようにしているのだろうか、公主は目を伏せながら語る。
それを聞き、ダイは驚きを隠せない。ダイは異世界の慣習については当然の如く全くの無知であるが、
今公主が語ったことは許されるべきことではないということだけは分かっているようだ。
その顔は怒りに震えている。
「通常、死後の付き人、殉死というのは数人なのじゃが…皇后であったダッキの、派手なことが好き、という
無責任な発言のために数百人規模の人狩り…異民族であったあやつの一族が狙われたのじゃ。
…それが太公望という男のスタートだったのじゃよ」
「それじゃ・・・そのダッキというに復讐するために?」
公主は首を横に振る。そして今まで閉じていた瞳を開き、優しき瞳でダイを見つめた。
「あやつはな…復讐に走らず、人間界の平和のために封神計画の任を担っているのじゃよ」
公主は語る。太公望が人狩りにあった自分の村に帰ったとき、一人だけ瀕死の老人がいたこと。
そしてその老人は憎しみに身を焦がす太公望を見てこういったそうだ。
「復讐したいですか?おやめなさい、やるだけ無駄なこと。
世の中全体がこうなのです・・・それを変えない限り、幸福は訪れない」
…と。
「わしがあやつの師、元始天尊から聞いた話はここまでじゃ。
…太公望は憎しみの源を断つために封神計画を引き受けたのじゃよ。
憎しみに囚われず、ただひたすら人間界の平和のために戦っている・・・そんな男じゃよあやつは」
ダイはようやく理解する。彼の瞳に宿る決意の原動力はなんたるかを。それは…他者への深い思いやりの心。
なんのことはない、太公望は俺の知る人たちと何も変わらないいんだ。
アバン先生やポップ、マァム、レオナ、ヒュンケル、クロコダイル、皆と一緒じゃないか。
そう考えると急に太公望に対して親しみを感じられる。
太公望の人となりを理解し、彼に対して親しみを覚えたダイはどこか嬉しそうな顔をしていた。
- 340 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:48:59 ID:izDX+pSG0
- 公主の話が終わるとダイはおもむろに立ち上がり、バードウォッチングをしている太公望に駆け寄り
まるでじゃれ付くように太公望に話しかける。
「ねえ太公望、俺にも手伝わせてよ!」
太公望はその幼さに天祥の面影を感じた。ダイに少しの懐かしさを感じながら
結局はいつものいい加減な風船のような顔になり、え〜い、あっちに行け!とダイに言う。
しかしダイは満面の笑みを浮かべながら太公望のそばを離れない。
「(…フ、素直な子じゃ)」
それを見た公主は思わず微笑む。その眼差しはまるで年の離れた弟を見守るような眼差しである。
だが、その微笑もすぐに曇る。ダイにまだ伝えていないことがあったためだ。
太公望の悲劇はそれだけでは上の述べたことだけに終わらない。
ダッキを倒すために殷の王都朝歌に潜入したが失敗、その際行われた太公望に対する嫌がらせ。
…太公望の一族の大量処刑。
そして…昨今終結した、二つの仙人界、崑崙と金ゴウの仙界大戦。
この大戦で多くの命を失った。多くの友も。
それでも太公望は走り続けているのだ。仙道のおらぬ安全な人間界をつくるために。
それはきっとこの世界でも一緒だろう。あの男はいつも人間のために奔走している。
ならばここに留ませてはいけない。あやつのためにも、今、恐怖に怯えている者達のためにも。
「太公望」
「?どうした公主?」
公主の突然の問いにきょとんした顔で振り向く太公望。
「太公望、私のことはもういい。行くがよい」
思いもよらぬ公主の言葉に思わず顔を強張らせる太公望。
隣にいたダイも公主の真意を掴めずただただ両者の顔を見回す。
「何をいう、公主、わしは…」
「おぬしの目的はなんじゃ? 私を守ることではないはず。
…一人でも多くの人間とともにこのゲームから脱出することであろう?」
- 341 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:49:51 ID:izDX+pSG0
- 本音を言うと、太公望と別れるのは辛い。だが、あやつがしたいことを出来ない様を見るのはもっと辛い。
私は足手まといにはなりたくない、と言いながらいつの間にか、足手まといになっているではないか。
太公望の優しさに私の弱さがつけ込んだ結果がこれだ…。ならば私自ら呪縛を解いてやられば。
「太公望、おぬしならもうこの世界についてなんらかの見当はついておるのじゃろう?
ならばおぬしは行動を起こすべきじゃ。ここで貴重な時間を浪費するよりはな」
太公望は公主の一連の訴えにデジャブを感じていた。これに似た状況がこの間あったような……
思い出した、確かあれは仙界大戦のとき、楊ゼンが捕らえられたときと酷似している。
あのときのわしは、楊ゼンのことで頭が一杯になり、判断を誤ったりして失敗ばかりしていた。
その様を見て今は亡き友、普賢真人は言った。自分に求められているものは何かを考えろ、と
そして今、似たようなことを公主にも言われた。
…成長しておらんな、わしも。全く、もう少しのところで同じことを繰り返すところだったわい。
感謝するぞ…公主、そして普賢よ。
「…けけけ、よくぞ言ってくれた公主よ」
いつのまにか、先程まで曇っていた太公望の顔が一気に晴れ、もはや悩みなど全て吹っ飛んだような顔つきになっていた。
その曇りの無い太公望の顔を見て公主も微笑を漏らす。
「ダイよ、こっちに来るがよい、これからの段取りについて説明するぞ」
公主と太公望の話を不安そうにただただ見つめていたダイもその様を見て、どうやら問題は解決したのだと
分かり、自分のことが如く喜びの感情を露わにし、駆け足でこっちにやってきた。
「して、太公望よ、これからどうする?」
「まぁまぁ、そう急くな。それよりまずこの世界のことについて意見を述べさせてもらおうか」
太公望はそういうと二人を木の根に座らせ、自身は立ち上がって枝を拾い、教鞭のように振り回して説明を始めた。
その様はまるで学校の教師のようである。
「ダイよ、おぬしこの世界にきてから何か体に変な違和感を感じはしないか?」
「違和感というか…力が思うように出ない感じはするけど…」
カキカキカキカキ…
太公望は今の要約を地面に書き、新たに質問を投げかける。
- 342 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:50:14 ID:izDX+pSG0
- 「では次に、この地に降り立ってから、何か違和感は?」
「特には無いけど…強いて言うなら人がいなくて寂しい感じだね」
「寂しいのは人がいないからか?」
え?と思わず口に出してしまうダイ。太公望に指摘されて改めて考えてみるが答えが見つからない。
公主のほうを振り向いてみるが、公主も答えが分からないようである。
「わしはここに来る前、山に入ったことがあったのだが…この世界には明らかに生物が少ない。
いや、少ないというよりアンバランスなのじゃよ。まるで生態系の一部をごっそり抜き去ってきたような感じだ。
ここに来てからも鳥を観察していたのだが、数種類しか見当たらなかった」
そう、太公望はここに来る前、岡山で富樫と食料調達のために山に篭っていたのだが、食料となる動物は余りいなかった、
と同時に、特殊な液体を調合するために蛇を探していた。が、どこを探しても2種類しか見つからなかったのである。
蛇だけではない、様々な動植物を調べた結果、その種類とバランスがおかしいことに気付いたのだ。
そして、ここにきてからもバードウォッチングと地面を這いずりながら調べていたが
結果は岡山の山中と同じ、アンバランスな構成だった。
「更に、おかしいは生物の構成比率だけではない。この土地もおかしいのだ」
太公望は先程言ったことの要約を地面に記しながら続けざまに言う。
ダイと公主はひたすら呆気に取られて話を聞くだけであった。
「ここを少し登ったところにダムがあるのは知っておろう。地表にダムが出来るほどの
水が溢れでているのならそのダムのすぐ近くに地下水脈があっていいもの。
…それすらなかったのじゃよ。しばらく地面を這いずりまわって探していたのだが。
ダム近辺に限らず山の周りには必ずと言っていいほど地下に隠された水脈はあるのものだ。
それが無いということは実に奇妙なことと言ってもいい」
ダイは開いた口が塞がらない。その情報量にも呆気にとられたが、なにより太公望の
その頭脳に驚かされた。如何に竜吉公主から頭がいいと聞かされていたとはいえ、まさかここまでとは思いも寄らなかったようだ。
そんなダイを見て竜吉公主はまるで自分のことのように誇らしげに感じる。
と同時に今まで漠然としたものであった、そう、脱出という希望が、より現実味を帯びてきたような気もしていた。
それはダイも同じようだった。
- 343 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:51:45 ID:izDX+pSG0
- 「そして最後に…公主、おぬし青雲剣を使ったときに、どうじゃった?」
「そうじゃな…ダイと同じように力の制限みたいなものを感じたが…」
「それじゃよ、わしが言いたいのは」
そういうと太公望は立ち上がり、鞄から五光石を持ち出してダイ達から距離を取った。
離れるやいなや、ダイにも立ち上がるように良い、二人は直線上に並んだ。
「太公望おぬし…何をするつもりじゃ?」
公主の疑問も最もである。力が制限されることは自分が言ったのに。
太公望も自身で検証してみるつもりなのだろうか?
「ふっふっふ、見ておれ公主よ。そして、ダイよ、少し痛むが我慢せよ」
「(…俺、一体何をされるんだろう…)」
公主とダイに嫌な予感がよぎる。話の流れからして、太公望がダイを実験台に使おうとしているのは自明の理。
何より太公望の顔が邪悪な顔つきでニヤニヤ笑っている…!
そして二人の嫌な予感を尻目に、太公望が巨人の星よろしく大きく振りかぶり……!
我 が 名 は 愛 と 桃 の 天 使 太 公 望 !
い ざ 参 る !!!
何故か太公望とダイは劇画調の顔になり、完全に竜吉公主は蚊帳の外。
むしろ顔を背けたくなるようなノリである。
そして…遂に太公望の手から五光石が放たれる…!!!
死 ね え ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ !!!
- 344 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:52:31 ID:izDX+pSG0
-
おおっとこれは危険球だァーーー!!!バッターボックスのダイ選手危なァーーーーい!!!
どこからともなく上記のようなナレーションが流れたような気がするが気にしない。
太公望の手から離れた五光石は剛速でダイの頭部を狙い突き進む!
たとえ勇者といえども悪ノリモードの太公望には敵わない…!
ダイは避けようとするが間に合わず、遂に魔球がダイの頭部と衝突した!
お お ぉ お お ぉ お ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ
ダイの劇画調の顔が更に濃くなる。最早原型を留めていない濃さ。ていうか誰だお前。
そしてそのままスローモーションで倒れていくダイ。倒れ方まで濃い。
その様子を見て愛と桃の天使太公望は勝利のポーズをとり、設定上ヒロイン役の竜吉公主は
悲しみの余り少女漫画のように顔を手で覆い隠す。
…それが薄れゆく意識の中、勇者ダイが最後に見た光景であった。
- 345 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:52:58 ID:izDX+pSG0
- 【チーム名=勝手に桃天使】
【太公望@封神演義】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費、支給品不明)
:五光石@封神演義
:あはんの書@ダイの大冒険
:鼻栓
[思考]1:世界総桃化計画を実行する
2:元始のじじいの抹殺
3:桃を食べる
【竜吉公主@封神演義】
[状態]疲労進行中
[装備]青雲剣@封神演義
[道具]無し
[思考]1:少女漫画のヒロインのように泣く
2:世界を豪遊
【ダイ 死亡確認】
- 346 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:55:21 ID:izDX+pSG0
- 「…って、なにするんだよ太公望! 痛いじゃない!」
「すまん、少々ハジけてみた。おぬしらも良いノリであったぞ」
「…二度とさせるでないぞ、太公望」
どうやら普通の状態に戻ったようだ。心なしか太公望の顔が笑顔に見える。
それに対してダイと公主は何故あんな行動をとってしまったのだろうか…という後悔の念に囚われているようだ。
無理も無い。
まぁそんなことはおいといて、太公望はダイを元の位置に座らせると自身も座り、皆の前に五光石を置く。
「…と、まぁものの見事にダイの顔が濃くなったわけだ。公主も見たな?」
「あ、ああ…」
「…恥ずかしいから言わないでよ太公望」
それを聞き、太公望はまたニヤける。その顔を見てダイはまた濃い顔にされるのだと思い、その場から走って逃げようとするが
太公望に足を捕まれる。太公望の顔は先程のにやけた顔ではなく、いつになく真剣である。
その顔を見て、これは只事ではないと察したダイはその場に座る。
「よいか、よく見ておくのだぞ」
そういうと太公望はおもむろに五光石を手にすると、パカっとふたを開ける。
ダイは五光石が不思議な力のある石だと思っていたので、そのからくりに少々驚かされる。
そしてその中身はダイにとって見たこともない金属の塊、いわゆる機械がびっしり詰まっていた。
公主はそのような物だと分かっていたが、それより太公望の行動が理解できなかった。
わざわざ五光石の能力を説明するために中身を見せたのだろうか?
「確かに五光石には必中という能力と、当てた相手を濃くするという能力がある。
ただし、後者は五光石にリミッターがある場合のみだ。
そのリミッターはわしと太乙真人が確かに外し、その後その宝貝からは濃くなるという能力は失われたのだ」
それを聞くと竜吉公主は顔を強張らせる。どうやら事の重大さに気付いたようだ。
ダイは未だそのことの大きさに気付いていないようで、二人の顔をただただ見つめるだけである。
「太公望…つまりそれは有りもしない能力が付加されている…と?」
「うむ、そうじゃ。というよりも、主催者どもが勘違いしたとも考えられる。
……そして今までの話を纏めると以下のようになる」
そういうと太公望は地面に枝で文字を書き始めた。
- 347 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:56:08 ID:izDX+pSG0
- 1 参加者の力の制限
2 動植物のアンバランスな構成比率
3 地理的な矛盾
4 アイテムの力の制限+能力付加
「…となる」
ダイと公主は太公望の走り書きを見て、改めてこの世界の矛盾を認識する。
自分達が分かっていたのは力の制限のみだったが、まさかここまで妙な世界だったとは。
「ダイ、公主よ、おぬしらこの項目から何か見えてこんか?」
「う〜ん、俺にはよく分からないよ…」
「ダイ、難しく考える必要はない。思ったことをいってみるがよい」
「…なんか勝手な設定だなって思う」
その返答を聞くと太公望はポンっと手を叩く。
「それじゃよ。実に勝手な設定じゃ。だが、何故勝手と感じる?
それは都合の良い設定だからだ。…問題は誰にとって都合の良い、かだ」
ダイと公主はごくりと唾を飲む。どうやら太公望が言いたいことを察したようだ。
しばらくの沈黙の後、ダイがその沈黙を破る。
「…バーン達、主催者たちにとって、だね」
太公望は頷き、そして公主のほうを顔を向ける。
「公主、わしはこのような都合の良い世界に心当たりがある」
「…太公望、それは十天君の十絶陣のことじゃな?」
十天君とは崑崙と敵対している金ゴウの幹部たちで、十絶陣という宝貝を使役して戦う。
その宝貝を使うことで思うがままに出来る、自分の場所を作り出す。
ただ、宝貝とはいっても通常の物とは違い、自ら作り出した亜空間自体が宝貝という恐ろしいもの。
そしてなによりその亜空間は使役者にとって都合がいいというものであった。
近づく敵は逆に離れるようになったり、そこにあったものが一瞬で違うものになったり。
- 348 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:58:00 ID:izDX+pSG0
- 「そう、その通りだ公主。その十絶陣と酷似しておる。この世界は。…規模は比較にならんがな」
「つまり太公望、この世界は主催者達が作り出した亜空間だと言うのじゃな。
だとすると、十天君と同じように主催者達もこの世界にいると・・・?」
「…いや、わしはいないと思う。この世界が如何に自分の思い通りにできるとはいえ、この世界にいる限り
自身も少なからずその制約を受けるだろうし、何より参加者がいる中にいるより外にいるほうがより安全だからのう」
沈黙が辺りを支配する。せっかく見えかけた希望がまた深い霧の中に隠れてしまったような気持ちになり、
ダイは複雑な気持ちになり、肩を落として落ち込むが、それを見透かしてか公主がダイを抱き寄せる。
公主の突然の行動に慌てふためき、公主から漂ってくる良い匂いと肌から伝わってくる温かさに触れて赤面するが
この純潔の仙女が持つ静かで穏やかな空気に触れ、次第に心安らかな気持ちになっていた。
「…コホンコホン、それでは話を続けるぞ」
ダイが一通り元気を取り戻したのを見て、太公望はわざとらしく咳をして話を続ける。
このわざとらしさも太公望のやさしさだろう。
「では次に、これからの計画について話そう」
太公望の一言でダイと公主は顔色を変える。ここからの話はこれからの行動の一切を決めるだけではなく
自分達の、いやこのゲームに巻き込まれた人たちの運命さえ決めかねない。
この考えは少々傲慢なのかもしれない。たかが数人に何が出来るのだろうか。しかしやるからにはそれぐらいの
気概が無ければきっと出来るものも出来なくなってしまう。だから傲慢だと言われても構わない。
その決意の重圧から皆の顔が自然と重く、苦しいものになっていった。
「まずダイ、おぬしにこれを渡しておこう」
太公望は鞄からホイホイカプセルを取り出すとボタンを押し軽く投げると、ぼわんと音をたてて煙が舞い上がった。
土埃とともに白い煙が辺りを包み、その煙が消えると太公望の手に4つのトランシーバーがあった。
- 349 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:58:35 ID:izDX+pSG0
- 「それと、これも渡しておこう」
太公望は鞄の中からアバンの書を取り出すと、今度はそれを公主に渡す。
公主は疑問に思う。渡すのなら持ち主であるダイにではないのか?それを何故私に……?
「わし程度ならバギの取得がせいぜいだろうが、公主、崑崙一の力を誇るおぬしならより高度な呪文も取得できるはず。
大丈夫、わしが保障する。といっても何も根拠はないがな。にょほほほほほ」
この男の笑顔を見ると、無条件で信頼してしまう。本人も根拠は無いといっているのに。
相変わらず不思議な男じゃ…太公望…。
「本題に入ろう。これからはこのトランシーバーを使用して組織的行動をとるぞ。ダイ、公主、おぬしらはここに留まりこの四国を死守せよ」
「…私のせいでここを動けないのは分かるが、なぜこの島を死守する必要があるのじゃ?」
「それはな公主よ、これからこの四国を中心に活動し、対主催者達の拠点としてするためじゃよ」
公主は思わず声を上げて驚く。この殺し合いの世界で対主催という考えは常にあったのだが、拠点という考えは全く無かったからだ。
確かに太公望は組織的行動をとると言った。ならば活動の拠点は必要。だが何故この四国なのだろうか?
公主はその問いを太公望にぶつけて、答えを待った。
「わしがいの一番にこの四国を目指したのは複数の理由があったのだ。
一つは組織的行動をとるために早い段階で頭数が必要だったこと。
二つめは悪意を持つ誰かがこの四国やってきて支配する前に、なんとしてでもこの島を安全なものにしておくためだった。
活動の拠点にするのなら安全は絶対条件だからのう」
太公望は一息つくと、話を続ける。
「だからダイ、公主、おぬしらにはこの島を死守して欲しい。この上にあるダムからなら島全体を見渡せるだろうし
目の利くダイとターちゃんがいれば侵入者がいてもすぐに発見できるだろう。幸い、この島は海に囲まれている。
進入路は限られているし、もしわしらのように海を泳いで渡ってきたとしても体力は消耗しているだろうから
迎撃もたやすいであろう」
「…太公望はどうするの?」
「わしはこれから東に向かう。そして仲間を探す予定だ。仲間が見つかり次第こちらに送る。わしがその者達を見極めてからな。
勿論そのときはこのトランシーバーを使ってそのことをおぬしらに伝える。その者たちの特徴を伝えておれば
おぬしらが敵と勘違いして攻撃するのも防げるしのう」
- 350 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:59:01 ID:izDX+pSG0
- ダイは己の拳に自然と力が篭るのを感じる。状況は何も変わっていない。脱出方法も見つかっていない。
しかしこの人の話を何故か心に安心を覚えてしまう。…まるで…アバン先生のようだ。
公主さんが無条件で信頼するこの人、なんとなく理由が分かる気がする…。
「そして、このトランシーバーを使用する際、暗号として動物の言葉を使用するように。
通常の暗号だと解読されるやもしれんからのう。ターちゃんが戻って来次第、各自動物の言葉を彼から学ぶように。
…出来れば今、ターちゃんと打ち合わせをしたかったのだが」
「あの…太公望」
ダイが自信なさげに太公望を呼ぶ。
「どうしたダイよ」
「俺、今までモンスターに囲まれて生きてきたから魔物の言葉は分かるんだ。会話も出来るし。
…もしかしたら動物の言葉も分かるかもしれない」
「…ならば試してみるか。今からいう言葉を訳してみるのだ。
ビーチクバーチクビーチクバーチクビクビクチクチク」
「えっと…お前の母ちゃんでべそ・・・って何言わせるのさ!」
「…太公望、おぬしいつのまに動物の言葉まで話せるようになったのじゃ?」
太公望は仲間に武吉という鳥と会話できる男がいて、その男に教わった、と公主に説明した。
「ではダイよ、次は10分間動物の言葉で会話する。これが出来れば何も問題はないであろう。
そういうと太公望とダイは動物の言葉で会話を始める。公主から見ればビーチクバーチクなんたらかんたらと
訳の分からない言葉で喋るあほがいるようにしか見えない。太公望が相手だとさらにそう見える。
(ここからは太公望とダイは動物の言葉で会話していると脳内翻訳した上で楽しみください)
「ダイよ、これから言うことは通常の言葉で話すことは絶対にならん。いいな?」
「え?」
ダイは困惑する。これはあくまでテストであって、なにか重要なことを話すこともないはず。
なのに会話を始めた途端、これだ。一体何を話すのだろうか。
- 351 :動き出す計画:2005/11/16(水) 22:59:37 ID:izDX+pSG0
- 「わしが初めに説明した、この亜空間のことは覚えているな?」
「うん、確か主催者達に都合のいい世界だって」
「そうじゃ。だが、こんな広大で複雑な設定の亜空間を一人で作れると思うか?」
「…と言うと?」
「わしがここに来る前、星矢という少年と出会った。そのことはもう話したな?そのペガサスの聖衣の持ち主だ。
その少年がわしに言ったのだ、この世界からはハーデスの力が感じられる、と」
ダイは俄かに体が硬直する。ハーデスといえばバーン達と一緒にいた、あの黒衣の男!
ならばこの世界、亜空間を作ったのはあいつなのか?
「だが、星矢はこうも言った。この世界からはハーデス以外の力も感じられる、と」
…ダイは直感する。きっとバーンだ。あの大魔王はきっと禁呪法を用いてこの亜空間を生み出したんだ。
そしてあの得体の知れない、ハーデスと名乗る者と協力してこの世界を作り出したのだと。
「…この際、誰と誰がこの世界を作ったのかは重要ではない。重要なのは二人、いや複数でこの世界を作り上げたことだ」
「…でも、二人でならより凄い世界、二人だからこそこんな世界を作り出せたんじゃないの?」
太公望はしたり顔でにやける。あぁ、きっと何か閃いたのだとダイは確信する。少し前まであのにやけた顔が怖かったのに。
今では安心さえ覚える。
「共同作業というのはより品質の高いものを生み出すが、反面思いも寄らぬ欠陥を生み出すこともあるのだよダイ。
例えばわしら二人で砂山を作るとしよう。ダイ、おぬしも自分の山を作ってみよ」
訳の分からぬままに太公望の言うとおりに自分の前に小さな砂山を作る。太公望も同等の山を作ったようだ。
「この二つの砂山を合わせればどうなるか、よく見ておくのだ」
身を乗り出してダイの砂山を奪い、太公望は自身の砂山にそれをぶつけると、より大きな砂山が出来上がった。
…しかし出来上がった砂山は合わさる前の砂山に比べると形が歪み、汚く見え、またところどころポロポロと
砂が崩れて下に流れている。大きさでは劣る個人で作った砂山だが、完成度が高いの個人で作った砂山であるのは一目瞭然である。
- 352 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:00:04 ID:izDX+pSG0
- 「この砂山と一緒なのだ、この世界は。この世界の力は強大だろうが、複数で作り上げたかぎりどこかに必ず綻び、
…きっとこの亜空間にも何か欠陥があるはず。何かのひずみ、亀裂のような…どのような形でそれが現れるかは分からぬが。
もしかしたら、そのひずみから脱出できるかもしれん」
「…でも、それをどうやって見つけるの?ただでさえこの世界は広いんだよ?
何人いたって見つからない気がするよ」
「…それに関しては安心せよ。それを見つけるため、既にターちゃんが動いておるよ」
ダイは首を傾げる。ターちゃんが?そういえばさっき太公望がターちゃんに何か頼みごとをしていたけど…
…そういやあのときも動物の言葉で話していたような気がする…。
「ダイ、このことはくれぐれも動物の言語以外で話すでないぞ。…主催者達に気付かれてはならぬ。
あくまでこの案は脱出のための能力を持つ人間と会えなかったときの策だ。もしものときに
ひずみやら亀裂やらを修復されていてはどうしようもないからのう」
ダイはこの策が主催者達に漏れたときのことを想像して背筋を凍らせる。もしそうなったら全てが水の泡だ。
主催者達に勘付かれないために、太公望がわざわざ暗号の試験と称して動物の言葉でこの計画を話したのもそのためだ。
全ては主催者達の隙をつくために。
「分かったよ太公望、でも公主さんはどうするの?」
「今しばらくは伝えないでよい。おぬしとターちゃんが公主に言葉を教えるのだ。伝えるのはそれからで構わん。
そしてダイよ、今までの話はあくまでわしが推測した結果、仮定の話だ。何も確証は無いし、外れていてもおかしくは無い。
……忘れるでないぞ」
そういうと太公望は動物の言葉での会話を切り上げ、ダイとともに公主の側に歩み寄り、腰を落とす。
「太公望…試験は終わったのか?」
「あぁ、終わったぞ公主。ダイとなら安心してトランシーバーで通信できるわい」
公主は穏やかな口調で問う。どうやら二人が全く別の話をしていたことには気付いていないようだ。
それを見てダイはチクリと胸が痛む。騙しているわけではないが、大事なことを黙っている…
罪の意識から思わず本当のことを言いそうになるが、笑顔で問いに答える太公望の顔見て、踏みとどまる。
…病気で苦しんでる公主さんにこれ以上負担をかけたくないんだろうな…あなたは本当に優しい人だよ太公望…。
「残り二つのトランシーバーだが、これのうち一つは純粋にわしらの脱出計画に手を貸してくれる人に渡そうと思っておる。
…そして最後の一つは…この世界から脱出可能な能力を持つ人間に渡すつもりだ」
- 353 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:01:17 ID:izDX+pSG0
- 太公望が長い話を遂に終える。と同時に公主とダイがせつなく、辛そうに顔を曇らせる。
彼らにはわかっていたのだ。この話の終わりは脱出への長い道程の始まりであるとともに太公望との別れであると。
「…それじゃわしはもう行く。時間が惜しいのでな。まず最初に富樫と合流し、ターちゃんをそちらに戻したら
そのまま徳島から和歌山へ泳いで渡り、東を目指すつもりだ」
そこまで言うと、太公望はだるそうにため息をつく。
「…はぁ、富樫のあほを説得するのが大変だわい…どうしたものか」
珍しく弱気な太公望。まぁ無理もない。富樫本人のためとはいえ、わざと冷たく当たったあとにどの面下げて会いに行けばよいのやら。
素直におぬしのために辛く当たった、と言えばいいのだが、変なところで不器用な太公望は決して言わないだろう。
「…大丈夫だよ」
ダイの一言があたりに響く。いや、一番強く響いたのは太公望の心だろう。
「ここまで一緒に来たんだよ?ならきっと分かってるよ、富樫さんだって。
太公望の変なところも良いところも。それが仲間ってもんでしょ?」
ダイは思い出す。ポップ達のことを。彼らは今まで辛い冒険を共に切り抜け、苦楽を共にしてきた大事な仲間である。
ポップ達のことなら、言葉に出さなくても何を言いたいのか分かる。それは仲間だから。
だからきっと、太公望と富樫さんも仲直りできるだろう。ライディンを見ながらも逃げずにここまで一緒に来たのだから。
「まぁ会えばなんとかなるか。……ダイ、感謝するぞ」
顔を隠すように背中を向け、ぶっきらぼうに答える太公望。恐らく照れ隠しであろう。太公望らしいと言えばらしいのだが。
ダイも公主もそんな不器用な太公望の態度を見て我慢できずにクスクスと笑いを漏らす。
「えぇい、笑いたければ笑え!それじゃわしはもう行く!」
太公望は大声でそう捨て吐くと、その場から逃げ出すが如く走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。
「…行っちゃったね。もう少しちゃんとした別れをしたかったのに」
「あやつはそういうのを嫌う。しんみりとした空気が苦手な男なんじゃよ太公望は。
今のことはまた会えたときに文句の一つや二つでも言ってやればいい。太公望は感動的な再会というものより、そういうのを好むからな」
ダイと公主は太公望が走り去った方角を静かに見つめる。見つめた先の風景に太公望の幻影が何度も現れては消える。
二人は祈り、目を瞑る。今度この目に映るのは幻影ではなく、本物の太公望、幻影と同じく笑顔の太公望であることを。
流れる風と共に目を開くと、最早幻影は二度と現れなかった。
- 354 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:03:26 ID:izDX+pSG0
-
ガサ ゴソ ガサ ゴソ
民家の中から物音が響く。しばらくその音が響いたあと、二人の男が玄関から姿を現す。
「…あいつの言うとおり、無いかもしれねえな…」
そう呟くのは富樫。太公望と半ば喧嘩別れをして飛び出してきたが、今は少々の後悔の念を感じていた。
「諦めるのはまだ早いのだ。他の民家も探そう」
そう慰めるのはターちゃん。彼も共に竜吉公主のために御香を探していたのだ。
二人は今、太公望達と然程離れていない、小さな村に立ち寄っていた。
一軒一軒、御香を探してみるのだが、簡単には見つからない。一軒二軒三軒と探すうちにもしや本当にないのではという考えが脳裏を過ぎる。
そんな考えが浮かぶたびに頭を左右に振って、必死に否定する。そしてまたそんな考えが浮かばぬうちに次の家に入って探す。
それの繰り返しであった。
「富樫、しばらく探してみて、何も見つからなかったら一度戻ってみようじゃないか。彼らも心配する」
「…分かっているけどよぉ…」
ターちゃんの提案に富樫はバツの悪そうな顔をする。富樫もそうしたいのは山々だが、なんせ喧嘩腰に飛び出したのは自身だ。
何も収穫がないとなれば合わす顔も面子も立たない。そしてなにより…
「…ターちゃんよ、あの馬鹿、太公望のやつは俺と自由にするためにあんな悪態ついたに違いねえ。
なのに俺はそれに気付かずあいつを軽蔑して、殴っちまった。…どの面下げて会えばいいんだよ」
「いいじゃないか、会うだけで。会って仲直りするなり喧嘩するなり、なるようになるのだ」
会う。その言葉にターちゃんはもう二度と会うことの出来ない仲間を思い出す。
ヂェーン、ペドロ、アナベベ…皆の顔を思い出すと自然と思い出まで蘇ってくる。サバンナの熱い風とともに。
「…すまねえ、ターちゃん、俺のせいで辛いことを思い出させちまって」
富樫はターちゃんに詫びる。ターちゃんの眼差しが散っていった仲間達のことを見つめていたことに気付いたから。
…富樫自身もは剣桃太郎を失ったとき、同じような眼差しをしていたから分かったのだろう。
俺は仲間の一人を失っただけで胸が張り裂けそうだった。なら、ターちゃんはそれ以上の…
「ターちゃん、あんたは強ええな。俺は一人仲間を失っただけで辛かったのに、あんたは…」
「それは違うよ富樫」
- 355 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:03:51 ID:izDX+pSG0
- 富樫はターちゃんを慰めるつもりで言った言葉をターちゃんは優しく声で否定する。
「私も仲間を失ってとても辛い。だけど富樫も仲間を失った。それは同じ悲しみだよ。どっちがより辛いなんておかしいことだ
失った仲間の数で悲しみの大きさが決まるなんて」
ターちゃんはまたさっきと同じ眼差しで空を見上げる。そう、瞼の裏にもう会うことの出来ない仲間を思い浮かべて。
「確かに仲間を失ったことは辛い。けれど、私は思い出すんだ。彼らの生きていた姿を。アフリカのサバンナを走り回っていた彼らを」
私に言葉を教えてくれて、一緒に暮らしたヂェーン。今でも私が作った日よけの傘の下で本を読んでる姿が目に浮かぶ。
私を慕ってあの日、弟子入りしたペドロ。いつか戦ったときは思ったよ。強くなったな…ペドロ、って…。
私のライバルだったアナベベ。金持ちになったのはいいけど奥さんにはいつも尻に敷かれていたよな…いつもそれを見て笑ったっけ。
「もう会えないが、感じることは出来る。彼らの生きた残り香を」
そう、ターちゃんの体、心には染み付いているのだ。彼らの生きた証の残り香が、思い出となって。
「彼らの魂は、彼らが愛した地に還ってくる。そう、アフリカに。だから私はここで死ぬ訳にはいかないのだ。
私は必ずアフリカに帰って彼らの愛したアフリカと動物達を守る。それが彼らの残り香でもあるから」
ターちゃんは未だ空を見上げている。きっと遠いアフリカのサバンナと動物達を思い出しているのだろう。
富樫はそんなターちゃんを見上げ、考える。愛した地に還ってくる、か…。
「富樫、君の仲間もきっと還ってくる。君らが愛した地に。だからまた会えるさ」
「…へ、慰めるつもりでいったのに、逆に慰められちまったな・・・」
桃、お前の愛した地なんざあそこしかねえよな…だから待ってるぜ。お前が還ってくるのを。
桜咲く男塾の校庭でな…皆と一緒に。
「…さぁ、次の家を探すのだ。その間に考えておけばいいのだ。どうなって仲直りするのかを」
「へ、分かってるよ。あのねーちゃんのためにお香を見つけてあの馬鹿たれ太公望につきつけてやるぜ。
無いと分かりゃ、あいつに当り散らしてやればいいしな」
「やれやれ…富樫も素直じゃないのだ…」
会うだけでいいじゃないか。その言葉に富樫は救われた気がした。そうだよな、会えるときに会っとかなええとな。
とりあえず戻ったらあいつに一言謝っておくか…殴っちまってすまねえ、って
富樫が顔をあげるとそこにはターちゃんのいつもの笑顔があった。ターちゃんはもう当分は空を見上げることはない。
ターちゃんが今度空を見上げるときは太陽がまぶしく照らすアフリカの大地でだろう。あのサバンナの空に浮かぶ彼らを見つめるために。
- 356 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:04:18 ID:izDX+pSG0
- 「…そういやよターちゃん、太公望に頼まれたことって一体なんなんだよ」
「ふふふ、それは私と太公望との秘密なのだ。聞いちゃ駄目なのだ」
「…なんだよ、おめえもあいつと同じ秘密主義か」
「太公望に口止めされているのだ。すまん」
それを聞き、富樫は拗ねてしまったようだ。顔をプイっと背けるとさっさと次の民家に入ってしまった。
「(太公望・・・思ったより時間がかかりそうだ。この四国には思ったより鳥や動物が少ない。)」
ターちゃんは太公望の頼みごとを既に実行していた。ターちゃんは歩きながら鳥達や動物たちにあることを頼み、それを聞いた動物たちは
次々と仲間の動物に伝える。ターちゃんはそれが全国の動物に伝わるのを待っているのだ。
だが、さっきターちゃんが言ったとおり、この世界には動物が少ない。よってその伝達の遅れを恐れていた。
「(太公望に頼まれたあれ…そう、動物達にこの世界を徹底的に調べさせるのはどれぐらいかかるか予想もつかないな)」
そう、太公望がターちゃんに頼んだのは鳥や動物たちを使った、この世界の調査であった。
太公望も鳥の言葉を話せるが、あくまで会話だけ。この計画に必要なのは動物と心を通わすことのできる人物。
つまりこの計画を実行できるのはターちゃんだけある。勿論この計画を秘密にしたのは主催者達に気づかれぬため。
「(太公望は言った、この世界にはどこかにおかしいところがあってもおかしくない、と。それさえ見つかれば…)」
太公望が頼んだことはそれだけではない。この世界はどれくらいの規模か、海の向こうには何もないのか、地図に載っていない島や
施設は存在していないか、この世界にいる監視者の発見、おかしな風景は無いか、
知りうる限りの敵味方、これまであった人物の位置の把握、とにかく多くのことを調べてほしいとのこと。
だがそれらを全て調べるためには多くの動物が必要。だからターちゃんはこの四国の動物を通じて全国の動物達にそれを伝えているのだ。
「(動物達に指令を出すために私はこの四国を動くことは出来ない。エテ吉、無事でいてくれよ)」
- 357 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:04:38 ID:izDX+pSG0
- 太公望はダイ達と別れてからニョホホホオ〜と奇声発しながら走り続けていた。が、そろそろ限界の模様。
ぜえぜえと息を切らして、近くの木陰に入ると先程の奇声を発していた男とは思えないほど真剣な顔つきをしていた。
「(ダイ、公主、すまんな…わしはまだ話してないことあるのだ)」
太公望は目を瞑り、先程別れたばかりの者達に心の中で謝罪する。
「(あやよくば、この世界から脱出できたとしても、待っているのは彼奴ら、そう主催者どもとの戦い…そうなれば勝ち目はあるまい)」
そもそもこのような大人数をこの世界に連れ込むことが出来た時点で主催者>参加者の力関係は目に見えている。
元の世界に戻れば参加者たちの力の制限がはずれ、元の実力を発揮できるが、その分わしらの中にも力の格差が発生し、
戦えるものと戦えないものが現れてしまう。…そして後者が圧倒的に多くなるのも明白。後者をかばって戦う時点で敗北は必死。
後者を見捨てて戦うとしても、戦えるものが少ない前者ではやはり敗北という結果はは避けられないだろう…。
「(ふっふっふ、ならば策は一つ。…やつらをこの世界に引きずり込む!)」
そう、主催者といえど、この世界に入ってしまえば奴らも同様に力の制限が働くだろう。
そうなればこっちのもの。先程の問題は全て解決され、こっちは数で押せる!
「(・・・まぁ、その策を実行しようにも方法が思いつかぬのでどうしようもないが…
これからじっくり考えるかのう…ターちゃんから報告があれば何か思いつくかもしれんが)
太公望は思考に一区切り入れると立ち上がり、木陰から出ると歩き出す。
「(どっちにしろ仲間は必要だ。今は仲間を増やすことに専念するかのう。…さっさと富樫と合流するか)」
- 358 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:05:10 ID:izDX+pSG0
- 【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/午前】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康、MP微消費
[装備]出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分) トランシーバー
:公主の荷物一式
:ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1:ダムに行き、四国を死守
2:公主を守る
3:ポップ・マァムを探す
【竜吉公主@封神演義】
[状態]疲労進行中
[装備]青雲剣@封神演義
[道具]アバンの書@ダイの大冒険
[思考]1:ダムに行き四国を死守
2:呪文の取得
【香川県、瀬戸大橋付近の山中/午前】
【太公望@封神演義】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
[装備]:五光石@封神演義
:トランシーバー×3
:鼻栓
[思考]1:富樫と合流
2:バキの取得を試みる
3:ゲームの脱出
- 359 :動き出す計画:2005/11/16(水) 23:07:26 ID:izDX+pSG0
- 【香川県中央部 小さな村/午前】
【チーム名=富樫とお守り】
【富樫源次@魁!男塾】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
:爆砕符×2
:鼻栓
[思考]1:公主のために仏壇屋を探して香を持って帰る
2:太公望との仲直り
3:男塾の仲間を探す
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[道具]:荷物一式
:恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]1:富樫に付いていく
2:太公望からの頼み事の実行
備考 全国の動物達に伝わるのは少々時間がかかります。
- 360 :動き出す計画(修正):2005/11/17(木) 01:14:58 ID:72bxaOMh0
- >>350 の下から5行目から上を下記のように訂正します。
- 361 :動き出す計画(修正):2005/11/17(木) 01:15:53 ID:72bxaOMh0
- ダイは己の拳に自然と力が篭るのを感じる。状況は何も変わっていない。脱出方法も見つかっていない。
しかしこの人の話を何故か心に安心を覚えてしまう。…まるで…アバン先生のようだ。
公主さんが無条件で信頼するこの人、なんとなく理由が分かる気がする…。
「そして、このトランシーバーを使用する際、暗号として動物の言葉を使用するように。
通常の暗号だと解読されるやもしれんからのう。ターちゃんが戻って来次第、各自動物の言葉を彼から学ぶように。
…出来れば、わしもターちゃんに動物の言葉を教えてもらってから、打ち合わせをしたかったのだが」
「あの…太公望」
ダイが自信なさげに太公望を呼ぶ。
「どうしたダイよ」
「俺、今までモンスターに囲まれて生きてきたから魔物の言葉は分かるんだ。会話も出来るし。俺でよかったら教えようか?
…動物や魔物たちの言語って結構感覚的なものだし、コツさえ掴めれば太公望は頭もいいから、すぐに覚えられるよ」
「よいよい、是非とも頼む。そのコツとやらを早速教えてくれ」
勇者ダイによる道士太公望への授業がはじまる。が、傍から見ると少年が青年にモノを教えている姿は大変滑稽である。
公主はその図に思わず引き出しそうになるが、なんとか耐えると、自身もその勉強会に参加すべく、横からすっと覗いてみるが
大変難しく、思わず頭を抱えてしまう。そんな公主を尻目に太公望は慣れない手つきで一生懸命説明する、ダイの動物語の説明を
全く苦に思わず、すらすら頭に入っている模様。さすが太公望、私とは頭のつくりが違う、と感嘆する公主。
ちなみに太公望はIQこそはっきり出されていないが、風に舞う54枚のトランプを一瞬で全てを覚え、
神経衰弱をパーフェクトでクリアした男である(正確には敵にイカサマをされ、パーフェクトにはならなかったが)
- 362 :動き出す計画(修正):2005/11/17(木) 01:16:29 ID:72bxaOMh0
-
ダイの授業が始まってから数十分、ダイの驚きの声と共にその授業は終わりを告げる。
一瞬で脱落し、そのすぐ横で終わるのをまどろみながら静かに待っていた公主は、その声に驚き、何事か、と問う。
「だって、公主さん!太公望はもう覚えちゃったんだよ!コツと基本的なことを教えただけなのに…。」
「けけけ、とは言ってもまだ言葉もたどたどしいがのう。まぁ一応会話はなんとかできるわい」
太公望はダイの授業で教えてもらったメモをくしゃくしゃに握りつぶすと、それを飲み込む。
「ダイ、テストとして何か簡単な問題を出してみてくれ」
「う〜ん…と、ならこれを訳してみて。ウボアーガーワンワン」
「むう…お前の母ちゃんでべそ・・・って何を言わせるのじゃダイ!」
「あははは、さっき濃い顔にされたお返しだよ!」
太公望とダイが無邪気にじゃれある姿を見て、微笑を浮かべる公主。いつまでもこの時間が続けばいいのに…
「ではダイよ、次は10分間動物の言葉で会話する。これが出来ればわしに問題はないであろう。
そういうと太公望とダイは動物の言葉で会話を始める。公主から見ればガーガーやらバーバーなんたらかんたらと
訳の分からない言葉で喋るあほがいるようにしか見えない。太公望が相手だとさらにそう見える。
- 363 :動き出す計画(修正):2005/11/17(木) 01:17:27 ID:72bxaOMh0
- それに加えて352の
>…そういやあのときも動物の言葉で話していたような気がする…。
の一文を削除します。お騒がせしました。
- 364 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)1/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:38:12 ID:8Ul7bThi0
- 宮城県の海岸線よりの道。そこから少し外れた森の中で二人の男が対峙していた。
「・・・戦う気はない。といっても無駄なようだな」
「へへへっ、そーゆーこと、お前と戦う方が面白そーだからな。怪我しているとこ悪ぃが」
ブチャラティは考える。
(オレは失敗したのか、そして晴子は・・・だが悔やむことはいつでもできる
今はこの危機を乗り切きることだ
事実はどうあれ、この状況を見られては説得は難しいだろう。
逃げることはたやすいが・・・・やむをえんな)
「オレはブローノ・ブチャラティ。名を聞いておこう」
「おう、オレはニンジャマスター・ガラ。ガラでいーよ」
(この目の前の大男『ガラ』、相当の手だれのようだが、けして生かしておくわけにはいかない。
もしガラがこの状況を他の参加者に話せば、オレはいっそう不利な立場になるだろう。
ここは多少のリスクを背負ってもこのガラを始末しておくべきだ。)
「おっ、やる気になったか?」
「ニンジャというのは聞いたことがある。確かこの国の隠密部隊だったな」
「ンなコトより丸腰のようだが大丈夫なのかぁ?」
「お互い闇に生きる者だ。覚悟はいいな?オレはできてる」
「おいおい冗談だろ。とても同業者には見えねー」
じりじりと近づく両者の間合い
「オレはガンダムより強えーぜ」
こいつぁモノホンだ。斬魄刀を構えながらガラは思った。
(おもしれー、相当な修羅場をくぐってきてるな。しかし片腕で丸腰のくせに自信満々に間合いを詰めてきやがる。
こりゃあ何かあるな・・・。「あの技」で様子を見るか・・・)
- 365 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)2/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:39:24 ID:8Ul7bThi0
- 「おらぁーー、『魔神(人)剣』!!」
ガラの必殺技『魔神(人)剣』。高速で剣を振るうことで衝撃波を奔らせ、対象を切断する技。衝撃波のスピードは音速を超える。
「ちょっと手加減したぜー。これで終わりってこたぁねーよなぁ」
それでも至近距離、見てから避けることなど不可能だし、ましてや生身の人間がガードできるわけ無い。しかし―!
「なにぃ!!?、ブチャラティが消えた?」
衝撃波が当たる寸前、ブチャラティは忽然と姿を消していた。
目標を失った衝撃波は、轟音とともに一瞬前まで彼がいた場所の大地をえぐり、そのまま大木に命中してなぎ倒した。
どこからか声が聞こえる。
「・・・『魔神(人)剣』か、スゴイ威力だ。まともに食らったらまず助からないな」
「なにっ、地下から!!」
「スティッキィ・フィンガーズッ!!」
ありえない方向。
地面からの攻撃がガラに襲いかかる。なぜだと思う前に体が反応し、かろうじて右腕で攻撃をガードした。
「ふー、あぶねぇあぶねぇ。おめぇ地面に潜れんのか。ひょっとしてその体から出てる『ロボット?』みてーのの能力か、」
「・・・『スタンド』だ。見えるとは驚いたな。それにしても『勘』のイイヤツだ・・・、ジッパーから吹き込んでくる風の動きに感づいたか。しかもなかなか『素早い』動きだ・・・しかし、ガードしたな・・・」
次の瞬間、ガラは信じられないものを見た。
「少々でかいが、まぁそのうち慣れるだろう。おまえの右腕をいただいた。」
「なにーー、オッ、オレの右腕がねぇ?」
「おれの『スティッキィ・フィンガーズ』の能力はジッパーのところで別なもの同士を接続することができる。」
- 366 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)3/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:40:17 ID:8Ul7bThi0
- 「オレの腕が〜〜〜〜、てってめェ・・・
だ、だが、わかったぜぇ。あそこの死体に首輪が無かった理由が。
そのなんだ『スタンド』か?ジッパーみてーな能力で首輪を外したのか。
だが、どーゆーわけかもう一人の方はしくじって・・・、結局そのザマってわけだ」
「・・・『失敗』して『そのザマ』、か・・・、その通りだ・・・オレは・・」
ふと視線を逸らすブチャラティ。
その一瞬の隙を突きガラは落としていた斬魄刀を拾い、間合いを離した。
ガラは考える。
(腕が取られちまったがどうせまた生えてくる。しかし解ってきたぜぇ。やべぇのはあの「スタンド」っつーヤツだ。
特に「拳」には絶対に触れちゃいけねー。ジッパーみてぇのでオレの右腕のように切り離されちまう。
狙うのは本体だ。動きでわかったが本体は生身の人間と大差ねぇ。)
「どーやらマジで殺りあう事になりそーだな!」
「オレの『スティッキィ・フィンガーズ』は近距離型の『スタンド』だ。接近戦は望むところだ。」
斬魄刀を左手に持ち替え、構え直すガラ。
『スティッキィ・フィンガーズ』を出すブチャラティ。
「スタンドの右腕は復活しねぇみてぇだなー。お互い利き腕を無くしたってことで、もう手加減はしねぇぜー!」
「手加減していただと・・・?強がりを言うな・・・」
張り詰める空気。
「アリアリアリアリアリアリアリアリィィィ!!」
「うおおおりや――――ーーーーーーーーー!!(いやアリアリはねぇだろ・・)」
- 367 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)4/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:42:19 ID:8Ul7bThi0
- 一そのころー
「おい友情マン!何だあのでけぇ音は」
「すごい音だった。ガラ君が何者かと戦っているのか・・・」
「なんかスゲーヤな予感がするぜ!オレは行くからな」
「ちょっと待て桑原君。あ〜いっちゃった。・・・僕は少し遅れて行こう。(あの単純バカ)」
「ばっ、ばかな。『スティッキィ・フィンガーズ』の攻撃が当たらない!?」
「へっへー、なかなかのスピードだが、もう見切ったぜぇ」
「こ・・・こいつは!!このパワーとスピードは・・・!!!」
スティッキィ・フィンガーズの攻撃を全て紙一重でかわすガラ。
一方ブチャラティはなんとか致命傷は避けているものの全身に無数の傷を負っていた。
「ぬんっ」
「ぐはっ」
ガラの膝蹴りが、もろにはみぞおちに入り、ブチャラティは吹っ飛んだ。
「くっ、『スティッキィ・フィンガーズ』!!」
「おっ、ま〜た地面にもぐったかぁ〜」
地中を移動しながらブチャラティは焦っていた。
(まっ、まずい、ガラという男、利き腕を失いながらこれ程までの強さとは。
勝てない、例え両手が無事だったとしても!
ここは一旦土中に潜み・・・・)
「そっこだぁ〜。魔神(人)剣!!」
(ハッタリだ!地上から地面の中が見えるわけが無い!!)
しかしその思いもむなしく衝撃波は正確に地中に隠れるブチャラティに命中した。
ブチャラティの体を真空刃が容赦なく切り裂き、石や土片が体の中に食い込んだ。
- 368 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)5/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:47:39 ID:8Ul7bThi0
- 「ぐっはぁぁ、ば、ばかな・・・」
・・・ぐぅぅ・・・!動くか体・・・?
・・・わき腹が裂けている、左足と右肩も重症だ・・・
・・・しかし、まだ動く・・・、何とか致命傷は免れたのか・・
・・・まともに命中したのに、まだ動けるのは、土中だから威力が弱まったのか。
・・・しかも片手で、利き腕ではなかったから・・・
「隠れても気配でわかるぜぇ。まだ死んじゃいねぇよな。出てきなよ」
(け、気配か・・・『姿』を隠すことができないというのなら、仕方が無い・・・)
やむをえず地上に姿を現すブチャラティ。
(・・・・・こ、この男、純粋に強い。小細工がまったく通用しない・・・)
「大分きつそぉだな。観念するかぁ〜、ってそんな目つきじゃねぇな」
(・・・じ、事態はますます悪化している・・・こうなったら、不確定要素も大きいが・・・「あれ」を・・・・)
(ま〜だ何かやってきそ〜だな〜、厄介なことになる前に止めを刺すかぁ?よしっ)
「うおおおお〜〜〜!!こーゆー手負いが一番怖ぇからな〜、一気に決めるぜーっ・・・!
『忍法七ツ身分身の術』!!!」
「―!!!!」
目の前の光景にブチャラティは自分の目を疑った。
- 369 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)6/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:49:06 ID:8Ul7bThi0
- 「バ、バカな・・・!これは一体・・ガラが6人、いや7人か!」
「ははははははは・・・」
突如7人に増えたガラが、あっという間にブチャラティを取り囲んだ。
さらに全員が一糸乱れぬ動きで一斉に斬魄刀を構える。
「しまった!囲まれたッ」
「なかなか面白かったぜブローノ・ブチャラティ。その力に敬意を表し我が奥義によって応えよう、忍者の剣を受けられるか!!?」
「ぶっ、『分身の術』だと!それに、こ、この感じは先程の『魔神(人)剣』以上の・・・」
「地面に逃げても無駄だぜー、このあたり一面丸ごとかーるく削り取ってやるからよ〜」
大地が震えだした。ガラの体にかつてないほどの力があふれる。
(ほ、『本体』は一つの筈だ。いや『本体』がわかっても、おそらく『魔神(人)剣』以上のスピードと威力であろうこの技を、避け切れるのか?命中したら間違いなく死ぬッ!地下に逃げても、そこを狙われる!だ、だが、どうする、一体こいつをどうしろというのだ!?)
―その時、さらなる事態がブチャラティをおそった―
ガサガサガサッ!
「おーーい、ガラーっ!さっきの音は何だー!!?大丈夫かー」
「しっ、桑原君!声が大きいよ!」
茂みの奥から二つの声。おそらく後1,2分でこちらのほうへ来るのだろう。
「馬鹿なーッ!!ガラには仲間がいたのか!!?」
(最悪の事態だ!追い詰められ、名前も顔も能力も全てばれた。そして新手ッ。最早・・・逃げることも・・・・。)
「あいつら・・・、待ってろって言ったのになぁ」
今にも振り下ろそうとしていた斬魄刀をいったん止め、ガラは一瞬、声のした方角に注意を向けた。
(・・・晴子、・・・オレは・・・)
- 370 :ブチャラティvsガラ 前編(改訂版)7/7 ◆PN..QihBhI :2005/11/17(木) 01:50:17 ID:8Ul7bThi0
- 【宮城県、道から少し外れた森の中/午前】
【友情マン@ラッキーマン】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、千本ナイフ、光の封札剣、落とし穴)
[道具]:荷物一式、ペドロの荷物一式、食料セット(十数日分、ラーメン類品切れ)、青酸カリ。
[思考]:1.本当は来たくなかったが桑原に引っ張られる形で様子を見に来た。
2.強い者と友達になる。ヨーコ優先。
3.最後の一人になる。
【桑原和馬名@幽遊白書】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1.戦闘音が聞こえたので様子を見に行く。
2.ピッコロを倒す仲間を集める。浦飯と飛影を優先。
3.ゲームを脱出する。
【ガラ@バスタード】
[状態]:右腕がブチャラティに奪われる。ただし再生中。まだまだ余裕。満腹
[装備]:斬魄刀
[道具]:荷物一式(食料一食分消費、水無し)
[思考]:1.ブチャラティとの戦いを楽しみ、勝利する。
2.とりあえず友情マンについて行き、ラッキーマンのラッキーを拝んでみる。
3.脱出と優勝、面白そうな方に乗る。
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ガラの右腕をジッパーで固定した。ただし、スタンドの右腕は復旧不能。
全身に無数の裂傷。さらに左足を引きずり、右肩、わき腹にも深い傷。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]:1 晴子・・・オレは・・・
- 371 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:41:32 ID:72bxaOMh0
- 「そう、その通りだ公主。その十絶陣と酷似しておる。この世界は。…規模は比較にならんがな」
「つまり太公望、この世界は主催者達が作り出した亜空間だと言うのじゃな。
だとすると、十天君と同じように主催者達もこの世界にいると・・・?」
「…いや、わしはいないと思う。この世界が如何に自分の思い通りにできるとはいえ、この世界にいる限り
自身も少なからずその制約を受けるだろうし、何より参加者がいる中にいるより外にいるほうがより安全だからのう」
太公望は一息つくと、さらに続ける。
「さらに言えば、こんな広大で複雑な設定の亜空間を一人で作れると思えない」
「…と言うと?」
「わしがここに来る前、星矢という少年と出会った。そのことはもう話したな?そのペガサスの聖衣の持ち主だ。
その少年がわしに言ったのだ、この世界からはハーデスの力が感じられる、と」
ダイは俄かに体が硬直する。ハーデスといえばバーン達と一緒にいた、あの黒衣の男!
ならばこの世界、亜空間を作ったのはあいつなのか?
「だが、星矢はこうも言った。この世界からはハーデス以外の力も感じられる、と」
…ダイは直感する。きっとバーンだ。あの大魔王はきっと禁呪法を用いてこの亜空間を生み出したんだ。
そしてあの得体の知れない、ハーデスと名乗る者と協力してこの世界を作り出したのだと。
ただでさえ強大な力を持つバーンに加えて、同等の力を持つものが力を貸したとなると…この世界から脱出なんて無理だ。
「…わしらは砂山に埋められた蟻と一緒だ。主催者どもの許しが無ければ出ることもできん」
沈黙が辺りを支配する。せっかく見えかけた希望がまた深い霧の中に隠れてしまったような気持ちになり、
ダイは複雑な気持ちになり、肩を落として落ち込むが、それを見透かしてか公主がダイを抱き寄せる。
公主の突然の行動に慌てふためき、公主から漂ってくる良い匂いと肌から伝わってくる温かさに触れて赤面するが
この純潔の仙女が持つ静かで穏やかな空気に触れ、次第に心安らかな気持ちになっていた。
「…コホンコホン、それでは話を続けるぞ」
ダイが一通り元気を取り戻したのを見て、太公望はわざとらしく咳をして話を続ける。
このわざとらしさも太公望のやさしさだろう。
- 372 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:42:40 ID:72bxaOMh0
- 「では次に、これからの計画について話そう」
太公望の一言でダイと公主は顔色を変える。ここからの話はこれからの行動の一切を決めるだけではなく
自分達の、いやこのゲームに巻き込まれた人たちの運命さえ決めかねない。
この考えは少々傲慢なのかもしれない。たかが数人に何が出来るのだろうか。しかしやるからにはそれぐらいの
気概が無ければきっと出来るものも出来なくなってしまう。だから傲慢だと言われても構わない。
その決意の重圧から皆の顔が自然と重く、苦しいものになっていった。
「まずダイ、おぬしにこれを渡しておこう」
太公望は鞄からホイホイカプセルを取り出すとボタンを押し軽く投げると、ぼわんと音をたてて煙が舞い上がった。
土埃とともに白い煙が辺りを包み、その煙が消えると太公望の手に4つのトランシーバーがあった。
「太公望、それは・・・一体なんなの?」
「これは一種の無線通信機、早い話がこれさえあれば遠くにいても話が出来るのだ」
太公望はトランシーバーの一つをダイに渡すと、説明書をダイに渡す。どうやら太公望はもう操作方法を覚えたらしい。
「壊したり、なくしたりするでないぞダイ。わしらとおぬしらを繋ぐ唯一のものとなるのだからな」
ダイは腫れ物を扱うが如く慎重に扱う、が、なんともその様は頼りない。まぁ無理も無いだろう。
ダイは生まれてこの方、このような機械の類は見たことも触れたことも無いのだから。
それを見て公主はダイからひょいっとトランシーバーを取り上げる。その様子はまるで子供からおもちゃを取り上げる母のようだ。
「それと、これも渡しておこう」
太公望は鞄の中からアバンの書を取り出すと、今度はそれを公主に渡す。
公主は疑問に思う。渡すのなら持ち主であるダイにではないのか?それを何故私に……?
「わし程度ならバギの取得がせいぜいだろうが、公主、崑崙一の力を誇るおぬしならより高度な呪文も取得できるはず。
大丈夫、わしが保障する。といっても何も根拠はないがな。にょほほほほほ」
この男の笑顔を見ると、無条件で信頼してしまう。本人も根拠は無いといっているのに。
相変わらず不思議な男じゃ…太公望…。
- 373 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:43:16 ID:72bxaOMh0
- 「本題に入ろう。これからはこのトランシーバーを使用して組織的行動をとるぞ。ダイ、公主、おぬしらはここに留まりこの四国を死守せよ」
「…私のせいでここを動けないのは分かるが、なぜこの島を死守する必要があるのじゃ?」
「それはな公主よ、これからこの四国を中心に活動し、対主催者達の拠点としてするためじゃよ」
公主は思わず声を上げて驚く。この殺し合いの世界で対主催という考えは常にあったのだが、拠点という考えは全く無かったからだ。
確かに太公望は組織的行動をとると言った。ならば活動の拠点は必要。だが何故この四国なのだろうか?
公主はその問いを太公望にぶつけて、答えを待った。
「わしがいの一番にこの四国を目指したのは複数の理由があったのだ。
一つは組織的行動をとるために早い段階で頭数が必要だったこと。
二つめは悪意を持つ誰かがこの四国やってきて支配する前に、なんとしてでもこの島を安全なものにしておくためだった。
活動の拠点にするのなら安全は絶対条件だからのう」
太公望は一息つくと、話を続ける。
「だからダイ、公主、おぬしらにはこの島を死守して欲しい。この上にあるダムからなら島全体を見渡せるだろうし
目の利くダイとターちゃんがいれば侵入者がいてもすぐに発見できるだろう。幸い、この島は海に囲まれている。
進入路は限られているし、もしわしらのように海を泳いで渡ってきたとしても体力は消耗しているだろうから
迎撃もたやすいであろう」
「…太公望はどうするの?」
「わしはこれから東に向かう。そして仲間を探す予定だ。仲間が見つかり次第こちらに送る。わしがその者達を見極めてからな。
勿論そのときはこのトランシーバーを使ってそのことをおぬしらに伝える。その者たちの特徴を伝えておれば
おぬしらが敵と勘違いして攻撃するのも防げるしのう」
ダイは己の拳に自然と力が篭るのを感じる。状況は何も変わっていない。脱出方法も見つかっていない。
しかしこの人の話を何故か心に安心を覚えてしまう。…まるで…アバン先生のようだ。
公主さんが無条件で信頼するこの人、なんとなく理由が分かる気がする…。
「そして、このトランシーバーを使用する際、用件を纏めて簡潔に使用するように。
どこぞの誰かに盗み聞きされているやもしれんからのう。ターちゃんが戻って来次第、その旨を伝えておくように」
ダイと公主が首を縦に振り、頷く。ここまで来ると否応無しに気分が高揚してくる。
例えこの世界が難攻不落であろうと、必ず攻略して脱出してみせる!そしてバーンたちを倒す!
と、息巻く二人だが、ここで思わぬ冷や水をかけられることになる。
- 374 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:44:01 ID:72bxaOMh0
- 「…とまぁ、ここらで一息つくか。休憩休憩〜」
そういうと太公望は近くの木陰に行き、寝そべる。お菓子でもあれば間違いなく食うぐらいの勢いだ。
その太公望の言動に対して、ダイは口を尖らせ、不満を露わにする。公主はというとやれやれといった感じだが、至って冷静である。
そんな公主を見てダイは、なんとか不満を胸にしまると、今まで太公望が言ったことを自分なりに整理をはじめた。
そんなこんなで30分以上経つと、太公望は起き上がり、ダイのもとに近寄ってきた。
ダイは話を再会するのかと胸を躍らせるが、当の太公望の口から出た言葉は…
「暇だから棒倒しするぞ」
…とのこと。ダイは呆れてモノが言えなくなり首を横に振って断るが、すると太公望が子供のようにやろうやろうと喚き散らす始末。
その様が見るに耐えなく、仕方が無いので遊びに興じるダイ。公主も見てみぬ振り。
「どうせするなら規模のでかいのをしたいのう〜。よし、ダイよ、お互いまず出来る限り大きい砂山を作るぞ」
ハイハイと言って適当に流すダイ。そんなやる気の無いダイに比べて太公望はまるで子供のようにウキウキしている。
ここにきて、また太公望という人物が分からなくなってきたダイは思わずため息を漏らす。
こんなことをするのなら少しでもこれからのことを話し合えばいいのに…。
そうこうしているうちにダイはボールぐらいの大きさの砂山を完成させる。なんだかんだいってもダイも子供。
作っているうちに対抗心が芽生え、負けてなるものかと熱心に砂山を作っていたようだ。
が、しかし、さしもの勇者ダイも相手が悪かった模様。太公望はダイのより一回り大きい砂山を完成させていた。
「ぐっふっふっふ、他愛も無い。わしの力の証であるこの砂山にひれ伏すがいい!」
「…くっそ〜!」
いつのまにか砂山の大きさ対決? になっていたようだが、その勝敗は太公望に軍配が上がったようだ。
勇者に軍師が勝った、といえば響きは良いが、傍から見ると小さな子供に勝って自慢げに威張る中学生の図にしか見えない。
「…ふっふっふ、では本勝負にいくとするか。ダイよ、おぬしの砂山をわしのに合体させるのだ」
「わかったよ…もう…」
しぶしぶ応じるダイ。その胸中は最早不満だらけである。こんなのどうでもいいから早く話を再開しようよ!
…さっきはこの世界をこの砂山で例えていたぐらいなのに、それがなんで棒倒しに…。
- 375 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:51:32 ID:72bxaOMh0
- 「ダイよ、なにやら不満そうな顔をしているが、そんなに負けたのが悔しいのか?うん〜?」
「なんだよもう…棒倒しじゃ絶対負けないからね!」
ズザザザとダイは自分の砂山を動かすと、太公望の砂山にぶつけた。するとダイの膝まで届きそうな砂山が完成した。
「かーっかっかっか、これぐらいのサイズでないとやる気が出んわい!」
一人張り切る太公望。もうどうにでもなれ、な雰囲気すら感じられるダイを放っておいて、
太公望は先ほどまで教鞭としてしようしていた枝を巨大な砂山の頂点に突き刺す。その様はまさに圧巻である。
「…しかしまぁ、おぬしの砂山と合わせて大きくなったのはいいが、途端にもろくなったのう…」
ダイはそう言われて初めて砂山をじっと見つめる。出来上がった砂山は合わさる前の砂山に比べると形が歪み、汚く見え、
またところどころポロポロと砂が崩れて下に流れている。
大きさでは劣る個人で作った砂山だが、完成度が高いの個人で作った砂山であるのは一目瞭然である。
「まったく…これでは勝手にトンネルでも出来そうだわい」
…トンネル?中には何もいないのに…変なことを……待てよ。
そういやさっきこの世界を砂山に例えていたっけ…まさか…いや、考えすぎかな。
「もしこの中に虫がいたら、勝手に出てくるぞ。このもろさだったら」
…!!! 間違いない、太公望は何かを伝えようとしている!太公望はさっきこの世界を砂山、そして僕らをこの砂山の中にいる蟻と例えた…。
さらに、今、この砂山の中に虫がいれば、勝手に出てくると…つまり僕らはこの世界から脱出できると伝えたいんだ!
…でもなんでだろう…さっきは主催者の許しが無ければ出られない、っていったのに…。
ダイは思案に暮れる。先ほどまでは面白くない顔をしていたダイだが、太公望が何かを伝えようとしていることが分かった今、
その顔つきは必死の形相であった。
「ダイよ、そんなに怖い顔をするでない、たかが棒倒しではないか」
「…!? ははは、そうだね、もっと気楽にいくよ」
ダイはそういわれると必死に平静を装った。そうだ、ここで必死な顔をしたら太公望が何かを伝えようとしていることがばれてしまう。
それだけは避けなくてはならない。…そうか、太公望がわざわざ話し合いを中断して、時間を置いてからこんな遊びをする振りをしたのは
なにかを伝えるためだったのか。俺がもっとしっかりしていればその意図に早く気づけたかもしれないのに…。
…後悔なんてする暇はない、今は一刻も早く気づかなければ…太公望が伝えたいことに。
- 376 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:52:06 ID:72bxaOMh0
- そして遂に棒倒しが始まる。先攻は太公望。太公望は奇声を発しながら砂山の底辺部分の砂をごっそりもっていく。
ダイも棒が倒れないように砂をもっていくが、心あらずといった状況であった。
思い出せ、この砂山が完成するまでにあった出来事を…きっとその中にヒントが隠されているはずだ。
太公望がこの世界から脱出できると言ったが…それはなぜだ? …砂山がもろくなったから。
それじゃなんでもろくなったんだ…?
ダイがひらすらその答えを探している間も棒倒しは続いている。気がつけばもう棒を支えている砂もわずか。
今度はダイの番である。しかしその手は震えている。ゲームへの焦燥ではなく、答えが見つからない焦りから。
なんでこの砂山、世界がもろくなったんだ?…考えろ、考えろ俺…太公望のことだ、きっと答えも既に示しているはず。
「あんだけ大きかった砂山もあとこんだけだのう。せっかく二人で作ったのに」
…そうだ!!! 二人で作ったからだ!二人の山を合わせたとき、途端にもろくなったって太公望が…。
そして、この棒倒しの前に太公望は、この世界は複数によって作られた世界だと…
つまりこの世界もこの砂山と一緒で、複数で作られたからきっとどこかがもろくなっているって太公望は伝えたかったんだ!
そのもろくなったところを見つけて何とかすれば…出られる、と!
ダイはその震える手でわずかに残っている砂を取り除く…棒は未だ立ったままだ。
「残念だけどこのゲーム、俺の勝ちだよ。見つけちゃった、いや、分かったんだ。この棒倒しの必勝法が」
そう高らかに宣言するダイ。もちろん、棒倒しの必勝法なんて嘘っぱちである。ダイが伝えたかったのは…真意が伝わったということ。
それを聞き、太公望はにやっと笑う。まるで勝ち誇ったように。…どうやら伝わったようだ。
「ならばこれで決着をつけてやろう、ダイ!」
太公望はこれ以上ないほど砂をもっていこうとする。その眼差しは本気にこの棒倒しに興じているように見える。
役者顔負けの演技力である。この演技力があったからこそダイに伝えることができたのだろう。
…そして太公望の両手に砂が入り込み…
- 377 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:54:08 ID:72bxaOMh0
- 「…ふう、負けてしまったのう…」
太公望がポツリとつぶやく。あのあと、勢いよく砂をかき出したが、案の定、勢い余って指が棒にあたり、倒れてしまったのだ。
敗北した太公望の姿からは哀愁の念すら感じられる…これも演技なのだろうか…
ダイには太公望が本当に悔しがっているようにしか見えない。
「…ふう、今度機会があればターちゃんとやるとするかのう…。
ダイ、先程必勝法があるといったが、決してターちゃんには言うでないぞ。わしに勝ち目がなくなるからな!」
…分かったよ太公望、ターちゃんに伝えればいいんだね。この世界から脱出できる可能性があることを。
「太公望…棒倒しとやらは終わったのか?」
「あぁ、終わったぞ公主。ダイにしてやられたわ。今に見ておれダイ…」
公主は穏やかな口調で問う。どうやら二人が全く別の意図を持ってしていたことには気付いていないようだ。
それを見てダイはチクリと胸が痛む。騙しているわけではないが、大事なことを黙っている…
罪の意識から思わず本当のことを言いそうになるが、笑顔で問いに答える太公望の顔見て、踏みとどまる。
…病気で苦しんでる公主さんにこれ以上負担をかけたくないんだろうな…あなたは本当に優しい人だよ太公望…。
「さて、今更感があるのだが、この残り二つのトランシーバー、
これのうち一つは純粋にわしらの脱出計画に手を貸してくれる人に渡そうと思っておる。
…そして最後の一つは…この世界から脱出可能な能力を持つ人間に渡すつもりだ。以上、これにて計画の段取りは終わりだ」
太公望が話を遂に終える。と同時に公主とダイがせつなく、辛そうに顔を曇らせる。
彼らにはわかっていたのだ。この話の終わりは脱出への長い道程の始まりであるとともに太公望との別れであると。
「…それじゃわしはもう行く。時間が惜しいのでな。まず最初に富樫と合流し、ターちゃんをそちらに戻したら
そのまま徳島から和歌山へ泳いで渡り、東を目指すつもりだ」
そこまで言うと、太公望はだるそうにため息をつく。
「…はぁ、富樫のあほを説得するのが大変だわい…どうしたものか」
珍しく弱気な太公望。まぁ無理もない。富樫本人のためとはいえ、わざと冷たく当たったあとにどの面下げて会いに行けばよいのやら。
素直におぬしのために辛く当たった、と言えばいいのだが、変なところで不器用な太公望は決して言わないだろう。
- 378 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:54:32 ID:72bxaOMh0
-
「…大丈夫だよ」
ダイの一言があたりに響く。いや、一番強く響いたのは太公望の心だろう。
「ここまで一緒に来たんだよ?ならきっと分かってるよ、富樫さんだって。
太公望の変なところも良いところも。それが仲間ってもんでしょ?」
ダイは思い出す。ポップ達のことを。彼らは今まで辛い冒険を共に切り抜け、苦楽を共にしてきた大事な仲間である。
ポップ達のことなら、言葉に出さなくても何を言いたいのか分かる。それは仲間だから。
だからきっと、太公望と富樫さんも仲直りできるだろう。ライディンを見ながらも逃げずにここまで一緒に来たのだから。
「まぁ会えばなんとかなるか。……ダイ、感謝するぞ」
顔を隠すように背中を向け、ぶっきらぼうに答える太公望。恐らく照れ隠しであろう。太公望らしいと言えばらしいのだが。
ダイも公主もそんな不器用な太公望の態度を見て我慢できずにクスクスと笑いを漏らす。
「えぇい、笑いたければ笑え!それじゃわしはもう行く!」
太公望は大声でそう捨て吐くと、その場から逃げ出すが如く走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。
「…行っちゃったね。もう少しちゃんとした別れをしたかったのに」
「あやつはそういうのを嫌う。しんみりとした空気が苦手な男なんじゃよ太公望は。
今のことはまた会えたときに文句の一つや二つでも言ってやればいい。太公望は感動的な再会というものより、そういうのを好むからな」
ダイと公主は太公望が走り去った方角を静かに見つめる。見つめた先の風景に太公望の幻影が何度も現れては消える。
二人は祈り、目を瞑る。今度この目に映るのは幻影ではなく、本物の太公望、幻影と同じく笑顔の太公望であることを。
流れる風と共に目を開くと、最早幻影は二度と現れなかった。
- 379 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:56:18 ID:72bxaOMh0
- >>354-355
飛ばします
- 380 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:57:15 ID:72bxaOMh0
- 「…そういやよターちゃん、太公望に頼まれたことって一体なんなんだよ」
「ふふふ、それは私と太公望との秘密なのだ。聞いちゃ駄目なのだ」
「…なんだよ、おめえもあいつと同じ秘密主義か」
「太公望に口止めされているのだ。すまん」
それを聞き、富樫は拗ねてしまったようだ。顔をプイっと背けるとさっさと次の民家に入ってしまった。
「(太公望・・・思ったより時間がかかりそうだ。この四国には思ったより鳥や動物が少ない。)」
ターちゃんは太公望の頼みごとを既に実行していた。ターちゃんは歩きながら鳥達や動物たちにあることを頼み、それを聞いた動物たちは
次々と仲間の動物に伝える。ターちゃんはそれが全国の動物に伝わるのを待っているのだ。
だが、さっきターちゃんが言ったとおり、この世界には動物が少ない。よってその伝達の遅れを恐れていた。
「(太公望に頼まれたあれ…そう、動物達にこの世界を徹底的に調べさせるのはどれぐらいかかるか予想もつかないな)」
そう、太公望がターちゃんに頼んだのは鳥や動物たちを使った、この世界の調査であった。
この計画に必要なのは動物と心を通わすことのできる人物。つまりこの計画を実行できるのはターちゃんだけある。
勿論この計画を秘密にしたのは主催者達に気づかれぬため。
「(太公望は言った、この世界にはどこかにおかしいところあるかもしれない、と。それさえ見つかれば…)」
太公望が頼んだことはそれだけではない。この世界はどれくらいの規模か、海の向こうには何もないのか、地図に載っていない島や
施設は存在していないか、この世界にいる監視者の発見、おかしな風景は無いか、
知りうる限りの敵味方、これまであった人物の位置の把握、とにかく多くのことを調べてほしいとのこと。
だがそれらを全て調べるためには多くの動物が必要。だからターちゃんはこの四国の動物を通じて全国の動物達にそれを伝えているのだ。
「(動物達に指令を出すために私はこの四国を動くことは出来ない。エテ吉、無事でいてくれよ)」
- 381 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:57:46 ID:72bxaOMh0
- 太公望はダイ達と別れてからニョホホホオ〜と奇声発しながら走り続けていた。が、そろそろ限界の模様。
ぜえぜえと息を切らして、近くの木陰に入ると先程の奇声を発していた男とは思えないほど真剣な顔つきをしていた。
「(ダイ、公主、すまんな…わしはまだ話してないことあるのだ)」
太公望は目を瞑り、先程別れたばかりの者達に心の中で謝罪する。
「(あやよくば、この世界から脱出できたとしても、待っているのは彼奴ら、そう主催者どもとの戦い…そうなれば勝ち目はあるまい)」
そもそもこのような大人数をこの世界に連れ込むことが出来た時点で主催者>参加者の力関係は目に見えている。
元の世界に戻れば参加者たちの力の制限がはずれ、元の実力を発揮できるが、その分わしらの中にも力の格差が発生し、
戦えるものと戦えないものが現れてしまう。…そして後者が圧倒的に多くなるのも明白。後者をかばって戦う時点で敗北は必死。
後者を見捨てて戦うとしても、戦えるものが少ない前者ではやはり敗北という結果はは避けられないだろう…。
「(ふっふっふ、ならば策は一つ。…やつらをこの世界に引きずり込む!)」
そう、主催者といえど、この世界に入ってしまえば奴らも同様に力の制限が働くだろう。
そうなればこっちのもの。先程の問題は全て解決され、こっちは数で押せる!
「(・・・まぁ、その策を実行しようにも方法が思いつかぬのでどうしようもないが…
これからじっくり考えるかのう…ターちゃんから報告があれば何か思いつくかもしれんが)」
「(…それに、毎回、ダイのときのようにカモフラージュしながら伝えるのは手間がかかりすぎる。
今回は運よく伝わったが…次は伝わるとは限らん。…なにか他の伝達手段を考える必要があるな。
…テレパシーが使える者や、心を読むことが出来るアイテムでもあればいいのだが…都合が良すぎるか。
暗号など露骨な物は主催者達に間違いなく疑われるからあまり使用したくないが…考えてみるか)」
太公望は思考に一区切り入れると立ち上がり、木陰から出ると歩き出す。
「(どっちにしろ仲間は必要だ。今は仲間を増やすことに専念するかのう。…さっさと富樫と合流するか)」
- 382 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:59:37 ID:72bxaOMh0
-
【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/午前】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康、MP微消費
[装備]出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分) トランシーバー
:公主の荷物一式
:ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1:ダムに行き、四国を死守
2:ターちゃんに脱出の可能性があることを伝える
3:公主を守る
4:ポップ・マァムを探す
【竜吉公主@封神演義】
[状態]疲労進行中
[装備]青雲剣@封神演義
[道具]アバンの書@ダイの大冒険
[思考]1:ダムに行き四国を死守
2:呪文の取得
【香川県、瀬戸大橋付近の山中/午前】
【太公望@封神演義】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
[装備]:五光石@封神演義
:トランシーバー×3
:鼻栓
[思考]1:富樫と合流
2:バキの取得を試みる
3:新たな伝達手段を見つける。
- 383 :動き出す計画(修正2):2005/11/17(木) 18:59:58 ID:72bxaOMh0
- 【香川県中央部 小さな村/午前】
【チーム名=富樫とお守り】
【富樫源次@魁!男塾】
[状態]健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
:爆砕符×2
:鼻栓
[思考]1:公主のために仏壇屋を探して香を持って帰る
2:太公望との仲直り
3:男塾の仲間を探す
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[道具]:荷物一式
:恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]1:富樫に付いていく
2:太公望からの頼み事の実行
備考 全国の動物達に伝わるのは少々時間がかかります。
- 384 :彼の星が蒼く輝くとき1/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:16:06 ID:awCddcyE0
- 真崎杏子は、戸惑っていた。
突然、現れた男――クロロ・ルシルフルを前にして。
一見、温和な、多少カッコいい事を除けば、普通の男のように思える。
けれども、先程も同じように思えた女(ロビン)に道具一式を奪われたのだ。簡単に信頼は出来ない。
どちらかと言えば自分でも気丈だと思っている杏子だけれど、固まってしまっていた。
敵なのか味方なのか、味方を装った敵なのか――
「やあ、お嬢さ」
「何が目的なの?
私、貴方の役に立つようなもの、何も持ってないわ」
盗られちゃったんだもの、とクロロの言葉を遮って言い放つ。言って「あっちゃあ」と口元を押さえつけた。
相手の出方を待つつもりが、余程焦ってしまっていたようだ。
ほら、出鼻を挫かれた男も不審な顔を――
「それはそれは、大変だったんだ?
オレもね、見たことのない場所に無理矢理つれてこられて、どうしようかなって」
予想を裏切って微笑んでいたのだ、目の前の男は。
- 385 :彼の星が蒼く輝くとき2/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:17:28 ID:awCddcyE0
- 「何暢気なこと言ってるのよ!」
焦燥しきっている自分に比べ、目の前の男と言えば、まるで落ち着き払っているのだ。
「ここが如何いう場所だか知っているの?
殺し合いよ、殺し合いさせられているのよ、私たち!
私はそういうつもりはないけれど、中にはこのゲームに乗っちゃった人もいるんだから!」
この男は未ださしたる危険にも遭遇していないに違いない。でなければこのような太平楽な台詞が吐ける筈もなかった。
自分と言えば、つい先刻荷物は奪われ、放送によって友人の、城之内の死を―― そうだった。
確認するまでもなかったことを、口に出してしまい、また、心に黒い闇が迫る。言い寄る気力も、削がれる。
少女の狼狽に合わせて、面持ちを同情するような表情にシフトさせながら
クロロ・ルシルフルは心の中でほくそ笑んでいた。
近くに感じられた二組のオーラの内、小さな方に先に接触したのには、幾つかの理由があったが、
最も大きな理由は、
もう一組と接触する前に、可能な限り『無力な』ものと行動を共にしていると言う事実が欲しかったからである。
このゲームは便宜上戦闘ゲームではあるけれども、参加者の多くが初めから殺人鬼・戦闘狂の類ではないようだ。
それは最初の刻に『主催者』に歯向かった少年の存在を見ても分かるし、
また、目の前に居るようなか弱い少女が参加させられていると言う点を見ても明らかだ。
- 386 :彼の星が蒼く輝くとき3/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:19:29 ID:awCddcyE0
- ならばこそ、この少女にも使いようはある。
『無力な少女と行動している自分』は一見、ゲームに乗っているようには思われまい。
クロロの能力――盗賊の極意(ハンターズ・スキル)は、どの局面に対しても酷く有用なものではあるが、
無闇に相手を殺し続けるわけにもいかぬという枷がある。『"生きている"相手の能力を盗む』ものだからだ。
対象と接触し、殺さずに其の相手と別れねばならない。ならば、この少女を使える場面も生じてくる。
――精精、利用してやるさ。
内心の高揚を漏らさぬようにしながら、人好きのする笑顔を浮かべた。怯え続ける少女の、心を溶かすために。
「まあ、まあ。そう慌てていてはオレも何が何だか分からないよ。
オレは、君を殺すつもりはないし。
俺が分かるのは、君が如何やら荷物を失っているということだけだ。
其の辺りの話も詳しく聞きたいし、ところで、」
"お腹空かない?"と言いかけたところで、自分を見る少女の瞳が凍り付いてしまっていることに気づいた。
自分を見る――? 否、少女は、自分の後ろの茂みに釘点けになっている。言葉も失って。
ガサ、と踏み分けるような、音がした。何者かが現れたような、そんな音。大きさから言って、唯の動物ではなかった。
――もう一組の方、ね。案外早かったな。出来ればこの娘と、もう少し親交を深めておきたかったが。
気づいているのは自分だけかと思っていたが、相手の方も何か"凝"に類する探知手段を持ち得ているのかもしれないな。
そう思わせるほど、発見されるのが早かった。確かに、少女との接触を決めてからは、"凝"を絶っていたが――
- 387 :彼の星が蒼く輝くとき4/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:21:33 ID:awCddcyE0
- 「何をそんなに驚いた目をしているんだい?
誰か、オレの後ろの方に――?、大丈夫、驚くことはないさ」
現れるのは、このゲームの中で手を組んでる奴等だ。突然攻撃してくることはないし、交渉も可能な筈。
"無力な"少女と行動を共にしている自分には、少なからず油断する筈だ――
全てが自分の思う通り、巧くいっているのを感じながら、クロロは後ろを振り向く。
然し、其の目に映ったのは、
予想を遥かに超えた巨大な影。筋骨隆々とした一つの巨漢。
世界に名を轟かせる幻影旅団の盟主として、有数の実力者を自負するクロロでさえ、
刹那、足の震えるを止めることの出来ぬ――
それは"男"に生まれたならば、仕方ないことなのかもしれなかった。
誰もが一度は憧れ、誰もが夢破れる、理想の猛者像。最も単純(シンプル)な『最強』の形が、そこにあった。
「一人は男か。ならば何者かは問わぬ。
この拳王の拳によって冥府に送られる事を誇りと思うがいいわ!」
現れた拳王――ラオウは、二名の前に威風堂々と佇めば、クロロの出方を静かに伺う。
背を向けた相手に、不意を撃つなどの卑怯はけして行わぬ。相手は、クロロ一人のみ。
震える杏子の姿など、初めから眼中にさえなかった。
- 388 :彼の星が蒼く輝くとき5/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:24:44 ID:awCddcyE0
- 「……下がって。相手はオレにしか、興味がないようだ」
涙目の杏子を手で制止しながら、クロロは自分の運の無さを呪った。
3人を見つけたからと言って"凝"を絶ってしまったこと。"円"程の探知能力がないことは、分かっていたのに。
少女を囮にして逃走する、と言う方法もないではないが、敵は杏子のことを気に掛けてさえいない。
背を向けた途端、貫かれて、死ぬ。―― ぞくりとした、予感。
クロロ自身も格闘技術にある程度の自信はあるが、目の前の男は―― 桁が違い過ぎる。
対峙したまま"予知眼(ヴィジョン・アイ)"で予測する全ての行動が、後一歩の所で、自分の死に繋がる。
相打ちで良いのならば、手段は幾らでもあるかもしれん。
けれど、このゲームでは"生き残らなければ"、敗北なのだ。
――未来が見えるってのは、良い事ばかりじゃないんだな
考えれば考えるほど、苦笑が漏れた。
正面切って戦いを挑むのは、得策ではないな。ならば、如何する?
- 389 :彼の星が蒼く輝くとき6/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:26:05 ID:awCddcyE0
- 「逃れ得ぬ自らの死を悟ったか」
構えたまま動かぬ、否、動けぬクロロを見遣れば、口元を歪めた拳王は高く、指を天に向けて伸ばした。
「ウヌには北斗七星の脇に輝く、あの星が見えているのだろう?」
「…………答える必要はない」
――"容易に相手の問い掛けには返答してはならない"
似た"ルール"を持つクロロならば、当然の選択だ。指し示された空さえ、見ることはなかった。
ただ、代わりの言葉を、短く返した。
「アンタの言う星の有無は判らないけれども、オレには別のものが見えている。
いつでもオレを殺せると、余裕綽々のようだが―― 出来れば構えた方がいい。直ぐにな」
こめかみに人差し指を挿す仕草、挑発するように見せ付けて、クロロは時を待った。
"自分が見た光景が確実に生じる時"を。
「フハハハハハハ!吼えるわ、一介の羽虫風情が!
ならばせめてもの情け、一撃をもってして粉砕してくれ――ぬ!?」
拳王の言葉は最期まで言葉にならぬ。瞬時、屈強な上体を包み込む青色の輝きと衝撃。
横合いから撃ち出された光の塊―― 霊丸(レイガン)の強襲だった。
- 390 :彼の星が蒼く輝くとき7/7 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:27:11 ID:awCddcyE0
- 「やったか、幽助!?」
「いや、まだわからねえ」
トレインの逸(はや)る言葉に、光の残滓の残る指を鎮めながら、幽助は肯定も否定も出来ずに居る。
先刻感じた僅かな気配を頼りに向かった先には、三名の人間が対峙していた。
片方は青年と少女。片方は、筋肉の塊のような巨漢。正に一触即発、尋常ならぬ雰囲気だった。
――あの肉の塊の方がゲームに乗ったんじゃねえ?
そう言い出したのはどちらだったかを、幽助は覚えてはいなかった。どちらにせよ、オレの意見に遠からず、だ。
"か弱い少女を守るために、青年が立ち向かっている" そうとしか思えない光景。
ならばやるべきことは一つ、考えるよりも早く、幽助の指先は輝き始めていたワケで――
「よもや伏兵めが潜んでいるとは、不覚を取ったわ」
立ち込める土煙の向こうに、依然変わらぬラオウの姿がある。
身にまとう強大な闘気は、撃ちだされた霊気の威力を軽減し、其の幾らかを無効化する。
全身に激しい痛みを覚えるものの、仕掛けた戦いを放棄するせねばならぬの手負いではなかった。
ならば、闘技続行に支障なし。
多少、場に放られたコマが増えただけのこと。
全てを粉砕する拳を握り締め、拳王は不敵な笑みを浮かべた。
少女と、盗賊と、拳王と、探偵達と。
運命に翻弄される彼らの対峙する空。
北斗七世の傍らに、誰のものか――、蒼星が瞬いた。
- 391 :彼の星が蒼く輝くとき ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:29:02 ID:awCddcyE0
- 【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[状態]左腕に軽傷
[装備]ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾二発)
[道具]荷物一式
[思考]1:スヴェン、イヴ、リンスを探す
2:幽助に協力する
3:ゲームからの脱出
4:目の前の事態に対処
【浦飯幽助
@幽遊白書】
[状態]健康(頭部軽ダメージはほぼ完治)
[装備]新・無敵鉄甲(右腕用)@るろうに剣心
[道具]荷物一式
[思考]1:桑原、飛影を探す
2:トレインな協力する
3:ゲームからの脱出
4:目の前の事態に対処
【真崎杏子@遊戯王】
[状態]歩き疲れ
[道具]無し
[思考]1:ロビンを追う
2:遊戯、海馬を探す
3:ゲームを脱出
4:ラオウの出現に困惑
- 392 :彼の星が蒼く輝くとき ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:29:40 ID:awCddcyE0
- 【クロロ・ルシルフル@ハンター×ハンター】
[状態]:健康
[道具]荷物一式(支給品不明)
[思考]能力、アイテム、情報などを盗む
1:ラオウの襲撃から逃れる
2:霊丸(レイガン)を盗む
3:可能ならば杏子を利用
[盗賊の極意]:予見眼(ヴィジョン・アイ)
【ラオウ@北斗の拳】
[状態]:胸元を負傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式 不明
[思考]:1.いずれ江田島平八と決着をつける
2.主催者を含む、すべての存在を打倒する(ケンシロウ優先)
3.目前の事態に対処。打倒する。
- 393 :彼の星が蒼く輝くとき 修正 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:37:27 ID:awCddcyE0
- 状態修正です。
【栃木県/午前】
【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[状態]左腕に軽傷
[装備]ウルスラグナ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾二発)
[道具]荷物一式
[思考]
1:ラオウに襲われている二名を救出
2:スヴェン、イヴ、リンスを探す
3:幽助に協力する
4:ゲームからの脱出
【浦飯幽助
@幽遊白書】
[状態]健康(頭部軽ダメージはほぼ完治)
本日の霊丸の残弾2/4
[装備]新・無敵鉄甲(右腕用)@るろうに剣心
[道具]荷物一式
[思考]
1:ラオウに襲われている二名を救出
2:桑原、飛影を探す
2:トレインな協力する
4:ゲームからの脱出
- 394 :彼の星が蒼く輝くとき 修正 ◆ErG3fI.u3U :2005/11/17(木) 21:39:12 ID:awCddcyE0
- 【真崎杏子@遊戯王】
[状態]歩き疲れ/ラオウの出現に困惑
[道具]無し
[思考]1:ロビンを追う
2:遊戯、海馬を探す
3:ゲームを脱出
【クロロ・ルシルフル@ハンター×ハンター】
[状態]:健康
[道具]荷物一式(支給品不明)
[思考]能力、アイテム、情報などを盗む
1:ラオウの襲撃から逃れる
2:霊丸(レイガン)を盗む
3:可能ならば杏子を利用
[盗賊の極意]:予見眼(ヴィジョン・アイ)
【ラオウ@北斗の拳】
[状態]:胸元を負傷/霊丸による多少のダメージ(闘気で軽減)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式 不明
[思考]:
1.目の前の事態に対処、打倒する。
2.いずれ江田島平八と決着をつける
3.主催者を含む、すべての存在を打倒する(ケンシロウ優先)
- 395 :ポップ・ウソップ冒険記:2005/11/17(木) 23:18:33 ID:GwHY1ewEO
-
冒険を再開しますか?
>はい
いいえ
ピッ
【AM5:54/鹿児島県川内(せんだい)、某日用品店内】
「なあ……ここ、本当に店なのか?なんで商品がこんなに少ないんだ?」
「表にデカい看板掲げてるじゃねぇか、間違いねえよ」
広い店内に一歩一歩奥へと足を進めながら物色している二人。
本来、ところ狭しと商品が陳列されているはずだったと思われる陳列棚はガランとしていて所々にぽつり、ぽつり、とたわいも無いガラクタ同然の日用品が寂しく配置されているだけである。
「う〜ん…主催者のやつらの手下が全部盗んでったんじゃねえのか?」
「手下…ねぇ。だったらもっと荒らされてる筈じゃないのか?床とかはきれいなもんだぞ?」
ゴミ一つ落ちていない床を見渡して首を捻るポップ。
「ん〜…ま、いいじゃねえか!考えてる時間がもったいねえよ。ほらほら!見てみろよこれなんか!(サランラップ)」
「ん?何だそれ?」
「ウオッホンッ!…これはどんな砲弾だろうが槍の一突きだろうが、…こうやって広げれば跳ね返すことが出来る!名付けて『ウソップ・バリ〜ア』だッ!!」
「メラ」
「うっウワッ!?何すんだ!!?熱ちっ!!!燃やすな〜っ!!!」
- 396 :ポップ・ウソップ冒険記:2005/11/17(木) 23:20:13 ID:GwHY1ewEO
-
【AM6:12/鹿児島県川内、某日用品店従業員控え室】
「…最悪だ…」
「18人か、確かに最悪だな…。ウソップも俺も仲間がみんな無事だったのが唯一の救いか…」
朝の放送を聞き終わるやいなや青ざめた顔でボソリとそう呟いたウソップに、ポップは眉を寄せて苛立ちを押さえているかのような低い声で返す。
「確かにそうなんだけどよ……違うんだ、違う『最悪』なんだ」
「ん?…どういう意味だ?」
「こんな短時間の内に…あのルフィと互角に戦ったって聞いてた能力者が死んじまったんだ…!」
「能力者?ウソップの言ってた例の『悪魔の実』ってやつか?」
「ああ。…楽観過ぎたかもしれねえ。ルフィもロビンも簡単に死ぬ訳が無え、って…。オレの勝手な思い込みだったみてぇだ…」
「……」
ポップは鉛筆を固く握りしめて目を瞑り歯を食いしばるウソップのその様子に言葉を飲み込む。
「……」
「そうだな。俺も…そうだったかもしれない。ダイも、マァムも、俺みたいなドジとは違って簡単にやられたりしない、って…でも…」
先ほどの放送が真実であれば、自身の危惧している大きな不安であるフレイザードはまだ生きている。
過去に戦った当時の強さのままならばフレイザードなどに現在の自分たちは負ける要素は無い。しかし…
- 397 :ポップ・ウソップ冒険記:2005/11/17(木) 23:23:21 ID:GwHY1ewEO
-
「なあウソップ、例の材料…集まったか?」
「ん?いや、まだなんとも言えねぇよ。金属の類がいまいち集まらなかったし、おり……何だった?そんな聞いた事無いモンもどこにもありそうもないしなぁ…」
「そうか…」
ポップは考える。
自分たちには武器が無い。
あの名工、ロン・ベルクに作ってもらった自分の杖が無い。
最初の広間で見たダイも剣が奪われていた。
オリハルコンとまではいかなくとも、それなりに良い金属さえ手に入れば…もしかしたら武器が作れるかもしれない。
最初に集められたあれだけの人数の参加者、彼らの中にもしかしたら自分たちに合った武器を作れるほどの技量を持つ者がいるかもしれない。
ウソップには…
「……ん?何だ?」
…きっと無理だ。
「おい!ちょっと待て!何だその悲しげな目は!馬鹿にしてんのかぁッ!!」
「あ、いや、そんな事ねえよ。頼りにしてるぜ、相棒」
「ん?ガッハッハッ!おう!任せとけ任せとけぃっ!この天才の名を欲しいままにし!海の芸術家とさえ言われ!絶賛さr〜〜〜」
絶対無理だ。
- 398 :作者の都合により名無しです:2005/11/17(木) 23:24:35 ID:eY6orvnB0
- 支援
- 399 :ポップ・ウソップ冒険記:2005/11/17(木) 23:24:40 ID:GwHY1ewEO
-
【AM7:26/鹿児島県出水(いずみ)、某一軒家】
「…よっ…と!」
「どうだった?床の下や屋根裏なんか探して、収穫あったのか?」
「まあまあ!慌てるな慌てるな!全く、この世界の家はスゲエなぁ。見た事の無い構造してやがるぜ。ま、大体の基本的なトコはオレの世界とおんなじみたいだけどな」
「へえ…ウソップって大工仕事もできるのか?詳しいもんだな」
「オレは狙撃手だ!ったく、みんなオレの事大工扱いしやがる!」
「違うのかよ?」
そのウソップの顔をのぞき見て笑顔を向けるポップ。
しかしウソップはどこか不満げに少し顔をしかめる。
「まあそれは置いといて…」
「ん?」
「……やっぱ変だぜこの世界。どう見たってこの家、新築って見た目じゃねえのに…屋根裏なんかきれいなもんだし」
「こまめに手入れしてたんじゃないのか?」
「ありえねえって。屋根裏だぞ?埃が溜まって汚れてるのが普通なのに…チリ一つ無かった」
汚れ一つ無い手のひらをポップに向ける。
「そうか…。確かに変だな」
「…ま、そのおかげで良い材料はいろいろ手に入ったぜ。時間が惜しいからな、早速始めるとすっか」
「時間はどれくらい掛かりそうなんだよ?」
「よいしょっ…と!う〜ん…そうだなぁ、何とか昼前には終わらせるよう努力はするぜ」
「昼前か、長いな…」
放送があってから、仲間の身を案じる不安の気持ちはどんどん重なる一方である。
- 400 :ポップ・ウソップ冒険記:2005/11/17(木) 23:31:05 ID:GwHY1ewEO
-
ウソップの提案であるとはいえ、移動の時間を大きく削られてしまう事にポップは不安を隠せず…マァムたちを探したい気持ちが膨らむ今、その『昼前まで』との宣告を受けて深いため息を吐く。
「…なあ、やっぱやめにして…出発しないか?」
「えっ?」
「別に俺は武器なんて無くても戦えるし、こんな事してる間にも…」
「信じろ」
「………え?」
不意に言葉を挟まれ、ポップは目をキョトンとさせてキッチンテーブルの上に座って作業の準備を続けているままのウソップに視線を向ける。
「オレは会った事無えからポップの仲間の事詳しくは知らねえ。でも、仲間なんだろ?お前の」
「…ああ」
「その…ダイとマァムってのは、すげぇ強いんだろ?」
「ああ」
「だったら信じろ。自分の仲間の強さを。オレはルフィとロビンの事を信じてる。あいつらに会えた時のために、今のオレに出来る事全てを完璧にやっておくだけだ」
「……」
ポップの方には顔を向けず、淡々と言葉を続ける。
「…じゃなきゃ、あいつらに合わせる顔がねえよ」
「………」
「それが……仲間ってもんだろ?」
そこで初めてポップの顔を見る。
その表情は…自信に満ちた笑顔。
「…そうだな…分かった。悪かったな」
「ま、力を蓄えとくんだな。ゆっくり飯食えるのも今の内だけかもしれねぇからな」
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